ハンドアウト 稲葉の楽譜 表題には、「大地返歌 Messa di Requiem per Shuggayより」と書いてある。 1. 氏家の知り合いのあの男からもらったあれの第一幕。 恐ろしく反社会的な、頽廃的な、不道徳な、なんとも攻撃的な内容である。 正直、自分でも何故この音楽に惹かれるのかは分からない。 2. 頭痛が止まない。 時折、耳の中で、あるいは自分の頭の中で何かの羽音がする。 順調に曲は出来てきている。 書けば書くほど、曲の内容が世間には公表できない内容であることを理解する。 しかし、この曲を書くことが今の私にはひどく楽しいものになっている。 3. 頭痛がひどい。 時折、意識を失うぐらいだ。 何か大きな虫が飛ぶ様な音、何かの羽音が聞こえる気がするが、頭痛による幻聴だろうか。 曲を書いている間は多少頭痛は治まる。 4. 今日、黒い女と出会う。 確か黒澄とか名乗った気がするが、記憶が曖昧だ。 どこで会ったのかも覚えていない。夢の中での出来事のような気がする。 曲についての指摘を黒い女から受ける。 ひどく腹が立ったが、指摘の通りであることも確かだ。 曲の一部を書き換える。 5. 頭痛は相変わらず続いている。また、羽音がはっきりと聞こえてくる。 何なのだ? 6. 曲は完成に近い。 最近は昼間は起きていられない程頭痛がする。 夜のわずかな時間にのみ、生活をしている。 7. 完成した曲を自分で奏でてみる。その間は酔ったようになり、頭痛が軽くなる。 この曲は通常の演奏方法ではおそらく演奏はできない。 あるいは、ミサ曲では何か新たな楽器でも取り入れる予定だったのだろうか? 8. やはりだ。 あの黒い女にも指摘を受けた。 通常の楽器、演奏方法ではおそらく完全な「大地返歌」を奏でることはできない。 だが、特殊な演奏方法と、それが可能な技量の持ち主であれば、本来の演奏ではないが、それに近い演奏はできると黒い女は言っていた。 9. 曲を奏でる。 ひどく落ち着く。頭痛も気にならない。 だが、私では完全に曲を奏でることはできない。 10. 意味も無く、ふとした拍子に「大地返歌」を奏でてしまうようだ。 別の曲を弾いていたはずなのに・・・。 11. 悪夢を見る。 夢のなかでも「大地返歌」を奏でている。 そして、その音楽に応えるように、別の楽の音が聞こえてくる。 恐ろしい。だが、ひどく楽しいことも確かだ。 12. 自分の考えと感情がまるで乖離しているようだ。 13. 悪夢。 否。 「大地返歌」は、応えなのだ。 応えがなんであるのか、不完全な演奏では分からない。 14. 曲を奏でる。 頭痛は引くが、羽音がひどくなる。 おそらく、あれが喜んでいるのだ。 15. 安藤君ならば可能かもしれない。 そうだ、彼女にこの曲を奏でてもらうのが良いだろう。 そうすれば、あれの応えが分かるはずだ。