野呂猛について
彼は旅行で岡山に赴いていましたが、『月光教』の罠に掛かり、江津森で足止めを喰らった上に、ムーンレンズの番人に生贄に捧げられ、そして『御山』の下にある迷宮で身体の変異、シュブ=ニグラスに祝福されしものへの変身が始まりましたが、正気を保っていた為に迷宮より逃げ出し、変異して強靭になった肉体のおかげもあって、江津森より逃げ延びました。
江津森を離れることで身体の変異は止まり、中途半端ではありますがまだ人間として暮らしていける程度であった為に、業病の類の様に扱われながらも浅草周辺に潜んで、そこをうろつく公園彷徨者達を束ねて暮らしていました。
ところが、『月光教』が帝都に進出し、彼らの『満月の儀式』によって浅草と江津森が繋がったことにより、再び野呂の身体は変異を始めました。
それは身体の変異のみでなく、精神までも変異が始まり、『月光教』の教義に賛同し、その為に生きるような考えが彼の中で芽生え始めました。
彼は藁にも縋るつもりでPCBを頼ったのですが、精神の変異の影響と、そして友人であるPCBを事件に巻き込みたくないと考え、途中で去っていったのです。
この後、彼は再び浅草に潜み、再度の変異の原因を突き止める為に調査を開始しています(もちろん、原因は『月光教』に関係があることは彼自身は直感しています)。
浅草にて、野呂の動き
野呂の動きは流動的です。
キーパーの判断や、探索者の動きに合わせて、彼を動かすことで各イベントを発生させたり、対応させたりしてください。
野呂と公園彷徨者達
野呂はその優れた体躯のみでなく、頭もよく、人望もある為、公園彷徨者達をまとめて組織化しています(あるいは、すでに組織化されたいたものの統率的な立場を譲られています)。
この組織は公園彷徨者の安全や、食い扶持を守る為のものですが、野呂の命令であればほとんどのことを聞きます。
現在、野呂は浅草にある『月光教』の痕跡を探る為に、公園彷徨者達にもその探索を命じていますが、探すもの自体が曖昧である為に、あまり進んでいません。『月光事件』については、ある程度報告を受けています(つまり、野呂も探索者程度の情報しか得ていません)。
野呂自身は十二階下の怪しげな街に身を隠しており、公園彷徨者達から報告を受け、指示を出しています。
探索者が野呂と接触を持とうとした場合、公園彷徨者に繋ぎを取ってもらうように頼むか、彼らを尾行してその隠れ家を見つけるかする必要があります。
公園彷徨者達は調査、探索をする性能はあまりよくありません(そのうえ、戦闘力もありません)。しかし、浅草公園の周りには非常に多くの数が居り、一見目立たない、居ても気にされない存在であるであり、彼ら同士は緊密に連携していることもある為、単純な情報収集(目撃情報や、居所を探る等)は非常に高い精度、速度で行われます。
野呂の指令も、探すものが具体的になれば調査も早いのですが、いかんせん何を探せばよいのかが野呂自身も分かっていません。
探索者と野呂が協力している場合、これらの公園彷徨者の情報網を使うことが可能になります。
浅草周辺限定ですが、強力な助けとなるでしょう。
PCBとの再会
野呂はPCBの顔を知っている為、そと分かればPCBを避けますが、それ以外は顔を知らない為に、特に避けることはありません(探索者が野呂と知り合いであるとした場合、その探索者も避けます)。
この為、PCB以外が接触を持った場合は、姿を見せないように隠れながら接しますが、PCBの知り合いだと分かれば、「この件に深入りするな」、と警告を与えて、PCBにもそう伝えろと言います。
また、PC@が野呂と直接接触した場合、
記憶Dのハンドアウトを提示してください。
PCBが野呂に接触した場合、≪説得≫か、PCBの言葉によるキーパーの判断によって彼は諦めて診断を受けることにします(PCBが改めて診断をしなかった場合は関係ないですが)。
その場合は以下の描写を行ってください。
改めてはっきり見せられると、それは想像を絶するものだった。
野呂の身体の表面は、人間の皮膚である部分もあればまるで山羊のような剛毛に覆われた部分、そして木彫りのような固い肌、そして植物を思わせるような巻きひげの生えている部分があった。
どれも異質でそれぞれが異なるもののように思えるが、それは一つの身体を構成していることは疑いなく、そのすべて生きていることを示すように彼の呼吸や脈動に合わせて小さく動いていた。
この異様な彼の身体を見た場合、1/1D6の正気度を喪失します。
≪医学≫に成功した場合、このような症状を示す病気が存在しないこと、また何らかの身体が変異する病気だとしても複数の変異を示したり、これだけの速さで変容することも無いことに気が付きます。
そして、現代の医学では全く打つ手がない、ということが分かります。
失敗した場合は、成功した場合と文脈は異なりますが、治療する手立てはないことだけは分かります。
このことを彼に告げるかどうかはPCB次第です。
この変異の原因について尋ねた場合、彼は逡巡の後に語ります。
「岡山、江津森とか言うところに行ったんだ。
そこで、恐ろしい目に遭った。月光を浴びる白い肉塊のような奴が、俺を襲ったんだ。その後は…、すまないはっきりとした記憶が無いんだ。どこかへ連れていかれて、そして無我夢中で逃げた。
「俺は生贄に捧げられたらしい。捧げたのは江津森を根城にしている『月光教』とか名乗る奴らだったよ。そうだ、今、浅草の辺りに居る奴らだ」
「江津森を離れると、この体の変容も収まっていたんだ。だが、今はまた変容が進みつつある。俺の、頭の中まで何かが変わりつつあるんだ。奴らが、この近くで何かやっていることには違いない。俺はそれを探っているのだ。そして、奴らにこの体をどうにか元に戻す術はないのか、聞き出すつもりだ」
野呂に彼の身体が元に戻らないことを告げた場合、探索者の対応にもよりますが、彼の反応は大体以下の二つになります(キーパーの判断、負担が少ない方を選択してください)。
・『月光教』の奴らなら何か知っているかもしれないと希望を持ち、探索への協力を申し出てきます。
・『月光教』へ復讐を誓い、美紗崎詩由(美由)を殺すと宣言します。この場合、探索者には協力しません。
野呂と美由
野呂と遭遇していない状態か、再会して彼が復讐に傾ている場合、そうでなくとも美由を目撃した瞬間に我を忘れて襲い掛かる等、この場面は発生します。
美由との関係を深めようとするか、彼女が怪しいと踏んで尾行等をした場合、十二階下をうろつく姿を目撃することになります(もちろん、十二階下でいかがわしいことをしている訳でも無く、何故かそういうところが好きなだけなのです)。
日が暮れて怪しさの増す裏路地の奥から、野呂が現れます。
すでにシュブ=ニグラスに祝福されしものを見慣れている場合は問題ありませんが、そうでない場合は1/1D6の正気度を喪失します。
美由は、野呂を見ても見慣れている上に、『月光教』の人間だと思っている為、全く動揺も不安な様子も見せません。
「美紗崎詩由!貴様、何故こんなところに居る!」
怒号と共に、野呂は美由へ突進します。彼は美由を『月光教』の教祖である美紗崎詩由であると誤認(ある意味で正しく認識)して、襲い掛かってきます。
探索者達が止めない場合は、護衛として隠れていた『月光教』の信者のシュブ=ニグラスに祝福されしものが2体現れて野呂と美由の間に割って入ります。
探索者が止めようとした場合で、PCBが居ると、野呂はそれを確認すると同時に我に返り、即座に逃げ出します。
PC@などが詩由ではない、と指摘した場合は、そちらを見て「どういうことだ?!」と叫び、止まります。
彼に事情を説明するか、その隙に逃げるかすることが出来ます(あるいは、PCBなどが居る場合は、野呂と接触することが出来ます)。
もちろん、この場は問答無用で野呂と戦うことも可能ですが、彼はその変容ぶりから単純な戦闘に関しては強力です。どこかで探索者が逃げ出すか、和解するようにしてください(美由をかばっていると難しいかもしれませんが)。
PC@などから事情を説明された野呂は、「そんな馬鹿な、美紗崎美由だと?双子だと?」と混乱した様子を見せます。
「奴らとは、『月光教』とは関係が無いのか?」と重ねて問います。探索者の回答によっては彼は再び襲い掛かってきますが、おそらくこの時点では美由と『月光教』の関係は確定的なものとなっていないでしょう。
探索者の答えに満足とは行きませんが、ある程度は納得した野呂は、気が抜けた様子で去っていきます。探索者が連絡を持ちたいと思った場合は、公園彷徨者を尾行した場合に消えた辺りを指定されて、そこに繋ぎになる者が常駐していると教えられます。
野呂の語る江津森
野呂は岡山、津山の辺りを旅行していたところ、『月光教』の人間に騙されて江津森へ赴き、そして拉致されてムーンレンズの番人の生贄となり、御山の下にある迷宮とも、墓所とも、あるいは子宮とも言える場所へ囚われました。
しかし、持ち前の体力と精神力から変異を始めた身体をものともせず脱出、『月光教』の追っ手を逃れて帝都まで戻ってきました。
野呂が江津森で見たものは断片的です。また、彼の精神の平衡を保っているのもこの記憶が完全なものではなく、曖昧なものだからであるとも言えます。
野呂と接触し、探索に協力的である場合、彼から江津森について以下の情報を得ることが出来ます。
彼は江津森のことを話すとき、最初は恐怖に耐えるような様子を見せますが、そのうちにどこか遠くを見るような、焦点の合わない目をし始めます。彼を襲う精神の変容が、江津森での記憶を呼び覚ますことでさらに促進されてしまうのです。
キーパーは野呂から江津森や、『月光教』の情報をあまり与え過ぎないようにしてください。
キーパーの判断と、プレイに余裕がある場合は、野呂が探索者の質問によって呼び覚まされる江津森の記憶と、『月光教』の活動によって彼の変異が進み、探索者達と敵対する存在となっていくのも面白いかもしれません(もちろん、探索者の動きによってそれを留めることが出来るようにするとよいでしょう)。
・江津森は岡山の山奥にある寒村である。
・『月光教』という独自の、おそらく土着信仰を持っており、『大鏡』と呼ばれる神に生贄を捧げる祭祀を行っている(俺が生贄にされたがな、と自嘲的に笑う)。
・『大鏡』と呼ばれるのは神だけではなく、美紗崎の家にある奇妙な装置、大きなレンズとたくさんの鏡でできた装置もそう呼ぶ。さらに、『月光教』を取り仕切る美紗崎詩由も『大鏡』と呼ばれていた。
・『大鏡』によって、おそらく御山から『大鏡』が歩み出てくる。
・御山の地下には、広大な空間が広がっており、そこで『大鏡』から吐き出された人間は身体の変容が始まる。