事件の始まり(探偵の場合)
探偵業は探偵小説の流行とはうらはらに、実質的には現代と変らないような信用調査であるとか、素行調査であるとか、そんな地味で地道な依頼ばかりです。
なんらかの人脈等を築かなければ食っていけないのも現代と変りません。
今日も今日とて、暇を持て余しているか、地道な作業をしている探偵PCの事務所へ、いかにも華族といった男が尋ねてきます。
男は上等そうな黒の三つ揃えを着ており、髭こそ生やしていないもののいかにも華族然とした鷹揚な態度です。ちなみに、事務所のドアは自分で開かず、いかにも運転手を兼ねていそうな男が開いています。
まず手を振ってドアを開いていた男を下がらせ、「馬場信久だ」と名乗りながら名刺を出してきます。
ひとまず名刺の交換が済むと馬場は単刀直入に、「うちの娘が行方不明になった。探してくれ」と言います。
他言無用、報酬は言い値で、結構とも言います。
事件の始まり(書生の場合)
書生PCの元に、女学生PCの友達の家の書生、高阪正信が尋ねてきます(同じ書生仲間で友人、ということにしてください)。
高阪は馬場子爵の家に住み込んでおり、学業そっちのけで馬場の用を聞いています。
熱血漢で正直者、そして何よりも行動力があり火炎放射器の様に直線的です。
いつもの白袴に下駄履きという格好で、この日も挨拶もそこそこ、いきなり本題を切り出してきます。
「御前(馬場子爵のこと)のお嬢さんが行方不明になった!探すのを手伝ってくれ!」
ここで馬場子爵、あるいは高阪書生から聞きだせる情報は以下の通りです。
(キーパーの話す人物に合わせて台詞を読みかえるなりしてください)
・娘について
「娘の名は晴香、今年で18歳で、桜嶺女学院に通っていた」
「随分と奥床しい性格で、ちょっと世間ずれしたところもあったが、問題になるほどでもない」
・行方不明の前の様子について
「実は変な宗教に凝りだしてしまい、学校には病気と言うことで家に留めていた」
「その変な宗教に凝り出す前後から、何かノイローゼらしい思いつめた様なところがあった」
・宗教について
「4、5年前に日本でも流行った、内村鑑三とか、再臨とかなんとか。
あの系統で、桜嶺女学院ではカトリックの教えを一部取り入れているから、一部そういう情報もあったという話」
「どういうものかは詳しく知らない、とりあえず、学校で感染したらしい」
・いつ頃からか?
「変に懲りだしたのは結構最近だ。声楽部とかにも入って、そこへ入り浸るようになってしまって・・・・・・」
「黒澄とか言う生徒についてもよく話していた」
他に聞きたいことが無くなるか、上記の情報を全て出し尽くせば、馬場、あるいは高阪は逐次報告を受けに来る(あるいは使いを出す)、と去っていきます。
桜嶺女学院周辺での聞き込み
女学生PCの通う女学校です。
当然、女学生PCであるか、なんらかの信用が無いと中へは入れませんので(忍び込んでも全く意味がありません)、出入り口等で生徒を捕まえて話しを聞くことになります。
《信用》、あるいは《言いくるめ》(交渉、はったりDC:10)のロールに成功し、なおかつカフェに行くだ、なんだとわがままを聞けば話を聞くことができます。
(あるいは、d20の場合は、《情報収集》で省略することも可能ですが・・・・・・)
・馬場晴香について
「最近、学校を休んでいらっしゃいました」
「何故か声楽部に入っておられましたわ。あの人も黒澄先輩目当てなのかしら?」
「たしか、真田先生と仲が良かったわ。よく授業後もお話しをなさっていましたわ」
・宗教について
「よく分かりませんわ」
「再臨?確か、10年ほど前にアメリカでもそういうことがありましたね」
「4、5年前に内村鑑三氏によって日本でも取り沙汰されていましたが、それもやはり再臨は無く、下火になっています」
「・・・・・・確か、その真田先生が『星の再臨会』でしたかしら?そんな感じの名前の再臨系の教会の方とお知り合いでしたわ」
・真田について
「とても熱心な先生ですわ(いろいろな意味で)」
「いろいろな話を知っていらっしゃるのだけど、中でも天文学についてはとても造詣が深いですわ」
「確か、若い頃はイギリスに留学なさってらしたとか」
馬場晴香と『天球音楽』
なんらかの理由があってか、例の『天球音楽』に引かれて黒澄綾の元を尋ねた場合、やはり綾はピアノを弾きながら歌を作っています。
普段ならば音楽室には綾以外はいないことがほとんどなのですが、この時はどこかみすぼらしい姿をした女生徒がピアノの傍の椅子に腰掛けています。
探索者達が近づいてみれば、これが馬場晴香だということに気が付きます。
馬場晴香は綾の『禍歌』に聞き入っており、特に探索者達に対して反応は示しません。
この晴香の姿を間近に目撃した場合、0/1のSANを失う可能性があります。また、女学生PCがいる場合は、近しい人間のあまりの変わり様に0/1D4のSANを失う可能性があります。
綾の『天球音楽』が終わると、晴香はそのまま立ち上がって、ふらふらと音楽室を出て行きます。
ここで晴香を追いかける、あるいは確保したままで警察、その他を呼ぶ、と言ったことも可能です。
隙を見せずに晴香を確保した場合は、特に抵抗する素振りも見せずに確保されてしまいます。しかし、見逃してしまった場合は、再度行方不明になってしまいます。
なお、ここで晴香を確保し、その場で話を聞かずに馬場子爵に引渡した場合、以降は話を聞くことはおろか、会うことすらできなくなります。
晴香から話を聞けるのはその場でのみとなりますが、晴香はすでに通常のコミュニケーションが取れる状態ではありません。
《心理学》、または《精神分析》(心理学、精神分析DC:10)のロールに成功すると、SANがかなり減少しており、『天球音楽』によってその正気は破壊されています。
ほとんどの言葉に反応は示しませんが、「音楽」という単語には、「『天球音楽』が、天体からの音楽が地に満ちる」と言った反応を返してきます。
あるいは「黒澄(綾)」という単語には、「歌声の主、天球の巫女・・・・・・、福音の伝道師」という反応を返してきます。
その他の言葉にはあまり意味の無い言葉が返ってくるだけです。ただ、断片的に「天球の音楽」「訪問者」「巫女の歌声」等の言葉を呟くだけです。
晴香に対して質問を重ねていくとそのうちに拒否反応を示し始め、探索者の質問に答えられない状態になってしまいます。
晴香は確保された後は、自宅にて私宅監置状態となります。