スレッドH 造反者、春子
前回のシナリオで春子は死亡している可能性が高いですが、このスレッドでは『春子の遺産』、前回のシナリオで春子が活動する元となった書物、『外なるものども』を巡って蠢く人々が現われます。
探索者も『春子の遺産』と『外なるものども』を手に入れる為に動くこととなりますが、ミ=ゴの妨害、同じく遺産を手に入れようとする元子側との戦いとなります。
もしも、春子が生きており、あるいは毛利家に戻された場合等、彼女に憑いていたシャンは元子によって処分され、春子自身は破壊された精神を抱えて長野の山奥、田舎のサナトリウムへと追いやられていることになります。
- 春子の調査(スレッドの起動部)
- 吉川春子という女
- 毛利家の楽器工房
- 魔道書(?):春子の遺産
- 吉川家の火事、ミ=ゴの襲撃
- スレッドの終了後
春子の調査(スレッドの起動部)
春子自身はすでに退場していますが、前回のシナリオでほとんど正体の分からなかった彼女について調査を行なう場合、下記の情報が得られます。
元子の調査と同じように特にロールの必要はありませんが、探索者の立場や職業によって、簡単な調査で下記の情報を手に入れることができます。
華族などの上流階級に所属している場合(華族などのディレッタント系統の場合):
毛利家の次女で、現在は吉川家に嫁いでいる。
彼女が嫁いだ後、吉川家は実業家として成功し経済的には恵まれたが家内では不幸が続き、吉川家の現頭首は春子の夫であるが、実権を握っているのは春子であると噂されている。この為、彼女が好き勝手やっても文句を言う者は家内、一族内にはいないと言われている。
最近、事故に遭うか何かで田舎の方へ転地療養中だと言われている。
ゴシップなどに詳しい場合(新聞記者や、雑誌編集者など):
元子がある程度の節度を持って遊んでいる、マスコミ対してある意味でのサービスを行なっているようなものなのに対して、春子は派手に遊ぶを通り越して事件にまで発展することが少なくなく、春子が現役だった時分には元子があまり目立っていなかったということがある。
現在は自身が起こした事件により表立って派手にやることはなくなっているが、地下に潜ってよりいかがわしい遊びに耽っているのではないかと言われている。
また、単にいかがわしいだけでなく、反社会的な組織や、思想家とも繋がりがあったと言われている。それも含めて、官憲に目を付けられたのではないだろうか。
最近は自身が起こした問題により、帝都から逃亡したのではないかと噂されている。
反社会的勢力に詳しい場合(警察官、特高、アナーキストなど):
吉川春子は一部で有名な思想家で宗教家、最近は「日本改造法案大綱」の国家改造論を著したことで有名な上海帰りの北一輝と何らかの繋がりを持っている。
派手に遊びまわっているのも彼女の一面だが、その不満の矛先を社会に向けることもあったようで、革命的な反社会組織の支援をしていたようだ。
今のところ、直接の繋がりが無いし、北一輝も違法出版などの活動を行なっているが、直接的な行動ではない為に警察などの監視下にあるものの、未だに特高なども手が出ていない。
音楽関係に造詣が深い、関わりがある場合(女学生探索者や、《芸術:(音楽に関連するもの)》を持つ探索者):
有名な音楽狂で、何度かゴシップ記事にもされているが、姉の元子は金をばら撒いたり、才能がある音楽家の支援をしているだけだが、春子の方は性質の悪い、いわゆるゴロツキ的なところがあり気に入らない音楽家や、自身の気に入った音楽家の邪魔をしたりする劇場主や批評家を脅迫や、実際に何らかの実力行使で黙らせたことがあり、事件を起こしている。
本人はコントラバスを演奏し、こちらも姉の元子と同じく玄人はだしの腕前で、姉とは異なり自慢げに他人の前、自身が組織した楽団で演奏している姿を何度か目撃されているが、事件を起こした後はこういった姿はあまり見られていない。
一時、毛利家の楽器工房に篭って何かやっていると噂になり、また世間の耳目を集める事件をやらかすかと思われたが、その後何事も無く帝都を離れて田舎の方で休暇を取っていると言われている。
吉川春子という女
吉川春子について、さらに追跡調査をした場合、以下の情報を得ることが出来ます。
これらの情報は探索者の主に 《信用》を使用することになりますが、探索者の話の持って行き方や、どこで調査を行なうのか等を勘案してキーパーが適宜、探索者にロールを要求してください(もちろん、場合によってはロールの必要なく、無条件に情報を与えても良いでしょう)。
・吉川春子という女
吉川春子は噂の通りの音楽狂、享楽家であることは確かですが、それと同時に社会への不満を持っており、いわゆる左翼、社会主義運動に傾倒とまではいかないものの、隠れて資金提供をしていたとの噂があります。
この為に、単純な世間体の問題から隠れた、地下に潜ったのではなく、勃興しつつある社会主義、左翼運動に加えて、特高警察などの思想犯の取締が厳しくなった為ではないか、と言われています。
吉川春子自身は政治的な主義主張とは無縁ではあるものの、その考え、主張を利用して自身の考える社会的な何かを押し通そうとしていたのではないか、と考えられ、それが北一輝などの革命を夢見る運動家との関係を作ったのではないかと噂されています。
荒々しい、ゴロツキのような女性ではあるものの、鷹揚な態度、気に入った者には援助を惜しまないディレッタント的な気質は彼女に気に入られた人間には逆に頼もしく、大きな人間に見せて、元子とその支援する者は割合ビジネスライクであるのに対して、一種の家族関係的のような吉川一家を作っていたとも言われます。
・北一輝との関係
北一輝と吉川春子が接近したのはごく最近のことで、北の語る日本革命、国家改造の考えに惹かれたからではないかと言われています。
さすがに、春子、北ともに検察の監視下にあると思われる人物である為に、表立っての接触はあまりしないようにしていたようですが、何らかの形で北の国家改造運動を支援する為に、北の周辺の人物と接触したり、あるいは北の下へ自身の配下を送り込むなどしています。
水面下での接触を繰り返し、北の支援をするとともにその考えに触発されて自身でも何か革命的な行動を起こそう、と考えていた節があり、さすがに華族の夫人がそのような大胆を通り越して犯罪とほぼ同等と言える行動を取るようなことはないと思われていましたが、吉川春子という人物はそれをやる可能性も十分にあったとも言われています。
・北一輝の弟子達との関係
北一輝と直接接触できない代わりに、これらの周辺人物とよく接触をしていたと言われています。
特に北一輝の弟子である、小出、前野、脇坂、駒井、篠原と特に仲が良いようで、彼女の持つ秘密クラブ的なものにも招かれ、春子の周辺で見かけることがあります。
春子自身は北一輝の弟子、ということではないのですが、北の弟子達の波長が合う者と行動を共にしていることがあったようです。
この北の弟子達も様々な立場、立ち位置であり、北を差し置いて、革命、国家改造を進めることを考えていたこともありますが、春子は姿を消してからは再び北を頼るようになっています。
毛利家の楽器工房
毛利家の楽器工房は青山墓地、元練兵場の近くにひっそりと建っています。
洋風の平屋、レンガ造りの瀟洒な雰囲気の建物で、機材を運び込む為の大きな扉や煙突を備えています。
早い段階で探索者がこの工房に来ても、何が目的でこの中を調査、探索するのかが不明になります。
特に目的が無い場合は、不法侵入のリスクを犯すことを告げて、中に立ち入るのを踏み止まらせるのもよいですが、今後、どこかに侵入することを躊躇うようになっても問題なので、「現時点では侵入する理由がない」ことを強調しましょう。
キーパーの判断や、シナリオの進行具合によっては早い段階で探索者が『春子の遺産』を手に入れるのもよいでしょう(これを材料に、元子や隆子、あるいは綾から情報を引き出すようなこともありえます)。
工房は現在、閉鎖されており、無人となっており、たまに様子を見に毛利家の使用人が訪れる程度です。
元子が楽器の作成に凝っていた時期は常駐で専属の職人が居り、常に作業場で何らかの楽器が作成されていたのですが、現在は元子も満足のいく楽器を作らせて落ち着いているとともに、黒澄綾の彼女の為の『楽器』を試作する為に、シャンの関係者以外は一時的に暇を出しています。
綾の楽器の作成は最終段階に入っており、多くの機材が北多摩の別邸に運ばれるか、別の綾の隠れ家で作成が進んでいる為、すでに楽器工房はもぬけの殻です。
春子も一時はここで『帝都狂想曲』で使用した『異次元通信機』の試作品をここで作成していました。
工房は仕切りの無い大きな作業場と、職人達が個別で作業をするスペースと、共同の休憩場所のようなスペースで構成されており、大きな一部屋を背の高い間仕切りで分けているものです。
工具の大半はすでに引き上げられており、材料の類も全く置かれておらず、目を引くものはありません。職人の個別のスペースは3つあり、それぞれバイオリン、チェロ、コントラバスの真新しい、組み立てる前の部品が置かれています。
『春子の遺産』を探しに来た場合、春子が得意としたコントラバスの職人のスペースを探せば、作業台の引き出しの中に達筆な文字で書かれた、楽器とは全く関係ないであろう機械装置の設計図や、おそらく実験の経過記録を発見することが出来ます。
探索者が思い当たらない場合は、《目星》か、虱潰しに家捜ししたことにしても問題ないでしょう。
魔道書(?):春子の遺産
春子の行なっていた『異次元通信機』の製作、実験の資料、記録です。
毛利姉妹が『異次元通信機』と呼ぶ装置は、この資料の中では『苦悶の楽器』となっており、ミ=ゴ側から流れてきた外科技術を持って人間の頭部を生きたまま脳缶詰装置に似た容器に保存、これに電極を接続して刺激を与えることで夢見る中に拷問を与える装置です。
前シナリオ『帝都狂想曲』において、スグルオ湾の住人との接触、翻訳が行なわれる機械となっていましたが、これは春子がスグルオ人と手を組んだ為に改造された結果で、この装置は初期の頃は単純な拷問装置であり、ついで拷問をしつつ音楽(?)を奏でさせるものとなりました。
『春子の遺産』には、この装置を作り出す為の設計図と関連資料の他、その過程や、吐き気を催す実験の記録、スグルオ人との通信内容が几帳面に記録されています。
また、すでに『グラーキの黙示録』第8巻や、『外なるものども』を読んでいる場合は、その内容がかなり引用、実践する為の資料として書き込まれていることが分かります。
この資料を読むには平均3日、斜め読みで4時間掛かります。日本語で書かれており、母国語が日本語の場合は特にロールの必要はありません。
正気度の喪失は1D3/1D8、クトゥルフ神話に+4%。
呪文:スグルオ人との接触、グロスとの接触、シャンとの接触、シャンを駆除する、アザトースの招来/退散、ダオロスの招来/退散
吉川家の火事、ミ=ゴの襲撃
この場面は、北一輝の下に集っていた弟子達を追う項目が、ほとんど終わった頃に行なってください。
探索者が吉川春子の痕跡を求めてか、あるいは元子を監視していた場合に彼女が吉川邸に向かうなどして麹町区の吉川邸を訪れる場面となります。
吉川邸は毛利家のそれよりも大きいのですが、周りに並ぶ華族の邸宅に比べればあまり大きくはない印象を受けます。
吉川邸はどこかうらぶれた様子で、人の出入りもなく家人の気配もなくひっそりと静まり返っています。
探索者が吉川邸に赴くと、丁度、毛利元子が吉川邸を訪れているようで、彼女のルノーDJ型が車回しに停車されています。
吉川邸に忍び込む場合、門は常時開いている為、《鍵開け》などのロールは不要ですが、キーパーは念の為《忍び歩き》をするかどうかを確認してください(元子は気にしていない為、実は無駄なロールですが)。
探索者が吉川邸に侵入すると同時に、《聞き耳》、《アイデア》あるいはキーパーの判断によっては《目星》に成功すると、どこからか上空から影が射し、低い羽音のようなものが聞こえたことに気が付きます。
すでに何度かミ=ゴに遭遇している場合は、彼らが上空から舞い降りる音に似ていることが分かります。
この後は探索者の判断次第ですが、探索者が吉川邸に踏み込んだ場合、広い屋敷の割には使用人が全く居らず、がらんとした雰囲気の中、廃人のようになっている吉川家の人々を見ることになります。
彼らは、吉川春子の反乱をきっかけに、元子の反撃、粛清の最初の対象になったシャンに憑かれた人々です。元子によってシャンが駆除されたのですが、正気度が0になっており、吉川家に押し込められています。
元子は適当な時期を見て、春子を含め、彼らを死亡したことにするか、始末するかを考えていたのですが、『春子の遺産』の行方が分からないままであることもあり、監視下においています。
事前の《聞き耳》などに成功している場合か、入り込んでから《聞き耳》、《アイデア》に成功した場合は物音が上階からしていることが分かります。また、邸内に入った瞬間から、焦げ臭い香りが充満していることに自動的に気が付きます。
上階に上がろうとするともうもうと黒い煙が充満しており、焦げ臭いだけでなく何か薬品や、化学物質等の燃える有害な臭いがあることが分かります(特にCONロール等は要求されませんが、探索者が精強である場合に、ミ=ゴとやりあう場合のペナルティなどを考えるとよいでしょう)。
上階に上がったすぐの階段ホールでユゴスよりの者どもと対峙する元子とその護衛(ルノーDJ型の運転手です)が居るのに出くわします(煙の為に、かなり近い距離になってから気が付きます)。
ミ=ゴの手には例の妙な機械装置が握られており、それを元子に向かって発射しますが、元子には何の影響もありません。
「その装置の報告は受けている。
人よりも進んだ科学が貴様らだけのものと思わないことね」
嫌味っぽく言う元子が探索者に気が付くと、「あら」と驚いた表情を一瞬浮かべた後、からかうような笑みと共に問いかけます。
「何故、ここに、というのは愚問かしら。
貴方がたはどちらの味方なの?」
探索者がどちらに味方するにせよ、元子はミ=ゴは探索者に任せて一旦下がることを決めます。
探索者が味方している場合、ミ=ゴを探索者に任せて自身は階下へ撤退し、そうでない場合はミ=ゴ側を突破して逃げていきます(屋敷には階下に降りる階段は一つきりではないので)。
元子側に付かなかった場合、元子は去り際に探索者に向かって「そう、よろしい。貴方がたは敵。そういうことね」と、囁きます。
ミ=ゴは元子が逃げた後は、探索者を襲ってきますが、1ラウンド目は必ずとりあえず手にしたシャンの駆除装置を探索者に向かって放ってきます(要するに、1ラウンド目は必ず無駄に行動します)。
ミ=ゴを撃退するか、あるいは逃亡した場合、屋敷に充満した煙はさらにひどくなっており、明らかに吉川邸が燃えていることが分かります。
元子側に付いた場合、ミ=ゴの撃退後、彼女は火事を気にせずに階下で探索者を待っており、降りてくる探索者が何か言う前に語り掛けます。
「奴らを片付けた手並みは賞賛に値すると言えるわ。ここに無断で入り込んでいることについては不問としましょう。
私が問いたいのはただ一つ、貴方がたは何をしようとしているのかしら?」
ここで探索者が質問を返す可能性も高いですがその場合は、「私の問いに答えなさい。でなければ、それが貴方がたの回答であると私は判断します」と、一切それを許しません。基本的に、一方的に問いかけるのみです。
これは元子からの最後通牒です。彼女の元には探索者の行動に関する情報も多く集まっており、敵対している可能性が高いと踏んでいますが、同時にユゴスよりの者どもとも敵対しており、そしてある意味において黒澄綾の保護、その刺激に役に立っていると考えています。
探索者の回答次第で、元子と手を組む可能性があります(あるいは、その場はそのようにして逃げることも可能です)。その場合は、前と同じく黒澄綾の居場所を探って欲しいと彼女は言います。
「不思議なことだけれども、あの黒澄綾という少女は誰にも捕まえられないの。
唯一、黒澄が好んで接触をしているのは貴方がただけ。だから、彼女を捕まえられるのは貴方がただけなのよ」
探索者が否定的な回答をした場合でも、この場では元子は直接的な敵対行動は取らず、そのまま去っていきます(探索者が強いて攻撃的な姿勢を取った場合のみ、護衛と共に軽く戦闘をしてもよいでしょう)。
元子が去った後、吉川邸は炎上し、跡形も無く焼け落ちます。焼け跡からは吉川家の者と、その使用人と思われる死体が5体発見され、吉川家が世間を騒がせる最後の記事となります。
探索者が吉川家の人間を助けようとする可能性がありますが、彼らはすでに廃人であり、生きながら死んでいるような状態である為、どうしようもないと伝えてください。もちろん、火事から救い出しても問題ありません。その場は手近な病院へ収容されますが、後から元子の手が回って山奥のサナトリウムか、あるいは消されるような事態となります。
吉川邸の火事の原因は失火であり、事件性は無いと判断されて一通りの簡単な調査は行なわれますが、詳細な調査は行なわれません。発見された死体も、元子や関係者が吉川家の者だと証言しており、疑う余地は無いことになります。
キーパーへ:
吉川邸には特に手掛かりは残っていません。
ただ、キーパーの判断によって、この場に吉川春子の行動の痕跡や、『春子の遺産』の行方のヒント、あるいは元子の悪行の痕跡などを示して、探索者への情報開示の一端にするのも問題ないでしょう。
シナリオ内でのこの場面の発生するタイミングや、探索者の行動、指針に合わせて活用してください。
スレッドの終了後
基本的に吉川家の関係者は全て死亡するか、探索者の手に届かないサナトリウムなどに収容されます。
前回の『帝都狂想曲』において吉川春子を保護している場合を除いて(その可能性は皆無に等しいですが…)、吉川家はひっそりと世間から消えて忘れ去られていきます。
もしも、吉川春子を保護している場合、帝都に居る場合は関東大震災によって死亡、あるいは行方不明となり、そうでない場合は、一生正気に戻ることも無くサナトリウムなどで生涯を終えることになります。
(この辺りはシナリオに影響の与えない範囲でキーパーが自由に決めてください)