in the Mouth of Divas
「彼女達の口」
俺は…見た。彼女の両腕の傷口全てが、突然「唇」になった。
赤いルージュを塗ったもの。緑色のルージュを塗ったもの。リップクリームだけのもの。かさかさしたもの。つやつやしたもの。ひび割れたもの。
大きなものも小さなものもあるが、そのどれもが同一人物の唇だとわかった。
────────── 田中啓文『歌姫のくちびる』より
注意、あるいはお約束:
プレイしてみたい人、プレイするかも知れない人は読まないでください。読んで良いのはキーパーか、またはプレイする予定のない人だけです。うっかり目次を見てしまった人は、「記憶を曇らせる」の呪文でも使って忘れてください。万が一そのままプレイに参加したりすると、貴方の悪徳に誘われて隣のプレイヤーにイゴーロナクが憑依するかも知れませんよ。
本シナリオはエロ、グロの要素を含みます。これらが耐えられないキーパー、プレイヤーにはお勧めできません。
そして当然ですが、このシナリオはフィクションです。
現実のいかなる人物、団体、そのほかもろもろのものと一切の関係はありません。
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本シナリオは下記の目次のような構造となっています。
まずははじめに、シナリオの概要と読み進み、シナリオの本体へ進むのが良いでしょう。
シナリオの目次:
はじめに
シナリオのスペック
本シナリオは、『クトゥルフ神話TRPG』向けであり、昭和初期、戦前の帝都を想定しており、舞台として大正時代『クトゥルフと帝国』あるいは、本『帝都モノガタリ』を対象としているシナリオです。
プレイヤーの人数は3〜5人、作成したてから、数回の探索による成長の探索者を想定したデザインとなっています。
プレイ時間はキャラクターの作成を含まず、2〜3時間程度を想定しています。
慣れたキーパー、プレイヤーにはそれほど取り回しの悪いシナリオではありませんが、そうでない場合は取り回しが不親切な部分がありますので、ご注意ください。
始める前に
実際のセッションを始める前に、これらのことに注意するか、プレイヤー達に直接告げてください。
シナリオの傾向
本シナリオは、探索が中心となるシナリオとなりますが、探索の要素も少なく、シナリオの流れはオーソドックスな(?)「来た、見た、狂った」的なシナリオとなっています。
最後に戦闘はありますが、ひどく恐ろしい状況も無い、かなり地味で地道なシナリオです。
「謎は解かれなければならない」必要はありませんが、「手がかりは提示する」必要はあります。
情報は全て出し尽くす、というのが理想的ですが、探索者の選択、行動によって得られない情報も発生することでしょう。ある程度、キーパーの方から誘導、あるいは具体的にこうすれば?と提示することも必要になってきます。
キーパーは適宜(特に探索者の行動が止まってしまった場合等)、探索者を誘導するようにしてください。
PC作成時の注意、立場
探索者の作成時には、下記のように作成するようにしてください(FEAR的なあれですが、クトゥルフの弱点である導入部の弱さを補うには非常に有効な手段だと思われます)。
PC@ 推奨職業:探偵:
PCAと懇意にしている探偵であり、趣味か、あるいは過去の事件から芸能業界にも関係が深い探偵となります(音楽が趣味、というだけでも特に問題ありません)。
趣味か、事件の絡みでPCBとも知り合いであり、PCAとともに、よく趣味について語るような仲になります。
PCA 推奨職業:華族等の高等遊民、高い地位にあるか、あるいはヤクザ:
『ナイチンゲール』のお得意様となります。
『ナイチンゲール』はこの時代には珍しい、聞くジャズの店であり、ちょっと高級なナイトクラブです(ナイトクラブと言う言葉は当時存在せず、特殊なカフェの類となります)。
店に出向けば、ステージに程近い場所にテーブルを作ってもらえるようなほどです。
1周年記念の内々の初日を含め、全日に招かれており(行く、行かないは自由です)、重要な客の部類です。
PCB 推奨職業:なし(但し、暇、趣味に金銭的な余裕がある職業、立場):
音楽、特に新しいもの好き、珍しいもの好きといった嗜好の探索者となります。
PCAとも知り合い、親交があり、PCAの伝手を利用して『ナイチンゲール』に入っていることになります。
音楽に造詣が深い、あるいは単純に好き、ということで、最近売り出し中の星川、月野に興味を持っています。
PCC以降:
いわゆるその他のPCとなります。
PC@、A、Bとの絡みの他、登場するNPCの絡みで、『ナイチンゲール』の1周年記念パーティに居合わせ、その後事件に関わることになります。
PC同士の関連付け
基本的に自由です。シナリオに参加する理由付けを作るようにしてください。
プレイヤーから提案を積極的に受け入れて、シナリオに参加する理由付けを作成するようにしてください。
特にPCAが事件に絡む鍵となるので、その職業に合わせて、関係を構築すると楽になるでしょう。
シナリオの概要、真相(キーパー向け)
シナリオは帝都を舞台とすることを想定しており、年代としては昭和初期となります。
不景気の巷に、ダンスホール等が流行る中、探索者達は珍しい、ジャズを聞かせるカフェ『ナイチンゲール』の1周年記念のイベントに、二人のシンガーの星川、月野の歌を聞きに行くことになります。
その夜、何かトラブルがあり、そして探偵の探索者へ星川を探して欲しいという依頼が舞い込みます。
関係者への聞き込みや、星川の家の捜索の結果、全身を齧られたような凄惨な死体を発見し、そして奇怪な姿となった星川、あるいは月野を目撃します。
1周年記念のイベントの最終日に、やはり星川、月野の二人が舞台に立つことになりますが、現われたのは一人です。しかし、その歌声は二人のものでした。
星川、月野の二人は『イゴーロナクの手』に名前を刻んだことにより、『イゴーロナク』の祝福を受け、無自覚のその信者となります。
イベント初日の終了後、ステージで高まったテンションそのままに、二人でお互いを貪りあった結果、二人で一人の『イゴーロナクに祝福されしもの』に変貌します。
しかし、それでも歌うことに固執する彼女らは、『ナイチンゲール』のステージに立ち続け、そして二人で一人の歌を歌い続けます。
本シナリオに登場する、『イゴーロナクに祝福されしもの』はオリジナルの神話生物となります。
先にデータセクションで時代背景や、『イゴーロナクに祝福されしもの』について、確認を行なうことをお勧めします。
『イゴーロナクの情人』と同じような存在ではありますが、その起源が異なり、また物理的に倒してもイゴーロナクの元へ還るものでもありません。
もしも、プレイヤーが『イゴーロナクの情人』だと勘違いした場合は、そうではないと告げてもよいでしょう(張り倒しても後腐れがないよ、とぶっちゃけるのも)。
登場人物(NPC紹介)
星川映見(ほしかわ・えみ)、歌手、イゴーロナクに祝福されしもの
月野喜多(つきの・きた)、歌手、イゴーロナクに祝福されしもの
二人はこの時代に珍しいジャズシンガーです。ただ、ジャズシンガーと言う言葉は無い為、世間では歌手となります。
『ナイチンゲール』に出演している中では飛びぬけて上手いと評価されています。
星川は目立つ、派手な容貌に加え、ざっくばらんな性格をしており、女学生時代や、少女歌劇時代には同性に大もてでした。
対して月野は清楚で地味、性格も柔らかく、押しに弱いお人よしと評価されます。
二人は『ナイチンゲール』等への出演の宣伝や、同性愛者であることを世間に隠す為、表向きは仲が悪く見えるようにしており、人目がある場所ではお互いを避ける、なるべく会わないようにしています。
しかし、実際、二人は同性愛者であり、同棲までしている仲です。
彼女らは偶然から『イゴーロナクの手』を手に入れ、その台座に名前が刻んであることに気が付きました。悪戯から、二人はその像にお互いの名前を書き込んでしまいます。
その結果、彼女らは夢の中でイゴーロナクに接触を受け、その徴として噛んだ痕を授かります。イゴーロナクの手は憎い相手の名前を刻んで呪い殺す為のものですが、代わりに彼女らはお互いを堕落させ、邪淫に溺れ、そして最終的にはお互いを貪り、一つになります。
星川映見:
STR 13 CON 11 SIZ 13
INT 13 POW 12 DEX 15
APP 16 EDU 11 SAN 0
耐久力 12 ダメージボーナス ±0
技能:
言いくるめ 70%、オカルト 50%、隠れる 40%、芸術:演技 85%、芸術:歌唱 80%、跳躍 50%、投擲 50%、変装 61%
月野喜多:
STR 9 CON 13 SIZ 12
INT 15 POW 10 DEX 16
APP 15 EDU 13 SAN 0
耐久力 13 ダメージボーナス ±0
技能:
オカルト 60%、隠す 40%、芸術:演技 75%、芸術:歌唱 85%、経理 60%、忍び歩き 50%、心理学 60%、説得 70%、追跡 50%、目星 60%、変装 71%
花村一栄(はなむら・かずえ)、歌手、舞台のマネージャー
『ナイチンゲール』に出演しているジャズシンガーの一人で、星川、月野とは少女歌劇時代のほぼ同期で、友人と言える仲です。
シンガーとしては平凡であり、本人もそれが分かっている為、『ナイチンゲール』の支配人である由布と良い仲になり、舞台のマネージャー的な立場に収まりつつあります。
今回の星川、月野の共演を提案、実行したのも彼女です。
STR 10 CON 11 SIZ 11
INT 15 POW 8 DEX 13
APP 15 EDU 10 SAN 40
耐久力 11 ダメージボーナス ±0
技能:
聞き耳 50%、経理 60%、芸術:演技 60%、芸術:歌唱 70%、信用 65%、説得 55%、値切り 45%
由布信夫(ゆふ・のぶお)ナイチンゲールの支配人
『ナイチンゲール』の支配人、オーナーであり、花村の恋人です。
『ナイチンゲール』は元々カフェであり、音楽好きだった客が多かったところから、当時ほとんどなかった歌としてのジャズを聞かせることを売り出して、新装開店させました。
現状に満足しており、スタッフからの信頼も厚いのですが、すでに花村の尻に敷かれています。
STR 13 CON 14 SIZ 15
INT 12 POW 11 DEX 10
APP 10 EDU 15 SAN 55
耐久力 15 ダメージボーナス +1D4
技能:
隠す 50%、経理 40%、芸術:演技 70%、芸術:歌唱 70%、信用 80%、心理学 50%、法律 35%
※由布の《芸術》は自らやるのではなく、批評家としての技能と考えてください。
深雪銀子(みゆき・ぎんこ)、テキシーダンサー
派手ながら、どこか疲れた様子を見せるダンスホール『ポリゴン』のテキシーダンサーです。
少女歌劇時代の星川、月野の同期、友人であり、当時を知る人間です。
少女歌劇の退団後は、役者としても、歌手としても芽が出ず、浅草辺りの劇場から新橋のダンスホールにまで流れてきています。
本人もどこか諦めているところがあり、良い旦那でも見付からないかと期待しています。
STR 7 CON 12 SIZ 11
INT 13 POW 14 DEX 13
APP 14 EDU 11 SAN 70
耐久力 12 ダメージボーナス ±0
技能:
言いくるめ 60%、隠れる 40%、芸術:演技 55%、芸術:歌唱 65%、芸術:ダンス 60%、値切り 50%、変装 41%
導入部
このシナリオはまず探索者全員が『ナイチンゲール』の1周年記念パーティで、星川、月野の歌を聞くところ始まります。
PCA以外の探索者は、PCAの同行者としてか、あるいは何らかの伝手を介して、このパーティに出席していることになります。
細かい導入や、個別の導入がしたい場合は、キーパーに任せます。
星川、月野の噂
PCA、Bの両方かどちらかが、趣味の音楽についての話を出来る場においての場面となります。
このシナリオの星川、月野について、基本情報が語られる場面であり、探索者達の事件外の関係性が形成される場面となります。
『ナイチンゲール』に赴く前でPCA、Bの行き付けとなるカフェ等が、この場面の舞台となります。
キーパーは以下の基本情報を与えつつ、場面を演出してください。
・今日、『ナイチンゲール』で特別な舞台がある(PCAは特に懇意の客として招かれている)。
・舞台は特別なもので、招待客とその連れ以外は入れない。
・最近話題の、星川、月野が共演する予定になっている。
・星川、月野は『ナイチンゲール』の歌手の中でも飛びぬけて歌が上手い。
・彼女らは仲が悪いらしい。今日の共演も特別なものらしい。
『ナイチンゲール』の1周年記念イベント(初日)
イベントの初日であり、特別な招待客しか店には入れません。
『ナイチンゲール』はジャズを聞かせる店であると同時に、そこそこに高級な雰囲気を醸し出す店であり、上品なナイトクラブで、従業員の接客も行き届いており、過不足なくサービスが提供されます。
PCAの元にも、支配人である由布が挨拶に訪れ、日頃の愛顧の礼と、今後ともご贔屓にと去っていきます。
『ナイチンゲール』に縁のある芸人や、当時人気の歌手などがその舞台に上がりますが、何よりも初日の目玉は今話題の星川、月野の共演です。
二人は仲が悪いことで有名で、片方の出演が決まっている場合、片方は必ず出演しないのがお約束のようなものとなっており、『ナイチンゲール』でも初めて、二人が揃って舞台に立つことになります。
前座(前座でも通常の舞台であれば主役級の出演者が多数なのですが)の後、星川、月野が同時に現れ、その歌を披露します。
二人の声は対照的で、星川の声は大きく、どちらかと言えば高音、月野の声は小さいながらよく響く低音であり、今まで一緒に歌を披露したことが無いにも関わらず、二人の歌はあまりにも完成されており、会場には二人の歌と音楽だけが響きます。
あまりにも見事な歌や、スキャットによる二人のバトルなど、聴衆は彼女らに魅了されます。
ここで《芸術:(歌等の音楽に関わるもの)》×2か、POW+INTのロールに成功した場合、彼女らの歌はよく訓練されており、二人で一緒に歌ったことが無い、というのは信じられないと思います。
《心理学》に成功した場合、彼女らがかなりの興奮状態であることに気が付きます。
また、歌っている二人をよく観察すると宣言された場合、《目星》の成功によって二人が腕に包帯を巻いているのを見ることができます。
星川、月野の二人の歌が終わると、惜しみない拍手と賞賛の声が上がり、二人は手を取って深々と頭を下げると、そのまま2階へと引っ込んでいきます。
ここで《聞き耳》に成功すると、星川が月野に対して、「ああ、もう我慢できない!」と囁いているのが聞こえてきます。
しばらくすると、最後に支配人の由布から挨拶があり、その場はお開きになります。
順次、従業員の誘導に従って店を出ることになりますが、たまたま最後の方にまで残っていた探索者達の耳に、2階の方から何かが暴れるような音が聞こえてきます(誰でも気が付く大きな音である為、《聞き耳》は必要ありません)。
その音に慌てたように花村が意義口で客の見送りをしていた由布の元へ掛け付け、何事か囁いた後、また2階へ消えていきます。
まだ音が続きますが、由布の方から「皆様申し訳ありません」とお詫びの後、由布も2階に消えます。その後、音は止み、由布は青白い顔で戻ってきて、客の見送りを再会します。
探索者が由布にこのことを尋ねた場合、「ああ、いえ、何でもありません。お恥ずかしい話ですが、ちょっと出演者同士でごたごたがありまして。お気になさらずに」と言います。
キーパーへ:
この騒ぎは、星川、月野の二人がステージを終えるなり、『ナイチンゲール』の2階でお互いを貪るのを開始したのですが、騒ぎを聞きつけた花村が止めに入り、巻き込まれて噛まれてしまいます。
(彼女らは興奮の極にあり、取っ組み合い、獣のようにお互いを噛み付きあっているので、側から見ると原始的な喧嘩に見えます)
さすにが、騒ぎが大きくなったので、彼女らも家に戻るまで我慢し、そして戻るなり貪りあったのです。
『ナイチンゲール』の1周年記念イベント(2日目)、星川のステージ
キーパーへ:
このパートは探索者が強いて2日目も『ナイチンゲール』へ行く、という場合のみ、行なってください。
『ナイチンゲール』の1周年記念に伴うイベントで、2日目は星川が歌うことになっています。
ところが時間になっても星川は現われず、閉店間近になっても姿を見せません。
この日は彼女がメインであり、客もそれを期待していたのですが、星川が無断でステージを休んだ為、店側も対応が遅れた状態となっています。
最後に、支配人の由布から客に対してのお詫びが入り、客たちもとりあえず帰っていきます。
この場は特にこれといった事件は起こりませんが、星川、月野の一般的な情報を探索者に提供するのもよいでしょう。
花村の依頼
パーティから2日後、PC@の元を花村が訪れます。
PCAと知り合いの『ナイチンゲール』の由布から、PC@を紹介されたと言います。
彼女は腕に包帯を巻いており、それをかばうようにしています。
彼女は以下の情報を探索者に伝え、PC@に「星川さんを探して欲しい」と依頼します(報酬については、PC@から提示される額が常識の範囲内なら素直に了解します)。
・昨日、『ナイチンゲール』で星川が主役の舞台があったのだが、それに姿を現さなかった。
・無断でステージを休むことは今まであまりなかった。
・自宅まで様子を見に行ったが、留守のようで反応が無かった(星川の自宅は、浅草に程近い下町でその住所も)。
探索者が捜索の依頼が早いことを指摘した場合、花村は「以前から星川さんと月野さんの様子はおかしかったのですが、ここ最近は特におかしなことが多くて。何か変なことに巻き込まれていないか、心配なのです」と言います。
彼女の腕の包帯の理由を尋ねた場合、「初日に少し騒動がありまして…。それに巻き込まれてちょっとした怪我をしてしまいました」と言います。
ここで《心理学》に成功すると、彼女が非常に怯えている、腕の怪我を気にしていることに気が付きます。
初日の騒ぎについて訪ねた場合は、《信用》+20%に成功すると、「あれは、2階で星川さんと月野さんが喧嘩をしていたのです。止めに入った私も怪我をしてしまって」と言い、腕を押さえます。
月野について尋ねた場合、「今日、出演予定になっています」と伝えてきますが、月野の自宅の住所や、現在の所在等は花村も把握していません。
月野のプライベートはあまり知りませんが、代わりに二人の共通の友人である「深雪銀子」を教えてくれます。深雪は少女歌劇時代の星川、月野の同期であり、今は新橋のダンスホール『ポリゴン』でダンサーをしていると言います。
探索部:
シナリオのメインとなる探索部です。
『ナイチンゲール』絡みでのイベント(時系列を持ったイベント)と、探索のイベント(時系列のないイベント)に分かれます。
キーパーはゲーム内の時間経過を検討するとともに、敢えて『ナイチンゲール』でのイベントの日程を確約しないことで、探索の漏れ等を防ぐようにしてください(もちろん、逆にきっちりしたスケジュールを伝えることで、時間制限がありそうだ、ということを探索者への押しにすることも可能です)。
星川の部屋
花村に教えられた星川の部屋を訪ねると、扉には鍵が掛かっておらず、ノック等をしても反応はありません。
近所住民に聞き込みをした場合、特にロールの必要はなく、二人の女が住んでいたということと、2日前の夜中に近所迷惑になるような、喧嘩でもしているような音がしていたということを聞くことができます。
また、扉を調べても特に何も発見はありませんが、《アイデア》で何かが腐ったような異臭に気が付きます。
扉を開けて中に入った場合、異臭が強くなり、この部屋の中から異臭で発生していることを確信します。
部屋は4畳間が二部屋と、台所がある構成になっており、片側の部屋には押入れが付いています。部屋は雨戸で締め切られており、外を伺うことはできません。
部屋の中は雑然としており、こまごまとした生活用品や家具が置かれていますが、床には女性の衣服がまるで脱ぎ散らかしたように散乱しています。同時に、あちこちに血痕が飛び散っていることに気が付きます。
部屋の中心部(4畳間の連結部)に、小さなテーブルが置いてあります。その上には掌に口を持った上腕部の像が置かれており、これも血に塗れています。
この掌には、女性のものと思しき髪の毛が置かれています(よく調べた場合、髪は二人の女性のものだと分かります)。
特に押入れを調べようとするか、《目星》に成功した場合、どうやらそこが異臭の発生源であることに気が付きます。
押し入れを開けると、女性と思しき死体を発見します。
死体は、まるで全身を獣か、それに類するものに貪られたように肉が削げており、残っている箇所にも噛み痕が多く残っている。
骨まで見えている箇所も多く、辛うじて人型を保っているがそれが一目では男女の区別が分からないぐらいだ。
特に顔の部分はひどく、ほとんどの部分に肉が残っていなかった。
この凄惨な死体を目撃した場合、1/1D6+1の正気度を喪失する可能性があります。
《医学》に成功した場合、死後2日程度と思われ、死体は女性であることが分かります。
また、上述の《医学》による検査か、探索者が死体をよく調べると宣言した場合、死体の口の中にも相手から食いちぎったと思しき肉(おそらく、人間の)が詰っていること、腕に一つだけ異なる噛み痕が存在することに気が付きます。
これらの事実に気が付いた場合、あまりの異様さにさらに追加で正気度を1点喪失します。
この異なる噛み痕は、まるで鮫のように鋭利な歯が円形の痕を残しています。
ちなみに、顔の判別はもちろん、体格も星川、月野の両方に似ている為、彼女らのどちらかかもしれないぐらいの判断しかできません。
発見した死体を警察に通報し、その後、伝手を使って警察から解剖結果等を知ろうとする探索者が居るかもしれません。
その場合でも上述の情報が得られますが、死体が星川か月野かは特定されません。やはり、顔が無い為、なんとも言えない、という情報が伝えられ、より詳細な調査が必要なので特定には時間が掛かりそうだ、と言われます。
掌に口を持った像、『イゴーロナクの手』
この像は、人間の左腕を模したものですが肘から下は粘土の土台となっており、腕の部分は緑灰色の岩石から作られた彫刻で、掌が上に傾けられ、軽く指が曲げられており、何かを受けるような形に見えます。
何よりも特徴的なのは、この腕の掌にはまるで獣のような乱杭歯を持った口が彫られており、いやらしい、邪悪な印象を与えます。
この古物商等に持ち込むか、自身で《芸術:骨董》等の古物に関する技能に成功した場合、以下の情報を得ることができます。
・この像はおそらく西欧由来のものだが、岩石が何かは分からない。
・かなり年代の古いものであることは間違いないが、ある程度の年代を割り出すための彫刻の特徴等は分からない。
・値打ちがあるものには違いないが、価値が付けられるものではない。
この像の調査で《クトゥルフ神話》か、『グラーキの黙示録』を読んでいる場合、これが
『イゴーロナクの手』と呼ばれる彫像であり、イゴーロナクと呼ばれる、人間の精神を堕落させる存在の手を象ったものであることに気が付きます。
そして、この像はイゴーロナクとの意思疎通を可能にし、その崇拝者の邪悪な意図を満たす為の魔術的な道具となります。
この像に触れた場合、二人の女性のお互いを貪る獣のような激しい情交の幻覚に襲われます。幻覚を見た探索者は、1/1D3+1の正気度を喪失する可能性があります。
この像を《他の言語:英語》×2か、時間を掛けて丁寧に調べることによって、『星川』『月野』の名前がアルファベットで刻んであることに気が付きます。
もしも、この像を破壊した場合、『イゴーロナクに祝福されしもの』はイゴーロナクの加護を失い、徐々に身体が腐敗を始め、終幕部において彼女が弱体化します。
星川の家にあった死体を調査して、異なる噛み痕に気が付いて居り、この像を調べて《アイデア》に成功した場合、死体の異なる噛み痕は、この像の掌にある口で噛まれれば、似たような噛み痕になるのではないかということに気が付きます。
キーパーへ:
キーパーによってはこの像が破壊されると、『イゴーロナクに祝福されしもの』が死体へと戻る、としてもよいでしょう。
特に終幕部において、劇的に『イゴーロナクに祝福されしもの』の前で像を破壊する、といった行動を取った場合は、戦闘なしで崩壊する、とするのがよいかもしれません。
(像を破壊した場合は、最悪、放っておいても彼女達は腐った死体に戻る展開もありえます)。
ダンスホール『ポリゴン』のダンサー、深雪銀子
花村から教えられた新橋の
ダンスホール『ポリゴン』は、場末とまでは行きませんが流行の場所からは少々外れています。
あからさまにいかがわしい雰囲気はありませんが、ダンサー達の媚びの売り方や、周りの客の雰囲気からもあまり品の良いところではないことは分かります。ただし、客に学生や、書生の姿は無く、いかにも俗っぽい、不良っぽい、安っぽいという訳でもなく、妙な頽廃的な雰囲気が漂っています。
また、音楽もレコードではなく、ちゃんとしたバンドを使っており、生で演奏が行なわれています。
常連客や、従業員に深雪について訪ねれば、目当ての深雪銀子は、夕方以降になれば姿を現すことを教えてもらえます。
『ポリゴン』の中では目立つ存在である深雪は、そこそこに客が付いています。
深雪から話を聞く場合、チケットを買って踊る必要があります。チケット1枚は15銭ですが、10枚綴りで売られている為、1円50銭でチケットを買う必要があります。
深雪からは以下の情報を手に入れることが可能ですが、当然、踊っている間に情報を引き出すことは困難です。
(キーパーの趣味で、いかにも「スタイリッシュ!」な感じでダンスをしながら情報を得るのも面白かもしれませんが)
各種のコミュニケーション系のロールか、あるいは《芸術:社交ダンス》に成功して、深雪の気を引いた上で、店外へ連れ出す必要があります(もちろん、札束で頬をはたくのも可能です)。
これらのロールに失敗した場合でも、深雪は敢えて誘いに乗ってきます。この場合は、カモだと思われて、さらに余分な時間と金銭が掛かることになります。
店外で深雪から得られる情報は以下の通りです。
彼女はこれらの情報については、まず、「最近は会っていないので」と古い情報であると前置きします。
・星川について
少女歌劇時代から目立つ存在だった。歌うことが得意だったので、歌手への転向は特に驚くことは無い。
目立つのが大好きで、芝居掛かった言動が多く、団員の女の子からもてたが、実は意外と純情で、月野一筋だった。
表向きの顔がそれなので、月野と付き合っていることを知っているのは、おそらく私ぐらいだと思う。
・月野について
少女歌劇時代では目立ちはしなかったが、男役の星川の相方を務めることが多く、あらゆることにそつが無い。
目立たないようにしていたのは、星川との関係が表に出ないようにする為ではないだろうか。
意外と狂暴で、わがままなところがあって、よく星川とは喧嘩をしていたが、事情を知っている私から見ると単なる惚気、痴話喧嘩の類に思える。
・花村について
少女歌劇時代から星川、月野の友人だったが、思ったよりも付き合いは浅いと思う。
月野と同じく、あらゆることにそつが無いが、月野が能力を隠していたのに対して、花村はすでに限界だった。
今の『ナイチンゲール』も、歌手としてではなく、マネージャー的な立場に移行しつつある。
・『ナイチンゲール』について
カフェからの転向した店で、歌をメインに聞かせるのは珍しいと思う。
花村の伝手で、いろいろな芸人を呼んでおり、この世界では結構有名になっている。
その中でも、星川、月野の歌は一つの呼び物となっており、注目している人間も多い。
さらに、《信用》か、探索者が上手く深雪を口車に乗せるかした場合は、以下の情報を得ることができます。
・星川と月野について
少女歌劇を退団した後、浅草の辺りで、二人で一緒に住んでいたはず。
二人の身体に噛み跡を見ることがあった。昔の刺青ではないだろうが、お互いの身体に痕を付け合っていたのではないだろうか。
『ナイチンゲール』の1周年記念イベント(3日目)、月野のステージ
『ナイチンゲール』の1周年記念に伴うイベントで、今夜は月野が歌うことになっています。
前日は星川の予定だったのですが、彼女は店に来ておらず、無断で舞台を休み、客からは散々だったと言われます。
周辺の客やボーイ、あるいは由布等から情報を得ようとした場合は、下記のような情報を得ることができます。
(星川、月野の一般的な情報を渡してもよいでしょう)。
・星川について
星川は普段から適当なので、休演することもあったが、今回は『ナイチンゲール』の特別なものだけに驚いている。
初日の月野との共演がよほど腹に据えかねたのではないか。
・月野について
今日、出演することになっているが、まだ来ていないらしい。
真面目な性質なので、普段ならかなり前に楽屋入りするらしいが、今日はまだ姿を見ていない。
・星川、月野について
星川、月野の仲の険悪さが増している。2日前の共演で頂点に達したのではないか。
最後の大きな音は、二人が喧嘩していたという噂もある。
最終日にも、二人が共演する予定になっているが、果たして実現するだろうか。
前座が終わっても、ステージに月野が現われる様子はありません。客が騒ぎ出したところで、ぞろっとしたフード付きのローブのようなものを着た月野らしき人物が舞台に現れます。
そのフードによって顔はほとんど隠れており、口元が多少見える程度です。驚く客や、バンドも無視して、身振りで演奏を始めるようにバンドに伝えると、月野らしき人物は歌い始めます。
その声は見事な歌声であり、2日前に聴いた月野のもので間違いありません(特にロールは必要なく、そう判別できます)。
フードの下に見える口はあまり開いても、動かしているようにも見えませんが、それは見事な歌声が店内に響き、最初の異様な雰囲気は消えうせ、拍手喝采のうちに月野の舞台は終わります。
この歌の最中、《アイデア》か、《芸術:(歌等の音楽に関わるもの)》×2に成功した場合、ローブのせいでよく分からないのですが、その声と口の動きのシンクロ率が低いこと、そして声が出ている場所が様々に変わり、立体的に聞こえていることに気が付きます。
歌が終わると、月野はまたすぐにバックヤードに引っ込み、そのまま店を出て行ってしまいます。
ここで、探索者が強硬手段に出る可能性は無きにもしあらずですが、その場合は屈強なボーイに止められるか、客からブーイングの嵐を食らうかして止めてください。
それでも強行した場合は致し方ない為、そのまま終幕部へ突入してください。
花村の傷痕
依頼から2日目、PC@の元を花村が訪ねてきます。
事件の進展を訪ねにきたのですが、今日も彼女の腕には包帯が巻かれています。
最初の依頼に来たとき以上に彼女は怯えており、血の滲む包帯を強く押さえています。
事件の調査の具合を伝えるかどうかは探索者次第ですが、まだ解決していないと知ると彼女は落胆した様子を見せ、なるべく早く解決をして欲しいと伝えてきます。
探索者がその訳を尋ねた場合、彼女は少し躊躇った後、腕の包帯を解いて、傷口を探索者に見せます。
その傷は酷く爛れており、まるで血に濡れた唇のようだった。
醜く開いた傷跡は、まるで口を思わせるように波打ち、蠢いていた。
花村に傷痕を見せられた場合、まず《アイデア》を行ないます。これに成功すると、その傷痕がまるで人か、それに類するものの口に思えてしまいます。失敗した場合は、ただの爛れた傷痕に見えます。
この傷口を見た探索者は、《アイデア》に成功している場合、1/1D3、失敗している場合、0/1の正気度を喪失する可能性があります。
《医学》に成功した場合、傷の大きさに対して出血が少ないこと、そして当然ですが、傷口が口のように形成されることが無いことに気が付きます。
花村は、「何故、こんなことになっているのか、分かりません。ただ、この傷はあの晩、星川さんに噛まれたものなのです」と言います。
星川、月野の足取り
基本的に消えた星川、月野の足取りを掴むことはできません。
全身をローブに包んでおり、異様な雰囲気を醸し出す彼女は、確かに目立つ存在ではありますが、人の多い帝都の中で、しかも彼女が庭としている浅草を中心に潜んでいる為、直接探し出すことは無理です。
(彼女らが浅草周辺に潜んでいるのは、自宅の周辺であることはもちろん、まだ様々な芸能が残っている街であることも大きいのです)。
探索者が、浅草周辺の調査を特に行なった場合、その手段に合わせたロールによって下記の情報を得られる可能性があります。
・浅草公園を、ぞろっとしたローブを着た女が歌いながら歩いていた。
その歌声はまるで一人で二人が歌っているようでいて、口以外の場所からも声が出ていたように思える。
ローブの効果かもしれないし、ああいった大道芸(腹話術のことです)があるからその類ではないか。
・酔っ払いがローブのようなものを着た格好をした女に絡んだら、「口のお化けだった」と気絶する事件が発生している。
よくある怪談の類か、酔っ払いの見間違いの類だろう。
終幕部
『ナイチンゲール』で、星川、月野=イゴーロナクに祝福されしものと対峙する場面となります。
キーパーへ:
終幕部へ進むタイミングは、『ナイチンゲール』の1周年記念イベントの日程をある程度調整して、探索者達が探索を終えてからがよいでしょう。
もちろん、早いタイミングで探索者がとにかく撃退する、ということになった場合も、終幕部に突入しても問題ありません。
『ナイチンゲール』の1周年記念イベント(最終日)、星川、月野のステージ
この場面は様々な探索者の対応が考えられます。
彼女らが歌い終わるのを待って、人気のないところで捕まえるとか、『ナイチンゲール』の由布、花村の協力を得て、一般客を入れないようにする、イベントの最中に舞台にいる彼女のローブを剥ぎ取るという派手な展開もあるでしょう。
(ただ、PCAや、音楽関係者を動機としている探索者としては、星川、月野の二人の歌をまた聞きたいと思うのもありかと思います)
キーパーは探索者の判断と、行動で最終日の流れを決めてください。
彼女らにローブを剥ぎ取る前に歌わせた場合、『イゴーロナクに祝福されしもの』の歌は、確かにその歌声は星川と月野のものなのですが、あり得ない響きを持った歌声であり、そして立体的な多重唱は異世界の歌のように思えます。
この歌を聴いた場合、《芸術:(歌等の音楽に関わるもの)》に成功した場合は、1/1D4、失敗した場合は0/1D3の正気度を喪失する可能性があります。
星川のローブを剥ぎ取るか、自ら脱いだ場合、下記の描写を行なって下さい。
イゴーロナクに祝福されしものを目撃した場合、1/1D6の正気度を喪失する可能性があります。
ローブの下に、彼女は何も着けていなかった。彼女の皮膚は、まるで死後いくらか経過し、どす黒く変色したような死体のようにも見える。
だが、何よりも異様なのはその全身には、明らかに無数の『口』が蠢いていた。
大きなもの、小さなものがあるが、同一人物の『口』がばらばらに囁き、歌い、さんざめいている。
星川に「月野はどこだ!」と問いかけた場合、彼女は全身の口を見せながら、「ほら、ここよ。月野はここに居るの」と言います。
それに応えるように、全身の口が一斉に「そうよ。私よ。私が月野よ」と喋りだします。
この不気味な光景を見た探索者は、1/1D3の正気度を喪失します(ただし、最初の目撃分と合わせて最大6点までしか減少しません)。
「私達は一つになったの。私は星川だけど、月野なの」と嬉しそうに歌い始め、ばらばらにさんざめいていた月野の口も一緒に歌い始め、見事なデュエットを始めます。
イゴーロナクに祝福されしもの、下級の奉仕種族、星川、月野のなれの果て
能力値
STR 18
CON 21
SIZ 13
INT 13
POW 12
DEX 15
移動 15 耐久力 17
ダメージボーナス:+1D4
武器:
噛み付き 60%、ダメージ 1D4+DB(メインの口による噛み付きです)
爪 55%、ダメージ 1D3+DB
組みつき 60%、ダメージ 特殊+1D10の噛みつき。
噛みつき(1D10) 50%、ダメージ 1(組み付き後、1D10回の噛み付き攻撃を受けます)
歌う 80%、ダメージ 特殊、POWの対抗判定、失敗するとMPに1D8、正気度に1D4ダメージ
装甲:
なし。ただし魔力を付与されていない物理的な攻撃からは最低限のダメージしか受けません。
呪文:
元の人間が知っているものを使用できます。
正気度喪失:
イゴーロナクに祝福されしものの姿を見て失う正気度は1/1D6ポイントです。
イゴーロナクに祝福されしものの組みつき攻撃を受ける事で失う正気度は1/1D4ポイントです。
その他:
この存在の拠り所である『イゴーロナクの手』を破壊している場合、魔力が付与されていない攻撃でも通常通りにダメージを与えることができます。
また、歌うがただの歌となり、MP、正気度へのダメージが発生しません。
・『イゴーロナクに祝福されしもの』を撃退した場合:
彼女達が倒れると、さんざめいていた全身の口は次第に力を無くし、最後には普通の傷口に戻ります。
後に残るのは全身に噛まれた傷だらけの死後3日程度の裸の死体であり、他には何も残っていません。
事後の処理に関しては、由布が請け負い、ひとまずその場は収められます。
・『イゴーロナクに祝福されしもの』から逃亡するか、見逃した場合:
『ナイチンゲール』を出た彼女は闇に紛れて姿を消します。
彼女が本来の姿を見せた場合、店は大混乱に陥りますが、由布がなんとかその場を収め、その日はそれで『ナイチンゲール』は閉店します。
事件の後
キーパーは探索者のその後を、下記の方向性でそれぞれ演出してください。
・『イゴーロナクに祝福されしもの』を撃退した場合:
花村の腕の傷を次第に癒えますが、後には大きな歯型が残されます。しかし、それは蠢くことも話すこともなく、普通の傷痕に過ぎません。
『ナイチンゲール』の方も、事件を逆に利用して知名度を上げ、星川、月野は居ないものの、若手の育成にも力を入れて、より繁盛しているようです。
・『イゴーロナクに祝福されしもの』から逃亡するか、見逃した場合:
彼女らがどこへ行ったのかは分かりません。しかし、時折、花村の腕の口が彼女に話し掛け、そして近況を語るようです。
しばらく後、事件の騒ぎにより『ナイチンゲール』は閉店し、花村は精神を病み、松沢病院へ収容されたと探索者は聞かされます。
正気度の報酬
この事件を解決した探索者は、1D8点の正気度を獲得します。
『イゴーロナクに祝福されしもの』を撃退した場合、追加で1D6点の正気度を獲得します。
『イゴーロナクの手』を破壊している場合、追加で1点の正気度を獲得します。
データセクション
シナリオ中で使用されるデータや、その他の項目をまとめたものです。
カフェの営業形態
大正期に大流行したカフェですが、震災前まではコーヒーや洋食、酒を出す店であり、美人の女給を置いてはいるものの、風俗的な営業は行なっていませんでした。
これが震災後、女給が客の隣に座り酌をしたり、現在のホステスのような役割を果たすようになるのが流行します(大阪から進出したカフェが、これらのサービスを行なった、といわれています)。
これによりコーヒーを売りものにするカフェは、純喫茶と呼ばれるようになります(酒も出していたカフェに対して、コーヒーのみなので純喫茶とする場合もあります)。
大正期の蓄音機が登場すると、レコードを聞かせる音楽喫茶なるものも登場したようです。
『イゴーロナクの手』
この『イゴーロナクの手』の本来の使い方は、相手を呪うことです。
術者は土台に呪う相手のフルネームを書き入れ、そして次に掌に対象の身に着けていたものや、髪等を置きます。すると手がそれを握り締め、イゴーロナクが術者と、相手へ夢での接触を開始します。
術者には、イゴーロナクから(おそらく潜在的に術者が望む)不道徳、不健全な行為を促す夢を、被害者にはその行為を。
毎夜、夢を見せられ続けた被害者は、やがてその行為を行なう欲望を制御できなくなり、貪欲にその行為を求めるようになります。
そして、対象が堕落し、破滅するとまたこの像の手はまた開き、もう一度使うことが可能となります。
本シナリオでは、この像に星川、月野の二人が名前を書き込み、二人で同様の夢を見、実行し、邪淫に溺れ、そして最後にはお互いを貪りあうという結果を招いています。
彼女らをイゴーロナクは気に入ったようで、祝福を与え、『情人』に近い存在である『イゴーロナクに祝福されしもの』に変えました。
イゴーロナクに祝福されしもの
この存在は、オリジナルの存在です。
『イゴーロナクの情人』に近しい存在ですが、イゴーロナクの名を知るでもなく、信仰をしている訳でもないのですが、イゴーロナクから接触可能な存在で、かの神のお気に召す性癖を持ち、堕落する可能性があるか、している人間に対して祝福の『徴』として噛み痕を与えます。
祝福を受けた人間は邪悪な行為に没頭し、最終的に恐ろしい堕落の果てに徐々に肉体が腐敗し、腐った死体が歩くような姿に変わり果てます(イゴーロナクの情人と異なり、人間の姿に戻ることはできません)。
この存在に貪られ、死亡しなかった場合、その傷がまるで相手の口のようになります。
このシナリオでは、星川と月野がお互いに貪りあい、月野は肉体的には死亡していますが、星川の全身にある口はほぼ月野のものとなっています。
イゴーロナクに祝福されしものは、生前の特性を反映します。この為、星川、月野の個体はその特徴を反映し、歌でダメージを与える攻撃を持っています。
イゴーロナクに祝福されしもの、下級の奉仕種族、『徴』を受けた無自覚の信奉者
能力値 ロール 平均値
STR (元の人間の能力+5) 16
CON (元の人間の能力+10) 21
SIZ (元の人間の能力) 13
INT (元の人間の能力) 13
POW (元の人間の能力) 12
DEX (元の人間の能力) 15
移動 15 平均耐久力 17
平均ダメージボーナス:+1D4
武器:
噛み付き 60%、ダメージ 1D4+DB(メインの口による噛み付きです)
爪 55%、ダメージ 1D3+DB
組みつき 60%、ダメージ 特殊+1D10の噛みつき。
噛みつき(1D10) 50%、ダメージ 1(組み付き後、1D10回の噛み付き攻撃を受けます)
(生前の特徴を反映した攻撃手段)
装甲:
なし。ただし魔力を付与されていない物理的な攻撃からは最低限のダメージしか受けません。
呪文:
元の人間が知っているものを使用できます。
正気度喪失:
イゴーロナクに祝福されしものの姿を見て失う正気度は1/1D6ポイントです。
イゴーロナクに祝福されしものの組みつき攻撃を受ける事で失う正気度は1/1D4ポイントです。
ジャズ
大正期、明治末期にアメリカに渡った人間からジャズが伝えられています。
大正5年に、米芸能雑誌「バラエティ」で「ジャズバンドがシカゴで結成」との記事があり、以降、「ジャズ」という単語自体は世間に流布しました(ジャズがどういう音楽か、ということは知られず、異国の流行りの音楽ということで用語だけ流行ったようなもの?)。
ダンスホールの隆盛とともに、そこで音楽を奏でた、〜オーケストラと呼ばれる楽団は多くありましたが、歌手は居ませんでした。当時、ジャズは踊るための音楽であり、聴くものではないという認識だったのです。
日本で最初のジャズが奏でられたのは大阪のダンスホールで、その後東京に流れ、そして震災によって大阪に戻っていったという流れがあるようです。
ちなみに昭和5(1930)年にブルースの女王淡屋のり子がデビューしています。
ダンスホール
ダンスホールとは、大正中期に登場した一般向けの社交ダンス場を指します。
バンドか、レコードによる音楽の演奏と、客とダンスをする主に女性ダンサー(当時は舞踏手と呼ばれました)がおり、チケットを買って目当てのダンサーと踊りました。このことから、テキシーダンサーなどとも呼ばれています。
ダンサーの服装は昭和6年頃までなんと和服であり、その後徐々にドレスに変わっていったと言われています。
元々、社交ダンス自体も日本の文化風俗になく、古来よりの男女7歳にして席を同じくせず、などという習慣も手伝って、男女が身体を寄せて踊る社交ダンスは軽佻浮薄な文化の象徴とも見られたようです(その他にも、ダンスホールがらみで醜聞や、売春等の行為もあった為、世間の見る目は厳しかったようです)。
様々な起源が囁かれていますが、ダンスホールの元祖は関西方面であると言われていますが、関東圏では大正7(1918)年に横浜の鶴見の花月園にダンスホールが開設されたのが最初だと言われています。
大正中期から帝都市内にもダンスホールの開業が相次ぎますが、震災で一旦は関西に流れ、その後また帝都に戻ってくるという流れになります。
震災後、京橋の日米舞踏場や、フロリダ(いわゆる『ダンスホール事件』の舞台)などが開業し(カフェからダンスホールへ転向するのも少なくなかったようです)、醜聞と事件を起こしながら、昭和15(1940)年のダンス禁止令が出るまで、営業が続けられます。
この後、これらのダンスホールは戦後の新たな風営法が確立するまで復活しませんでした(先に、進駐軍向けのものは開設されたらしいですが)。
なお、歴史の教科書にも出てくる政府が社交ダンス場として建設し、当初は持てはやされた鹿鳴館ですが、明治16(1883)年に落成後、わずか4年後の明治20年、それまでの鹿鳴館にまつわる様々な失態、醜聞からダンスが禁止されており、よくある「鹿鳴館で華やかな〜」のような時期はかなり短い期間です。
さらに明治27年には華族会館として払い下げられ、戦時の娯楽規制の為か、昭和15(1940)年には解体されてしまっています。
謝辞、あるいは参考資料
本シナリオは、ナイトランドのVol.6に掲載されていた田中啓文『歌姫のくちびる』が参考となっています。
当初は、中〜長編の予定でしたが、初心に戻って「来た、見た、狂った」形式の単純なシナリオに縮小して作成されています。
探偵小説風でも、ホラードラマ風でキーパーの好みでシナリオを演出してください。
毎度ですが、本シナリオのテストは大阪でお世話になっているサークル様で実施しています。関係の方々に感謝を。
最後にちょっとだけ
シナリオを縮小するのは、シナリオ製作者としては惜しい気が満載になるのですが、今回は敢えて挑戦してみました。
珍しく、上から順に流してもシナリオが成立するようになっていますので、事前準備も少ない分、NPC等の演出を検討すると盛り上がるかと思います。