導入部、オペラ座館へ行こう
シナリオの導入部になります。
各探索者の事件への動機付けと、関係性を構築する場面となります。
ハンドアウトの番号が下るほどシナリオへの関わりが弱くなるので、キーパーは注意して導入を進めてください。
オペラ座館に入った時点で、探索者全員が客席に居る、というのが理想的です。
- 安藤雪子からの手紙
- 特高の指示
- 二つの依頼
- お悩み相談室
- オペラ座館、本日の公演
- オペラ座館、本日の公演後
- オペラ座館の中、貴婦人
- オペラ座館支配人室にて
- 奇妙な羽音
- オペラ座館の前
安藤雪子からの手紙
女学生PCが朝、いつものように桜嶺女学院に登校すると、下駄箱の中に薄い紫色の便箋が入っています。
(いわゆるSメールという奴で、当時、女学生はなんでも手紙で渡す、といった文化が存在しました)
いつもの、雪子からの手紙です。
便箋は高畠華宵の抒情画の便箋で、紫に花の絵が描いてある乙女ちっくな奴です。
少しだけ香水の香りします。
また、オペラのチケットが同封されており、今日の授業が終わった後の時間のものです。
※念の為、女学生PCに雪子の基本情報を教えてください。
特高の指示
いつもの通り、急に上司に呼び出されます。
「密告(タレコミ)があった。
また、浅草のオペラ座館でけしからんものが上演されるらしい」
無言のままオペラのチケットを放り投げてきます(どこかで見たような展開です)。
「浅草のオペラ座館のチケットだ。
土地柄、手帖を振り回すとより厄介になるだろうからな」
と言いながら、一枚の名刺を渡してくる(探偵探索者の名刺)。
「慎重に進めてくれ、あそこは何度か失敗があるうえに、後ろ盾に大きなものが付いている」
密告の元について、上司に確認した場合、「どこかの作家らしい。ご同業の足を引っ張る為という可能性もあるが、あそこは何かしら事件を起こす可能性が高いからな」と言います。
二つの依頼
事務所を開けたばかりの時間に、一人の男が訪ねてきます。
いかにも文士、という感じの、身なりに気を配ってはいるものの、どこか隙がある、感じですが、一目であまりまともじゃない、という印象を受けます(貧乏でない、お坊ちゃんの三文文士であることが分かります)。
彼は、浅草で主にオペラの脚本を書いている三村親太だと名乗ります。
一通り、自分が書いたものの自慢と、他人が書いたものの批判を行ないます。
ここで、《芸術:文学》か、《知識》/2に成功した場合、彼の自慢の作品は翻訳、翻案ものが大半であり、完全な自作はほとんどないことに気が付きます。
興奮してきたのか、顔を赤くしながら、「盗作なんだ!今度、オペラ座館で新しく上演される作品は、僕が作ったのを盗作したものなんだ!」と叫び始めます。
《精神分析》か、《言いくるめ》に成功した場合、彼を落ち着かせることができますが、失敗した場合は、彼は喚き続けます(しばらく放っておく、とロールを行なわないのも可能です)。
この喚き続ける言葉はほとんど意味を成さず、聞き取ることも難しいのですが、注意深く聞き取った場合、端々に『黄色の』とか、『王が』と言った言葉を聞き取れます。
興奮しすぎたのか、しばらくして咽た後、まだ赤い顔のまま、「その盗作の原稿を手に入れて欲しいんだ。そうすれば、その作品が僕の盗作だということが証明できるんだ!」と言います。
報酬については、まず10円を提示してきます。それで難色を示すか、断った場合、さらに10円を追加します。それでも断った場合は、さらに10円を追加して、とりあえず100円になるまでお金を積み上げます。
この依頼を断るかどうかは探索者次第ですが、断ると面倒になりそうだ、ということも伝えておいてください。
三村が去ったそのすぐ後、今度はきっちりとした洋装の偉丈夫が現われます。
きちんとした挨拶の後、名刺を渡しながら、「オペラ座館の支配人の尼子久と申します」と名乗ります。
浅草の世間話の後、「こちらでは警察が動いてくれないようなことも、引き受けていただけると聞いてきたのですが」と、話を切り出します。
「実は、曖昧な話で申し訳ないのですが、当館内で不穏な空気が漂っているのです。
何がどう、と言われると困るのですが、犯罪の臭いというか、事件の臭いというかそういう面倒事が起こる直前特有のにおいがするのです」
「それで、それを未然に防ぐ為に、当館内の警備のような仕事をしてもらえないかと依頼に参った次第です」
「とりあえず、期間は1週間、もちろん、何事も無くとも報酬はお支払い致します」
探索者がこの仕事を引き受けた場合、「よかった。それでは、当館の私付きの秘書ということで話しを通しておきますので、館内の自由は効くと思います」と告げ、安心した様子で去っていきます。
お悩み相談室
いつもの優雅なティータイムのような時間だが、同席している穂井田清の顔色は冴えません。
彼はしばらく前までは、病院に入院しており姿を見なかったが、最近娑婆に戻っているがそれが原因ではないようです。
彼は少し躊躇った後、親が決めた風見慧(かざみ・けい)と言う許嫁が居り、それがオペラ座館という劇場で少女歌劇に出演しているということを話します。
華族の端くれで、ディレッタントを気取ってオペラ等、浅草の劇団のスポンサーを務めていたりするものの、自身の許嫁がそれではと悩んでいるようです。
ここで、《心理学》に成功すると、話している内容と、記憶と、感情に微妙な不一致が多い、彼の言動に不審を感じます。
探索者との相談の如何に関わらず、とりあえず、実物を見てくれ、とオペラ座館へ向かうことになります。
オペラ座館、本日の公演
この時点で、探索者が一旦、オペラ座館に集まっている状態にしてください。
劇場に入った時点で、関係者を見つける、という流れがベストです。
(『黄色の印』を見せる場面で、全員がいる事が望ましいです)
大体、オペラでの催される出し物は以下のようになっています(1回の公演は大体3時間程度です)。
- 新劇
- 少女歌劇
- オペレッタ
- グランド・オペラ
※一応、女学生の立場について
女学生が平日、夜遅いとまでは行かないものの、日暮れ時まで浅草にいると不良のレッテルを貼られたり、あるいはよくあった愚連隊、獏連達の餌食になる可能性も高いのですが、雪子が慣れている上に、女学院からも特別許可されている為、一応、問題ないことになります。
(雪子は普段は気弱ですが、浅草に来ると俄然、やる気になり、普段とは全く異なった快活さを持つようになります)
新劇が終わった幕間の休憩で、雪子は女学生探索者に対して語ります。
「お姉さま、知っていますか?
『オペラ座の怪人』で、5番のボックス席は『怪人』の為に空けておくように指示がある席なんです。
オペラ座館もそれに倣って、あそこの5番のボックス席は常にお客様を入れないようにしているのですよ」
そう言って、5番のボックス席を指差します。
《アイデア》か、《目星》に成功すると、人影がその席内にあったような気がします。
そして、次の少女歌劇が始まります。
誰でも知っているような童話の類を、いかにも少女歌劇らしい、メルヘンチックな内容にアレンジしたもので、演劇としては簡便だし、歌も簡単なものです。
雪子が、男役は星川、相方は月野だと教えてくれます。
星川は演技が過剰ですが、歌はそこそこ、月野は演技は普通ですが、歌が上手い、そして風見は歌は目を見張るほどで、しかも美声です。
道化役として、まるでサイレント映画のコメディのような見事な演技を見せるのが千鳥です。
その最中に、主人公の男役の星川が、「あーやめやめ!こんなの馬鹿馬鹿しくてやってられないわ」と退場していきます。
その後は、ちょっとした騒ぎになりますが、幕を降ろして、支配人からお詫びの後、繰り上がりで次の演目へ進みます。
穂井田とともに来ている探索者は、彼はこのような状態にも関わらず少女歌劇終わると、「どうだい、彼女はすばらしいだろう」と言います。そして、「彼女と早く結婚しなければ」と呟きます。
その後、彼はオペラには全く興味を示さず、「悪いけれど、先に帰らせてもらうよ」と自ら連れてきたにも関わらず、さっさと帰ってしまいます。
最後、オペラの演目は『サロメ』です。
雪子自身はオペラのバンドですが、今回は参加していません。また、少女歌劇も同様に参加していません。
『サロメ』は内容が少しエロティックです。特に最後の七つのベールの踊りはストリップに近いものがあります(もちろん、肉襦袢を着てやっているので実際に肌が見えるわけではないですが)。
この内容に雪子は赤面しながら平謝りです(『サロメ』は衝撃的な終わり方をしますが、それも無視して)。
オペラ座館、本日の公演後
公演後、支配人の尼子や、事務所に挨拶に雪子は行きます。特に断りが無ければ、付いていくことに問題はありません(雪子と、探偵PCが居れば関係者扱いになります)。
劇場内部の通路を移動中、退場した星川と出くわします。機嫌はやはり悪いようで、雪子とその一団を見ると「ふん、余裕があっていいね」と、嫌味っぽく言います。
(雪子がオペラの楽団に参加している為、彼女の嫉妬が現われています)
その後、どやどやと少女歌劇のメンバーが現われて、風見が雪子をフォローします。
ここで《アイデア》か、《目星》に成功すると、全員が金で奇妙な文様が象嵌された縞瑪瑙のブローチのようなものを付けています。
※ハンドアウトとして『黄色の印』を見せてください。
このロールの成否に関係なく、このタイミングで探索者は『黄色の印』を見たことになり、0/1D6の正気度を喪失します(この場で、誰のを見たことで、と明言しないでください)。
この正気度ロールに失敗すると、悪夢を見ることになります。キーパーは失敗した探索者を記録し、スレッドA' 悪夢の演出を行なうようにしてください。
まるで夢の中で酩酊しているような、妙なぼやけた印象を探索者が受け、呆然していると、少女達は来たときと同じく姦しく去っていき、去り際に星川が「四日後、誰も見たことがない、本物のオペラを見せてやる」と呟きます。
※これは要するに、『黄衣の王』の公演までが後四日、探索者が探索を出来る期間が三日という宣言です。
キーパーは探索の期間を検討し、ここで星川の宣言する日程を決めてください。
風見は別方向に、「レッスンがあるから、失礼するわね」と去っていきます。この時点でかなり遅い時間なので、驚いた雪子を見ながら、「音楽の天使が私を待っているの」と、自慢げに言います。
確かに、ここのところ、風見はめきめきと実力を身につけています(少し前まで、風見の音痴は少女歌劇団内で有名でした)。
《知識》、《芸術:文学》(特に外国文学が指定されている場合は×2)に成功した場合、「音楽の天使」が、ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』(明治43(1910)年)の登場人物(=怪人)であることに気が付きます。
オペラ座館の中、貴婦人
公演の最中でも、後でも事務所を訪ねた場合、通路を傍若無人に歩くレディ・ワイルドを目撃します。
彼女が通路を折れて消えた後に、「レディ、こんなところに居られましたか」という声が聞こえます(千鳥の声ですが、姿は見えません)。
雪子か、劇場関係者と居る場合は、「ああ、あれはオペラ座館でよく見かける野良猫です。支配人が気に入っているのか、気にするな、とだけ」と言います。
オペラ座館支配人室にて
オペラ座館の奥にある支配人室へ入ると、そこには先客がいます。
二十歳ぐらいのどこか高貴な佇まいに、貴族的な頽廃さを漂わせた若い女性が、支配人と話しています。
この女性は、毛利元子です。桜嶺女学院の生徒ならば、誰もでも知っている名物生徒だった女性で、三姉妹の長女で、次女の吉川春子も桜嶺女学院を卒業しており、三女の小早川隆子はまだ在学中です。
探索者達が入ると、「じゃ、よろしく頼むわね」と言って、去っていこうとしますが、雪子に気が付くと、「あら、安藤さんだったかしら?」と雪子の方を見てから去ります。
尼子が、丁寧に挨拶を返した後、雪子に話しかけます。
「ああ、安藤君、ちょうどよかった。次の公演なのだけれどね、少女歌劇の方から是非、君を貸してほしいという話があるのです」
尼子は、雪子をフルート奏者ではなく、舞台でフルートを奏でる宮廷楽師として出演して欲しい旨を伝え、台詞はほとんどなく、フルートを奏でたり、ゆらゆらと踊るだけに近い役割なので、演技に自信が無くとも大丈夫と言い、雪子に『黄衣の王』への出演依頼をします。
「次の演目で、本格的なものをやるからということなんですが、まあ、今日みたいなことがまたあるとこちらとしても困ります。申し訳ないのだけれど、頼めないでしょうか」
雪子は少し躊躇った後、「分かりました」と応えます。
「そうですか、よかった。では、よろしくお願いしますね」
と、台本を雪子に渡します。
先ほどの女性について尋ねると、「あれは毛利元子さんと言って、オペラ座館のオーナーみたいなもので、大きなスポンサーですよ。私なんて雇われ支配人みたいなものです」と、自嘲気味に言います。
頼まれた内容については、経営絡みのことなので、特に教えてくれません。
※探偵PCが依頼を受けている場合、尼子はそ知らぬ顔で、私付きの秘書みたいなものと紹介します。
奇妙な羽音
尼子との会見後、帰る探索者は関係者用の裏口から出ることが許されます(少なくとも、雪子はこの日は帰りますので、女学生探索者は出ることになるかと思われます)。
オペラ座館から外に出ると、表にはごった返すというほどではないものの、まだ多くの客や、活動の最終上映の割引狙いの客など、かなりの人がまだ歩いています。
《幸運》か、《聞き耳》に成功すると、ふと上が気になります。
見上げると、何か人間大の黒い影がオペラ座館の上部に張り付いていることに気が付きます。
その影は、そのまま空を飛んで消えていきます。このおかしな風景を目撃した場合、0/1の正気度を喪失します。
オペラ座館の前
オペラ座館を出て、劇場の前辺りまで戻ると、未だに途切れない人々の間に、何故か探索者を見つめる警察官が居ることに気が付きます。ただ、制帽を目深に被っており、またすでに辺りは暗くなり始めている為、その顔は判然としません。
妙にぶよぶよと太った印象があり、制服から覗いている部分の肌の色は不健康な青白さです。
(警官であることは、詰襟の制服で、サーベルをぶら下げているので、即座に気が付きます)
そいつは雑踏の中にいつの間にか消えています。
警官を目撃した探索者は、0/1の正気度を喪失します。