リンケージ 満月の儀式
この場面は、探索が満月の夜に及んだ場合に発生します。
探索者達が『月光教』が行う儀式を知り、十二階の展望階で待ち伏せをするか、あるいは展開によっては探索者達が『月光教』への潜入に失敗するなどして捕らえられ、生贄として参加する可能性もあります。
満月の儀式
儀式は最初にムーンレンズを担いだシュブ=ニグラスに祝福されしもの達が到着し設置が終わると、生贄を担いだ者たちが、次に儀式に参加する信者達がわらわらとやってきて場を整えると、最後に詩由を連れた天宮が姿を現します。
詩由が『大鏡』(ムーンレンズ)の前で祝詞のような『大鏡』への祈りを捧げ始めると、信者達はそれらを取り囲むように輪になり、それは二重三重になります。
詩由の祈りに合わせて、信者達の輪が移動を始め、衣服を脱ぎながら、歌い踊るような様相を呈し始めると、今度は生贄(大型の家畜の類)が捧げ始められ、展望階には彼らの獣臭と、血の匂いが充満します。
儀式はさながらサバトの様相を呈し始めます。
十二階の最上階は、狂乱の巷だった。
神の祝福を受けた者たちの輪の内側には悪名高いサバトの宴のように、裸の男女と江津森の住人が生贄となった山羊の生肉を喰らい、血まみれになりながら狂乱した体で冒涜的な宴を繰り広げている。
見ていれば、そのうちに悪魔が現れて、尻への口づけを要求してもおかしくない。
輪の中心にある『大鏡』が月光を集めて、妖しく輝き始めた。
儀式への対応は探索者次第です。
探索者が儀式を邪魔しようと姿を現した場合、天宮は一瞬狼狽しますが、すぐに気を取り直して「ようこそ!サバトへ」と悪魔の様に笑います。
「君たちは参加者かな?それとも生贄かな?」
天宮の合図とともに、狂乱した信者達が探索者に襲い掛かります。
潜伏などして不意を打った場合等、この戦闘の1ラウンドの間は探索者側が先に自由に動けるなどとすればよいでしょう。
天宮はこの戦闘においてその正体を現します。
(もしも、探索者が息をひそめて儀式を見詰めていた場合、彼もそのうちに興奮してきて自ら服を脱いでその姿を晒すとしてもよいでしょう)
白い三つ揃えの下から、まるで木を束ねたようなものがあふれ出した。
それはみるみる数を増し、天宮の服を破裂させた。
そこにはまるで木で編んだ人型のようなものがあった。彼の身体には最早、人間らしい部分どころか、生物らしい部分まで残っていない。
顔と手だけが人のそれで、それ以外の部分は全て樹木のように見えるが生物の様に蠢くものが、かろうじて人の形を構成していた。
天宮、シュブ=ニグラスに祝福されしもの×6との戦闘となります。
戦闘中でも、詩由は儀式に集中しており、それ以外の行動を起こしません。
戦闘が始まって6ラウンドが経過するか、探索者が儀式を見守った場合、『満月の儀式』が成ります。
戦闘中、探索者達がムーンレンズを破壊しようとした場合、レンズ自体の耐久力は10、装甲3点、周りの鏡は一つの物体として扱い20点、装甲なしとなります。
この場ではすでに月光と、詩由、儀式のMPが十分に注入されている為、ムーンレンズのみを破壊した場合、儀式が暴走してしまいます。
その結果、儀式に参加していた者たちは、江津森の御山の下にある迷宮へ転送させられます。
これは詩由を攻撃して気絶させた場合も同じです。詩由によってコントロールされていた儀式が暴走する為、同じ結果を生みます。
ムーンレンズの破壊に成功するか、天宮達を6ラウンド以内に倒した場合、儀式は中断されます。
儀式が中断されて天宮が生き残っていた場合、彼らはシュブ=ニグラスに祝福されしもの達に備わる『真紅の輪』の力によって江津森に繋がる門を創造し、詩由を連れて撤退を開始します。
探索者が後を追った場合、やはり御山の下の迷宮に転送されます。
満月の儀式が成る
『満月の儀式』が成ると、ムーンレンズに集められた月光が収束し、十二階の前にある浅草六区を南北に貫く道へと照射されます。
それと同時に探索者達は『月光事件』で体験したような酩酊感を味わいますが、今度はすぐに現実に戻ってきていることに気が付きます。
しかし、十二階下に広がる光景は浅草と江津森が重なった曖昧模糊とした情景であり、浅草の街が混乱している様子も見て取れます。
道の反対側にある山、おそらく『月光教』の人間が御山と呼ぶ山の斜面を照らしたかと思うと、轟音が響き山腹に巨大な両開きの扉が開いた。
その扉の中から、前に朦朧とした意識の中で見たそれが、今度ははっきりとした意識の中で迫ってくる。
そいつは大きな円形の突起が先端についた白い肉の柱のように思えた。
いくつも関節がある複数の脚でそいつの身体は支えられており、手らしき物はなかった。
その頭部には灰色の目がいくつもあり、クラゲ状の大きく丸い東部の中央には牙が並ぶ大きな亀裂、おそらく口が広がっていた。
あまりにも巨大なそいつは動くことさえできないように思えたが、その大きさで遠近感が狂っているのか、想像以上の素早さで近寄ってくる。
ムーンレンズの番人は目撃した場合、1D10/1D100の正気度を喪失しますが、この場では狂気には陥りません。あまりにも現実離れした光景が、探索者の正気を表面的に保つのに役に立っている、と探索者には告げてください(ここでも、後から発症するということです)。
また、PC@には
記憶Eのハンドアウトを提示してください。
天宮が生き残っている場合、彼は表面上はいつもと変わらず落ち着いた様子ですが、その口調から興奮している様子は窺えます。
探索者達に向かって、彼は講義でもたれるように、あるいは答えを必要としない一人語りを始めます。
「君はメンデスの山羊について聞いた事がありますか?」
「魔女のサバトにおいて常に現れたものを知っていますか?
ピレニーの山羊の地について、あるいはパンの大神について、知っていますか?
プロテウスの如く変幻自在なる神については?
…そして、千の仔を孕みし森の黒山羊は?」
「かの山羊はあらゆる時代を通してあり続けました」
「スペインにおいて、結社の円陣の中に現れた黒山羊、バスクの魔道士達がそれと相見えるために使用した山羊の牧場、そして常に悪魔はキマイラの如き姿で現れています。
何故にユピテルの神官達がイデスの日に白山羊を捧げたと思いますか?
しかし、それは貴方が宇宙を補完するものについて知りはしないでしょう」
「…ましてやハイチにおける山羊乙女の儀式の元型や、あるいは金羊毛の神話の背後に潜む恐怖については思いもよらないでしょう」
ムーンレンズの番人が十二階、今は江津森と二重になっているそれは美紗崎家の生贄をささげる舞台の上に到達すると、天宮は感極まったように声を上げます。
「イア!シュブ=ニグラス!山羊が生贄を受け取ろうとしている!」
そいつがその巨体に反して素早く屈みこむように、髭に覆われたゼリー状のいやらしい頭と思しき部位を下げ、くちばしでついばむように探索者達は飲み込まれ、意識を失います。
不思議なことですが、包み込まれたゼリー状のものには危害を加えるほどの圧力はなく、溺れることもなく、奇妙な安心感に包まれます。
この後、飲み込まれた探索者達は御山の下の迷宮で目を覚ますことになります。
キーパーへ:
この場面の天宮の語りは、潜入で失敗した等で捕縛された探索者が居る場合に、彼らに対する語りでもよいでしょう。
あるいは、『月光教』へ何度か探索者が足を運んだ場合等に、断片的に聞かせる内容でも構いません。
『満月の儀式』が成らない場合に備えて(?)小出しにしておくとよいでしょう(儀式が成った場合はあまり語る内容が無くなりますが)。