帝都の図書館、大正期の図書館事情

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 大正期はテレビはもちろん、ラジオすらない時代です。
 情報源の多くは新聞であったり、あるいは図書館の書物でした。
 ここでは、大正期における図書館とその事情を紹介します。

■図書館事情
 江戸期において公共の図書館と言うものは全くと言ってよいほど存在していませんでした。
 〜文庫と呼ばれる、大量の書籍を収蔵したものは存在しましたが、多くは個人の蔵書、あるいは役所や学問に関連した役所のもので、一般には公開されず、閲覧が可能な人間は関係者のみと極端に限られたものがほとんどであった為、現在の図書館に近いものではありませんでした。
 幕末維新の前に、よく引かれる福沢諭吉の「西洋事情」にて海外の図書館(ビブリオテーク)が紹介されるとともに、こちらもよく引かれる岩倉具視の「特命全権大使米欧回覧実記」にも西欧の図書館の訪問が触れられています。
 明治初期において、やはり「富国強兵」、「欧化」政策の一環として、あるいは「国民の教育普及、文化保存」として図書館の建設が始まりました。
 その嚆矢として、明治5(1872)年に湯島聖堂にて日本最初の博覧会の閉会後に「博物局博物館博物園書籍館建設ノ議」に従い、文部省博物局博物館及び書籍館(しょじゃくかん)があります。
 この書籍館は明治7年に浅草蔵前に移転し、一時浅草文庫として年間8000人の利用者と14万もの古典書籍を収蔵しましたが、その後東京書籍館として湯島に戻り、明治30(1897)年の帝国図書館令まで続きました(この後は帝国図書館となります)。
 これに続き、明治6(1873)年に京都に集書院が開かれます。翌年に田中不二麻呂が文部大輔に就任し、「公立書籍館ノ設置ヲ要ス」の一文により、書籍館、新聞縦覧所の開設が相次ぎ、明治16年には全国に23館に達しています。
 明治15年に政府の教育方針の転換により田中不二麻呂が更迭され、図書館の政策は一時停滞しますが(図書館のほとんどは公立であり、政府の主導にて設置されています)、明治32(1899)年に「図書館令」が公布、公共の図書館が法的に認められました。
 明治末期には小学校の校舎などを借り受けて開く「簡易図書館」も東京全区で設けられています。
 明治41(1908)年に東京市立日比谷図書館が開館し、一般向けのいわゆる「通俗図書館」として、新聞閲覧室、児童室、婦人閲覧室などを設け、それまで敷居の高く利用しにくいものであった図書館の改善を図ったいます。
 ただし、現在の様な図書の館外への貸し出しは行っておらず、また閲覧料を徴収していました。
 また、明治中期以降は私立の図書館も開設され、麹町で出版社の博分館による大橋図書館が児童の閲覧を認めたり、低い閲覧料などで図書館利用の普及に貢献しました。

 図書館は大正に入ると、大正天皇即位の記念事業や、大正デモクラシーの影響、あるいは文部省、内務省によって全国に青年団が結成され、この青年団が極めて小規模ながらも図書館を備えるようになり、この影響か公共の図書館は全国に3300館あまりにも及ぶようになります。また、「簡易図書館」は「自由図書館」と呼ばれるようになります。
 また、大正10年に文部省が上野の東京美術学校内に「文部省図書館員教習所」を開設し、1年過程で図書館専門職員の養成が行われるようになりました(但し、三年後に「文部省図書館講習所」と名称を変え、帝都図書館構内へと場所を移しています。この講習所は昭和20(1945)年に戦争激化の為に閉講になるまで続けられています)。
 しかし、その図書館の半数は「巡回文庫」で、その上半数は蔵書が500冊未満、2/3は1000冊未満と言った状況で、申請書一枚で文部省の帳簿に載る、と言った有様でした。
 大正4年に日比谷図書館は天皇即位の下賜金10万及び、カーネギー財団の寄贈図書により充実した書籍を備えていましたが、大正12年の関東大震災により壊滅的な打撃を受けました。
 関東大震災によって打撃を受けたのは帝都の全図書館において言えることですが、震災後、深川、京橋、駿河台の図書館は大型図書館として再生し、また震災復興費用の4.3%にあたる100万円がこれら図書館の復興に当てられました。

 昭和に入り、昭和2(1927)年に大阪で純粋民間団体である「青年図書館員連盟」が結成され、今日まで使用されている「日本十進分類法(NDC)」、「日本目録規則(NCR)」、「日本件名標目表(NSH)」を作成しています。
 昭和6(1931)年の満州事変以降、思想、言論の統制、弾圧が激しくなり、図書館なども閲覧禁止図書の指定などもありました。
 その後の昭和8(1933)年には「図書館令」が全面的に改正され、中央図書館制度が導入され、道府県中央図書館が県内の図書館を指導する権限を与えました。
 しかし、実際問題として「図書館令」の改正は図書館制度の規定よりも、以降の国家主義的な世相を反映したものであり、政府の監督下にて、統制が加わるようになります。

 なお、明治5年の文部省博物局による「書籍館書冊借覧規則」、明治32(1899)年の「図書館令」、昭和8(1933)年の「改正図書館令」ともに図書館は料金を徴収することが定められており、公共の図書館が無料で閲覧可能となるのは戦後の昭和25(1949)年の図書館法の制定後になります。
 閲覧料は特別閲覧が5〜4銭、普通閲覧で3銭〜2銭、新聞閲覧で2〜1銭で、15回の回数券、あるいは10回の回数券を買うと半額になりました。また、日比谷図書館は大正4年に児童閲覧のみ無料としています。
 明治期の図書館は閉架制と呼ばれるもので、本を利用者の目に触れさせず、出納係を通してのみしか閲覧できない(!)と言うもので、現在の図書館事情からは想像もできないものですが、明治末期以降は開架制と呼ばれる、利用者が書棚の間を自由に歩いて本を探せるようにした現在のスタイルに近いものでした。
 但し、資料によっては、“現在の様な自由閲覧ではありませでした”、との記述も見られ、大正期であっても閉架制のものがあったことを伺わせています(この辺りの資料が不足しており、どの図書館がどういう閲覧方式であったかはよく分かりません)。

■新聞縦覧所
 明治、大正期はテレビは言うに及ばず、ラジオも無い時代でした(ラジオが普及するのは大正末期、関東大震災によって情報伝達の重要性が認められてからです)。
 その為、最新の情報を庶民に伝えるのは新聞であり、また唯一といえる手段でした。
 この新聞も一部の人間に読まれるだけでしたが、これを広く庶民へ広めようという運動か、あるいは単に読み捨ての新聞を買うのが嫌なのか、新聞社の陰謀(笑)なのか、明治初期より新聞の普及と共に各地で新聞縦覧所が作られました。
 新聞縦覧所は文字通り、新聞を時間単位で縦覧する施設です。一般向けでない新聞、官報も置いてあり、また直接新聞とは関係ない情報の案内所、交換所にもなったようです。
 この新聞縦覧所は、新聞の自由な閲覧とともに、議論の場ともなることもあり、ロンドンにおけるコーヒーハウスに近い役割を果たすようになります。
 また、大正期において「カフェ」「ミルクホール」の中には新聞縦覧所に近いものがあり、そこへ行けば新聞縦覧所と同じく、一杯のコーヒー、あるいはミルクで自由に新聞が閲覧できたと言います。

■貸本屋
 貸本屋とは文字通り、本を貸してくれる店です。
 江戸期においては主に娯楽読本の他、教訓もの、歴史もの、紀行地誌、通俗医書などを扱っています。
 明治以降の貸本屋は店を構えて客を待つものでしたが、江戸期では書籍の入った箱(あるいは風呂敷包み)を担いで客先を回り、賃料の徴収と前に貸した本の返却と同時に新たな本を貸し出す、と言ったものが多かったそうです。
 この貸本屋のお得意さんになると新たな本が入るとわざわざ訪ねてきて貸してくれる、などという事もあったようです(江戸期では、これらの新しい本が紙の袋に入っており、この封を切る、という言葉が現在でも映画が公開されることに使われています)。
 大正期には明治期より普及した新聞や、その縦覧所、そして自由図書館(通俗図書館)の出現によりかなり衰退したと言われていますが、大正初期に『独立/自営 営業開始案内』なる貸本屋の開業読本が出版されました(だからと言って、以後貸本屋が増えたかは不明です)。
 なお、貸本屋の賃料(見料と言いました)は、1冊1円の新刊書で、2日で6銭、3日で9銭、5日で12銭、10日で22銭となっています(前出の『独立/営業・・・』によります)。新刊、旧刊、あるいは本のジャンルなどで値段の区別もつけられていました。

■ヴァリアント:図書館ロール
 大正期において図書館で調べ物を行うには当然閲覧料が発生します。
 また、図書館の他、新聞縦覧所、図書縦覧所と呼ばれる施設でも、同様に図書館ロールで情報を得ることが可能とします。
 図書館の区分と、閲覧料、図書館ロールに与える影響を以下に示します。
区分 閲覧料 ロールへの影響
参考図書館(帝国図書館) 特別閲覧5銭、普通閲覧3銭 +10%
通俗図書館 特別閲覧4銭、普通閲覧2銭/特別閲覧2銭、普通閲覧1銭 なし。
簡易図書館 無料。 −20%。
新聞縦覧所 2銭 −30%。ただし、社会的な情報は+20%。

■さらにヴァリアント:キーパーに向けて
 キーパーは必要に応じて、あるいはPCが幸運ロール+図書館ロールのコンビネーションロールに成功した場合、何故か貸本屋がPCを訪ねてきて(あるいは巡回してきて)、適切なアドバイス、知識の書いてある怪しげな(あるいは真っ当な)書物を貸していってくれます。
 貸してくれる本は怪しげではありますが、普通の書籍(古く、あるいは希少で、一般には手に入らないものでも)であり、専門的な知識の補助となります。
 また、シナリオのフックなどとして貸本屋自身も知らない雑多な本の中に、和製の魔道書や怪しげな信仰の書物があっても良いでしょう。
 押し売りではありませんが、薬売りのように一般宅へも巡回に来る貸本屋はキーパーの演出次第で如何様にもなるでしょう(小野不由美の東けい異聞(けいは京の中の口が日)に登場する貸本屋などが良い参考になるかと)。