天地交響曲 スレッドJ 帝都改造計画


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スレッドJ 帝都改造計画

 このスレッドは『魔王の弟子達』スレッドと『シャンの首魁、毛利元子』スレッドから分岐、合流して起動します。

 元子を追って王子、飛鳥山へ赴いた探索者達は、渋沢栄一邸へと入っていくことを確認します。
 そして、続々と政財界、官僚、軍人、陰陽師(!)までもが集結してきます。渋沢栄一邸では『帝都改造計画』の合議の真っ最中だったのです。
 毛利元子もこの計画に一枚噛んでおり、この為に飛鳥山の渋沢邸を訪れたのでした。
『帝都改造計画』は文字通り、帝都を世界に誇る、一国の首都として恥ずかしくない都市とするとともに、政治、経済の中心地、そして国防の観点、さらには霊的にも祝福された都市を目指しての改造を計画しているものです。

キーパーへ:
 このスレッドはミスディレクション的なものを多く伴っています。
 余計な情報が多いと判断した場合はあまり大きく取り扱わず、元子や篠原のみをクローズアップするようにしてください。
  1. 帝都改造計画、王子、飛鳥山、渋沢邸
  2. 帝都改造計画に関わる人々
  3. 『帝都改造計画』を探る
  4. 賀茂保之を紹介される
  5. 篠原からシャンを駆除する
  6. スレッドの終了後

帝都改造計画、王子、飛鳥山、渋沢邸

 東京市外、王子飛鳥山の辺りまで元子を追跡した場合、その手段によりキーパーは適切なロールを行なわせてください(ある程度場所を特定したうえで現地から尾行した場合は《追跡》か《忍び歩き》、はじめから自動車で追跡した場合は《運転》、事前の待ち伏せをした場合は《隠れる》など)。
 成功すると彼女が、財界の首領の一人である渋沢栄一の私邸へと入っていくことが分かります(あまりにも有名な渋沢栄一である為、無条件に分かります)。失敗した場合でも、時間を掛けることによって、元子が渋沢栄一宅へ出入りしていることを聞き込みなどで知ることができます。
 もちろん、私邸へ踏み込むことは出来ない為、周囲を張っていると、続々と政財界、軍関係、そしてオカルト関係の有名人が同じく渋沢邸へと入っていきます。
《知識》か、探索者の地位や職業によっては自動で、これらの人物の知識を得ることが出来ます。

キーパーへ:
 シナリオ中、渋沢邸に踏み込むことは基本的にありえません。
 この為、探索者が短絡的な行動に及ぶ前に『帝都改造計画』の情報を出していき、周辺を攻めるだけでよいことを理解させてください。

帝都改造計画に関わる人々

 帝都改造計画に関わっている人物は以下の通りですが、ここに登場する人物を同様にキーパー好みの人物に変えるのも面白いかもしれません。
 探索者がこれらの人物に接触を持つ場合、これまでに関わった事件等を勘案し、どのNPCと接触するのが良いと探索者に提案するのもありでしょう。

渋沢栄一(しぶさわ・えいいち)、財界の首領
 言わずと知れた経済界の首領です。3年前に子爵を授けられ、この年すでに83歳、引退とまでは行きませんが、この時期は飛鳥山に居を構えて、様々な社会活動を行なっていました。
 この『帝都改造計画』は明治40(1907)年に初めて画策され、帝都の市区改正等に影から影響を与えましたが、時流には勝てず一旦は立ち消えになりました。
 しかし、渋沢は諦めず、再びこの『帝都改造計画』を再起動させました。これには市長職を離れた後藤新平の協力があったことなどもありますが、毛利元子による強力な後押しがあります。
 相変わらず非公式の会合ではありますが、前回と同じく政治、経済、軍事にそして霊的、オカルト方面の専門家まで集められ、政治、経済的には東亜の中心地であり、軍事的にも防衛面、そして霊的にも祝福されたあらゆる意味で完全な、先進的な都市に帝都を改造しようと考えています。

後藤新平(ごとう・しんぺい)、政界の重鎮、前東京市市長
 この年の4月まで東京市市長であり、様々な要職を歴任した政界人です。
 後藤は大正10(1921)年に後に「大風呂敷」とも呼ばれた「八億円計画」を市政に示します(当時、日本の国家予算が15億円程度、東京市の予算が1億円程度の時代に、です)。
 結局、この計画は調査段階で様々な勢力からの抵抗を受け、ほとんど実施されなかったものでしたが、これが震災復興時の一つの原図となります。
「帝都改造計画」では、この八億円計画以上のものを持って帝都の整備を考えています。

 ちなみに後藤は震災直後に組閣された山本権兵衛内閣で内務大臣として国政に復帰し、帝都の復興に40億を掛けるというまたもや大風呂敷を広げ、復興院総裁を兼任して帝都の復興を担うはずでしたが3ヵ月後、虎の門事件により山本内閣は総辞職、後藤は僅か3ヶ月で復興の表舞台から姿を消しました。

寺田寅彦(てらだ・とらひこ)、帝大物理学者
 前の『帝都改造計画』でも帝大の物理学者として参加していました。
 いわずと知れた物理学者であり、吉村冬彦、藪柑子の名でも知られる文学者でもあります。
 今回の『帝都改造計画』でも同様に物理学者としての意見を求められています。
 震災後は理研(理化学研究所)に入所し、地震研究を行ないました。 

大河内正敏(おおこうち・まさとし)、理研所長、殿様
 子爵、貴族院議員、そして理研の所長であり、帝大教授です。
 理研の研究制度の改革や、研究成果の事業化などを行い、いわゆる財閥化までさせるほどの成功を収めました。
 寺田とは帝大時代に共同研究を行なうなどの関係があり、震災後には寺田を理研に入所させています。
 理研の創設者の一人である渋沢栄一の求めに応じて『帝都改造計画』に参加、物理学者、実業家としての意見をしています。
 その生まれや育ちのよさもありますが、偉丈夫であり、殿様の愛称で呼ばれていたと言われています。

賀茂保之(かも・やすゆき)、現代の陰陽師、土御門家の代理
 賀茂は『帝都改造計画』において霊的に祝福され、吉相に恵まれ、徳目を備えた都市となるように意見を求められています。
 土御門家の代表であり、平安時代で断絶した賀茂家の傍流であり、陰陽道の世界では名門の一族の男です。
 本来は京都の土御門家に詰めているのですが、『帝都改造計画』の為に帝都に滞在しています。

 土御門家は安倍晴明まで遡る名門であり、朝廷の天文、陰陽博士、幕府の天文方として暦道の専門家を担っていました。
 明治政府は明治5年11月に一旦は暦の管理を土御門家へ任せる詔書を出しましたが、翌月にはこれを覆し、政府自身で暦を管理するように再度詔書を出しました。
 結果、土御門家から暦道に関する事業はすべて中央官庁に吸い上げられ、さらには当時の当主であった土御門晴雄が若くして没し、一門の存続が危ぶまれると状態にまで発展します。

工藤良一(くどう・りょういち)、参謀副官
 陸軍の参謀副官です。『帝都改造計画』では陸軍を代表して参加しています。
 立場からして当然ですが、軍事都市としての側面を強調し、また参謀として防諜、情報戦の為の機能も主張します。
 ただ、あくまで陸軍としての情報統制等の考えの為、むしろ情報の検閲や統制を基本としています。

篠原國彦(しのはら・くにひこ)、中尉
 工藤の付き人に近い形だと周囲には思われていますが、呪術、オカルト、地政学に造詣が深い陸軍中尉です。
『帝都改造計画』の場では工藤を慮って一歩引いた立ち位置に居ますが、物理的な防衛面ばかりを主張する工藤に対して、この会合の主旨に近い、総合的な都市計画(やや、オカルト寄りですが)を持っており、意見を求められればやぶさかではありません。
 彼は北一輝に師事しており、その思想に大きな影響を受けています。これが為にオカルト趣味に走り、今でもオカルトと地政学を絡めて考えている原因です。

キーパーへ:
 篠原には春子派に属していたシャンが憑依しています。
 現在、春子派は壊滅状態であり、光合成をしに神殿に戻ることも出来ない為、可能な限り休眠状態で体力を温存しつつ、隆子に協力して元子を排除するように動いています。
 この為、シャンの篠原への支配力は低下しており、普段はオカルトに影響を受けた言説を行なうぐらいとなっています。『帝都改造計画』ではむしろひっそりとして元子に感付かれないようにしています。
 北一輝の下へ篠原が通うのには、彼自身がオカルトに傾倒していることもありますが、春子派のシャンが憑依している仲間と接触して連絡を取る為でもあります。

木立整(きだち・ひとし)
 中央気象台の係官です。
 政府中央の官吏らしく尊大に構えており、同席している賀茂を馬鹿にしています。
『帝都改造計画』では専門の気象やそれに伴う防災面からの意見を求められています。

毛利元子
 華族、実業家の代表のようなものです。
 渋沢栄一と並んで大きなスポンサーであると同時に、新世代の代表的な位置づけで会合の中でもちょっと浮いた存在となっています。
 また、裏から手を回して陸軍の工藤とも良い関係を築いており、今回の件に一緒に関係しています。

 元子が『帝都改造計画』を推進している裏には、シャンとして住みよい環境を作り出す為でもあります。
 彼女は基本的に一族の土着を認めていませんが、すでに長い時間地球に住むことになってしまった為、今後のことも考えてより住みよい環境、そして人間をコントロールする手段も求めざるを得ません。
 前回の春子の一件は完全に不意打ちの反乱であり、スグルオ人と手を組むのは望まざる状況であった為、探索者と協力し事件を収束させたのです。

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『帝都改造計画』に関わる人物は怪しげに見え、毛利元子も一枚噛んでいる為に何か大きな陰謀組織が暗躍しているように見えますが、全く怪しいところはなく、帝都の改造を標榜する、渋沢栄一と後藤新平によって組織された活動です(水面下では利権争いがすでに始まっていることも確かですが)。
 元子も可能であればシャンを送り込んで自身の意のままに操ることを検討していますが、人員不足の上に、単純に予算をつぎ込むことである程度のコントロール可能な計画である為、よほど重要なポストの人間でない限り、一族のシャンを憑依させることはありません。
『帝都改造計画』は高度に政治、経済的な会合である為、あまり探索者には深入りさせず、ある程度ぶっちゃけて早い段階でこの計画全体ではなく、怪しげな人物を調査するのがよい、この集まりは探索とは関係が無いと明かしてしまうのもよいでしょう。

『帝都改造計画』を探る

 探索者が『帝都改造計画』に集まる中の人物に接触し、これについて聞き出そうとした場合は、キーパーは適宜コミュニケーション系のロールを要求するか、これまでのシナリオですでに探索者との信頼関係がある場合は、探索者の話の持って行き方によっては無条件に教えても良いでしょう。
 あるいは毛利元子との関係が悪化していない場合や、シナリオがまだ序盤であれば、直接元子へ切り込むこともあるでしょう。その場合、彼女も同様に概要については教えてくれます。しかし、逆に何故私を探っているのか、と問われることになります。

 渋沢翁の私邸の集まりは、曰く、『帝都改造計画』であると教えられます。
 これは渋沢翁が中心になり、一国の首都として恥じない都市に帝都を改造することで、その為の準備の会であると。
『帝都改造計画』は首都機能の観点から、政治的、経済的、軍事的な機能、そして霊的な機能までも考慮した完璧な都市を作り上げることを目的としています。
 この計画に参加しているメンバーの中には財界人として費用面の為に参加している人物も居り、単純な専門家の集まりではなく、机上の空論に終わらない実行可能な都市計画を立てることになっています。
 探索者が訪ねた人物にもよりますが、首都機能の設計の為の専門家として意見を求められていることを探索者に告げます。
 内容についてはさすがに機密に属することで明かすことは出来ないと言いますが、さすがに様々な分野の専門家、しかも渋沢翁の目にかなった人物が集められていることもあり、議論百出、簡単に決まることではないとは教えてもらえます。

『帝都改造計画』の組織が表だっての活動はまだまだ先の話で、現在は計画段階のものです。
 シナリオの終幕部で起こる関東大震災によって壊滅した帝都をいち早く復興させたのも、この帝都改造計画の青写真があったからだと思わせる程度にしましょう。

 元子以外にあたって彼女のことを尋ねた場合、一様にあれは変わった女だ、そして女丈夫だとも言われます。
 海千山千の実業界で毛利家という背景があることも確かですが、女手一つで毛利家の事業を切り盛りし、さらには『帝都改造計画』に食い込むほどの影響力を持ち、そして世間を賑わせるほど遊んでいるがそれも彼女一流の宣伝のようなもので、一筋縄でいく人物ではない、という評価です。
 帝都のあちこちに隠れ家のようなものを持っており、そこを渡り歩いて活動しているので、毛利邸に居ることはほとんどないのではないか、と言われます。

 これらの人物に、『帝都改造計画』の中でも怪しい(?)人物について尋ねた場合、筆頭に上がってくるのはやはり毛利元子ですが、陸軍の篠原中尉も怪しい、と言う意見があります。
 篠原はここのところまるで『何かに取り憑かれたかのように』急に人が変わっており、前まではお堅い軍人だったのが、吉川春子と関係が出来た後はオカルト趣味に走っており、地政学とオカルト絡めての霊的国防なるものを説いていると言われます。
 帝都改造計画の場でも、賀茂と霊的な国防やら、日本の古来よりの陰陽道、その他の魔術、オカルトについて論じたこともあると教えられます。
 北一輝に師事しており、今でも北の元へと通っており彼から霊告を受けていると漏らしたことがあると聞けます。
 そして、取り憑かれたと言えば、賀茂保之ももちろん怪しい人物であるとも言えます。
 とは言え、言うなれば血統書付きの本物の陰陽師であり、この大正の御世に生き残る骨董品のような男だ、と評されます。何かオカルト的な問題があれば、相談してみればよいのではないか、よければ紹介すると言われます。

キーパーへ:
 この篠原からシャンを駆除する流れは、本来のクトゥルフ神話TRPGらしくない展開となります。
 シナリオの雰囲気、キーパーの趣味、判断で単に「篠原が怪しい」程度に留めることも検討してください。

賀茂保之を紹介される

 賀茂は帝都にある土御門の道場に滞在しています。
 紹介状を示して来意を告げれば、問題なく賀茂に引き合わされます(賀茂自身は実はかなり暇を持て余しています。本業はすでに無く、根拠地である京都を離れている為、大半の業務をすることも出来ず、そして帝都の仮住まいという肩身の狭い想いもしているのです)。

 包み隠さずに賀茂に事情を告げた場合、彼は難しい顔をして何かを考えた後、しばらく待つように探索者に告げて屋敷の奥へ消えていきます。
 その後、彼は和紙に包んだ、丸薬のようなものを探索者に渡して語ります。
「これは、憑き物を落とす丸薬です。
 まあ、言ってみれば霊的な腹下しのようなものだと思ってもらってよいでしょう。貴方のその心当たりのある人物にこれを飲ませてください。
 憑き物に憑かれているのであれば、必ずそれを落としましょう」
 妙に自信に満ちた目で賀茂は探索者を見詰め、可能であれば結果を教えて欲しいと告げます。
 彼が陰陽道の達人であることは自他共に認めていますが、実際のオカルト的な事象に遭遇したことは一度もなく、その知識、技術を振るう機会は今まで一切なかったのです。
 探索者の返答がどのようなものであれ、彼がその霊薬に絶対の自信を持っていることが分かります。

篠原からシャンを駆除する

 篠原は陸軍に所属しており、その行動は制約を受けて不自由なのですが、探索者が『帝都改造計画』か、あるいは『毛利家』などの名前を使って篠原をおびき出した場合は、彼は即座に反応して無理にでも言われるままに行動します。
 賀茂から貰った霊薬を篠原に飲ませるには、探索者が直接そう告げた場合は当然ですが相当な抵抗をします。
《言いくるめ》を使って彼を上手く丸め込んで飲ませるか、あるいは《組み付き》を使って無理やり飲ませることになります。
 上手く探索者が霊薬を飲ませることに成功した場合、以下の描写を行なってください。

 篠原に霊薬を飲み込ませると、彼はぐっと目を剥き、身体を仰け反らせた。
 喉が詰り、呼吸が止まるような、えずくような声を二度、三度と繰り返した後、今後は嘔吐するときのように身体が縮まったかと思うと、激しい嘔吐とともに生白い塊が吐き出された。それともその頭からまるで無理やりにでも引きずり出されたかのようにも見えた。
 その塊は鳩ぐらいの大きさの昆虫に似た生物に思えた。目蓋の無い憎悪を湛えた目、三つもある口、触手が生えた十本の脚、三角の鱗粉に覆われた半円形の畝のある翅を備えており、地球上のどの昆虫にも似ていなかった。
 そいつの全身をイノシシの毛のような剛毛か、あるいは針のようなものに貫かれており、篠原から吐き出されたときにはまるで死に掛けの昆虫のように手足を痙攣させていた。
 縮こまり、ひっくり返った後も細かく痙攣を繰りしたが、次第に動きがゆっくりと弱々しくなり、動かなくなると、そいつは溶け始め、ついには痕跡無く消えてしまった。

 このシャンの恐ろしい最期を目撃した場合、1/1D6+1の正気度を喪失します。
 シャンを吐き出した篠原はしばらく気絶したかのようにぐったいしていますが、《応急手当》、《医学》を使うか、しばらく経てば自動的に意識を取り戻します。
 篠原はしばらくは頭を振ったり、叩いたりして何がどうなっているのか、確認しています。そして、探索者に対して「本当に、自分の頭から例の虫が去ったのか?」と聞きます。
 探索者が肯定すれば、彼は深い嘆息の後に、深々と頭を下げます。
「自分の頭に、蟲が巣食っているのは分かっていのだ。
 だが、どうすることもできなかった。最初は違和感のようなものがあったのだが、そのうちにそれも無くなり、蟲と自分が一体化したような気がしていたのだ」
 自分を取り戻した篠原は、探索者の質問に対して素直に答えますが、彼自身はあまり事件についての情報は持っていません(篠原自身は事件の被害者であり、単にシャンに乗っ取られていたのです)。
 探索者の質問に答えるか、あるいは篠原は自ら以下のように語ります。

帝都改造計画について:
「自分は陸軍の参謀副官工藤中佐殿の補佐に過ぎない。
 あの(オカルト)知識は、自身ものなのか、あの蟲のものなのかは今となっては判然としないのだ。
 あの蟲は、自分に帝都改造計画で自分達に住みよい都市を作ろうとしていた。それは、何故か毛利元子の提案する都市と似ていたような気がする」

シャンの記憶について:
「分からない。それについては今でも記憶が混沌としているのだ。
 奴らは元々、太陽を二つ持つ星に住んでいた記憶がある。その星は何かの理由に崩壊し、蟲共は奴らが神殿と呼ぶもので宇宙を放浪しているのだ。
 奴ら、蟲共は語るのもおぞましいような神を信仰している。それが、その神殿の中で行なわれているのだ。
 …音楽だ。奴らは、蟲共は音楽を信仰している、いや、音楽で信仰している、のか。
 音楽が奴らの信仰であり、信仰対象であり、そして音楽そのものが神なのだ」

吉川春子について:
「吉川春子、あれは恐ろしい女だ。あれが、私の頭の中にあの蟲を住まわせたのだ。
 世間ではあれがただの派手好きな、羽目を外しがちな華族の奥方のように思われているが、あれの家、吉川の家はあの蟲共の巣窟になっている。
 そして、奴らの信仰である音楽を作り出す為に、何か恐ろしい装置を作っていた。
 ああ、そうだ、自分は直接関わっていた訳ではないが、いろいろと便宜を図ってやった。あれの工房のようなものが小石川の砲兵工廠にあったのもそのせいだ」

『春子の遺産』について:
「あの女にも、おそらく自分の頭に巣食っていたのと同じ奴がいるのだろう。
 そいつは、あまり用心深いとは言えない。いや、自身を過信し過ぎ、傲慢だったというべきか。
 姉の毛利元子だけは警戒していたが、その他には全く気を付けていなかった。
 君達が『春子の遺産』と呼ぶものは、おそらく毛利家の楽器工房にあるだろう。
 あそこは毛利家の人間が誰しも平等に扱われる場所であり、毛利家の秘密を守るにも最適だ。それに、毛利元子も自分の工房にそんなものが隠されているとは思ってもいないだろう。灯台下暗しと言う奴だ」

キーパーへ:
 篠原に憑いていたシャンは、この内容を隆子には伝えていません。
 憑いていたシャンにとってこの内容は生命線であり、隆子に伝えたが最後、消される可能性もある為に、安全が保証されるまでは黙っていたのです。

スレッドの終了後

 この後、篠原は文字通り憑き物が落ちた為に、北一輝の下へ通うことも止め、しばらくは帝都での接触を極力絶つ為に、転属を申し出て震災後は満州へと渡っていきます。
『帝都改造計画』でも極力、オカルト的な言説は避けて、工藤の補佐に徹します。
 関係者からは、「何か憑き物が落ちたように現実的な人になった。まあ、前のような面白い話を聞けなくなったのが残念だが」と評されます。