スレッドM 異界の音楽、雪子
このスレッドは、桜嶺女学院内において安藤雪子と小早川隆子とその『夢見草の会』の面々との交流がメインとなります。
桜嶺女学院内で暇を持て余している雪子は、前々から誘いのあった小早川隆子の『夢見草の会』に参加することとなります。
そこで雪子は、隆子から非常に美しい音色を奏でるフルートを授かります。
そのフルートは、黒澄綾が「外なる神の従者」のフルートを模して作ったもので、本来は異界の音楽を奏でる為のものでした。このフルートを吹く雪子は、次第にその音色に魅了され、そして「外なる神の従者」の音楽である「先触れの音楽」を吹くようになります。
この音楽は、「外なる神の従者」の興味を引き、ついには従者を直接召喚してしまいます。
小早川隆子は、綾から手に入れたフルートを雪子に与え、その成果を見届けることを目的としています。
『夢見草の会』の面々はただ隆子の言うことに従っているだけですが、傍から見れば『夢見草の会』の面々が雪子を邪悪な音楽に誘導しているように見えるでしょう。
彼女らには邪気が無いことを強調することを忘れないようにしてください。
- アーティファクト:異界のフルート
- このスレッドでの登場人物(NPC)
- フルートの音色、誘い(スレッドの起動部)
- 雪子と『夢見草の会』の面々
- 異界のフルートを調べる
- 異界の音楽、雪子と従者の二重奏
- 雪子の苦悩
- 音楽の天使、雪子と綾の二重奏
- 異界のフルート、先触れの音楽
- スレッドの終了後
アーティファクト:異界のフルート
このフルートは黒澄綾が『完全な音楽』の実験の為に作り出した、外なる神の従者のフルートを模したものであり、シャンの神殿で奏でる為の楽器の一つです。
本来であれば異界の存在が異界の音楽を奏でる為の道具であるのですが、人が奏でるために調整された楽器でもある為、このフルートの秘密を知る者は、MPを1D10点消費し、POW×5のロールに成功すると、《芸術:フルート演奏》に+40%後、×2%の効果を与えます。
つまり、全くの素人であっても、《芸術:フルート演奏》が80%で成功可能となります!それはまるで、フルートに誘導されるように、操られるように吹く姿となります。
このフルートは、元の《芸術:フルート演奏》が80%を越える場合のみ、外なる神の従者が奏でる音楽である『先触れの音楽』を吹くことができ、呪文『外なる神の従者との接触』『外なる神の従者の召喚』、さらに『アザトースの招来』と同じ効果をあらゆる制限を無視して得ることができます。
呪文のコストは通常通り支払う必要があり、招来の成功確率も通常通りですが、《幸運》か、キーパーの判断により、「外なる神の従者」の音楽と同一の音楽を奏でたことにより従者の仕える外なる神が誘導され、自動的に1D3+1ラウンド後に召喚されることにしてもよいでしょう。
黒澄綾はこの楽器はあくまで実験の為に自らで何度か試した後、放置しています(アザトースが招来される危険性や、従者、トルネンブラの注意を引くことを恐れているのです)。
隆子は、綾の実験を補完し、神殿で奏でられる音楽に相応しい奏者を探すか、危険の無い演奏法を探る為に、雪子にこのフルートを与えています。
このスレッドでの登場人物(NPC)
このスレッドの登場人物を紹介します。
別のスレッドにも登場する可能性も皆無ではありませんが、本スレッド以外では大きくシナリオに関わらない為、ここでの紹介とします。
竹中重子(たけなか・しげこ)、雪子のルームメイト
桜嶺女学院の生徒で、安藤雪子と寮で同室です。
雪子との関係は濃厚とは行きませんが、良好な関係を気付いており、同学年という気安さも手伝って、雪子の日常を把握しています(女学校によっては上級生と下級生を同室にさせるという方針の場合もあるようですが、リベラルな雰囲気の強い桜嶺女学院では同年代が相部屋になることがほとんどです)。
前回までのシナリオから、女学生探索者と雪子の関係を知っているとともに、何かと事件に巻き込まれやすい雪子を、女学生探索者が助けていることも知っている為、雪子に問題があれば女学生探索者を頼るようにしています。
夏休みに入っても雪子が実家に帰ろうとせず『夢見草の会』の面々との関係が出来たことにより、実家に帰るのを遅らせて雪子の様子を観察しています。
STR 10 CON 11 SIZ 12
INT 13 POW 12 DEX 9
APP 11 EDU 11 SAN 60
耐久力 12 ダメージボーナス +0
技能:図書館60%、説得50%、信用60%、博物学70%、数学60%、剣道50%、自転車30%
『夢見草の会』の面々、音楽同好会のお嬢様方
小早川隆子の組織する音楽同好会です。音楽を演奏することが目的ですが、女学生らしいちょっとした秘密の集りの側面も持っている会です。
『夢見草の会』のメンバーはシャンに憑依されている訳ではないですが、家格も上で、カリスマもあり、頭も良く、組織を動かすことに慣れた隆子の言いなりです(とは言っても、会の方針や、演奏する曲目を決める程度の話ですが)。
特に差別的な集まりではないのですが、裕福な華族の娘達の集まりであり、学園でとても目立つ小幡とらの声楽部、主流派から敢えて外れている隆子に属しているという妙な自負がある為、一般の生徒からは微妙な距離が取られています。
会長である隆子はバイオリンを主に弾きますが、『夢見草の会』は大体において吹奏楽の構成をしています。
キーパーは個々のメンバーを動かすのが面倒な時は『夢見草の会の面々』として一まとめにして動かし、個人の名前はあまり出していかなくとも良いでしょう。スレッドに登場する際は全員か、1人としておけばある程度運用も楽になります。
『夢見草の会』のメンバーは以下の通りです。なお、詳細なデータが必要な場合は、キーパーで用意してください。
・平岡頼子(ひらおか・よりこ)
トランペットの担当です。会のサブリーダー的な役割で、メンバーの中でも最も家格の高い家柄のお嬢様です。
隆子不在時には『夢見草の会』の指揮を取っていますが、良くも悪くもリーダーシップは皆無であり、「あらあら」「まあまあ」となんとなく問題を先送りにしてその場を収めた後、隆子に任せるというスタイルになっています。
しかし、『夢見草の会』の全員が基本的に華族階級での家格を重んじている為に、それによってなんとなくではありますが上手くまとまっていることも確かです。
・松野重(まつの・しげ)
ユーフォニウムの担当です。儚げな印象を与えるお嬢様で、非常に無口です。必要があれば小声で、相手に耳打ちするように話します。
この為に、基本的に仲が良い相手でないと、二人きりになることを避け、誰かを介して話すような場面が見られます。
雪子もほぼ初対面ではありますが、なんとなく同じような空気を感じ取っているのか、雪子には微妙に距離が近く、積極的に仲良くなろうとしています。
・滝川辰(たきがわ・たつ)
クラリネットの担当です。女学生には珍しい、本気で勉学に励んでいるお嬢様です。常に強い意見を発するのですが、会のメンバーからはあまり本気に取られていません。
決して軽んじられている訳ではないのですが、何かと報われないお嬢様です。
・長崎元(ながさき・はじめ)
サキソフォンの担当です。派手好きで目立つのが好きなのですが、それ以上に隆子の前で格好を付けたいと思っており、何かにつけて会の中で問題を起こしています。
会の中では積極的に滝川辰をからかっており、衝突している場面が見られますが、メンバー内ではすでに恒例行事的なものとなっており、あまり気にされていません。
・堀田吉(ほった・よし)
コントラバス、シロフォン(木琴)あるいは、グロッケン(鉄琴)、その他の打楽器の担当です。目立つことは無いのですが、会の準備や予定の調整など、お嬢様ばかりの会の中で実務能力に長けており、こっそりと隆子から頼られる場面も多く見られます。
楽器に関しても地味なものを様々に器用にこなし、こちらでも調整役のような状態です。
地味な仕事が好きなこともあり、会の縁の下の力持ち的な存在です。会の外でも平岡頼子とは腐れ縁の関係であり、お嬢様として何も出来ない彼女のフォローに回る場面が多く見られます。
フルートの音色、誘い(スレッドの起動部)
女学生探索者が雪子を放課後に訪ねた場合に、このスレッドは起動します。
前回、『帝都狂想曲』で多少のショックを受けているものの、雪子は元気な様子ですが、相変わらずオペラ座館の方は閉鎖中、声楽部は辞めており、特にこれと言ってやることが無い為に悪い意味で暇を持て余しています。
雪子は、オペラ座館が近々、休館から閉館になるかもしれない、と女学生探索者に告げます。なんでも、スポンサーの一人が帝都を離れて大陸の方に行くとか行かないとかで、資金繰りに問題が出てきたらしいと言います。
オペラのブームも去り、浅草は活動写真の全盛期となりつつあります。この為、オペラ座館もかなり苦戦しているようです。
雪子と他愛のない会話をしていると、どこからともなく美しいフルートの音色が聞こえてきます。
今日は声楽部の練習もなく、これだけ見事なフルートを吹ける生徒は桜嶺女学院の中には雪子以外にいないはずですが、その調べは技術的には時に危うい印象を与えるものの、雪子のそれを凌駕しています。
女学生探索者は、《アイデア》か、POW×5のロールに成功すると、このフルートの音色が黒澄綾が奏でる音楽に似ている印象を受けるとともに、もしも彼女が奏でた場合はこのような普通の音楽ではない、ということにも気が付きます。
この音楽に愕然とした表情を浮かべた雪子は、ふらふらと誘われるようにその音のする方へと歩んでいきます。
そのフルートの音色は、音楽室ではなく4年生の教室から聞こえてきます。
女学生探索者は特にロールの必要なく、小早川隆子が組織する音楽同好会『夢見草の会』が、主に4年生の教室で、声楽部の練習のないときに行なわれることに気が付きます。
雪子は4年生の教室の前まで歩いていき、引き戸に手を掛けたまま戸惑った表情をしています。
しばらく迷った後、思い切った様子で雪子は戸を引きます。
教室の中には、予想通り『夢見草の会』の面々が揃っており、今日は会長である小早川隆子も参加しています。
通常、隆子はバイオリンを弾くのですが、今日は何故かフルートを手にしており、今まで聞こえてきたフルートは隆子が吹いることが分かります。
雪子が姿を現すと、隆子は驚いた様子でフルートから口を離し、演奏を中止します。ここで《心理学》に成功すると、隆子があまりにもわざとらしく驚いたことに気が付きます。
隆子は彼女にしては珍しく表情をあらわに嬉しそうにして、「やあ、『夢見草の会』へようこそ。参加してくれる気になりましたか?」と訊ねます。
雪子の目は、フルートに釘付けになっていますが、この言葉に慌てて首を横に振ります。
「あら、残念。まあ、前にも言いましたけれど、急がなくてもよいですわ。
でも、せっかく来てくださったのですもの。この私のフルートで演奏してみてはいかが?」
この隆子の言葉に、『夢見草の会』の面々は、口々にフルートについて声を上げます。
「隆子様、そのフルートは、音楽室から持ってきたものではなくて?」
「あらいやだ。うちの音楽室にはそんな立派なフルートはありませんわ。会の誰かが持ってきたものではないの?」
「元々、私達の楽器置き場にあったものだった気がするけれど」
「まあ、こんな立派なものが?」
「私達、誰もフルートを吹けなくてよ」
「やだわ、先ほど隆子様がお上手に吹いていらしたじゃない」
姦しい雰囲気を吹き飛ばすように、隆子が手を叩きます。
「ふむ。私もあまりフルートの演奏は上手くないけれど、これはとても良いもので、私が吹いてもあれだけの音が出るの。
雪子様が吹けば、それはそれはとてもよい音楽が奏でられるのではないかしら?」
半ば威圧するように、雪子を隆子が見ます。
この挑発的なもの言いに、雪子は身を硬くしますがフルートの魅力に抗えずに、隆子から受け取ってしまいます。
「ありがとう、雪子さん。
さあ、では、1曲、演奏しましょう!」
『夢見草の会』の面々と、バイオリンを取り上げた隆子、そして雪子による演奏が始まります。
最初、雪子の演奏には硬いものがあったのですが、徐々に慣れていくとともに、どこか息苦しそうだったフルートの演奏も柔らかく、以前の演奏を越える音色を響かせ始めます。
この音楽は普通の楽曲なのですが、雪子のフルートの演奏は何故か女学生探索者を不安な気持ちにさせ、0/1の正気度を失います(この音楽の影響で正気度を減らしているのはこの場では女学生探索者のみで、雪子は演奏と、フルートの音色に夢中、『夢見草の会』の面々は全く気にしていません。『天球音楽』を知る探索者だからこそ不安になるのです)。
《アイデア》か、《芸術:(音楽に関連するもの)》に成功すると、雪子の吹くフルートの音色が前に彼女が演奏した『大地返歌』ではなく、黒澄綾が奏でた『天球賛歌』を思わせることに気が付きます。
曲が終わると、惜しみない拍手と賛辞が隆子と『夢見草の会』の面々から雪子に注がれます。
雪子はどこか上気した様子でこの遠慮ない賞賛を受け、深々と頭を下げます。
「とても、とてもよかったわ、雪子さん。
よろしければ、そのフルート、差し上げます。私達にはフルートを吹くことは難しくて」
この言葉に雪子は躊躇しますが、重ねて隆子が言いながら、フルートを持った雪子に手を重ねます。
「良い楽器は、それに相応しい奏者が持つべきです。
貴方こそ、相応しいのよ」
雪子は半ば押し切られる形で、隆子からそのフルートを押し付けられます。
『夢見草の会』の演奏はまだ続きますが、演奏後に疲れた様子を見せる雪子は、小さな声で「申し訳ありませんけれど、これで失礼します」と半ば逃げるように教室を出て行きます。
教室を出た雪子は、女学生探索者にも「ごめんなさい、お姉さま。何故かひどく疲れてしまって…」と言い、寄宿舎に帰ることを告げます。
雪子と『夢見草の会』の面々
寄宿舎に残っている雪子を、『夢見草の会』の面々が代わるがわる演奏に誘ってきます。
雪子自身もフルートの演奏に飢えていたこともあり、暇でもあり、そして上級生からの誘いであることもあって、断ることもありません。
夏季休暇中、声楽部の方は小幡とらが「自主練を中心に」と宣言して自身も軽井沢辺りに逃げたこともあり、学校まで出てきて練習している女生徒はほとんど(と言うよりも全く)居ません。この為、上級生の教室でも、音楽室でも好きな場所で彼女らは演奏をすることができます。
女学生探索者が雪子を頻繁に訪ねている場合は、特にロールの必要はありませんが、そうでない場合は、《幸運》のロールに成功すると、この場面に出くわすことになります。
(初回は必ず出くわし、『夢見草の会』の面々が雪子を狙っている、というような雰囲気を出すとよいでしょう)
彼女らは皆名家、とまでは行きませんが、華族であり、それなりの資産家であり、親同士の交流、関係がある仲で、幼い頃から上流階級の付き合いをしている関係です。
この為、雪子とはあまり音楽以外では関わらない、関われない間柄です(まあ、メンバーの中には気さくな女生徒も居るのですが、雪子の音楽の才能を認めてそれを伸ばして上げたいという、いかにも華族のパトロンらしい発想が勝っているのです)。
キーパーの判断、設定したシナリオ内の期間によりますが、『夢見草の会』の面々の誘いに雪子が一度乗る度に、このスレッドの終了部において、『先触れの音楽』の演奏を成功する可能性が+10%されます。
キーパーは探索者が気にしていない場合も含めて、これを記録しておいてください(探索者が全く気にしない場合、自動的に雪子は全ての誘いに乗り、綾の指導も受けることになります)。
『夢見草の会』の面々は、ただ隆子から「雪子を演奏に誘って欲しい」とだけ言われているだけです。
その意図も別に邪悪なものがあるとは全く思っておらず、雪子の才能と、そして隆子が例のフルートを渡したことからも、ただ『夢見草の会』として演奏に加わって欲しいだけだと思っています。
この為、『夢見草の会』の面々にその意図を尋ねたり、問い詰めたりしても何も出てきません。ただ、彼女らは純粋に雪子のフルートが素晴らしいものであり、是非とも演奏を共にしたいと思っているだけです(キーパーの趣味で、いかにも女学生、少女趣味らしい、妹が欲しい願望を持っているとしても面白いでしょう)。
《心理学》等でも、特に彼女らに嘘は無いことは分かります。
雪子自身も例のフルートの音色に魅了され、暇があればフルートを吹いてしまう状態となっています。この為、彼女の意識をフルート以外に振り向ける為には、女学生探索者が自身の時間を割く必要があります(もちろん、他の探索者や、NPCに協力を仰ぐのも問題ありません)。
女学生探索者が雪子に『夢見草の会』に加わらないように強いる場合は、《説得》に成功したうえで、女学生探索者自身が雪子を連れまわして暇ではない状態にする必要があります。
異界のフルートを調べる
雪子の持つフルートについて、探索者がその由来を調べようとした場合、以下のような手掛かりが得られます。
フルートを調べるには雪子から借りる必要があります(雪子の前でちょっと手に取る程度であれば、女学生探索者ならば許されます)。
借りられる期間は半日程度が限界であり、それ以上になる場合は基本的に断られるか、事情を聞いたうえで彼女が同行、持っていくような事態となります。
また、探索者の判断によっては強奪、盗むなどの手段に出る可能性も皆無ではないと思われますが、キーパーとしてはあまりお勧めできないと伝えてください。
フルートの外観は、専門知識(《芸術:フルート》等)が無い場合、取り立てて変わったところは無いものの、金と銀で出来ているように見え、非常に高価そうな印象を与えます。
また、大量生産品ではなく、一点ものであることは明白で、女学生探索者ならばおそらく毛利家の楽器工房で作られたものである可能性が高いことに気が付きます。
専門知識がある場合は、特にロールの必要は無くこのフルートが非常に高価な材質、おそらく純金、純銀に近い材質で作られたもので、演奏には高度なテクニックが要求されることが分かります。
《芸術:フルート》、あるいは何らかの楽器に関わる《製作》に成功した場合、さらにこのフルートが恐ろしく繊細な調整がされており、その材質と合間ってプロの奏者でも演奏が難しいことに気が付きます。
この為、女学生探索者は前に小早川隆子が『夢見草の会』でこのフルートをまともに演奏できたことがおかしいことに気が付きます。
フルートの材質等を調べるには、《化学》を必要としますが傷を付けたり薬品を試すわけにも行かない為、事前に「見て分かる範囲で」と探索者には伝えてください。
成功した場合、このフルートが見た目どおり、純金に近い合金と、純銀に近い合金で出来ていることが分かりますが、ところどころにただの合金では説明がつかないような不可思議な文様が浮かんでおり、これが敢えて加工したものなのか、合金がそういう紋様を作り出しているのかは判断が出来ません。しかし、この紋様は自然界には存在しないものであり、普通の技術では製作できるものではないことに気が付きます。
失敗した場合でも、このフルートがおそらく外観通りの純金、純銀に近い合金で作られていることは分かります。
フルートを探索者が演奏した場合、まずPOW×5のロールを行なってください。
成功した場合、以下の描写を行なってください(この時点では正気度は喪失しません)。
虚空から導くようなフルートの音が聞こえてくる。
それは遠くに聞こえていた時は夢見るようなうっとりとする音色であったが、近づけば近づくほど、大きくなればなるほどに、いやらしく、卑俗な演奏でありながら、耳を塞ぐことが出来ないものになるのだった。
その音色に囚われ、絡みつく音の中に、何かが囁く声が聞こえる。その声に操られるようにフルートの演奏は独りでに行なわれ、自身の意思を離れて、遠くから聞こえる音楽と同調していく。
フルートを演奏しているのは、誰なのか?
演奏者は1D10のMPを喪失し、フルートの効果により、+40の後、×2の成功率で《芸術:フルート》のロールを行ないます。こちらにも成功した場合は、雪子には及びませんが小早川隆子と同じレベルの演奏が出来ます。
さらにPOW×1のロールに失敗した場合、演奏者は演奏を止めることが出来なくなり、操り人形のようにフルートの演奏を続けてしまいます。この状態に陥った探索者は、1/1D4の正気度を喪失します。
最初のPOW×5のロールに失敗した場合、全くフルートを演奏できなかったことになります。
異界の音楽、雪子と従者の二重奏
この場面は、『夢見草の会』の面々との接触が2回以上になった場合に発生します。
夜、人が無いことを確かめた雪子が、寮の外に出てきます。
そのまま彼女は例のフルートを手に寮の裏手を通って、礼拝堂へ忍び込んでいきます。
(このことは、同室の重子辺りを使って、女学生探索者に注進に及ぶのが良いでしょう。あるいは、雪子の行動を心配している女学生探索者が重子に見張りを頼むようにしておくのも)
礼拝堂の中には誰も居ませんが、彼女がフルートを奏で始めるとどこからともなく、それに応えてフルートの音色が聞こえ始めます。
もしも、探索者自身がフルートを演奏したことがある場合は、その音色が演奏中に聞こえてきた虚空からの音楽であることに気が付きます。
雪子がフルートを吹くことによって、『外なる神の従者との接触』の呪文の効果が発生し、外なる神の従者との接触が行なわれ、彼女の望みであるフルート演奏の指導が行なわれているのです。
以下の描写を行なってください。
静まり返った桜嶺女学院の礼拝堂の中は、細い窓から漏れる月明かりのみが照らしている。
薄暗闇の中、おもむろにフルートを取り上げた雪子が演奏を始めると、どこからともなくその音色に応えるように別のフルートの音が聞こえ始める。
それは礼拝堂の中から響いているというのに、反響するのではなく礼拝堂から拡散しており、月明かりの無い暗闇の虚空から響いているように思える。
雪子のフルートの音色がその音色と交錯し、フルートの二重奏になった。
それはこの世のものとは思えないほど美しい本物の音楽であると同時に、感情に任せた俗悪で、低劣な印象を与えるものだった。
この二重奏を聞いた場合、1/1D4+1の正気度を喪失します。この音楽によって狂気に陥った場合に、「狂人の洞察」に成功するか、キーパーの判断において、この音楽は「天球賛歌事件」において奏でられた黒澄綾の音楽の再現に近いものであるというよりも、むしろより原形に近いものであることに気が付きます。そして、この演奏が元は口笛であることに気が付きます。
この音楽は「グロス」の口笛によるものであり、雪子のそれはフルートに正しく直したもの、黒澄綾は歌とピアノで再現していたのです。
この演奏を止めない場合、演奏を続けた雪子はMPを失うことで気絶して倒れますが、しばらく経つと自分で起き上がってふらふらと宿舎へと帰っていきます。
止めた場合は、現われた探索者に雪子は驚きますが素直に言うことを聞いて、演奏を中断します。
雪子に虚空から聞こえたフルートの音色について訪ねた場合、彼女はそれが礼拝堂の空間で起こった反響のようなものであると理解しており、決して虚空から独りでに聞こえたものではないと応えます。
また、奏でた音楽については、フルートを吹いているときに湧く霊感に任せた音楽だと言います。しかし、まだ完成したものではなく、今でも作曲の最中だと告げます。
雪子の苦悩
この場面は、『夢見草の会』の面々との接触が3回以上になった場合に行なってください。
女学生探索者が雪子に会いに行くと、彼女は明らかに何かに悩んでおり、精神的に疲労しているのが分かります(正気度が減少しているのではなく、常にフルートにMPを奉げている状態なのです)。
見た目は衰弱しているものの、フルート演奏を再開した彼女は充実した表情と、演奏することが楽しくて仕方ない、という雰囲気を醸し出しています。
雪子は、口数少なく、女学生探索者の言葉も上の空で、その指がそこに無いフルートを操っています。
女学生探索者がこのことを訪ねれば、彼女は以下のように悩み(?)を打ち明けます。
「今、あのフルートを演奏することが楽しくて仕方ないのです。
演奏しているだけで何か霊感のようなものが湧いてきて…。私にも、音楽の守護天使が舞い降りてきた、ということでしょうか。
でも、まだ曲は出来ていません。私のフルートの技術ではまだ演奏できないのです。
初めてフルートを上手く演奏できたときのような、先々までまだ見えていないのだけれど、確実に進んでいる。
ただ、あのフルートを演奏している時は自分が自分でないような、そんな気もしていて、少し怖いのです」
雪子は女学生探索者がフルート演奏を止めることを勧めても、聞き入れることはありません。強い言葉で止めた場合、一旦は止めると言いますが、この場合は隠れて演奏の練習を続けます。
この後、竹中重子が女学生探索者を訪ねてきます。
彼女は同室の雪子の様子が尋常ではない、と女学生探索者に告げます。ただ、彼女から見るとフルートに打ち込む雪子は元々尋常ではない為、定期的に繰り返されるそういう時期が来たのかもしれない、と言います。
重子は、雪子の御姉様にも彼女を見守って欲しいとお願いします。
音楽の天使、雪子と綾の二重奏
苦悩する雪子の前に、「音楽の天使」が現れます。隆子から話を聞いて興味を持った綾が、雪子に会いに来たのです。
綾は微かなフルートの音色で持って寄宿舎に居る雪子を、夜の練習場所にしている礼拝堂へと誘い出します。
礼拝堂の闇に溶け込むように黒い衣装をまとった綾が、闇から囁くように雪子へと話しかけます。
「そのフルートは、相当な技術がなければ奏でることは叶いません。
不完全とは言え、彼方の天球への返答を示した貴方の音楽にも興味があります。しかし、その前に」
綾は、的確に雪子のフルート演奏の問題点を解決し、良い点を強化する指導を行ないます。僅かな時間で雪子のフルートの音色は見違えるようになり、雪子が悩んでいた点もあっさりと克服させてしまいます。
この素晴らしい生徒である雪子に気をよくした綾は、自身も持っていたフルートを取り上げて、彼女と二重奏を始めます。
二重に歌うように響くフルートの音色は、夜空の月光の如く軽やかに空間を踊り、彩り、聞く者を魅了する。
しかし、どこかで何かが、この音楽は異常であると警告を発している。
世界に音が降り積もり、満たされ、本来は聞こえないはずの音が、声無きもの達の声が歓喜しているのを聞くような気がした。
このフルートの二重奏を聞いた場合、1/1D4+1の正気度を喪失するとともに、雪子のPOW11との対抗ロールに失敗するとこの音色に魅了されてしまい、演奏が終わるまで音楽を聞く以外の行動を取ることができなくなります。
同時に、『大地返歌事件』において雪子の『大地返歌』を聞いている場合、POW×5のロールに失敗するとその時の白昼夢の記憶と恐怖がフラッシュバックして恐怖の為に行動を取ることができなくなります。
探索者が演奏を止めない場合、二重奏が終了すると綾は満足げに頷き、雪子に囁きかけます。
「この礼拝堂は、前にあの装置があった場所でもあるのですが、貴方の音楽によって特異な場を形成しつつあります。
それはこの女学院で長年に渡って歌われる場であったことも無関係ではありません。
ここは、貴方の音楽に相応しく育ちつつあり、貴方の音楽の為の場に成るでしょう」
雪子には理解できないことですが、そう綾は告げると綾は闇夜に紛れていきます。
そして、雪子も同じく満足げな表情のまましばらくフルートを手に佇んだまま名残惜しげに綾の去った方向を見つめてから、寄宿舎へ引き返していきます。
止めに入った場合は、探索者の行動、態度に関わらず綾は即座に撤退を開始し、「雪子さん、貴方はとても良いです。貴方は、貴方の音楽が奏でられるかもしれません」と雪子に残して闇夜に紛れていきます。
キーパーへ:
綾はこのフルートの二重奏によって、雪子からフルートの成果を得るとともに、彼女が奏でた『大地返歌』の情報を得ています。
同時に、雪子は綾から異界の音楽に対する霊感、そして『天球音楽』と『先触れの音楽』の情報を得ることになります。
二重奏が終わりまで奏でられた場合、スレッドの終了部において雪子の先触れの音楽が成功する可能性が+20%され、終幕部において綾の『完全な音楽』を奏でる可能性が上昇します。
異界のフルート、先触れの音楽
この場面は、雪子と『夢見草の会』の面々との接触が3回以下である場合は発生しないことにして構いません。
その場合は、雪子は例のフルートを隆子に返して、『夢見草の会』には入らないことを告げた後、実家のある岐阜へ帰省します。
綾との二重奏の後、女学生探索者等が雪子を待ち伏せするなどした場合に行なうか、あるいは明らかに雪子の様子がおかしい、夜の演奏の様子を見て欲しいと重子から頼むなどして発生させるとよいでしょう。
最早習慣となりつつある夜の練習の為に、雪子は礼拝堂を訪れます。
月も朧に、暗闇にかろうじて雪子の影が見える程度の明るさの中、彼女はおもむろにフルートを取り上げて、演奏を始めます。
それはいつもの演奏とは似ているにも関わらず、静かに抑えた爆発を待つようなものです。
探索者はここで、またもや雪子の演奏を止めるかどうかの選択を迫られます。
もしも探索者が姿を現しても、雪子は少しだけ驚いた様子を見せますが、すぐに何事も無かったように演奏に戻ります。
雪子の演奏を止めなかった場合:
雪子を演奏するに任せた場合は、雪子はフルートを吹き続けます。
前にオペラ座館で聞いた雪子の音楽は、黒澄綾の『天球音楽』を思わせるものでありながら、元のオペラとしての場を盛り上げ情景を描写する音楽だったが、今、奏でられるそれは全く異なるものだった。
確かにそれは『天球音楽』に似たてはいたが、同様に異質であることを除けば、全く違う音楽だ。
綾のそれには激烈な音の奔流の中に憤怒、苦悶と言った情動が隠れていたが、雪子のそれは人間的な感情が全く排され、欠落しているにも関わらず、冒涜的な、いやらしい音色が見え隠れしていた。
抑えた演奏が激しくなるに従い、そのフルートの音色に合わせて、虚空から奇妙にねじれたフルートの音色が聞こえてくる。
雪子の演奏と虚空からの音色は合わせて高まって行き、ついには冒涜的な二重奏に発展した。
雪子と綾のそれは二人が楽しむ為のものであったのに対して、今、目の前で展開されているものは競い合うのを通り越して、お互いを潰しあい、食い合う、そんな音楽の叩きつけ合いだった。
この異形の冒涜的な二重奏が最大限にまで高まったところで、礼拝堂の暗闇の虚空から這い出るように『外なる神の従者』が姿を現します。
そいつはまるでヒキガエルや、両棲類の特徴を持っている印象を与えたが、多数の触手がうねり常に姿が変化し続けていた。
そのような絶えず変化する体を持っているにも関わらず、どうやっているのかそいつが手にしたフルートのような楽器と思われるものから、今まで聞こえていた冒涜的な音色が発されている。
『外なる神の従者』を目撃した場合、1/1D10の正気度を喪失します。
『外なる神の従者』はこの場に居る探索者を音楽の邪魔者と見なして、攻撃を開始します。
外なる神の従者、上級の奉仕種族
STR 18 CON 24 SIZ 16
INT 20 POW 19 DEX 15
耐久力 20 ダメージボーナス +1D6
武器:
触肢 45% ダメージ 2D6 ※1ラウンドに2D6回の攻撃する
装甲:
なし。 ※後述を参照。
呪文:
この従者は7個の呪文を知っていますが、今回は呪文は使いません。
本来、『外なる神の従者』は魔術的な手段以外で傷つくことはありませんが、雪子の演奏による特殊な場の効果によりあたかも生身であるかのような存在として形成されています。この為、この場においては通常の攻撃でダメージを与えることが出来ますが、貫通する武器では最低限のダメージしか与えられません。
(もしも、探索者が雪子を倒せば音楽が止まる、と判断した場合、雪子が倒れた時点で場が破れて、従者は通常通り魔術的な手段以外では傷を負わなくなります)
『外なる神の従者』は召喚されると同時に、神の到来を告げる音楽を奏で始めています。
探索者の前に、4面ダイスを示して最初は1の目にして置き、音楽の進行具合により出目が進行すると宣言してください。
演奏を続ける雪子と『外なる神の従者』は毎ラウンドの最後に、POWで対抗判定を行ないます。
雪子のPOWは11、従者のPOWは19である為、10%からスタートします。そして、これまでのこのスレッドの経過によって、この雪子の演奏に上方修正がなされます。キーパーは経過から来る修正値を加えてください。
雪子がこの判定に成功すればそのままですが、失敗した場合、従者の音楽が支配的になり、4面ダイスの目を一つ進めてください。
4面ダイスの目が4になった場合、従者の音楽が完成し先触れの音楽に従って神が到来しますが、この場で召喚されるのは『グロス』です。この為、かの存在自体がこの場に直接現われるのではなく、雪子がそのフルートによって形成した場によって例の如くその精神と同調し、『グロスとの接触』の効果を受けます。
グロスとの接触によって、その場に居る全員は1D8/1D50の正気度を失います。そして、今回はグロスが巨大な目を形成し、見開く映像が探索者に送られてきます。雪子の音楽がグロスに届き、その音楽に反応しているのです!
目を開いたグロスから、ブンブンと唸るような重低音や、深海で歌う鯨の声、緋色の不協和音といったかの存在の口笛が探索者に流れ込んできます。
追加で正気度を失うことはありませんが、この歌が止むまで探索者はまともな行動をすることはできません。
従者はグロスとの接触が成ったことに満足し、演奏を止めて勝手に帰っていきます。この1D4ラウンド後にグロスとの接触が絶たれ、礼拝堂には静寂が戻ってきます。
雪子は正気を失い、気絶しています。
従者の耐久力を0以下にした場合、従者は虚空に吸い込まれるように消えていき、いつの間にか雪子の音楽だけがその場を支配していることに気が付きます。
その音楽は、困難に打ち勝ち、異界の存在を退けた自信に満ちているとともに、先ほどまでのような非人間的な音楽から情感に溢れた、喜びに満ちた音楽へと変わっています。
この雪子の音楽を聞いた探索者は、1D3点の正気度が回復します。
音楽は静かに終わり、満足げな様子の雪子はゆっくりとフルートを下ろします。
「ありがとうございました。
私の音楽の守護天使はもう行ってしまいましたが、これが私の音楽です。
稲葉先生の音楽にも少しは近づけたかと思います」
雪子の演奏を止めた場合:
雪子を止めようとした場合、彼女は憑かれたようにこう言い放ちます。
「お願いです、演奏させてください。
この音楽が完成すれば、全く今までとは違う音楽を奏でることが出来る。
それはおそらく、あの人が言っていた私自身の音楽なのです!」
それも探索者が止めようとした場合、手段に合わせてロールをさせてください(各種のコミュニケーション系のロール、あるいは強硬手段としての戦闘系のロール)。
説得などのロールについては、彼女はすでに聞く耳持たない状態に近い為、-20〜-50%程度の下方修正を加えてください。ただし、女学生探索者が止めに入った場合は、雪子との関係性によっては上方修正を行なっても良いでしょう。
このロールに失敗した場合、雪子の音楽が完成するまでは時間が掛かる為、やはり探索者が強硬手段に切り替える可能性がありますが、ここでも「大地返歌事件」と同様、演奏を止めない場合に流してしまうのも手です。
雪子を止めた場合、彼女は抵抗する素振りも見せずに演奏を中断します。
「理解、して頂けないのですね。
あの人、私の音楽の守護天使だけが、私の音楽を知っているのでしょうか」
全てを諦めたように雪子は寂しく微笑むと、フルートを探索者に渡して大人しく寄宿舎へと帰っていきます。
スレッドの終了後
外なる神の従者の先触れの音楽を止められた場合、雪子はしばらくフルートを持つことも出来ない状態となりますが、自身の足で実家へと帰省します。
外なる神の従者の先触れの音楽を止められなかった場合、雪子は自身の音楽への恐怖と、「外なる神の従者」への恐怖、さらには「大地返歌事件」での恐怖が甦り、重度の音楽恐怖症となり、岐阜にある実家に引き取られていきます。
それ以前に雪子のフルートの演奏を妨害した場合でも、彼女は少々欲求不満の呈ではありますが、予定通り実家へと帰省します。
探索者が雪子のことを全く気に掛けていなかった場合、自動的に先触れの音楽を奏でた彼女は礼拝堂で狂気に陥っているところを発見されます。
その後、岐阜の実家へと引き取られることになります。
スレッドの結末如何によりますが、雪子は帰省先で関東大震災を知ることになります。
雪子を助けている場合、震災後に彼女は帝都へ戻ることを禁じられ、そのまま実家の留まることとなりますが、手紙で近況等を女学生探索者に伝えてきます。機会があれば、帝都に観光がてら出てくることも可能でしょう。
雪子を助けていない場合、彼女が実家からさらに山奥にあるサナトリウム(あるいはアサイラム)的な施設に収容された、ということを風聞で聞くこととなります。