終幕部
江津森の御山の地下には、ムーンレンズの番人が封印(?)されている広大な空間が隠されています。
そこはムーンレンズの番人から放出された生贄が変容し、シュブ=ニグラスに祝福されしものを生み出す迷宮です。
浅草の十二階の展望階において『満月の儀式』を妨害できなかった場合、本当の終幕部である江津森の御山の地下での探索が開始されます。
探索者がこの場に足を踏み入れるのは、大体以下のパターンです。
・『満月の儀式』が強制中断させられ、転送させられる。
・『満月の儀式』で生贄になる。
・『満月の儀式』で逃げた天宮を追う。
探索者が自ら足を踏み入れるパターン以外では、探索者が気絶して倒れた状態で、迷宮の真ん中、ヘソに当たる部分に倒れています。
探索者が目を覚ます前、どこからともなく『かごめかごめ』を聞いた覚えがします。それは、迷宮の奥の方から聞こえてきた気がして、その声は美由の声に似ていたと感じます。
※キーパーは可能であれば、この場でBGMとして『かごめかごめ』を流してください。
探索者が何らかの傷によって耐久力が減少している場合、それらは全て回復した状態になっています。
このシナリオ内で発症していない狂気に陥っていた場合、この迷宮に入ると「まるで母親の胎内にいるような、落ち着いた、非常にリラックスした気分」になります。
天宮を追って自ら足を踏み入れた場合は、天宮が奥に向かって逃げていくのが分かります。
固い地面に立っているはずだが、ふわふわと宙を浮いているようにも感じられる。
ここでは遠近感が失われているようだった。見えるものが巨大でかつ遠方にあるのか、それとも微小でかつ手の届く程近くにあるのかすら全く確信が持てなかった。
だが、そこを住処とするもの達の姿形はより明確になっていた。あるもの達は目立った外傷もないままその身体の一部分を驚くべき仕方で分離されており、別のもの達の身体は、一つ一つは良く知られている別々の諸器官が、しかし本来属する事があり得ない部分と接合する事によって構成されている。
奥には、例の白い肉の柱のような奴らしき影が見え、その手前に何か金属製のような光が上方へ向かって連なっている。
この異様な光景は1/1D4+1の正気度を喪失させます。
この描写の後に、
「狂気 母の胎内」を狂気に陥っている探索者に配布してください(狂気に陥っていない探索者に見られないように)。
狂気ハンドアウト:
貴方は何故か、この奥へ進みたくてたまらない。
それは単に好奇心が刺激されているだけではなく、この奥に貴方が会わなければならない人が居る気がするのだ。
御山の地下迷宮
迷宮とは言いますが、構造は非常に単純です。
出口と思しき方向には上方へと向かう螺旋階段があり、さらにその向こうにムーンレンズの番人の影が見えます。
逆方向、奥の方と思われる方向にはシュブ=ニグラスに祝福されしもの達が溶けて融合したかのような姿のものが、地面を這っている姿が見られます。
探索者がここから逃げ出そうと螺旋階段の方へ向かう場合、比較的形を残して動き回れるシュブ=ニグラスに祝福されしもの達がそれを止めようとまとわりついてきます。
DEX7との対抗判定に失敗するとそいつらに掴まってしまい、STR15との対抗判定か、切断可能な武器によってそいつらを切り離す必要があります。
(溶けたシュブ=ニグラスに祝福されしものの耐久力は、この迷宮内ではほぼ無限です。ダメージを与える度に再生します)
溶けたシュブ=ニグラスに祝福されしもの、水蛭子
STR 15 CON N/A SIZ 15 INT N/A POW N/A DEX 7
移動 6 耐久力 N/A DB+1D4
武器:
張り付く(組み付き) 50%、なし
同化する(組み付き後) 自動、1D4
装甲:
なし。地下迷宮内に居る場合、1ラウンドであらゆるダメージを回復する。
呪文:
なし。
正気度喪失:
溶けたシュブ=ニグラスに祝福されしものを見て失う正気度は、0/1D3です。
探索者がシュブ=ニグラスに祝福されしもの達の追跡を振り切って螺旋階段を上り始めた場合、彼らはそれ以上は追ってきません。かなり長い距離を上がり、迷宮の天井を越えて登りきると、井戸のような場所から地上に出ます。
そこは御山の山頂部に近い場所であり、その井戸の様なものには星のような紋章が刻んであることに気が付きます。
迷宮から離脱した場合、追っては掛かりません。探索者達は半ば遭難するような目に遭いながらも、岡山の山奥から帝都に逃げ帰ることができます。
探索者が奥に進もうとする場合、溶けたシュブ=ニグラスに祝福されしもの達は特に妨害することもありません。また、彼らを避けるのも簡単で特に戦闘などになることはありません。
迷宮の最奥、揺り籠、あるいは墓所
探索者が奥に進むにつれ、溶けたシュブ=ニグラスに祝福されしもの達はさらに形を持たなくなり、手足のない円形であったり、完全に崩れた肉塊に変わっていきます。
特に≪アイデア≫等の必要なく、これは奥に行くほどひどく、出口と思われる方へ近い場所のものは生物らしい姿をしていることに気が付きます。
迷宮の最奥、美由が居た側にたどり着いた場合、そこには何か大きなものがあった形跡があるだけで、奥への通路は生物の細胞か、樹木のようなもので塞がっています。
PC@がこの場に居る場合、何故かこの場所が美由が居た場所であると直感します。
反対側の詩由が居る場所にたどり着いた場合、そこには天宮と美由が立っていることに気が付きます。
その壁は生物なのか、樹木なのか分からないもので覆いつくされている。
その中心に、人であったとしたら顔の部分はすでに太い触手のような髭に覆われ見る影も無いが、どことなく美紗崎美由に似た面影を持っているようにも思える。
そいつは一際巨大な、祝福されしものだった。
そして、その下の方、触手に覆われた場所からは迷宮の中で見かけた肉塊のようなものの原形が常に生み出されていた。
この場で天宮に襲い掛かろうとした場合、狂気に陥っている探索者はそもそもこの場所で戦闘を行う気になりません。生贄となったものは、同じ一族であるものを傷つけようなどとは思えなくなるのです。
正気を保っている場合でも、POW15との対抗ロールに失敗すると、同様に戦う気が失せてしまいます。
美由が居る場合、彼女は語ります。
「姉は、母親に似すぎたのですよ。
「私たちは、母親にすべてを捧げられた存在なの。
私たちの母は、『大鏡』様自身。姉は、身体が弱かったんじゃない。母親に似すぎた体が、いつ母親と同じようになるのか分からなかった。だから、あまり表に出られなかったんだ。
今、姉は母と同じ存在になりつつある。ここで、この母が仔を産む場所で、取り込まれるのか、取り込むのか分からないけれど、母を生みなおそうとしているのよ!」
正気度が0、永久の狂気に陥っている探索者が居る場合、
「狂気 回帰願望」を配布してください。
狂気ハンドアウト:
貴方は何故か、この中へ入ってみたくてたまらない。
それは母親の胎内へ帰ることだと分かっているのだ。
ここで得られる生まれ変わり、不死の生命以上の歓喜が待っているはずだ。
ここで正気度が0の探索者が居ないか、詩由の中へ入ることを他の探索者が止めた場合、美由が代わりに生贄となります。
探索者の前で語り、興奮気味の美由を、詩由と思しき肉の塊の触手が掴みます。
(この場で、美由を助けることも出来ます。彼女をかばった場合、≪回避≫に失敗すると代わりに探索者がその触手に掴まれることになります)
「な、姉さん、生きているの!」
掴まれた美由は、詩由の胎内にずるずると引き込まれていきます。
「そ、そんな、私が贄だと言うの?」
「違う、私は贄じゃない。
「母上!母上!お助けください!母上!」
彼女の抵抗も、絶叫も虚しく、詩由と思しきものの下半身へ美由が沈み込んでいきます。
その声は溺れるもののように完全に消えるとともに、詩由と思しきものの顔には歓喜にも似た表情が浮かび、身をよじらせます。
そして、雌山羊にも似た声が、洞窟内に響き渡ります。
母なる仔山羊、美紗崎詩由
探索者が美由が取り込まれるのを助け、その他の探索者も取り込まれなかった場合、詩由と思しき存在は山羊に似た、不満げな吠え声を上げます。
そいつは、巨体を揺すりながらずるずると壁から動き始めます。美紗崎詩由の上半身と思しき部分が壁から離れると、地響きと共に蹄の様な腕、前足を降ろし探索者や、美由を取り込もうと動き始めます。
彼女の下半身は壁に繋がったままですが、臓物のようにも、血管のようにも見える体を引きずりながら探索者を追いかけます。
天宮が生きている場合、詩由と協力して探索者か、美由を捕らえようとします。
美由は呆然とした表情のまま、「姉さん、生きていたの?」とぶつぶつと呟き続けます(詩由が生きていたことで、彼女の認識が崩壊しつつあります。元々、彼女は正気度が残っていませんが、認識が揺らぎつつあることで本来の狂気が襲ってきているのです)。
詩由との戦闘が開始されますが、彼女は狂気を発症している探索者か、美由しか攻撃の対象としません。
彼女の≪組み付き≫が成功し、さらに次のラウンドにSTRの対抗判定に成功するとその体内へ取り込まれます。
その場合、次段の「母なるもの」へと流れます。
姉なるもの、美紗崎詩由
STR 25 CON 20 SIZ 40 INT N/A POW 12 DEX 3
移動 8 耐久力 30 DB+3D6
武器:
触手(組み付き) 50%、なし、1ラウンドに1D6回
踏み潰し 30%、1D6+DB
装甲:
なし。1ラウンドに1D6点の耐久力を回復する。
呪文:
シュブ=ニグラスとの接触、シュブ=ニグラスの招来、ムーンレンズの番人との接触、ムーンレンズの番人の招来
その他、生命に関する呪文。
正気度喪失:
母なる仔山羊を見て失う正気度は、1D3/1D10+1です。
母なるもの、シュブ=ニグラス
最後の生贄(探索者か、美由)が取り込まれると、詩由と思しき存在は、山羊に似た鳴き声を上げます。
そいつの下半身のような場所が大きく割れるように開くと、その裂け目よりもさらに大きなものが、そこを押し破りながら姿を現そうとします。
その場に居る全員は、直感的にそれが『母親』であることが分かります。
今、彼女は、娘によって産み直されているのです。
天宮が生きている場合、彼は歓喜に包まれた表情で『母親』に手を伸ばし、山羊の蹄を持つ触手のようなものに踏みつぶされて即死します。
美由が生きている場合、彼女は反応が追い付かず、呆然とその光景を見詰めています。
受肉し、顕現した母なるもの、シュブ=ニグラスを目撃した探索者は、1D10/1D100の正気度を喪失します。
すでに狂気に陥り、彼女を『母親』だと認識している探索者は完全に正気を失い、シュブ=ニグラスに祝福されしものとなります。
あるいは、キーパーの判断によっては、探索者の身体の変異が一気に進み、完全な仔山羊としての姿となるのもよいでしょう。
正気を保っている探索者は、その場から逃げ出すことが出来ます。シュブ=ニグラスが顕現したことにより、迷宮は崩壊を始めており、ムーンレンズの番人が立っていた大扉も半ば破壊され、そこから外に出ることができます。
探索者が迷宮から逃げ延びると、その背後ではシュブ=ニグラスとムーンレンズの番人の奇怪な合体、お互いを貪り食い合うようにシュブ=ニグラスと一体化する様を目撃することになります(この光景を目撃した場合、1D10/1D100の正気度を喪失します)。
事件の後、正気度の報酬
事件の後
『月光教』が目的を達したか否かで大きくシナリオの結末は変わります。
彼らが『満月の儀式』を成功させた場合、浅草において大規模な人間の消失が起こり、生き残った数少ない人々は「月が奇麗だった」と呟くことになります。
『満月の儀式』の妨害(少なくとも中断)させられた場合は、以降、『月光事件』も起こらなくなり、光月町でも『月光教』の人間を見ることもなくなります。
PCAが上手く情報を揃え、『K機関』へ通報した場合は、江津森で大規模な掃討作戦が行われ、以降、その土地は『無かった』ことになります。
そうでない場合、江津森には相変わらずシュブ=ニグラスへの信仰が残り、再び信者を増やそうと動き出すかもしれません。
以上の結果を踏まえて、探索者のそれぞれの目的を達成できたかを判断し、それぞれのその後を演出するとよいでしょう。
正気度の報酬
この探索を生き延びた探索者は、1D10点の正気度を獲得します。
『満月の儀式』が成るのを防いだ場合(中断でも可)、1D4点の正気度を獲得します。
探索者にそれぞれ設定されている目的を達成している場合、1D3点の正気度を獲得します。
天宮、シュブ=ニグラスに祝福されしものを打倒している場合、1D3点の正気度を獲得します。