the Actress of the Dead
「死女優」
「ちょっと死んでみただけですわ」
────────── 平松大季『ドイツ屋敷怪奇譚』(RPGマガジン90号掲載シナリオ)より
注意、あるいはお約束:
プレイしてみたい人、プレイするかも知れない人は読まないでください。読んで良いのはキーパーか、またはプレイする予定のない人だけです。うっかり目次を見てしまった人は、「記憶を曇らせる」の呪文でも使って忘れてください。万が一そのままプレイに参加したりすると、貴方の悪徳に誘われて隣のプレイヤーにイゴーロナクが憑依するかも知れませんよ。
そして当然ですが、このシナリオはフィクションです。
現実のいかなる人物、団体、そのほかもろもろのものと一切の関係はありません。
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本シナリオは下記の目次のような構造となっています。
まずははじめに、シナリオの概要と読み進み、シナリオの本体へ進むのが良いでしょう。
シナリオの目次:
はじめに
シナリオのスペック
本シナリオは、『クトゥルフ神話TRPG』向けであり、大正前期、震災前の帝都を想定しており、舞台として大正時代『クトゥルフと帝国』あるいは、本『帝都モノガタリ』を対象としているシナリオです。
プレイヤーの人数は2〜4人、作成したてから、数回の探索による成長の探索者を想定したデザインとなっています。
プレイ時間はキャラクターの作成を含まず、1〜2時間の短いシナリオを想定しています。
慣れたキーパー、プレイヤーにはそれほど取り回しの悪いシナリオではありませんが、そうでない場合は取り回しが不親切な部分がありますので、ご注意ください。
始める前に
実際のセッションを始める前に、これらのことに注意するか、プレイヤー達に直接告げてください。
シナリオの傾向
本シナリオは、探索が中心となるシナリオとなりますが、探索の要素も少なく、シナリオの流れはオーソドックスな(?)「来た、見た、狂った」的なシナリオとなっています。
最後に戦闘がある可能性はありますが、ひどく恐ろしい状況も無い、かなり地味で地道なシナリオです。
「謎は解かれなければならない」必要はありませんが、「手がかりは提示する」必要はあります。
情報は全て出し尽くす、というのが理想的ですが、探索者の選択、行動によって得られない情報も発生することでしょう。ある程度、キーパーの方から誘導、あるいは具体的にこうすれば?と提示することも必要になってきます。
キーパーは適宜(特に探索者の行動が止まってしまった場合等)、探索者を誘導するようにしてください。
PC作成時の注意、立場
本シナリオでは特に個別の導入を行う想定をしていません。
探索者は全員、シナリオに登場する劇団『技術座』の関係者と面識があるか、そのパトロンである古井と関係があるなどして、『技術座』の劇場へ演劇を観に来ていることになります。
ただ、探索者のうち最低一人は、シナリオ
『緑魔』で登場した高等遊民、古井耕市と関係があるようにしてください。
PC同士の関連付け
基本的に自由です。シナリオに参加する理由付けを作るようにしてください。
プレイヤーから提案を積極的に受け入れて、シナリオに参加する理由付けを作成するようにしてください。
NPC達に絡むように、探索者の職業や趣味に合わせて、関係を構築すると楽になるでしょう。
シナリオの概要、真相(キーパー向け)
探索者達は『技術座』の関係者か、あるいはそのパトロンである古井の要請に応じて東京市内にある『技術座』へと、演劇を観に赴くことになります。
その舞台はまったく普通で、特にどうというところは無いのですが、舞台のクライマックスで『死女優』と呼ばれて噂になっている初月須和子の死を目撃します。
しかし、舞台が終わると死んだはずの須和子は何事も無かったように起き上がり、舞台袖へと消えていきます。
探索者達はこの異様な光景を見た後、『技術座』の座長である寒田からこの件についての意見を求められ、そして調査をして欲しい依頼を受けます。
劇場内を探索しながら、何度も死に、復活する須和子を探索者が目撃することになります。
探索の結果、劇団内部の複雑な人間関係と、須和子の異常な行動、そしてその原因であろうと思われる、すでに死んでいる渋谷の行為を知ります。
渋谷は、須和子を永遠に留める為に、不死の研究を行い、手に入れた『不死の書』から得た知識で『クァチル・ウタウス』の存在を知ります。そして、かの神との契約を『不死の契約書』と呼ぶ石板に封印することで、須和子を永遠に留めることに成功しました。
探索者達はこの石板を探し、そして須和子への対処を決断することになります。
須和子が死なないのは、『不死の契約書』によるものです。
彼女は気軽に死に、そして甦ってきます。これは『クァチル・ウタウス』の時間を止める効果に加え、渋谷が研究した雑多な不死の魔術の混合が生み出した冒涜的な復活の効果です。
しかし、にわか仕込みの渋谷の魔術は、徐々に須和子の精神と肉体を蝕み、須和子は今や完全な狂人になってしまいました。
登場人物(NPC紹介)など
劇団『技術座』
いわゆる新劇を上演する劇団で、高尚な芸術志向なものでなく、今で言う大衆演劇に近いものを目指しており、それが『技術座』の名前の由来となっています(つまり、彼らが目指すのは『芸術』(アート)ではなく、万人向けの『技術』(テクネ)である、ということです)。
この為に、プロや批評家達からの評価はかなり低く、同じ新劇の劇団からも低く見られていますが、敷居が低く、しかも分かりやすく、大衆受けのよいテーマを選ぶこともあって、一部の演劇愛好家達には受けており、何人かのパトロンもついていました。
旗揚げ後、順調に劇団は成長を続け、よいパトロンも見つかり、借り物の劇場ではなく、東京市内の寄席を買い取って改造した小さいながらも自身の劇場を持つまでに発展します。
新劇の劇団の例に漏れず、複雑な人間関係が絡み合っていますが、看板女優である初月と、脚本家の渋谷によって支えられていたところを、渋谷が死亡してしまった為に、その経営が傾きつつあります。
芸術、演劇を志す大学生も多く参加しており、一部では不良学生の巣のように吹聴されていることもあります。
初月須和子(みかづき・すわこ)、死女優、呪われた女
『死女優』の異名をとる女優で、『技術座』の看板女優です。
すでに三十路も半ばのはずですが、非常に若い容貌をしているとともに、どこか退廃的な雰囲気の漂う色気のある女性です。
渋谷とは内縁のような関係であり、一緒に『技術座』を盛り上げていました。
渋谷が死んだ後、何度もその後を追おうとしましたが叶わず、それが話題となって『技術座』の公演にも人が増えるという状態となっています。そして、彼女の事故や自殺が報じられる度に、その死にっぷりが上がるということで、今では『死女優』などという呼び名が付けられています。
須和子は、渋谷がクァチル・ウタウスと結んだ契約によってその肉体の時間が止まっています(完全なる不老不死です)。
本人にはその自覚が無かったのですが、度重なる事故、自殺によって、自身が不老不死であることに気付き、今では死ぬことに躊躇いを覚えなくなっています(そのうえ、死ぬ度に正気度が減少している為に、今ではすっかり正気を失っています)。
STR 13 CON 9 SIZ 15
INT 13 POW 11 DEX 9
APP 17 EDU 15 SAN 0
耐久力 12 ダメージボーナス +1D4
技能:言いくるめ 80%、芸術(演劇) 80%、信用 70%、心理学 70%、説得 70%、値切り 75%、その他の言語(英語) 50%、拳銃 60%、短刀 60%
渋谷抱影(しぶたに・ほうえい)、脚本家、須和子の恋人
『技術座』付の脚本家であり、須和子の愛人だった男です。ちなみに抱影は筆名で、本名は芳一(ほういち)です。
生前は常日頃から、「僕は須和子の為に脚本を書いているのだ」「須和子が最も美しく見えるように演出しているのだ」と言い、そして、「僕は須和子の為に生きているのだ」と公言して憚りませんでした。
脚本を書くだけではなく演出も行っており、人手が足りなければ出演する何でも屋でしたが、舞台の上においては何故か須和子と共演することは避けて、絡みの少ない脇役のみを演じていました。
渋谷はクァチル・ウタウスとの不死の契約をどうにかして須和子に与えています。
この契約は『不死の契約』と彼が呼ぶ石板に封じ込められ、『技術座』の舞台の下に隠されています。
渋谷自身は、『不死の書』を読んだことと、クァチル・ウタウスと接触したことにより背骨が曲がり、老衰して死亡しています(30代後半にも関わらず、自然な老衰死をしています)。
※渋谷は死人である為、能力値等は示しません。
寒田正二(さむた・しょうじ)、技術座の座長、渋谷の親友
『技術座』の座長であり、自殺した渋谷の親友でした。
脚本家である渋谷を失って以降、『技術座』の公演は失敗続きであり、かろうじて須和子の人気と、『死女優』という奇妙な噂によって成り立っています。
寒田自身は『技術座』はもう畳んでもよいと思っていますが、渋谷との約束があり、須和子や団員の今後を考えて、活動を続けています。
STR 10 CON 14 SIZ 13
INT 15 POW 12 DEX 13
APP 13 EDU 18 SAN 48
耐久力 12 ダメージボーナス ±0
技能:オカルト 50%、機械修理 50%、経理 75%、芸術(演劇) 70%、信用 60%、心理学 50%、説得 60%、電気修理 40%、図書館 60%、博物学 70%、変装 50%、法律 50%、歴史 60%、その他の言語(英語) 40%、その他の言語(フランス語) 40%
川谷筑紫(かわたに・ちくし)、技術座の男優
川谷七重(かわたに・ななえ)、技術座の女優
『技術座』の古株となりつつある兄妹です。
劇団の脇を固める男優、女優であり、『技術座』立ち上げ当時からのメンバーです。
渋谷の事故死によって、この二人は劇団内部での発言権を強めていますが、未だに看板女優として舞台に立つ須和子の為に、劇団内部でも浮いた存在になりつつあります。
また、七重の方は渋谷に好意を寄せていたこともあり、それを兄の筑紫が後押ししていたこともあり、渋谷の死以降は須和子との対立を深めています。
七重は妙に惚れっぽい、あるいは人気のある男性に近づく性質の女性で、現在は若手の宗谷に思いを寄せています。
川谷筑紫、須和子におびえる男
STR 12 CON 13 SIZ 15
INT 12 POW 10 DEX 12
APP 14 EDU 15 SAN 38
耐久力 14 ダメージボーナス +1D4
技能:医学 50%、隠す 50%、隠れる 50%、芸術(演劇) 60%、信用 60%、説得 60%、値切り 70%、変装 70%、その他の言語(英語) 40%、その他の言語(ドイツ語) 30%
川谷七重、須和子に怒る女
STR 10 CON 12 SIZ 14
INT 10 POW 12 DEX 15
APP 15 EDU 10 SAN 48
耐久力 13 ダメージボーナス ±0
技能:言いくるめ 70%、オカルト 60%、聞き耳 75%、芸術(演劇) 65%、信用 40%、説得 50%、跳躍 70%
宗谷玉風(そうや・ぎょくふう)、技術座の若手俳優
技術座の若手俳優であり、売り出し中です。
何故か須和子に惹かれており、彼女に誘われるまま、舞台で心中を図ります。
しかし、何故か須和子は死なず、混乱したまま自身も死ぬこともできずに、呆けています。
元来、気の弱い男なのですが、須和子にまつわる妙な噂から、今回の舞台での心中を図りました。
STR 8 CON 10 SIZ 16
INT 15 POW 9 DEX 14
APP 16 EDU 15 SAN 33
耐久力 13 ダメージボーナス ±0
技能:運転(自動車) 50%、応急手当 60%、オカルト 60%、回避 45%、隠れる 70%、聞き耳 70%、芸術(演劇) 60%、忍び歩き 70%、説得 50%、値切り 50%
塩野洋(しおの・ひろし)、技術座に入り浸る学生
技術座の手伝いをしながら自身も脚本家を目指す大学生です。
渋谷に憧れて技術座の入り込み、大学よりも技術座に居ることが多いという状態になっています。
渋谷の死後、須和子と良い仲になりかかったのですが、目の前で死から復活(?)する彼女を目撃したことで、彼女を恐れるようになっています。
脚本を書いてはいますが全くものになっておらず、技術座ではもっぱら雑用扱いとなっています。
STR 11 CON 11 SIZ 11
INT 14 POW 15 DEX 10
APP 10 EDU 15 SAN 65
耐久力 11 ダメージボーナス ±0
技能:運転(自転車) 60%、オカルト 60%、芸術(演劇) 60%、経理 60%、説得 40%、図書館 55%、博物学 65%、歴史 40%、その他の言語(英語) 50%、武道(柔道) 60%、組み付き 60%
導入部
探索者達は、帝都の一部の人々の間で噂に上がっている『技術座』の公演を観に行くことになります。
『技術座』に赴く理由は探索者それぞれが職業、技能などから考えてもよいですが、探索者のうち一人以上は古井の知り合いであることにしてください。
探索者、及び劇団のパトロンである古井耕一の誘い、あるいは彼が出席できない為の代理人等で、帝都の一部の人々の間で噂に上がっている『技術座』の公演を観に行くことになります。
古井は『技術座』のパトロンの一人で、探索者に座長である寒田への挨拶をしておいて欲しい、と頼んできます。
キーパーは『技術座』の説明を探索者に行ってください。
探索者達が『技術座』へ行く理由は古井の関係の他に、自身が演劇に興味があるなどでも構いません。公演を探索者が揃って観る、という状態であれば、そこに居る理由は特にこだわる必要はありません。
基本的に探索者はすでに知り合いであることが望ましいですが、キーパーの判断や好みによって、たまたま事件に居合わせることになります。その場合は、探索者達が協力するようにキーパーとともに演出を行ってください。
また、≪芸術≫を持っている探索者が、脚本家の渋谷が怪死していることを思い出し、たまたま劇場に来ていたなどとしてもよいでしょう。
その日の舞台
脚本家の渋谷はすでに亡く、その日の舞台は『技術座』向けに劇団外の人間が書いたものが上演されます(渋谷が書き溜めた脚本のほとんどもすでに消化されている状態です)。
それは金色夜叉的な、現代でいえば午後2時ごろからやっているようなメロドラマの類で、ハンサムな主人公と人妻のヒロインの禁断の愛、みたいな平凡な筋立てに平凡な演出で、よく言えば分かり易いものです(そして何故か途中にチャンバラがあったり、アクションがあったりします)。出演者も気合は入ってはいますが、素人芝居に近いものがあり、唯一、人妻役を演じている須和子だけがまともと言える演技が出来ています。
ヒロイン役の須和子の他に、ハンサム役は若手の宗谷が演じており、終始、須和子にリードされている印象を与え、悪役のような親戚役を川谷兄妹が演じて妙に真に迫った攻め方を見せたり、その他の端役は学生や、知り合いの劇団から借りてきた役者候補が使われています。
また、ペラゴロのような、とまでは行きませんが須和子には固定のファンが付いていると見えて、演劇の合間に合いの手が入ったりもしています。
探索者達が楽しみながらか、あるいはあくびを堪えながら観ているうちにクライマックスになだれこんだ舞台は、ついに禁断の愛が発覚し、追い込まれた二人が心中を図る場面に差し掛かります。
どこか真剣な様子で、二人は演技としてか、あるいは何かを決意するかのようにうなずきあいます。
短刀を構えた宗谷が須和子を刺すと、そのまま須和子は倒れます(≪(刃物の武器)≫に成功した場合、須和子が避ける素振りも見せず、逆に即死する為に急所を刺されに行ったと分かります)。
この様は、とても演技には見えず、彼女の腹部から流れる血液の量も尋常ではありません(通常、舞台の床は客席からは見えにくいものですが、寄席を改造したこの舞台は舞台が低くなっており、客席からもその床がよく見えます)。
≪医学≫か、≪(刃物の武器)≫に成功した場合、宗谷が手にしている短刀はおそらく本物であり、須和子に致命傷を与えたことに気が付きます。
刺された須和子を目撃した場合、この公然たる殺人の現場を目撃したことにより、1/1D4の正気度を喪失します。
そして宗谷の方は演技の続きのようにわなわなと震えた後にその短刀を自らの首に向けますが、恐怖に駆られた表情のまま短刀を捨て、「嫌だ、僕は、嫌だ」と叫ぶと舞台から去っていきます。
この幕切れに、いかにもメロドラマ風な心中を期待していた観客たちは、「前と結末が違うな」とか、「やはり、須和子さんの死に様は本物のようだ」などと口々に話しながら、席を立って劇場を後にしていきます。誰一人、須和子が死んでいるとは思っていません。
幕が降りない為に、客が引くまで須和子は死んだままですが、その様子は本当に死んでいるようにしか見えません。前の≪医学≫、≪(刃物の武器)≫に成功している場合、どう考えても死んでいると思えますが、客席はまるで当然とばかりに無視するか、あるいは囃し立ててから客席を後にしていきます。
探索者が舞台に上がろうとした場合は、塩野を使って止めてください。
そして、周りの客から「お客さん、初めて?須和子さんの死にっぷりは本物みたいだろう?流石、『死女優』と呼ばれることはある。大丈夫、本当は死んでないよ」と言われます。
しばらくして、客席がほとんど空になると、むっくりと須和子は立ち上がります。それはまるで平常時と変わらない様子で、客席に目を向けて探索者達に気が付くと、「あら」と首をかしげてから舞台袖に引っ込んでいきます。
よく観察すれば分かることですが、すでに乾きかかっている大量の血液が床に残っていますが、彼女の刺された傷口からはすでに流れていません。また、大量の血を失ったにも関わらず、彼女の顔色は平常通り、血色のよいばら色です。
この須和子が生き返る様を見た探索者は、前のロールに成功している場合、つまり須和子の死を確信している場合は、1/1D8、そうでない場合は、1/1D4の正気度を喪失します。
キーパーへ:
シナリオ内で、須和子は気軽に死んで、生き返ります。
須和子が死ぬ場面では最大で4点、生き返る場面では最大で8点までしか正気度を失わないことに注意してください。
(探索者が背景的に須和子と親しいことにしていた場合は、死亡時は1/1D6で、最大6点となります)
もしも、彼女が生き返る様をじっくり観察する、などと探索者が宣言した場合は、『時が戻る過程を部分的に目撃することになる為に、1D10/1D100の1/2』の正気度を喪失する可能性があります。
探索部:
シナリオのメインとなる探索部です。
探索者達は劇場の関係者ではありませんが、古井の代理として座長である寒田に挨拶をする必要があります。
須和子が引っ込んだ後、客席に残っている探索者達に、一人の若い男が声をかけてきます。
この男は、劇団員ではありませんが使いっ走りの下っ端である塩野で、探索者達が古井の使いであることを告げれば、「ああ、古井先生の!」と大袈裟に驚いた後、劇場の奥にある座長室へと案内されます。
キーパーへ:
『技術座』の劇場は、寄席を買い取って改築、増築したものとなっていますが、特に地図は示しません。
キーパーの任意で地図を描くか、あるいは単に探索者の行動に合わせてそれぞれの部屋があることを告げてください。
座長室にて
和室を改造して洋室としているものの、ところどころの家具は和風であり、どこかちぐはぐな印象を与えますが、質素で機能的な印象を与える部屋です。
そこには座長である寒田が待っており、一通り世間話の後に、今日の舞台はどうだったか、と聞かれます。
探索者の返答にもよりますが、彼は最後の須和子と宗谷の様子がおかしくはなかったかと確認してきます。
探索者があれは死んだのではないか、と聞いた場合、青い顔をしながらやはり、と頷きます。彼自身もおそらくあれは本物の刃を使って、舞台の上で心中でもしようとしたのではないかと思う、と言います。
実は他にもああいった場面、須和子が自殺を3度(鉄道自殺、飛び降り自殺、縊死)、心中を2度する場面を見ていると告げます。いずれも、死んでいるとしか思えず、鉄道自殺などは頭部が確実に粉砕されていた、1度は確実に死んでいるところを自身で確認したとまで探索者に語ります。
しかし、須和子は翌日、早い時には数分も経たないうちに何事も無かったかのように再び現れ、普通に振る舞う為に、あれは何かのトリックではないだろうかと思えることもあると言います。
そして、古井から君たちはこういったことに慣れている人々だと聞いた、須和子について差し支えなければ調べてほしいと依頼してきます。
劇場の中を自由に歩き回らせる許可とともに、塩野を付けるから自由に使ってよいと言います。
キーパーへ:
座長の寒田は須和子の死を目撃する回数が多く、正気度が下がるとともに、彼女を恐れています。
『技術座』は解散寸前です。
座長である寒田は半ば諦めてはいますが、亡き渋谷との約束により、須和子を主演とする為に劇場を続けているのです。
彼は、須和子がその気になれば、いつでも『技術座』を解散しますが、須和子の方は何かに憑りつかれたかのように、舞台と心中、自死を繰り返しているのです。
解散寸前の劇団に加え、渋谷が死んで以降の須和子の奇行により、現在、『技術座』に残っている主な劇団員は寒田、須和子の他は、川谷筑紫、七重の兄妹、今日の舞台でハンサムな主人公役だった宗谷玉風ぐらいです。
劇団員への聞き込み
劇場内部の探索は、塩野に案内されて各所へ移動することになります。それぞれの場面で、キーパーは探索者の手段に合わせて、適切なロールを行わせるなどして、情報収集を行うようにしてください。
また、塩野を使ってキーパーは探索の誘導を図ることも検討してください(特に、行き詰った場合や、探索してほしい場所へ誘導するなど)。
探索中、須和子は部屋の居るようですが出てくる気配はなく、彼女への聞き込みは基本的には行えません(強引な手段で彼女に迫った場合、遠慮なく死んでみせるのがよいでしょう)。
座長室、寒田の話
座長室でまず寒田から話を聞いた場合、彼は昔を懐かしむような目で語ります。
『技術座』は寒田、渋谷、須和子、川谷兄妹で立ち上げた劇団で、最初は劇団の形でもなく、ちょっとした遊びの集まりのようなものでした。
路上での芝居から始めて、だんだん面白くなってきたうえに演技もそこそこ見られるようになり、浅草の劇場から声が掛かったことで劇団の体裁を整えて、『技術座』を名乗りました。
浅草で舞台を借りていた頃に、パトロンである古井などの目に留まって経済的な援助を得ることでき、増えた団員達もこの劇団でやっていくのだと思い始めて、東京市内の元は寄席だった建物を買い取って、劇場に改造しました。
寒田自身は座長として『技術座』が形になったときから、裏方全般を担当して表には出ないようにしています。
渋谷は脚本家兼演出家として自ら書いたものを自ら演出し、足りなければ自身も舞台に上がっていました。
しかし、舞台上では決して須和子の相手役にはなりませんでした。
川谷兄妹も最初は協力的で、須和子を盛り立てていましたが、渋谷が死んで以降は自分たちが舞台の中心になるように、僕や他の劇団員にも影に日向に働きかけ、不平不満ばかりになっています。
寒田と渋谷とは『技術座』が立ち上がる前からの仲で、寒田、渋谷、須和子の三人で活動していました。
渋谷は、そのときから「僕は須和子の為に演劇をやっているのだし、須和子の為に脚本を書いているんだ」と言って憚りませんでした。
そして、「彼女の美しさを永遠に留めておきたい。演劇の中では、その年齢は止まっているけれど、それを現実に、永遠に留めておきたいんだ」と寒田に語っていました。
渋谷は東京市内に下宿を借りていましたが、『技術座』が劇場を持ってからはそこに入り浸るようになっており、彼専用の部屋が劇場にあり、そのままにしてあります。
渋谷について尋ねた場合、寒田は「彼の死は間違いなく老衰です」と困ったように言います。
死の直前に年老い、背骨が妙な具合に曲がっていましたが、病院でも老衰であると保証してくれています。
ただ、渋谷は寒田とそんなに変わらないので、老衰するような歳ではありません。
「渋谷は急に老け込み、ついには死んでしまったのです。
老け込むと同時に普通の老人以上に背骨が曲がった異様な風体になっており、須和子の前にすら姿を現すのを嫌うようになっていました」
寒田はその他の劇団員については、「直接彼らに尋ねるのがよいでしょう」と言います。
川谷兄妹の楽屋
兄弟の楽屋は二人で使うには少し手狭であり、兄妹とは言え男女で同じ部屋という違和感を覚えます。
部屋の中には兄の筑紫しか居ません。探索者を部屋に案内した塩野が「七重さんは?」と尋ねると、筑紫は不機嫌そうに「今日の舞台は終わっている。どこに行こうがよいだろう」と答えます。
部屋が狭いことを指摘した場合、筑紫は不機嫌な様子を隠そうともせずに本来ならば楽屋だけでも充実させるはずだったが、渋谷の意向で狭い楽屋をそのまま改造して使うことになった、と言います。
そして、『技術座』は何につけても渋谷と座長の意向が優先であり、それはとりもなおさず須和子の為であると語ります。
川谷筑紫は探索者に対しては高圧的な態度を取りますが、古井の名を出すか、≪信用≫に成功した場合は、急に卑屈な態度に変わります。彼としてもそろそろ『技術座』はおしまいだと感じており、次の行き先を考えているのです。
彼も須和子が死ぬ場面を何度か目撃しており、最初は座長の寒田と同じく見間違いやトリックだと思っていたのですが、ふとしたきっかけで彼女と二人のときに間近でその死を目撃してしまいました。
それ以降、彼女からは距離を置き、自尊心の強い筑紫が宗谷玉風に主役を譲って脇役に徹しているのも、須和子に近づかない為です。
探索者が須和子の話を聞こうとした場合、彼はその恐怖を隠すように激昂してみせますが、それは虚しい演技であることがよく分かります。
探索者が重ねて詰め寄った場合、特に今日の舞台の様子について語った場合は、その話を遮って「やめろ、やめてくれ。あの女は死人だ。魔物だ。渋谷が死んで以来、須和子は別の世界に生きているのだ」と叫びます。
(彼もやはり、須和子の死と復活を目の当たりにしている為に、正気度が減っています。さらには、一度は心中の真似事と称して、一緒に死にかかったこともあります)
すぐに筑紫は落ち着きを取り戻し、取り乱したことを詫びます。
「須和子に何かが起こっているのは分かる。だが、それが何かは分からない。
渋谷が妙な死に方をしたのと関係があるかもしれないし、ないかもしれない」
筑紫は、渋谷の死については寒田と同様、老衰であったとしか知りません。なぜ急に老け込んだか、ということも知りませんが、渋谷が死ぬ前に劇場の自分の部屋に籠って何事かしていたことは知っています。
ただ、この渋谷の自室の立て籠もりも脚本を書いているときにはよくあることであった為に、あまり気に留めていなかったと語ります。
強いて渋谷について何かないかを尋ねた場合、彼が死ぬ直前だったが、よく似た老人、後から思い返すにどうやら渋谷本人だったらしい、と舞台の辺りで会い、何かを大事そうに抱えていたようだった、と記憶を手繰りながら話します。
探索者が部屋を後にしようとすると、筑紫は暗い表情で呟きます。
「あの女、須和子は渋谷と死ぬべきだったのだ。
あの男、渋谷は死んでも須和子を縛っている」
劇場の廊下、川谷七重
探索の中、劇場の廊下を移動中か、探索者が須和子の楽屋へ向かおうとした場合に、この場面を行ってください。
須和子の楽屋の前で、二人の女性が言い争っています。
二人は、須和子と七重です。言い争っているように見えますが、実際は七重が一方的に須和子に文句を並べているだけです。
須和子の方は柳に風とばかりに、七重の言い分に頷いているように見えますが、まったく聞き流しています。
この様子に激昂した七重は手を上げようとしますが、須和子はそのまま何も気にせずに楽屋に入ってしまいます。
七重は探索者や塩野に気が付くとばつが悪そうに振り上げた手を下して、兄の筑紫と同じく高圧的な態度を探索者に見せます。
探索者の反応にもよりますが、七重は須和子の悪い噂を並べ立てます。
「渋谷さんが妙な死に方をした後、すっかり劇団はおかしくなったわ。それもこれもあの女のせい。
いい?あの女は最初、渋谷さんの後を追おうとして自殺を図ったのだけど、それに失敗してのうのうと生きている。
その後も、人の気を引こうとして自殺や心中を繰り返しているのよ。
最初は、それは話題になったわ。物珍しさに劇団の演劇を観に来る人も増えた。でも、今はどうかしら。
あの女にも贔屓がいるようだけれども、多くの人はもう気味悪がって劇場にも来なくなってしまったわ。
今、『技術座』が駄目になったのはあの女のせいなのよ」
七重は不機嫌を隠そうとせずに、その場を立ち去ります。
七重は劇団の女優の一人ですが、主演は常に須和子である為に不満が溜まっています(これは、何があろうとも、どのような脚本であろうとも、主演は須和子であることが『技術座』の約束のようなものとなっています)。
渋谷の死後の、幾度かの公演で脇役ながら大きな役を担ったこともありましたが、あまり人気も出ず、話題にもならず、今の状況が作られています。
七重は今の自分の不遇や、『技術座』の不人気は全て須和子のせいだと思い込んでいると同時に、その死を間近に目撃することで正気度を損耗し、彼女の異常性に巻き込まれています。
須和子の楽屋
七重が去った後の、須和子の楽屋の扉は固く閉ざされています。塩野が声をかけても全く反応がありません。
塩野は無言のまま首を振ると、「須和子さんにはよくあることです。別の場所に行きましょう」と提案します。
宗谷玉風の楽屋
宗谷は須和子を刺した後、自分の控室に閉じこもって膝を抱えてガタガタ震えています。
彼から話を聞くには、≪精神分析≫を行うか、何らかのコミュニケーション系のロール、あるいはキーパーが認めるならば、物理的なダメージを与えることによって正気に戻ることにしてもよいでしょう。
宗谷は、「須和子さんが一緒に死のう、と言ったのです」と語ります。
「あの人は渋谷さんが亡くなってから、支えになる人を探していました。そういう人が居ないと生きていけない人なんです。
最初は冗談だと思っていました。でも、舞台の最後、あの場面はいつもは切れない小道具の短刀を使うのに、今日は須和子さんが本物を持ってきて、『これで私を刺して欲しいの。本当に殺してちょうだいな』と。
もちろん、最初は僕も断ったのですがあの人の真剣さに押されてしまって承諾してしまったんです。
でも、舞台で須和子さんが死ぬと、僕は怖くなってしまって…」
宗谷は語り終えると、再び落ち着かない様子でガタガタと震え始めます。
彼は劇団の関係者ではありますが、若手で経営等には深く関わっていません。
宗谷が知っていることは須和子が自殺や心中を繰り返していることや、劇団の経営がよろしくないこと、そして川谷兄妹が須和子を嫌っていること程度は察しています。
この為、劇団関係者の情報はあまり持っていません。
須和子とは深い関係にありますが、実は須和子のこと自体はあまり知りません。渋谷と生前、内縁の妻のようなものであった、とは本人から聞かされています。
須和子が死んでいないことを伝えた場合、「そ、そんな、生きているはずは!」と青い顔をさらに青くし、またも部屋の隅でガタガタと震え始めます。
彼も何度か須和子が死ぬ場面を目撃していますが、やはりトリックか何かだと思っていました。今回は自らの手で殺したはずなのにも関わらず(しかも、目の前でその死を確認しています!)、生きているはずがないことを知っているのです。
その他の劇団員
探索者が劇場内に残っているその他の劇団員や、探索者を案内する塩野から話を聞いた場合等に、以下の情報を与えてください。
須和子は何度か心中を敢行し、そして自身は助かって(?)います。
いくつかは新聞記事にもなり、公演の話題にも花を添える(?)結果ともなっていますが、その他にも自死する場面が何度も目撃されたり、あるいは事故死している場面も目撃されています。
しかし、何事も無かったかのようにまた現れる彼女に大丈夫なのか、聞いた人々に対して、「あら、ちょっと死んでみただけですわ」と気軽に答えたと言います。
彼女はあまりにも気軽に死んでいます。
この為に、近しい者でしかも直接その死を何度も目撃したことがある人間以外は、彼女が「死女優」の呼び名からそのように振る舞っているのだ、と思っていることがほとんどです。
一度や二度、彼女の死を目撃した場合、あまりも気軽に死に、そして生き返ってくる為に、やはり何らかのトリックや、何か死んだように見せかけているだけではないかと思われてます。
しかし、実際に心中を図った場合、その相方は大体死んでいます。
また、一部の劇団員は須和子と親しくなると「一緒に死んでみないか」と誘われたことがあると気味が悪そうに語ります。
彼女は親しくなるとその証(?)に心中や、殺して欲しいと持ち掛ける癖があると噂され、酔っぱらった勢いで何度かそういう目に遭った、という者も居ますが、その次の日には須和子は何事も無かったかのように現れる為に、単なる噂で終わっています。
劇団員も劇団内に漂う微妙な雰囲気を感じ取っています。
劇団員の間でもやはり須和子に批判的なものから、須和子が居るから『技術座』はまだ成り立っているのだ、というものもあり、座長の寒田にしても経営面を評価するものや、須和子に自由にさせ過ぎているなどと様々な意見が噴出しています。
ただ、劇団員の誰もが川谷兄妹はただ劇団に居るのが長いだけで、あまり評価されていません。
新人の宗谷については、もっと度胸が付けば意外と行けるのではないか、などの評価があります。
なんにせよ、『技術座』は渋谷が死んでからおかしくなっている、と誰もが感じています。
舞台
元は寄席の高座であったものを広く改造した舞台です。
普通の劇場に比べて低く、こじんまりとしているのですが、奥行きもあるように改造され、背景の書き割りを置くことも可能で、袖にも十分スペースが取られており、舞台としての機能は十分ですが、寄席らしさを残す為か、何故か幕がありません。
≪芸術:(演劇に関するもの)≫か、≪アイデア≫に成功すれば、この舞台はよく計算されており、脚本によっては十分な効果を発揮するであろうことが分かります(渋谷のことを知っているならば、彼の脚本や演出がその効果を十分に引き出していたことを思い出します)。
探索の早い段階で舞台を訪れた場合は、宗谷が須和子を刺した短刀が残されています。
短刀は舞台用の小道具ではなく普通の切れるものであり、人に突き立てれば十分な殺傷能力を発揮します。
床には血糊も残っており、≪医学≫か≪応急手当≫に成功すれば、血糊は本物の血液であり、致死量を超える血液が流れていることが分かります。須和子は間違いなく、刺されてケロッとしていられるような傷ではないはずです。
舞台に残されているのは以上ですが、舞台を調べた場合、≪目星≫か、≪芸術:(演劇に関するもの)≫に成功すると、この小さな舞台にも通常の舞台のように奈落があることに気が付きます。
あるいは探索者が舞台の上を子細に調査した場合は自動的に気が付くことにしてもよいでしょう。
奈落
雑然と舞台に必要な用具が置かれており、人力ながら迫り出しも用意されています。
今回の演目で奈落は使用されていない為、全く関係が無い小道具、大道具、背景などが雑然と置かれています。
ここは特に目的無く調査しても、舞台に関係する大小道具や背景が置かれていることしか分かりません。
渋谷の部屋の調査などの結果で、石板『不死の契約書』を探す場合のみ、小道具に混じって石板を見つけることができます(この発見に必要なのは気付きのみなので、特にロールは必要ありません)。
渋谷の部屋
部屋の中はまるで数十年の間掃除をしなかったかのように古びた道具と、埃が積もっています。
ただ放置してあるだけにしては、明らかに劇場内にある部屋に比べて経年劣化が激しいことが分かります(これは、渋谷が『不死の書』を読んだことによる効果です)。
部屋の中は狭く、物置だったと思しき部屋を改造したものだと分かります。そこには書き物机と何かの作業台、壁一面の書物が置かれています。
書棚を調べる場合、そこには演劇関係の本や脚本、その資料の他、オカルト関連の書籍も多く、渋谷がそういった研究にも没頭していたことが分かります。≪図書館≫に成功した場合、これらのオカルト書籍の傾向が不老不死を得る為のものが多くみられることに気が付きます。
この書棚にも埃がうず高く積もっていますが、明らかに一部の書物を取り出す頻度が高く、その中でも『不死の書』と題されたものがよく読み込まれていることに気が付きます。
作業台を調べた場合、そこには鑿と金槌、そしてそれを用いて何かを削ったであろう痕跡の石の欠片が多数残されています。
この石の欠片は何の変哲もない、特に珍しくもない石で、作業台に積もった埃の痕跡からある程度の大きさのある石板のようなものだったことが伺えます。
それ以外には特に目立つものは作業台の上にはありませんが、ここで渋谷が作成した石板のような何かは部屋の中には見当たりません。
書き物机を調べた場合、よく使いこまれたこの机の引き出しの中に、彼の書きかけの原稿や、メモを発見します。
原稿で実際に使えるものはすでに劇団員の手に渡っており、残っているのはメモ書きやプロットのみに近いものです。
これらのメモは主に演劇に関わるものと、不死を研究したものに分かれます。
演劇に関するメモを調べた場合、その全てが須和子が主人公であることを前提に書かれていることや、彼女を如何に美しく見せるか、ということに焦点が当たっていることに気が付きます。
不死の研究のメモを調べた場合、それらにも須和子への愛情、あるいは信仰と呼んでもよい言葉が書き連ねられています。
メモ自体は日本語で達筆とは言い難い、金釘流で書かれている為に、このメモを読むこと自体に特に≪日本語≫は要求されません。
このメモをじっくり読んだ場合は、≪オカルト≫+5%を得ますが、研究に4週間かかります。
このメモを読んだ後に、『不死の書』を読む場合、要求される≪英語≫のロールに+20%の修正を得ることができます。
また、『禁じられた言葉』に気付くかのロールにも同様に+20%の修正を得ます。
以下の資料を読み上げるか、ハンドアウトとして探索者に提示してください。
「全ては須和子の為に。
彼女の美しさの為に」
「彼女の中にあったよいものが、失われつつある。
それは過ぎる年月が肉体に与える効果だけではなく、おそらく魂をも摩耗させているのだろう」
「須和子を救う為に、彼女を永遠に留める為に」
以降、洋の東西を織り交ぜた様々な薬や、呪い、オカルト的な医学を研究、実験した結果が書き連ねられている。
「錬金術、黒魔術と言った、戯言など信じていなかったが、ある書物から得た知識によって一定の効果を見る。
これが、本物の知識であるということか」
「英国からまた書物を取り寄せる。
貴重な書物らしい。持ち主が風化した部屋の中で行方不明になる、などという話がある。
そこにはただ、塵の山が残っているらしいとだけ言われているが、ただの噂だろう」
以降は、その『不死の書』と言う書物の研究、翻訳が部分的に記載されている。
「書物には秘密の言葉が隠されている。
直接、言葉にしてはいけないし、読んでもいけないらしい。『禁じられた言葉』ということか」
「書物に隠されているあの言葉は口にしてはいけない。
そうすれば『あれ』が現れる。『あれ』は不死を授けてくれるが、私が欲しいのは私自身の不死ではないのだ」
「今、私が学んでいるものは本物の知識だ。禁断のものだ。これは、知ってはいけないものだったのだ。
だが、私は須和子の為にこの知識を使い、彼女を永遠に留めておく為に、あることを試してみようと思う」
「工作が上手く行かない。自分の手が老人のようだ」
「石板が完成した。あとは試すだけだ」
以降は空白だが、最後に老人の震える手で書かれたような文字がある。
「あれがある限り、彼女は永遠だ」
須摩子の控室の前
この場面は、須和子と七重の口論を目撃した後、再び須和子の控室を訪れた場合に行ってください。
またも七重が須和子の控室の前で何事か怒鳴っています。
須和子の控室のドアは細く開いており、そこから須和子の姿を伺うことが出来ます。
七重は先ほどと同じように須和子を責めていますが、やはり彼女は不思議なものを見るような目で七重の言葉にはあまり反応していません。
業を煮やした七重が手を伸ばして須和子をドアの外に引き出したその瞬間、七重は隠し持っていた短刀で須和子を刺します。
七重は須和子が死なないように見えるは、何らかのトリックであると考えています。
普段から自身が死ぬことはない、とうそぶいていた須和子を殺すことで七重はそのトリックを暴き、彼女に憑りつかれている男共の目を醒まさせようと行動に出たのです(この考え自体が狂気に憑りつかれたものですが)。
七重の短刀を避ける素振りも、抵抗する素振りも見せずに須和子は刺され、その場にばったりと倒れ伏します。やはり、どう見ても死んでいます。
須和子の死ぬ場面を目撃した場合、1/1D4の正気度を喪失します。
その場に崩れ落ちる須和子を見て、「やだ、死ぬじゃない。死なないなんて嘘。ちゃんと、死んでる、わ」と言い、血まみれのまま探索者を見ると逃げ出していきます。
キーパーの判断によって、ここで七重を取り押さえる為の戦闘などを行ってもよいでしょう。
なお、七重を取り押さえても彼女は錯乱しており、まともな話を聞くことはできません。ただ、須和子がまともではない、ということを繰り返すだけです。
須和子はしばらくすると、やはり何事も無かったように起き上がります。そして、「あら、あれは次の舞台の練習ですわ。七重ちゃんもなかなか良い演技をするでしょう」とからかうように言い、艶やかに微笑み、部屋の中へまた引っ込んでいきます。
この復活する須和子を見た場合、1/1D8の正気度を喪失します。
魔導書:『不死の書、カルナマゴスの遺言抄訳』、英語の書物
カルナマゴスの遺言を研究し、クァチル・ウタウスの加護か、あるいは何らかの手段をもって不老不死となる為の手段を研究した書物です。
渋谷が所持していたものは、英語版の写本で英国から取り寄せたものでした。
この書物はおそらくギリシア語版の『カルナマゴスの遺言』を元に書かれているのですが、オリジナルは何時、どこで、誰が書いたかは不明です。
この書物にはクァチル・ウタウスとの接触の手段と、不老不死を得る為の『禁じられた言葉』が暗号をもって書かれています。
この書物を十分に研究する(研究の時間を2倍にする)か、通常の研究、斜め読みでは≪オカルト≫+≪アイデア≫に成功した場合、この書物に隠された『禁じられた言葉』を知ることができます。
この書物はオリジナルと近しい効果を持っており、斜め読みでも内容を数行読んだだけでも1D10の年齢が増加し、即座にPOW15との対抗ロールに失敗した場合、CONを1点失います。周囲、その部屋は同じ分だけ時間が経過します。
『禁じられた言葉』を発した場合、20%の確率でクァチル・ウタウスが召喚される可能性があり、発する度にこの可能性は+10%されていきます(オリジナルと異なり、暗号化されている為に、この書物を読むだけでは効果がありません)。
正気度喪失:1/1D6、≪クトゥルフ神話≫+3%、≪オカルト≫+5%、研究に2週間、斜め読み1時間
呪文:クァチル・ウタウスの契約、クァチル・ウタウスの接触
アーティファクト:『不死の契約書』
渋谷が作成したクァチル・ウタウスとの契約、『禁じられた言葉』を封じた石板です。
渋谷はクァチル・ウタウスの召喚に成功するとともに、どうやってか自身を不死にするのではなく、初月須和子を不死とすることに成功しました。
石板自体は、目新しい上に、特に≪考古学≫、≪地質学≫、≪制作≫等でもただの珍しくもない岩石を削って作った、明らかに素人の手によるものだと分かるだけです。
この石板は渋谷によって作成されたもので、『禁じられた言葉』が刻まれていますが、この言葉は通常の言語では全く意味を成していません。
『不死の書』を読み、『禁じられた言葉』に気が付いた場合にのみ、書物と同じ言葉が刻まれていることに気が付きます(『禁じられた言葉』を知っている場合、自動的にそれと気が付きます)。
このアーティファクト自体は特に特別な力を持っておらず、同時に簡単に破壊することが出来るものです(破壊する意図をもって床に叩き付ければ、粉々になります)。
この石板は渋谷の手によって舞台の下、奈落に隠されています。須和子もこの石板の存在に気が付いているのですが、彼女はこの石板に触れることができません(この石板に触れると時が元に戻る為、触れられないのです)。
終幕部
このシナリオの終幕部は大きく4つに分かれます。
・石板を発見し、
石板を破壊する場合
石板を破壊しない場合
・石板が発見できない場合
・探索者が『禁じられた言葉』を唱え、クァチル・ウタウスを召喚してしまう
石板を発見した
探索者が奈落の下で石板を発見するか、須和子に追い込みをかけた場合、彼女は奈落の下に逃げ込みます。
石板を見つけた探索者に対して、須和子は語ります。
「それを見つけてしまったのですね。それは、あの人の形見であり、私への呪い。
「きっと、それが私を死に縛っているのですわ。何故か、私はそれに触れることができないの。それさえ無ければ、私は普通に死ねる。
「さあ、私を殺してください」
どこか芝居がかった様子で須和子は言います。
探索者が戸惑っている場合、彼女はにっこりと微笑んだまま、手にしていた拳銃をいきなり自分の頭に押し付け、発射します。
頭蓋と脳症が飛び散り、間違いなく絶命した彼女はばったりとその場に人形のように倒れますが、すぐに何事も無かったかのように起き上がります(ここでも須和子の死と復活の正気度喪失を忘れないようにしてください)。
須和子は血に染まった顔と着物汚のまま繰り返します。
「私は死ねないの。
さあ、私を殺して。死なせてください」
石板を破壊する場合
石板は脆く、特に耐久力や装甲は持っていません。床に叩き付ければ簡単に破壊されます。
石板を破壊した場合、クァチル・ウタウスの加護が破れて須和子には最初に死亡してからの時間と、その後の身体へのダメージが一気に振りかかり、一瞬で腐乱死体になったかと思うと同時に、様々な衝撃、傷が浮かび上がり、そしてぐずぐずと崩れ落ちます。
石板が破壊され、それの内に秘められた何かが光になって解放されたように思えた次の瞬間、須和子は声を上げる暇もなく、腐乱死体に変わった。
探索者がそれと察した瞬間に、須和子の身体はあちこちがはじけ飛んだり、刀傷と思しき傷がぱっくりと開いたり、何かの衝撃で手足が千切れた。
今まで、彼女の身体に与えられた傷が、大小の違いなく同時に再生されたのだ。
腐乱死体であったそれは、すぐに異臭を放つ、人としての原形を全くとどめていない腐った肉と骨の塊と化した。しかし、次にはそのおぞましい汚穢の塊は塵となり、生物であった痕跡すら失っていた。
須和子の異様な変化を目撃した探索者は、1D2/1D10+1の正気度を喪失します。
この後、キーパーの判断や好みによって、須和子の死体が再生を始め、『石板を破壊しない場合』で出現する『須和子だった肉塊』との戦闘を行うのもよいでしょう。
石板を破壊しない場合
石板を破壊しない場合、須和子は「私は、それがある限り、死に続けることができるのよ」と狂気に染まった笑顔を探索者に向けます。
そしてもう一度、今度は自分の胸に拳銃を発射して、ばったりと倒れます。またもや、彼女は起き上がりますが、再び自分の頭へ拳銃を発射します。
「死なない!死なないの!」
探索者は、もう一度起き上がった須和子の姿が崩れ始めていることに気が付きます。
須和子は狂ったように拳銃を自分の胸に発射し、また倒れ伏します。しかし、須和子は起き上がってきません。
赤い血が流れ続けたかと思うと、須和子であったものの形が崩れ、乱れた着物の下に見える肌はまるで腐乱死体のような青黒い色をしており、そして饐えた腐臭が辺りには漂い始めます。
須和子の身体は腐乱死体となり、腐って崩れ始めた。
腐った肉が落ちたかと思うと、その内側から再生した思しき赤黒い肉を覗かせながら、ずるずると元の位置に戻ろうと蠢いている。
探索者の目の前で彼女の身体は人型を保とうとしながら、また崩れて再生を繰り返し、ついには内臓までがその腹部から再生しながら溢れ始める。
それはもう須和子ではなく、ただの腐肉の塊だった。
須和子に掛けられた渋谷の魔術は、確かにクァチル・ウタウスのものではありますが、同時に様々な魔術を交雑させた異端の魔術です。何度も須和子が死んでいるうちに、彼女の身体の再生がずれ始めており、それが今、限界を迎えているのです。
この異様な再生を繰り返す肉塊を見た探索者は、1D2/1D10の正気度を喪失します。
かつて須和子であった肉塊は、その塊のあちこちにある口が「殺して」とさんざめきながら、探索者に近寄ってきます。
須和子だった肉塊、再生魔術によるなれの果て
STR 15 CON 30 SIZ 20 INT N/A POW 11 DEX 3
移動 1 耐久力 25
DB +1D6
武器:
腐った肉体で構成された触手 30% 1D4+DB、毎ラウンド1D6回攻撃
装甲:
なし。貫通する武器は最低限のダメージになる。
火による攻撃は、通常通りのダメージを与える。
呪文:
なし。
※この肉塊は魔力の源である石板が破壊されない限り、1ラウンドに2D10点の耐久力を再生し、SIZが1D2増加します。
石板が破壊されている場合、1ラウンド毎に自動的に1D10点の耐久力と、1D4点のSIZが減少します。
石板が発見できない場合
キーパーが探索が行き詰っており、もはや打開できないと判断した場合や、時間切れの場合は、探索者達はある程度の調査結果を寒田に報告してから劇場を去ることになります。
古井に報告すれば「まあ、君たちでも無理だったか」と言われるだけで、特にこれと言ったことはありません(元々、ついでに解決してもらえればよい程度の話なので)。
『禁じられた言葉』を唱えた場合
どのような場面となるかは分かりませんが、探索者がそれを唱えた場合、よほど無理な状況でない限り須和子を登場させてください。
探索者の唱えた『禁じられた言葉』に応じて、クァチル・ウタウスが降臨します。
探索者が『禁じられた言葉』を唱えると、須和子の周囲は灰色の光に包まれた。それは光の柱のように上空へと続いているように思える。
その中を小さな子供ぐらいの干からび切ったミイラのようなものが、素早く静かに降りてくる。
何も纏っていない体は言うに及ばず、毛の一本も無い頭部まで皺だらけであり、その顔も目鼻立ちもないのっぺらぼうの皺だらけであり、網目状のすじが付いているだけだった。
同じくミイラのような細く萎びた腕の先端には鉤爪がついており、何かを求めるように前に突き出されている。
光の柱に包まれて呆然している須和子は次第に風化し、塵へと変わり始める。そいつが地に近づく頃には、彼女が居たと思しき場所に塵の山が出来上がっており、彼女の姿はどこにも見えなかった。
そいつは、その塵を踏み、探索者の前に降り立った。
クァチル・ウタウスを目撃した探索者は、1D6/1D20の正気度を喪失する可能性があります。
降臨した神は、『禁じられた言葉』を唱えた探索者に対して、声なき声で契約を結ぶか、確認してきます。
探索者が降臨したクァチル・ウタウスとの契約を承諾、拒否に関わらず場合、神はすぐに帰っていきますが、キーパーの判断によっては、契約を拒否した場合はかの神は怒り、探索者にその手を触れようとしてもよいでしょう(ただし、クァチル・ウタウスの接触は自動的に死亡します)。
もしも、探索者が神との契約を承諾した場合、その探索者は神の加護により不老不死となりますが、いつかどこかで誰かが『カルナマゴスの遺言』から学び取った『禁じられた言葉』を偶然にでも唱えれば、自動的に神に踏まれる塵の山となります。
事件の後
事件の後は、シナリオの結末によって大体以下のように分かれます。
探索者のその後を下記の方向性で演出してください。
石板を破壊するなどして、須和子が死んでいる場合
須和子は死ぬとその痕跡を全く残しません。この為、須和子は行方不明ということになります。
探索者が座長の寒田にどう説明するかにもよりますが、『技術座』は須和子を失ったことにより解散します。
以後、『技術座』の団員達は、まるで須和子の呪いが解けたかのように、浅草を中心に他の劇場で活躍している姿を見ることができますが、それも震災前までのことで、活動写真の隆盛の前には演劇などの芝居は苦戦を強いられることになります。
須和子から逃亡した場合
肉塊となった須和子から逃亡している場合、『技術座』はその直後に失火によって焼失します。
『技術座』を焼き払った炎は同時に須和子を焼き払っており、その焼け跡からは一人の人間であるはずなのに数人分にもなる奇怪な焼死体が発見されます。
また、炎の中に須和子の肉塊を目撃した近所住民も居り、一時、『技術座』の生き残った団員達は疑惑の目に晒されますが、それも一時のこと、数か月も経てば『技術座』ともども、忘れ去られてしまいます。
石板を発見できなかった場合
その後、須和子は『死女優』と呼ばれて一定の人気と、やはり続く自殺と心中の噂で話題を提供しますが、活動写真の隆盛、芝居小屋の人気の後退、そして震災が起こる頃にはまったく出番を失い、不気味がられるようになります。
震災によって『技術座』の劇場は崩壊し、須和子は行方不明となり、寒田も劇団の解散を決意します。
(須和子は震災時の劇場の崩壊によって石板が破壊されたことにより、塵になっているか、あるいは生きている場合は震災によって完全に正気を失っており、死なない身体のままどこかの施設に収容されたことにしてもよいでしょう)
正気度の報酬
石板を破壊し、須和子を死なせている場合、2D6の正気度を獲得します。
石板を破壊せず、肉塊となった須和子を撃退している場合、1D6の正気度を獲得します(石板を破壊している場合は、さらに+1D4されます)。
クァチル・ウタウスを召喚している場合、1D8の正気度を獲得しますが、不死の契約を結んだ探索者は獲得がありません。
須和子から逃亡するか、探索に失敗している場合は、1D4の正気度を獲得します。
さらに、須和子の死んだ回数/2の正気度を追加で獲得します。
データセクション
シナリオ中で使用されるデータや、その他の項目をまとめたものです。
松井須磨子と島村抱月、芸術座
シナリオに登場する初月須和子と渋谷抱影、『技術座』のモデルはもちろん、松井須磨子と島村抱月、『芸術座』です。
松井須磨子と言えば、トルストイ『復活』の芝居で
『カチューシャの歌』を歌い、これがレコードに吹き込まれて大ヒットを見たことで有名ですが、これは日本における女優が歌った歌として初めてのものでした(ちなみに、この後、『今度生まれたら』というレコードが内容が猥雑であるとして、発禁レコード第1号にもなっています)。
また、この他にも、美容整形(鼻を高くした?)手術を受けた日本最初の女性であるとも言われており、様々な話題を提供しました。
島村抱月はと言えば、東京専門学校(後の早稲田大学)を卒業後、ドイツ等に留学を経て、早大教授となります。その後、坪内逍遥らと文芸協会を設立し、新劇運動の旗手と目されていましたが、大正2(1913)年に須磨子との恋愛沙汰が問題視され(協会では恋愛禁止の規則がありました。また、抱月は妻も子供もある身です)、文芸協会を追い出されてしまいました(須磨子の方は、所属していた演劇研究所を退所)。
翌年、大正2(1913)年に抱月は須磨子とともに芸術座を起こし、『復活』の大当たりを得たのでした。
以降、劇中で歌を歌うという形式を踏襲しつつ、ヒットを飛ばします。
しかし、須磨子の奔放さから他の劇団員との対立が起き、立ち上げ当初から離脱者が相次ぐという状態でした。
賛否両論ある中で精力的に須磨子は舞台に立ちます。しかし、大正7(1918)年末に抱月がスペイン風邪で急死すると、翌年明けてすぐに須磨子も後を追って縊死しました。
魔導書:『不死の書、カルナマゴスの遺言抄訳』
魔導書:『不死の書、カルナマゴスの遺言抄訳』を参照してください。
アーティファクト:『不死の契約書』
アーティファクト:『不死の契約書』を参照してください。
須和子だった肉塊、再生魔術のなれの果て
再生と腐敗を繰り返しながら大きくなる、かつては初月須和子だったものです。
いかなる作用によるものかは分かりませんが、クァチル・ウタウスの加護と、雑多な不死を授ける魔術の混合により、この冒涜的な汚穢の塊は常に再生と腐敗を繰り返す、人の部分が寄り集まった腐肉の塊となっています。
すでに人型を保つこともままならず、須和子の意識も部分的に残っているだけで、彼女の最期の「死にたい」という願望に基づいて行動します。
STR 15 CON 30 SIZ 20 INT N/A POW 11 DEX 3
移動 1 耐久力 25 DB +1D6
武器:
腐った肉体で構成された触手 30% 1D4+DB、毎ラウンド1D6回攻撃
装甲:
なし。貫通する武器は最低限のダメージになる。
火による攻撃は、通常通りのダメージを与える。
呪文:
なし。
※この肉塊は魔力の源である石板『不死の契約書』が破壊されない限り、1ラウンドに2D10点の耐久力を再生し、SIZが1D2増加します。
石板が破壊されている場合、1ラウンド毎に自動的に1D10点の耐久力と、1D4点のSIZが減少します。
クァチル・ウタウス
『クァチル・ウタウス』についての詳細は、ルールブックP.211、またはマレウス・モンストロルムのP.158を参照してください。
カルナマゴスの遺言
『カルナマゴスの遺言』についての詳細は、キーパーコンパニオンP.12を参照してください。
謝辞、あるいは参考資料
本シナリオは紅玉いづき『大正箱娘』の「今際女優」と、RPGマガジン80号に掲載の『ドイツ屋敷怪奇譚』を参考にしています。
…『ドイツ屋敷怪奇譚』、すでに20年前なんだなあ…、と懐かしみつつ。
前のシナリオの反動でまた短いシナリオをと「来た、見た、狂った」形式を守りつつ、1時間ドラマのような流れを意識しています。
毎度ですが、本シナリオのテストは大阪でお世話になっているサークル様にて実施しております。
関係の皆さまに感謝を。