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the Thing outside the Door
「扉の外にあるもの」


ワンショットCoCとは

 短いシナリオを、とフルサイズのシナリオから削ぎ落して、ワンショット、ワンシーンを意識したシナリオです。
 ちょっとした時間に行ったり、クトゥルフ神話TRPGの体験の為、あるいは探索者に外伝的なエピソードを持たせることを目的としています。

シナリオの構成

状況説明

 ワンショットCoCでは、フルサイズのシナリオにある導入部、及び探索への動機づけ部分を状況説明として省略します。
 PL向けにメタ情報を含め、今、探索者が置かれている状況について説明を行います(ハンドアウトなどがあってもよいでしょう)。

探索部

 探索を行う場面ですが、フルサイズのシナリオと異なり、ワンショット、ワンシーンを意識した探索の設計となっています。
 探索者はその場面内を移動することはできますが、場面の外へ行く必要が無い探索を検討し、その場面において、最大3回程度のロールを行う探索が目安です。
(もちろん、場面の外へ行くことも問題ありませんが、カメラが固定されたまま登場人物が画面外に消えて、また戻ってくるような場面運びを意識してください)。

終幕部

 探索の結果、導かれるシナリオの結末部です。
 フルサイズのシナリオと同じく、様々な展開が考えられますが、大規模な戦闘は避け、謎のタネ明かしや、場面からの退場などが行われます。

幕間

 いつもの正気度回復、その後を語る場面ですが、シナリオ自体が簡易、簡便、一発ネタとなるので、あまり正気度を回復させ過ぎないようにする必要があります。
 探索者には過去、ちょっとした神話的な事件、怪異を体験したという経歴が加わることになります。

ワンショットCoCシナリオ『扉の外にあるもの』

状況説明

 シナリオ中に登場する魔術師は特に設定は決めていません。好きなようにキーパーが詳細を決めてください。なお、シナリオの記述の便宜上、彼、兄、弟などと表現しますが、魔術師を女性とした場合、適宜読み替えてください。

 探索者達は、ある人物の部屋を訪れています。
 なんらかの事情(単純に何かの依頼や、事件に巻き込まれた等)で、この部屋に住む人物を調査することになり、その結果、その人物が実は双子であり、二人ともが魔術師であることが分かっています。
 その魔術師と対峙した探索者達ですが、部屋の中には件の人物は一人しかおらず、双子の片割れの姿は見えません。
「弟はどこだ?」
 探索者がそう聞くと、そいつから余裕のある表情が消え、恐怖の色を浮かべながら探索者の背後にある扉を見詰めます。
 その瞬間、扉の外から何か湿った重たいものを床に落とすような音が聞こえ、何かを引きずるような音が続きます。それは断続的に聞こえ、間違いなく、この部屋に近づいてきています。
 この音を聞いた魔術師の男は、恐怖のあまり表情が凍り付いただけでなく、心臓を押さえがらずるずると座っていた椅子から這いずり落ちていきます。

探索部

 探索者の人数によりますが、探索者が1、2人の場合は1人2回、3人以上の場合は1人1回の調査、何らかのロールを行った時点で、扉の前まで弟が来て、自動的に終幕部へと突入します。

魔術師自身を助ける

 彼は呼吸をするのも苦しそうな様子で心臓を押さえ、姿勢を変えることも出来ずに床に顔を預けたまま、恐怖に見開いた眼を扉に向けています。
 探索者が彼に近寄ると、「あれは、弟だ。弟が帰ってきた来たのだ」と呻くように告げます。
 話を聞くためには≪医学≫が必要です(キーパーの判断で≪応急手当≫でも)。成功した場合、彼はある程度、落ち着きを取り戻しますが、相変わらず苦しそうに臓を抑えたまま荒い呼吸を繰り返します。
 この部屋の中の探索で、一度だけ彼に話を聞くことが出来ますが、それ以上は苦しそうにするだけで答えることが出来なくなります。キーパーは、この状態を探索者達に教え、質問は一度ぐらいしかできそうにない、と告げてください。

部屋の中を調べる

 単純に、部屋の中に何があるのか確認した場合にこれらのことを告げてください。
 この場合は、特にロールは必要ありません。

・書き物机
・書き物机の後ろの窓
・部屋中央の実験に使う大きな机
・書棚
・外へと続く扉(音が聞こえる方)

 部屋に対して何かおかしなところはないか≪目星≫を行う、あるいは床を調べると具体的な指示があった場合(キーパーの判断で床でなくともよいでしょう)は、以下のことを告げてください。
 床の一部に不自然に新しくなっているか、あるいはよく掃除してある箇所が見つかります。
≪アイデア≫か、≪目星≫に成功した場合、それが明らかに人型であり、想像力をたくましくすればここで何らかの人が倒れる事象が発生したと考えられる、と告げてください。
 魔術師に確認した場合、コミュニケーション系のロールによって「弟は強欲だった。我々の研究成果の全てを要求し、独占しようとしたのだ。然るべき報いを向けるべきだったのだ」と恐怖に慄きながらも、弟を殺したことを迂遠に告げます。

書き物机

 重厚な年代物の書き物机で、それと対になる椅子に座っていた魔術師は心臓を抑えながら床で呻いています。
 机の背後には大きな窓があり、開け放てば外に出られそうです。

 書き物机の上には、古めかしい羽ペンにインク瓶、白紙が置かれており、魔術師の書きかけの研究論文や、実験のメモが散らばっています。これらの書類を見て、≪アイデア≫か、≪母国語≫によって、似たような字ですが二人の人物によって書かれていることに気が付きます(つまり、魔術師は弟の成果を我が物としているのです!)。
 引き出しの中には銀のナイフや、おそらく魔術に使う小道具の他、完成している分の原稿や、過去のものが収められています。
 これらの文書を読むには時間が掛かる為、シナリオ内でその内容を研究、把握することはできませんが、彼らが魔術と科学の研究を至極真面目に行っていたことが分かります。

 魔術師に尋ねた場合、これらは研究成果であると誇らしげに語りますが、探索者が弟のものではないか、と指摘した場合は、少なくとも半分は私の成果であると主張します。

窓

 窓に手をかけた場合、鍵が掛かっていないにも関わらず開くことが出来ず、観音開きの窓の中央に、何か奇妙な印を示した羊皮紙が張り付けてあることに気が付きます。
 窓を壊すなどして開けようとした場合、窓はまるで鋼鉄でできているかのようにその攻撃を弾き返します(素手で攻撃した場合、あまりにも固い物体を叩いた為、その攻撃が与える分のダメージを攻撃者自身が負います)。
 窓にある羊皮紙を剥した場合、それと同時に外から黒い何かが流れ込み、その探索者を包み込み、1/1D4+1の正気度を失うとともに、1D6の耐久力を失います。
 羊皮紙は弟の復讐の魔術が部屋へ侵入することを防いでいたのです。

 魔術師に尋ねた場合、弟の魔術の侵入を防いでいる(いた)と語ります。専門的な魔術の話をその後に続けますが、≪オカルト≫か、≪クトゥルフ神話≫に成功し、かつ書棚を調べている場合、彼の語る内容が書棚にある書物と一致しないことに気が付きます。

書棚

 書棚は天井にまで届くほど高いものであり、ほぼそちら側の壁一面を占めています。そこには彼の持つ邪悪な叡智の源であろう、様々な書物が収められています。
 書棚は見るだけで、様々な言語のオカルト、魔術関連の書物が所狭しと並べられているのが分かります。

 探索者が『書物を調べる』と宣言した場合、≪図書館≫+≪オカルト≫+≪クトゥルフ神話≫でロールします。
≪図書館≫に成功した場合、これらの書物は特に規則性を持って並べられているわけではないことが分かり、書物自体のジャンルや年代もばらばらであり、共通点は魔術に関するものである、ということだけです。
≪オカルト≫に成功した場合、これらの書物の大半はいわゆるオカルトの書物であり、単なる知識、学問としての魔術であり、実行能力が無いことが分かります。しかし、オカルトの範囲外、本物の魔術の本もあることも分かります。
≪クトゥルフ神話≫に成功した場合、そこには神話に関連した本が全く無いことに気が付きます。この書棚の内容から言って、それはあり得ないことだと気が付きます。

 探索者が『書棚自体を調べる』と宣言した場合は、≪機械操作≫+≪目星≫か、≪幸運≫でロールします。
≪機械操作≫に成功した場合は、この書棚には機械的な仕掛けが施されており、何らかの操作によって書棚が動くのではないかと分かります。
≪目星≫か、≪幸運≫に成功した場合、本棚にある書物の一冊が不自然に作り付けてあることを発見します。発見した書物をよく調べれば(ロールは不要です)、それが押すか、引くか出来ることが分かります。
≪機械操作≫に成功している場合、この怪しい本を押せば作動することまで分かります。
 書物を押した場合、何かが嵌るような音がした後、その書物の周辺が後ろにずれてから横にスライドして秘密の書棚を発見することが出来ます。
 引いた場合、書物から電撃のようなものが走り、1D6点のダメージとスタンを受けます。

 魔術師に尋ねた場合、これらの書物は貴重ではあるが、普通の範疇のものであると言います。そして、書棚には秘密があるのだ、と言ってまた心臓を押さえて呻きます。

秘密の書棚

 そこには、見ただけでも嫌悪を催すような邪悪な書物が収められています。
 書物を手に取った場合、妙にしっとりとした手触りに汗ばむような感触を受けます。医者かそれに準じる職業か、≪アイデア≫に成功した場合、これがまるで生きている人間に触っているかのような感触であることに気が付き、0/1D3の正気度を喪失します。
 この書物の内容をこのシナリオ内で調べることは不可能です(斜め読みでも時間が掛かり、その上、この書物はラテン語で書かれています)。

 魔術師にこの書物について尋ねた場合、それは『水神クタアト』(キーパーの判断でここで見つかる魔導書を変更しても問題ありません)であると教えます。そして、弟を破壊する為の『ナイハーゴの葬送歌』が書かれている箇所を指示して読ませようとしてきますが、これに従うかどうかは探索者次第です。
 書物を研究したりする訳ではない為、この行為によって正気度を喪失することは無い、としてもよいでしょう。クトゥルフ神話技能の上昇や、他の呪文を覚えることもありません。一時的に、『ナイハーゴの葬送歌』のみが使える状態になります。

実験机

 部屋の中央には実験に使っていると思しき頑丈な、引き出しを多く持った机があり、その上には様々な実験道具と、何に使うかさっぱり分からない道具の類と、材料の類が乗っており、何か饐えた匂いと、刺激の強い匂いが立ち上っています。
 机の上には何か生物のようなものが煮込まれている大型の坩堝のようなものがあり、その周辺にはその中の材料となった思しき、薬品、鉱物、生物、生物らしきものの部位、なんだか分からないものが置かれています。

 この坩堝の中を覗き込んだ場合、坩堝の中で煮立った泡の中から目の様なものが見返したことに気が付き、0/1D4の正気度を喪失します。
 坩堝から離れた場所はまるで科学実験で扱うかのような、試験官が多数並んでおり、その中にはおそらくその坩堝の中から生成したであろうものが分類されています。
≪化学≫、≪薬学≫に成功した場合、これらは科学ではなく魔術の範疇のうちであり、分析でるものではないことが分かり、1/1D3+1の正気度を喪失します。また、一部は普通の触媒や、薬品であることも分かります。可燃性のものや、酸の類もあり、これも≪投擲≫によってダメージを与える可能性があります。
≪オカルト≫に成功した場合、これらはオカルトなどで語られる魔物や死者の類を退散させる為の薬ではないかと気が付きます。
 この机の上にある薬品類を終幕部で弟に向かって使用した場合、≪投擲≫で命中判定後、≪幸運≫のロールの成功の倍率でダメージは以下のようになります。なお、≪オカルト≫に成功していない場合、効果的にこれらが使えない為、ダメージは-1D6されます。
 1/10→4D6のダメージ、1/2倍→2D6のダメージ、1倍→1D6のダメージ、出目が96以上→1D6のダメージが回復

 魔術師に尋ねた場合は、これらの≪オカルト≫、≪化学≫、≪薬学≫に成功したのと同じ結果を教えてくれます。

外へと続く扉

 扉を開けずに外の様子を伺う場合、≪聞き耳≫に成功すれば、何か湿ったものを引きずる音と、やはり湿った重いものを落とすような音が交互に聞こえ、それは前よりも大きな音であり、確実にこちらに近づいてきていることが分かります(あとどれぐらい時間があるかは、キーパーの判断でぶっちゃけるのもありでしょう)。
 扉を開けた場合、自動的に終幕部へ進みます。

終幕部

 扉を探索者が開けると、そこにはおそらく、人間であったと思しき腐臭の漂う、かろうじて人型を止めるだけの肉塊が立っています。
 何が、どうやってかは分かりませんが、そいつは生前とは異なるとは言え、歩いてきて扉の前に立っていたのです、
 開け放たれた扉から、そいつは緩慢な動作で部屋の中に入ってきます。
 この歩く死体を見た探索者は、1/1D6+1の正気度を喪失します。

 ここで探索者はこの死体と戦うか、あるいは黙って見過ごすかを決める必要があります。
 戦う場合は、歩く死体と戦闘になります。

歩く死体、かつて弟であったもの
STR 15 CON 30 SIZ 12 INT 0 POW 13 DEX 1
耐久力 21、DB+1D4
武器:
 ひっかく 50%、1D4+DB
 組み付き 30%、特殊
 噛み付き 自動、1D6+DB(組み付き後)
装甲:
 貫通する武器は最低限のダメージしか与えることができません。
 炎による攻撃を行った場合、歩く死体は燃えているように見えますが、魔術的な守りにより炎は歩く死体の表面を燃やすだけでダメージを与えることができません。燃えた状態で歩く死体に組み付かれると、炎によって1D6点のダメージを組み付きとは別に自動的に受けるようになります。
 魔術や、酸による攻撃のダメージは通常通り受けます。

 探索者が『ナイハーゴの葬送歌』を知っている場合、2ラウンド掛けて呪文を唱えますが、火急の場で身に着けた呪文が上手く唱えられたか、INT×5のロールが必要となります。
 成功した場合、歩く死体とのMPの対抗ロールとなり、打ち勝つとそいつは腐った死体に戻り、その場で崩れ落ちて悪臭の漂う腐肉の山となります。
『ナイハーゴの葬送歌』によって崩れ落ちる肉塊を見た探索者は、0/1D8の正気度を喪失します。 

 見過ごした場合、そいつは床に這いずって必死に逃げようとする兄にやはり緩慢な動作で追いすがり、覆いかぶさると同時にどこからと取り出したナイフ(おそらく、自身の身体に刺さったままになっていたもの)で、兄を殺します。
≪(刃物の付いた武器)≫、≪アイデア≫に成功すると、そいつが兄を殺した傷はその死体を殺したであろう傷とほぼ一致することに気が付きます。
 奇怪な復讐を遂げた弟の死体は、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ち、兄の死体と並びます。

幕間

 探索者の判断で、その後は主に魔術師を助けたか否かによります。
 魔術師を助けた場合、探索者の対応にもよりますが彼は邪悪ではありますが、探索者に対して協力的になり、表立って悪事を働くようなことは無くなります。キーパーの判断にもよりますが、オカルト、神話的な事件のアドバイザ、あるいは裏社会への窓口などとして使うのもよいでしょう。
 弟の復讐を見過ごした場合、部屋の中には二つの死体が残った状態となる為、何らかの手段を講じて容疑者となることを避けなければなりません。

 魔術師を助けた場合、探索者は1D10の正気度を得ることができます。
 弟の復讐を見過ごした場合、探索者は1D6の正気度を得ます。
『水神クタアト』を処分した場合、さらに+1点の正気度を得ます。
(『水神クタアト』を研究することに決めた場合は、ルールブックの魔術書の詳細に従ってください)