リンケージ 仮面舞踏会
リンケージではオペラ座館で開催される仮面舞踏会に探索者はそれぞれの伝手から参加することになります。
その場において、探索者は最終的に元子、隆子のどちらの勢力に加担しているのかを決める必要があるとともに、オペラ座の怪人として姿を現した黒澄綾と再び遭遇し、明石の双子を救う術を教授してもらうことになります。
- 仮面舞踏会への招待状
- オペラ座館の仮面舞踏会
- 音楽の天使
- 「我に触れるな、我は通り過ぎる赤い死なれば」
- 元子と隆子
- 綾と双子の『唄』
仮面舞踏会への招待状
前の『二重幻想的舞台』に直接的に依頼を受けたり、協力した探索者には招待状が、それ以外の女学生探索者などは雪子やオペラ座少女歌劇団の少女達を通じて、あるいは小早川隆子と協力している為に、オペラ座館で開かれる仮面舞踏会へと招待されます。
この仮面舞踏会は、オペラ座館の閉館のお知らせであるとともに、今まで世話になった人々への慰労のもので、是非、仮装しておいでくさいと招待状には書かれています。
仮装して参加する場合は、《変装》を行なってください。
成功した場合は、上手く正体が分からない様に仮装出来たことになり、《目星》や《心理学》が無ければ正体に感付かれることはありません。
失敗した場合は、一応顔を隠すなりして仮装をしてはいるものの、《目星》等の必要がなく、ちょっと観察したり、会話をすれば正体が分かってしまいます。
仮装して参加しない場合は、オペラ座館に入った時点で強制的に衣装室へ連行されて適当な仮装を被されます。これは、《変装》が自動的に失敗している状態となります。
オペラ座館の仮面舞踏会
オペラ座館の前面、正面玄関から大階段、客席入り口までのホールを全て使って、この仮面舞踏会は行なわれます。
当然ですがこの仮面舞踏会には一般の参加者は居ません。オペラ座館の関係者、浅草の劇場、舞台の関係者などが招待されています。中には有名なオペラ俳優や、あるいはスポンサーとしての高等遊民などの姿もあるようですが、皆、仮面舞踏会の仕来り通りに何らかの仮装、そして仮面を被っています。
この場は、単にオペラ座館の閉館を惜しんでのパーティなだけではありません。オペラ座館の劇団員、裏方のスタッフなどの次の仕事場を斡旋したり、業界関係者への顔を繋ぐ為の場であり、オペラ座館の建物や土地をどこへ売り込むかなどのわりと生臭い内容も内々に行なう為に、ある程度憚った会話も可能なように仮面舞踏会としているのです。
探索者達が会場に足を踏み入れたら、以下の描写を行なってください(正気度の下がる光景ではありませんが)。
仮面舞踏会!
どこもかしこも仮面で塗りつぶされた光景が、探索者達を驚かせる。
そこには色取りどりの仮面を付け、仮装した男女が思いおもいに踊り、笑いさざめいている。
にやりと笑う黄色の仮面、踊りまわる赤い仮面、影から視線を投げかける青い仮面。仮面の道化が、司祭が、王が、女王が、獣が、死神が、サテュロスが、会場には溢れている。
会場は光と音楽と騒音に満ち、忙しげに歩き回る人々や、それをからかう人々、そして会場の影に隠れて何事か相談する人々がいた。
くすくす笑いとともに、探索者達の近くに居る人々の目がその正体を探るように、あるいは値踏みをするかのように投げかけられる。
この中には、おそらく、探索者達の知る人物も多く混じっているはずだ。
どこからか、こんな歌が聞こえてくる。
「今宵限り、全ての人は他の人に、本当は嘘に、誰が誰か?」
この場には探索者の他、以下の人物が参加しています(探索者の動きによって死亡、それに準じる状態になっていなければ)。
尼子(オペラ座館の支配人)
オペラ座館の関係者(裏方のスタッフも含む。ただ、やはり裏方として仮面舞踏会の為の仮装の手伝いや、飲食物の配膳を行なっていることもあります)
オペラ座少女歌劇団(星川、月野、花村、深雪、千鳥といった主だったメンバーの他、ほぼ全員が出席していますが、その他のメンバーはにぎやかしの扱い)
風見慧(田舎に戻っていましたが、この場に呼ばれています)
毛利元子(オペラ座館のパトロンの一人)
小早川隆子(元子の関係者として)
安藤雪子(オペラ座館のオーケストラの一員)
明石耀、澄(『浅草の猫と音楽と少女達』スレッドの結果によりますが、オペラ座少女歌劇団のメンバーから招待を受けて)
他の劇場の関係者、俳優、役者等(田谷力三などの有名な浅草のオペラ俳優などをキーパーの趣味で)
近衛(キーパーの判断によって。居ても特に行動は起こさず、仮面のまま意味ありげなことを言わせる程度で)
会場内ではかなりの人数が動き回っている為、見当を付けて接近するのが難しい状態です。この場では《幸運》に成功した場合、ランダムに人物に遭遇します。
さらにその後、《目星》か、《心理学》に成功した場合のみ、当該人物の仮面の下を知ることが出来ますが、それは同時に相手にも悟られる可能性があります。
また、オペラ座少女歌劇団のメンバーや、隆子と協力している場合は、そちらの方から探索者に接触を図ってきて、自ら探索者に正体を明かします。
キーパーの判断によりますが、この場では各探索者に一度ずつ、遭遇の機会を与える程度にして、仮面舞踏会に圧倒されるような場面とするのがよいでしょう。
元子と、隆子に協力していない場合、彼女らは探索者を避けようとします。探索者が《変装》に失敗している場合は自動的に、そうでない場合は彼女らの《目星》によって探索者との遭遇を避けられたか判断してください。
音楽の天使
探索者が会場を観察して特にオペラ座少女歌劇団のメンバーを探す場合か、オペラ座少女歌劇団の星川、月野などと協力しており捜索範囲が狭まっている場合など、どこかそわそわとしている青い仮面の小姓の仮装の人物を発見します。
その仮装はあまり上手く行っておらず、その為に注意を向ければ元オペラ座少女歌劇団の風見慧であることに気が付きます。
風見の観察を続けた場合、彼女はおそらく顔見知りであろう何人かの仮面と話をした後に、パーティ会場を抜け出して、一人で楽屋の方へ向かいます。
彼女の後に付いて行くのには特にロールは必要ありません(騒音などから、彼女に気付かれないようにするのも同じく不要です)。
彼女はオペラ座館の中を迷うことなく進み、『音楽の天使』からレッスンを受けた控え室の一つに入り込みます。そして、鏡の前に佇むと、どこか懐かしむように鏡に触れ、歌い始めます。
彼女は実家に帰ったものの、未だに音楽に対して未練を抱いており、『音楽の天使』の思い出が忘れられないのです。
彼女は歌い終えて長く溜息を吐いた後、振り返って部屋を出ようとすると、鏡の中から歌声が聞こえてきます。
はっと振り返った風見は、鏡の中に羽飾りの帽子に赤いマント、赤い衣装に髑髏の仮面の人物が映っていることに気が付きぎょっとした後に、そして鏡の中に写る人物を確かめようと部屋の中へと視線を走らせますが、鏡の中以外にその人物は存在していません。
この光景を目撃した場合、0/1の正気度を喪失します(《化学》、《アイデア》、《芸術:(工学関連)、(手品)》などによって、この光景が単なる半鏡によるトリックのようなものであることに気が付き、正気度を喪失しないことにしてもよいでしょう)。
歌声は明らかに鏡の中の人物から発せられるように感じます。風見はしばらく呆然とその歌声を聞いていますが、躊躇いがちにそれに声を合わせます。
歌が終わると、鏡の中から声が聞こえてきます。それは、黒澄綾のものです。
「これでレッスンは終わりにしましょう。
貴方には『夜の音楽』は似合わない。自分の音楽を追求してください」
言うや、鏡の中の姿は消えてしまいます。
風見は何も写っていない鏡を呆然と眺めた後、会場へと戻っていきます。
この場面に遭遇した場合、後段で登場する「怪人」が黒澄綾であることが自動的に分かることになります。
「我に触れるな、我は通り過ぎる赤い死なれば」
がやがやと騒がしいパーティの中、一際大きな歓声が上がります。
その方向、5番のボックス席がある方向の階段から降りてくる、羽飾りの帽子に真紅のマント、真紅の衣装、そして髑髏の仮面の背の高い人物に気が付きます。そして、そのマントには金糸で『我に触れるな、我は通り過ぎる赤い死なれば』と刺繍されていることが分かります。
オペラ座館のスタッフや、海外文学や演芸に詳しい(酔った)人々はこの仮装の人物を見て、無責任に「ファントムだ!」「怪人だ!」と囃して立てます。そして、そのマントに書かれている「我に触れるな、我は通り過ぎる赤い死なれば」の文句を、これまたオペラ座の怪人に倣って、大声で読み上げます。
オペラ座館はその名の由来の通り、本場パリの「オペラ座館」を模して作られたものです。この為、この場でも「オペラ座の怪人」にちなんで誰かが「怪人」に仮装するのでは、と予想していたのです。
衆目を集めたこの不気味な仮面に派手なマント姿の人物を見た場合、《目星》-40%に成功すると、この仮装をしているのが黒澄綾だと気が付きます(探索者が綾だ、と指摘したらロール無しで分かったことにしてもよいでしょう)。
綾はこの時点ではコミュニケーションを無視している為、《心理学》によって変装を見破ることは出来ません(また、綾に対する《心理学》は、彼女の深淵を覗き込む可能性があります)。
綾は「怪人」と同じく、無言のままスタッフの間を堂々と、その手の間をすり抜けて行きます。
何か言われた場合は、無言でマントの語句をアピールして自分に触れないようにすることを主張しますが、あまりにも彼女を構う人間が多い為、やれやれと彼女は頭を振ると、大階段の上で足を止めると歌い始めます。
それは彼女を構おうと足を向けていた人々の動きを止め、圧倒する歌声です。思わず聞き惚れる人々を尻目に、彼女はミュージカルの登場人物さながらに歌い踊り、そして移動して、この宴会場から退場していきます。
この人物に注意が集まるとき、「怪人」ではなく聴衆を観察した場合、《目星》、《アイデア》、あるいは《聞き耳》に成功すると、会場にいる大勢の中から以下の人物がこの人物に対して変わった動きがあることに気が付きます。
それらの仮装した人々は、それが黒澄綾である可能性に気が付き、単なる余興ではない可能性に気が付いているのです。探索者と協力している場合は、事前にその正体を知っていることになります。
孔雀の仮面の貴婦人(元子)
白い半仮面のペルシア風の貴族(尼子)
黒い死神の仮面の男(隆子)
赤い仮面の貴婦人(星川)
青い仮面の男(月野)
緑の仮面の楽師(深雪)
白黒の仮面の道化師(千鳥)
青い仮面の小姓(風見)
漆黒の半仮面のエジプト風の王(近衛)
この中の誰かに対して探索者達は、一度だけ調査、探索を行なうことが出来ます。ばらばらになって行動した場合は、それぞれの探索者が別々に行なうことが可能です。ただ、これらの人物に働きかけた場合は、「怪人」を追いかけることが出来ません。
調査の前に、その人物に接近し、《目星》、《心理学》に成功すれば、仮面の下が誰だか事前に分かり、その機会を別の人物に割り当てることも可能です。失敗した場合は、話しかけて誰だか確かめる必要があります(失敗したので、別の人物へ、というのは時間の関係で認められないとキーパーは告げてください)。
元子と隆子
「怪人」による見事な出し物(?)が終わった後、隆子と手を組んでいる場合は、黒い死神の仮面を被った隆子が探索者に向かって分かるように合図をした後に、孔雀の仮面を被った貴婦人をエスコートするようにして階上へ消えていきます。
それ以外の場合、黒い死神の仮面を被った隆子か、孔雀の仮面を被った元子へ接触し、その動向に気を配っていた場合のみ、彼女らが連れ立って階上へ向かうことに気が付くことができます。
彼女らはオペラ座館の舞台の上、大リハーサル室へと入って行きます。そこは閉館を間近にして様々な大道具や背景、その他の廃棄を待つばかりのガラクタが溢れています。この為、《隠れる》、あるいは《隠す》等を行なうのにペナルティなどに+20%の上方修正が得られます。
元子と隆子の姉妹は大リハーサル室の奥の方で、何事か会話を始めます。
キーパーは探索者が《忍び歩き》や、《隠れる》に失敗する度に、元子は《聞き耳》か《目星》で探索者に気付く可能性があります。
隆子に協力していない場合は、同様に隆子も同じロールで気が付く可能性があります。
隆子に協力していない場合、探索者はここで二人の会話を盗み聞きするだけになると思われます。その場合、1度だけ《隠れる》か《聞き耳》を要求してください。そして、以降の場面で探索者が行なう行動を隆子の部下が行い(自動的に成功します)、元子からシャンを取り除く場面を目撃することになります(あるいは、元子と手を組んでいる場合は元子を守ることになるでしょう)。
隆子と協力している場合は、彼女が入り口方向へ背を向けて立っており、後ろ手にした手を探索者に対してひらひらと動かして、その動きを促していることが分かります。
《アイデア》に成功すると、隆子の手の動きからその意図を読み取ることができ、この後の《忍び歩き》、《隠れる》に+30%の上方修正が得られます。
元子、隆子の下に辿り着くには3ラウンド、3回の《忍び歩き》か《隠れる》が求められます。
その間の彼女らの会話は以下の通りです。発見された場合、会話は中断し、探索者に対して元子か隆子が何事か、と詰問することになります。
(隆子に協力している場合で発見された場合は、元子を取り押さえるのを強行する可能性もありますが)
1ラウンド目:
「私とて、あの音楽にただ身を委ねたいと思うこともあるわ。
しかし、私には一族の長としての務めがある。ただ、音楽に淫している訳にはいかないの。音楽を完成させ、再び神殿が正しく音楽を奏でれば、我らはこの星に縛られることなく、自由を手に入れるのよ。
隆子、貴方も一族の者としての勤めを果たしなさい」
2ラウンド目:
「姉上、貴方の言うことはまるでこの星から去ることが、我らの神の為だと聞こえます。
それとは関係なく、正しく完全な音楽が奏でられれば、神殿にはおそらく神の音楽が再現されるでしょう。
その音楽は、神を喜ばせるものではなく、神そのものを現すのですから。それこそ、我ら一族の目的ではなかったのでしょうか?」
「我々は放浪者となってしまったが、音楽を手に入れ、作り、そして神に奉げる者。
もしも、完全な音楽が神そのものであるというのなら、それは神を冒涜する音楽だわ」
3ラウンド目:
「神を表現することが冒涜であれば、神殿にあるものは悉く、神の声を現す楽器、 神の似姿、化身、それらはすべて神を冒涜すると?
まさか、それでは我ら一族はただの楽器を奏でるだけの者に過ぎず、神の為にそれを成す者ではないのですか?」
「理屈ね。我らは神の音楽に仕えるものではなくて?
神そのものを現す音楽ではなく、神の為に音楽を奏でるのが我々の一族の目的なのよ」
3ラウンドの間、元子へ接近することに成功し、十分に元子に近付くと隆子が探索者に合図をして、特に判定の必要なく不意を打って元子に襲い掛かり、彼女を取り押さえることができます。
3ラウンド以内に元子に感付かれた場合、彼女は隆子と探索者のおかしな動きに警戒し、隆子との会話を中断してそのまま大リハーサル室から出て行こうとします。
これを無理矢理にでも取り押さえようとした場合、通常通りの戦闘ラウンドが開始されますが、元子は懐から銃を取り出すとともに、それを適当に発射して人を呼び集めようとします。
1ラウンドの間に《組み付き》で元子を取り押さえることに失敗した場合は、オペラ座館の関係者が駆けつけてきて、元子は探索者の方を指して彼らが暴力を振るおうと及んだと発砲の理由を話します。
探索者の対応によりますが、コミュニケーション系のロールに成功すればこの場はひとまず収めて探索者には退場が命じられます。失敗した場合は、最悪、警察が呼ばれるような事態となります。
元子を取り押さえるのに成功した場合、彼女は敵意に満ちた目を隆子に向けていますが、隆子が懐から取り出した装置を見ると一転して恐怖に満ちた表情となります。
「さて、姉上。
これはまだ試作品なので一度使えるぐらいの耐久力しかありませんが、まあ、それで十分でしょう」
それはミ=ゴ達が使っていた装置に似ていますが、どこかスマートな印象を与えます。
隆子はそれを元子に向けて、引き金に似たスイッチを引くと奇妙な振動が辺りを包みます。
元子はおそらくその装置から出ている何かを浴びると、がくがくと痙攣を始めます。そして、常からは考えられないような強い力で押さえている探索者の手を跳ね除けようとし、STR15との対抗ロールを行なってください(複数人で押さえている場合は、単純にSTRを合計して対抗ロールを行なってください)。
元子の痙攣が治まると彼女は気絶し、全身の力が抜けてぐにゃぐにゃになった状態で床に転がります。そして、元子の頭から彼女に憑いているシャンが這い出します。
そいつはまるで酩酊するかのようにふらふらとしており、装置から出る振動の影響を受けてまともに羽ばたくことも出来ません。
元子の頭から這い出たシャンを目撃した場合、0/1D6の正気度を喪失します。
シャンは装置の影響下にある為に、まともに行動することが出来ません。探索者が攻撃を仕掛けた場合、耐久力が極端に低いこともあり、あっさりと死亡してしまいます。
元子とのSTRの対抗判定に失敗していた場合、シャンは這い出た後、酩酊しているような動きはしているものの、通常通り飛び回り、撤退を開始します。
探索者が元子に憑いていたシャンを葬ったことを確認すると、隆子は手にした装置の引き金から指を離します。
「ありがとうございます。
こうあっさりと行くとは思っていませんでした。姉はやはり、私や貴方がたを甘く見ていたようですね。
これで姉も元に戻ると思います」
気絶した元子を肩に担ぐようにしつつ、隆子は「では、これで。また何かあれば連絡します」と元子を連れて去っていきます。
この場で隆子に対して探索者が何か聞こうとする可能性は高いですが、彼女はとにかく元子をまずは連れ帰りたいと主張し、何かあれば後日、と言います。
一応、元子をどうするのか、ということに対してだけでは、「まず、姉の今の状態を確かめたいのです。正気が残っていればよし、そうでなければ、まあ、その時に考えましょう」と答えます。
綾と双子の『唄』
オペラ座の怪人として姿を現した綾を追った場合、特に《追跡》などのロールは必要ありません。
何故か、劇場の人気の少ない場所に猫が待機しており、探索者が通り掛ると綾の行き先を告げるようににゃあにゃあと鳴きます。
彼女は客席から舞台へ抜け、奈落へと姿を消し、探索者がこれに追いすがった場合、まるで待ち構えていたように、奈落の底で彼女と遭遇します。
仄暗い奈落の底で、遠くから仮面舞踏会の喧騒が聞こえてくる中、不気味な髑髏の仮面の人物は立ち止まり、探索者に対して前と同じように『我に触れるな、我は通り過ぎる赤い死なれば』のマントの文字を示します。
探索者がこの人物を黒澄綾であると指摘した場合、彼女は髑髏の仮面を取り、「ああ、貴方がたの仮装もなかなか面白いものですね」と笑います。
指摘できないか、しない場合は彼女は首を傾げた後に、マントを翻して奈落のさらに地下へと消えます。
明石耀、澄の双子を連れて綾に会った場合、彼女は何故と問いかけるように首を傾げて、無言のまま探索者に視線を投げかけます。
(何故か、黒澄綾の前では双子は捕食者を前にした被捕食者のように竦みあがり、いつもの騒々しい様子は全く無く探索者の後ろに隠れるようにしています)
探索者が双子の事情と『唄』について説明して、『唄』を授けて欲しいと頼むか、あるいは《説得》等のロールによって綾の興味を引くことに成功した場合、彼女は「ああ、十二階での」と一人納得します。
綾は双子をしげしげと眺めた後に、探索者だけに聞こえるように「私は事情を把握していません。貴方がたの言う『唄』についても確実なことは何も言えません。それでもよいのですか?」と聞かれます。
これは暗に、この双子に『唄』を授けてもシャッガイの女王の覚醒を防ぐことは不可能であるかもしれないし、あるいは逆の効果があるかもしれない、と告げているのです。
探索者がそれでも構わないと綾に頼んだ場合、彼女は「よいでしょう、貴方がたの『唄』にも私は興味があります」と言い、双子に前に出るように促します。
耀、澄が手を繋いだまま、黒澄綾の前に立つ。
綾は二人に向かって発声練習でもするかのように声の音程を取る。それに吊られる様に双子も声を出し始めると、綾と双子のそれは次第に調子を変え、音楽となり始めた。
綾の歌に導かれるように、耀と澄の『唄』はあの十二階で聞いたものよりも遥かに美しく響く。だが、それは同時に聞き慣れた音楽とは異なっているが、どこか違和感を持ち、それが指摘できないもどかしさがある。
綾の先導が変わり、双子の『唄』もそれに合わせて変容を始めた。
その音楽は十二階で聞いた双子の『唄』の完全なものであることが即座に分かる。黒澄綾の導いた音楽は、それを聞く者にとっては、まるで世界の果てから響く唸るような重低音であり、蜂の大群が発するようなブンブンと唸る音の塊のようにも思える。
それはこの先、二度と聞ける音楽ではないはずだったが、確かに美しい音楽ではあったが、綾が奏でる完全な音楽からは何億光年も離れたもので、双子の『唄』であった。
この完全な『唄』を聞いた場合、1/1D4+1の正気度を喪失する可能性があります(すでに『唄』によって正気度を喪失している場合は、合計5点までしか喪失しません)。
双子は黒澄綾の指導を受けて歌い終えると、疲れ切ったのかその場でがっくりと座り込んでしまいます。
「大丈夫です。少し、消耗してしまったのでしょう。
しばらく休まれば、元に戻ります」
綾はそう告げると、音楽が完成していると言葉を残して奈落のさらに地下へ去っていきます。
耀、澄を連れてきていない場合は、彼女はこの場での探索者とのコミュニケーションは基本的に拒否します。
華麗に一礼した後、彼女はマントを翻して奈落のさらに地下へと消えていきます。
「音楽はもう完成しています。
後はただ、それが奏でられる時を待つだけです。
しばし、お待ちください。貴方がたにも聞いて欲しい、私はそう思っています」