天地交響曲 終幕部 悲鳴の楽器、不完全な音楽


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終幕部 悲鳴の楽器、不完全な音楽

 こちらの終幕部は、元子に綾を売るか、あるいは綾をしばいてどうにかすればよいという安易な行動を取った場合や、元子の陰謀が上手く行った場合に流れます。
 綾が死亡するか、あるいはそれに近い状態となった場合や、元子に捕らえられるかした場合、死体は回収されて神殿の一部として『悲鳴の楽器』として再利用されてしまいます。
(無いとは思いますが、綾の死体を完全に破壊した場合は、この場面は発生しません)
 また、リンケージ「仮面舞踏会」において、元子のシャンを引き剥がしたものの、その駆逐に失敗した場合、この場に現われる元子は別の身体に乗り移っています。
  1. 演奏会への招待
  2. 悲鳴の楽器

演奏会への招待

 9月1日の朝方、探索者達はシナリオのこれまでの経過によって、毛利姉妹のどちらかから招待を受けます。

・元子と手を組んでいる場合
 綾を売るなり、元子の依頼などを積極的に受けて、彼女の手助けをするなどしており、関係が良好である場合です。
 元子の使者が探索者を訪れて、「準備が完了したので、本日の正午に北多摩の別邸に来て欲しい」と伝言されます。

・元子と手を組んでいない場合
 探索者が元子と敵対的な場合や、あるいは隆子と敵対していない場合など、元子との関係が悪い場合です。
 女学生探索者の元に隆子の使いを名乗る男が現われます。
 その男は、「隆子様は、おそらくもうお戻りになりません。自分が戻らないときに、貴方への言伝を頼まれました」と言います。
 その内容は、北多摩にある毛利の別邸で、おそらく『音楽』が奏でられるだろう。姉が奏でる音楽はおそらく、ろくでもない代物になる。出来れば、貴方がたに止めて欲しい、という内容のものです。

 これらの招待を受けるかは探索者次第ですが、北多摩へ赴かなかった場合、帝都で関東大震災に遭うことになります。

キーパーへ:
 関東大震災は9月1日11時58分の為、正午の少し前に探索者が到着するように誘導してください。

悲鳴の楽器

 元子との関係が悪い場合は、毛利の別邸のある森に配置されているザイクロトルからの怪物は通常通り、警戒行動を行なっています。
 事前にこの北多摩の別邸で彼らと遭遇したことがある場合や、探索者が警戒を怠らなかった場合は、《目星》によって発見することが出来ます。そうでない場合は、ザイクロトルからの怪物の《忍び歩き》と、探索者がそれに気が付いたか《聞き耳》の判定が必要になります。
 この場のザイクロトルからの怪物は侵入者を阻止するように命令されています。探索者を別邸へ行かせないように、彼らは立ち塞がります。これを振り切るには、DEXの対抗ロールを行なわせるとよいでしょう。前と同じく、彼らは別邸の中にまでは追ってきません。

 元子との関係が良好の場合は、ザイクロトルからの怪物は特に襲ってきません。探索者の方から《目星》で探さなければ、発見することもありません(発見してしまった場合は、0/1D6の正気度を喪失します)。

 探索者が別邸へ辿りついた後、以下の描写を行なってください。

 以前に、この玄関ホールを訪れた時、そこは雑然とした倉庫めいた印象を受けたが、今は全くことなる。
 余計なものは全て取り除かれ、探索者には理解できない機械、装置の類が整然と並べられ、それらは中央の円錐塔から出てきているパイプか、配線に接続されている。その中で一際目立つ装置は、高さ3メートルほどの円筒形のもので、それがここにある装置の中央にあり、全ての装置と接続されてように見え、それらを制御する中枢に思えた。
 その中央の装置と、円錐塔の間に毛利元子は立っており、目の前にある何か小型の装置を操作しているところだった。

 元子は探索者の侵入に気が付くと、操作を止めて振り返ります。

 元子との関係が良好の場合は、以下の台詞で出迎えられます。
「やあ、ご苦労。
 こんなところまで悪いわね。これも、黒澄綾の遺言のようなもの。
 そう、キミ達にもこの音楽を聴いて欲しいそうよ」

 元子との関係が悪い場合は、以下の台詞となります。
「そう、ここまで追ってくるとはね。
 キミ達もしつこいな。それとも、よほど暇なのかしら」
 すでに事成れり、いつも以上に余裕を持った態度で元子が探索者に言います。

 探索者が無言のまま襲い掛かった場合は別ですが、元子は探索者とは一応対話しようとします。ただ、何か面白く堪らない、といった様子で笑いを堪えています。
 探索者との対話の後、元子はくすくすと笑いを堪えながら言います。
「ああ、奴らの技術がここで役に立つなんて!
 これも、黒澄綾のおかげ。彼女は奴らとも取引をしていて、その技術を我が一族にもたらし、新たな楽器を作らせたのよ。
 そう、前の春子の楽器の着想は、この技術から来ているの!
「そして、それは今こうして、彼女の為に使われている。
 ふふ、黒澄綾も本望でしょうね。何しろ、究極の音楽を奏でる為の楽器そのものになったのだから!」
 元子が制御盤の何かを操作すると、今まで中央の円筒形の中は不透明な状態であったのが、澄んだ色の液体に切り替わり、その中に黒澄綾の死体が浮かんでいるのが分かります。彼女の首から背中にかけて複数のケーブルが接続されており、それが一旦円筒形の上部に集まった後、外に出てから円錐塔に接続されています。
 この黒澄綾の死体を見た場合、《医学》か《アイデア》を行なってください。成功した場合、この黒澄綾の死体は元子の言う究極の音楽を奏でる為の楽器の一部として再利用されている事を理解してしまい、1/1D6+1の正気度を喪失します。失敗した場合、単に黒澄綾の異様な状態に驚くだけである為、0/1D4の正気度を喪失します。また、探索者が黒澄綾を殺害している場合、正気度の喪失はさらに+1されます。

「さあ、はじめましょうか。
 究極の音楽を、黒澄綾の求めた音楽、我が一族の悲願の音楽を」
 元子が再度、制御盤を操作すると、『悲鳴の楽器』は起動するとともに、音楽を奏ではじめます。

 円筒の中の黒澄綾がおもむろに歌い始める。それは生前と同じものであったが、死者の音楽と呼ぶのが相応しいものだった。
 それに呼応して周辺の装置も音楽を奏で始め、それは綾の声に従って制御され、統一されて激烈な音の奔流を作り始める。
 生前の彼女の音楽の如く、聞くものを魅了する天上の音楽であることには間違いなったが、そこには感情が欠落していた。
 激越な音の奔流は、ただ物理的に空気を震わせ、そこには黒澄綾の音楽にあった、魂を振るわせる峻烈なまでの感情の波動は存在していなかった。
 だが、機械となった音楽は正確無比に神殿で奏でるべき音を発する。そこに居る誰もが、この音楽に違和感を覚えながらも、神殿に再び灯が点り、正しく起動したことを感じた。

 ここで奏でられる音楽は黒澄綾のそれに似た激烈な音の奔流であり、聞くものを魅了する天上の音楽であることは間違いないのですが、黒澄綾のそれとは異なり、そこには感情と言うものが欠落しています。
 文字通り、機械の奏でる音楽であり、そこにあるべき情動が失われているのです。
 この機械の音楽を聞いた探索者は、1/1D10+1の正気度を喪失しますが、この非人間的な音楽は如何なる狂気も引き起こしません。狂気に陥った場合、逆にあらゆる感情が引き潮のように遠のいて行き、より冷静にこの場を見詰めている自分を発見します。

 探索者の判断によりますが、力ずくで元子を止めようとした場合、戦闘ラウンドが開始されます。
 音楽を止める為には、黒澄綾が歌っている円筒形の装置を破壊する必要があります。
 単純に破壊する場合、この装置は5点の装甲と20点の耐久力を持っています。そこから出ている配線を狙う場合、配線自体は装甲なし、耐久力も1点ですが、遠距離からの射撃では1/4のペナルティが課されます。また、元子の部下がこの装置の前に立ちはだかっている為、配線を破壊するにはまずこれを無力化する必要があります。
 また、元子の前の制御盤は攻撃しても無駄です。制御盤にダメージを与えた場合、それは炎を上げて破壊されたように見えますが、元子は探索者を馬鹿にしたように言います。
「前にも言わなかったかしら。この装置は、外部からの操作を無視している、と。
 これはただ火を入れる為だけのものよ」

 探索者と元子が敵対的でない場合か、戦闘が開始されてから6ラウンド、あるいはキーパーの判断のラウンドの経過後、円錐塔が明滅を始めたかと思うと、地鳴りとともに地面が大きく揺れ始めます。
「まさか、神殿が、暴走している?!」
 元子が叫んだ次の瞬間、円錐塔は一瞬で崩壊し、元子の表情が驚愕から恐怖へと変わったその瞬間、崩壊した円錐塔が上げる土煙の中からポリプ状の付属物がついた節のある円筒形の触手が伸び、蠢いたかと思うと、巨大な二枚貝のような姿が這い出ます。

 崩れた円錐塔の下から這い出たものは、それは基本的には何対ものしなやかな脚に支えられた二枚貝だった。
 開いた貝殻の間にはぬめぬめと光る人型を思わせる肉塊があり、そいつから先端にポリプ状の付属物がついた節のある円筒形の触手が無数にのびている。
 顔と思われる部分には深く窪んだ目を持ち、いやらしい黒髪に覆われた身の毛のよだつほど残忍な、口の無い顔を見たような気がした。
 そいつは円錐塔が埋まっていた地下から這い出してきたのだが、移動しているのではなかった。如何なる作用によるのか、そいつはただでさえ巨大な体が急速に増殖し、膨れ上がり、自分自身の姿を形作りながらさらに大きくなっていく。
 探索者の見ている前で、そいつはすでに倍の大きさになっていた。

 崩壊した神殿から姿を現したザエダ=グラーを目撃した場合、1D10/5D10の正気度を喪失します。
 ザエダ=グラーはすでに二枚貝が開いた姿で地上に姿を現します。円錐塔の地下、神殿の炉心に顕現したこの神は二枚貝を開いて核爆発を起こしたことで神殿は再起動を果たしたのですが、その後、怒れる神は音楽によって鎮められず、増殖(巨大化?)を開始したのです。
「神殿が」
 呆然とする元子を、円筒形の触手が薙ぎ払い、彼女は死亡します(この触手に触れるものは14D6のダメージか、次のラウンドに死亡します)。
 円錐塔の崩壊が止んでも、地鳴りは止みません。さらに、崩壊した時以上の揺れがその場に居る者たちを襲います。
 探索者達は増殖するザエダ=グラーから地震の揺れに耐えながら逃げ出し、帝都に戻るまでにその地震の甚大な影響を知ることとなります。

 6ラウンド以内に黒澄綾が歌っている円筒形の装置の破壊に成功した場合、彼女の歌は止み、音楽は消失します。
 しかし、次の瞬間、彼女は悲鳴を発します。この激烈な感情の迸りは音楽を奏でていた装置とも共鳴し、その場に居る全員のMPへ1D10点のダメージを与えるとともに、1D4/1D20の正気度を喪失させます。
 そして、円錐塔が暗く明滅した後、完全に沈黙します。
 この後は毛利元子側の怒りを買い、彼女らの猛攻を受けることになりますが、戦闘開始から6ラウンド後に、地面が大きく揺れ始めます。
 この揺れは次第に大きくなっていき、立っていられない程になります。この揺れにより、毛利の別邸と、円錐塔が崩壊を始めます。
 元子は崩壊を始めた円錐塔を見て恐怖に近い表情を浮かべながら、「馬鹿な、神殿が」と呟きます。黒澄綾の歌によって負荷が掛かり過ぎた神殿が、地震によって止めを刺されたのです。
 元子は崩壊する神殿の跳ね上げ戸へ飛び込んで姿を消します。
 地震が始まってからの状態ではあらゆる行動に対して-20%のペナルティを受け、また毎ラウンドDEX×5の判定に失敗すると転倒して移動ができなくなってしまいます。
 崩壊する毛利の別邸から逃亡するには出口が近い為に特にロールは不要ですが、元子が生きている場合、探索者が出口に向かった時点で口笛のようなものも吹いて、ザイクロトルからの怪物を呼び集めます。
 探索者は元子とザイクロトルからの怪物の挟撃に遭いながら、逃亡、あるいは撃退に成功した場合、帝都に戻るまでにやはり地震の激甚な被害を知ることとなります。