ちかまさりせる面けだかく、眉あざやかに、瞳すずしく、鼻やや高く、唇の紅なる、額つき頬のあたり臈たけたり。
こは予てわがよしと思ひ詰たる雛のおもかげによく似たれば貴き人ぞと見き。
────────── 泉鏡花「龍潭譚」より
注意、あるいはお約束: プレイしてみたい人、プレイするかも知れない人は読まないでください。読んで良いのはキーパーか、またはプレイする予定のない人だけです。うっかり目次を見てしまった人は、「記憶を曇らせる」の呪文でも使って忘れてください。万が一そのままプレイに参加したりすると、貴方の悪徳に誘われて隣のプレイヤーにイゴーロナクが憑依するかも知れませんよ。
そして当然ですが、このシナリオはフィクションです。 |
本シナリオは下記のような構造となっています。
まずはすぐ下の目次に目を通し、それからはじめに、シナリオの概要と読み進み、シナリオの本体へ進むのが良いでしょう。
はじめに
シナリオのスペック
始める前に
シナリオの傾向
PC作成時の注意、立場
PC同士の関連付け
シナリオの概要、真相(キーパー向け)
登場人物(NPC紹介)
シナリオ
導入部
振治田
一日目、倉木の家
二日目、慈悲ヶ丘村
探索部:
三日目以降
倉木家
■澪:
■千里:
■十蔵:
■土蔵:
■倉木のルーツ、その祭祀:
■倉木文書:
湖
■対岸の民家:
■対岸の民家で発見される文書と絵:
■湖畔の森:
■納骨堂:
慈悲ヶ丘村
■的場の家:
■長柄の診療所:
■長柄の日記:
■坂下太助:
■滝川五郎:
■ダム:
夢引き
■2日目の夜の『夢引き』:
■3日目の夜の『夢引き』:
■4日目の夜の『夢引き』:
終幕部
『月待ちの儀』
緑の崩壊
事件の後、正気度の報酬
データセクション
ダム
『月待ちの儀』、タグ=クラトゥアの逆角度の呪文
グラーキ
グラーキの従者
墓に群れるもの
謝辞、あるいは参考資料:
PC@ 昔の恩人を訪ねる 推奨職業:なし:
昔、世話になった人が田舎に引っ込んで久しいが、急に遊びに来ないか、という連絡を受け取ります。
恩人の名は的場一郎。
手紙の調子は特に異変は見られませんが、今までこんなことは無く、明らかに何かがおかしい気がします。
PCA 倉木家の遠い血縁 推奨職業:なし:
遠い血縁である、倉木の本家より、一度戻るように要請が来ています。
倉木の家は、栃木だか茨城だか新潟だか分からない山奥にあり、昔からの地主で大金持ちで有名です。
風の噂では、現当主の倉木千里がそろそろ危ないとかで親族会議を開くという話です。
PCB 医療関係者 推奨職業:なし(医療関係者):
恩師である長柄幹司が、医者の居ない村である慈悲ヶ丘村に開業して久しくなります。
そんな恩師からの連絡が最近途絶えています。
田舎の村のこともあるし、最近は近隣でダム建設も在り、忙しいだけなのかもしれませんが、真面目でマメな人なので何かあったかもしれません。
PCC ダム関係者 推奨職業:なし(会社員):
ダム建設の影響で、近隣にあった慈悲ヶ丘村の湖が干上がったという報告を受けています。
一時、訴訟騒ぎもあったがそこは何とか事なきを得ました。
これ以後、さらに何かあっても困るので、現地の調査を行い、可能であれば事前に押さえ込むことが必要です。
PCD その他 推奨職業:なし:
いわゆるその他枠となります。
慈悲ヶ丘村、倉木家を訪ねる理由をひねり出してください。
なんなら、PC@〜Cの同行者でも可能です。
慈悲ヶ丘村は、水源を持つ地主、倉木家が実質的な支配権を持っていました。
しかし、ダムによって水源であった湖を干上がり、村は困窮するという状況に陥っています。昔から、隠れキリシタン的に倉木の祭祀が村を支配的だったものが、今度は終末思想的にそれを求めるようになっています。
倉木の家が持つ水源、湖はグラーキが顕現する為の条件を備えており、その祭祀の中心である『月待ちの儀』は、『タグ=クラトゥアの逆角度』の儀式です。
通常、グラーキは『夢引き』によって犠牲者を招き寄せ、夢の中で自身の従者を増やしていますが、この『月待ちの儀』はグラーキ自身が直接顕現し、多数の村人を一晩で従者にするとともに、開いた『門』によって、『逆角度』の向こう側へ従者達を導きます(この向こう側へ行くことを、『湖渡り』と呼んでいます)。
水源が絶たれた村は、この『月待ちの儀』による救済を望む従者が溢れている状態となっています(『逆角度』の向こう側へ行くことによって、緑の崩壊からも逃れることができます)。
倉木の家の現当主である千里、その孫の澪はグラーキの従者です。
二人とも、グラーキの棘に刺されていますが、死に至らず、自意識のある従者となっています。
(千里は60年ほど前の『月待ちの儀』で、澪はグラーキによって夢引きに遭い、さらには自身の魔術の才能によって『逆角度』の向こう側への旅しており、一時期、神隠しとして行方不明になっていました)。
当主である千里は、ただ不死となるのみだと思い込んでいましたが、やがて緑の崩壊を迎えることを知ると、これを避けようとやっきになります。元々、正気度に問題がある人物でしたが、グラーキの遭遇や、緑の崩壊の事実により、残った正気も消し飛び、いまやただ、緑の崩壊を避けるのに必死な完全な狂人です。
澪は、自らの意思でグラーキに仕えるようになっています。千里の指示で、緑の崩壊を避ける為の手段を探っていましたが、倉木家にまつわる『月待ちの儀』がグラーキを召喚し、『逆角度』のあちら側への行く手段であることを知ります。
彼女は、『月待ちの儀』を完成させることでグラーキを顕現させ、グラーキとともにあちら側へ行く(『湖渡り』を行なう)ことを望んでいます。
湖に潜むグラーキには、十分なMPが捧げられています。
この為、かなり強い影響力を持って夢引きを行ない、信者を増やしています。影響力が強すぎる為、夢と現実の境界を曖昧に出来るほどです。
ただ、本体が顕現するには、『タグ=クラトゥアの逆角度の儀式』(『月待ちの儀』)が必要であり、計算され、時期を計った儀式の執行を行なう必要があります。
本シナリオでは、具体的なNPCの行動ではなく、行動方針、考えが記述されているのみとなります。
ざっと上から流す、ということは不可能である為、キーパーの事前準備を必ず行なってください。
倉木澪(くらき・みお)、グラーキの巫女、魔術師
STR 6 CON 22 SIZ 10 INT 18 POW 8 DEX 3 APP 16 SAN 0
耐久力 16 DB +0 MP 38(グラーキから余剰分を授かっている)
武器:
なし(澪は基本的に肉弾戦を行ないません。また、爪も普通の長さです)。
装甲:
なし。
呪文:
萎縮、命の糧、記憶を曇らせる、吸魂、グラーキとの接触、グラーキの従者との接触、支配、手足の萎縮、ナイハーゴの葬送歌、緑の崩壊、タグ=クラトゥアの逆角度(『月待ちの儀』)、その他、キーパーが適切と思える呪文。
技能:
隠れる 60%、聞き耳 80%、クトゥルフ神話 46%、忍び歩き 75%、その他、学術系の技能は全て70%
千里、グラーキの従者
STR 17 CON 26 SIZ 14 INT 13 POW 12 DEX 0(脚が崩壊している為) APP 8 SAN 0
耐久力 20 DB +1D4
武器:
小鎌 20% 1D6+1+DB
装甲:
なし。
呪文:
なし。
技能:
聞き耳 90%、クトゥルフ神話 15%
十蔵、倉木家の老僕
STR 13 CON 10 SIZ 10 INT 10 POW 15 DEX 13 APP 7 SAN 35
耐久力 10 DB +0
武器:
なし(十蔵は戦闘をしません)。
装甲:
なし。
呪文:
なし。
技能:
隠す 80%、隠れる 80%、聞き耳 90%、忍び歩き 70%、家事全般 80%
坂下太助、慈悲ヶ丘村のザドック・アレン
STR 8 CON 9 SIZ 8 INT 13 POW 11 DEX 7 APP 7 SAN 25
耐久力 9 DB -1D4
武器:
なし(太助は戦闘をしません)。
装甲:
なし。
呪文:
なし。
技能:
隠れる 50%、聞き耳 0%、クトゥルフ神話 5%、忍び歩き 40%、信用 50%、過去を語る 80%
滝川五郎、村の若者
STR 14 CON 15 SIZ 16 INT 9 POW 10 DEX 12 APP 9 SAN 20
耐久力 16 DB +1D4
武器:
大きな棍棒 50% 1D8+DB
装甲:
なし。
呪文:
なし。
技能:
回避 30%、隠れる 70%、聞き耳 50%、クトゥルフ神話 2%、水泳 70%、跳躍 80%、目星 60%
慈悲ヶ丘村について調査した場合、探索者のコミュニケーション手段に合わせてキーパーは適宜技能ロールを行なわせてください。
成功すれば、以下のような情報を手に入れることができます。
・隠れキリシタン的な、村人の間で隠れた信仰を持っている。
・調査に行った考古学者、人類学者が居た。帰ってきていないが、おそらく新潟方面へ抜けたのではないか。
・水源を預かる倉木の一族が繁栄していたが、ダム工事以降、あまり話を聞かない。
・湖がある。そこで溺れたりした人間が居るとかある話がある。
怪談だが、女の幽霊に招かれるとか、そういう話。
・湖は、昔、人身御供の儀式があったとか。湖に住む竜神に生贄を捧げることで、村は水を自由に使え、繁栄したとか、その手の伝説がある。
・近年まで続いていたとかいう話もあるが、閉鎖的な村なのでそこらへんは噂の可能性も高い。
・また、別の昔話では山王様のように、化け物退治をしたような話にもなっている。
また、探索者によっては、慈悲ヶ丘村にいるはずの人間について訪ねることもあると思われますが、その場合は、都会化が進んでおり、余所者も多いこの村では特に手掛かりを得ることは出来ません。
この振治田から慈悲ヶ丘村までは徒歩で3日、馬車を使えば1日となります。
馬車に乗る場合は、振治田で手配をするか、あるいは村から日用品等の調達に来る馬車に乗せてもらう等の交渉が必要になります。
倉木の家はかなり巨大な家屋敷であり、離れに土蔵まで持っています。
荒れた様子、とまでは行きませんが、明らかに手入れが行き届いていません。それでも目に付く部分はちゃんと掃除されていたりするので、人出が足りないだけだということが分かります。
探索者達が訪えば、まずは澪が対応に出てきます。まず、PCAを見て、
「あらあら、よく戻って来ましたね。待っていましたよ」
と言います。PCAに同行者が(居ると思いたい…)居る場合は、すぐに事情を察して、
「ああ、村には気の利いた宿とかは無いから、家でよければ遠慮なくどうぞ」
とも言います。この澪の申し出を受けるならば(受けざるを得ませんが)、本宅の客間へ通されます(20畳近くある一間で、客はここに集められます)。
この部屋からは屋敷の裏の森が臨まれ、さらにその濃い森の奥に、おそらく前は湖があったであろう、広い範囲で土が露出している場所を見ることができます。
その後、十蔵が現れ、風呂の準備が出来ている旨を伝えます。
風呂が終わるとすぐに食事となり、何から何まで、至れり尽くせりの歓待を受けることになります。
食事の後、PCAは、澪に「お爺様は加減よろしくなくて、離れで臥せっています。とても話せる状態ではないので、ある程度回復するまで、待ってもらえるかしら」と言われます。
探索の舞台となる慈悲ヶ丘村、湖、倉木家の位置関係は以下の通りです(ガンドッグゼロで使用されるゼネラルマップのようなものだと思ってください)。
※探索の情報については、各情報の項目を参照してください。
そして、二日目の夜に『夢引き』が行なわれます。
三日目以降、昼間は探索者が自由に行動することが出来ますが、キーパーはある程度の時間単位を区切って、探索者を平等に行動させるようにしてください。
夜になると基本的には倉木の家に帰ることになります。倉木の家ではこれといった事件は起こりませんが、澪や十蔵から話を聞く機会でもあることを忘れないとともに、日にちの進行でグラーキの『夢引き』が行なわれることに注意してください。
※三日目以降、もしも探索者が「帰る!」と言った場合は、『夢引き』の判定を行い、失敗すると帰ることができません。
まるで、《言いくるめ》から正気づいたような感じで、何故、帰ろうと思ったかと思ってしまいます。
倉木の家屋敷の配置は以下の通りです。
慈悲ヶ丘村の村民からは崇められると同時に恐れられている存在ですが、水をもたらすということで、農業がメインのこの田舎では崇拝せざるを得なかった、という事情もあります。
倉木家独自の祭祀を、隠れキリシタン的に村内に広めており、村に残っている村民のほぼ全てがこの倉木の祭祀の影響を受けています。
倉木の祭祀は『グラーキ』を祀ることであり、湖に潜むこの存在に対して生贄を定期的に捧げたり、夢引きに遭って従者となった者たちを匿ったりし、一定の条件が揃った時期に『月待ちの儀』と呼ぶ、『タグ=クラトゥアの逆角度』の儀式を持ってグラーキ自身を召喚し、従者達を逆角度の向こう側へ送っていました(『湖渡り』と呼ばれます)。
これを信仰する村人達は、グラーキの従者になることは神に選ばれ、その不死の従者になることであり、『湖渡り』は神の元へ召され、救済されるのだと信じています。
村民が選ばれてグラーキの棘に刺された痕を、『徴』と呼び、尊んでいます。
今回の親族会議は、千里が危ないということもありますが、『月待ちの儀』の条件が整う時期を見計らっての、倉木の血筋をグラーキの従者にする為のものでもあります。
また、千里は体の崩壊が始まっている為、『湖渡り』を切望しています。
■澪:
千里の孫であり、グラーキの従者です。
不死のグラーキの従者ではありますが、全く死者らしくなく、むしろ病的に色白な美女に見えます。
非常に動きが遅い点が、従者らしくもありますが、普通はおっとりとしたお嬢様のようにも思えます。
彼女をよく観察した場合、《アイデア》に成功すると、尋常でないレベルで動きが遅く、不器用であることに気が付きますが、同時に異常に聡明であることも分かります。
見た目は20台半ば、というところですが、本当の年齢は40を越えています(まあ、従者となっているので歳を取らない訳ですが)。この為、PCAは遠い記憶の中にある澪と、現在の澪が全く変わらないことに驚くことになります(《アイデア》に成功した場合、0/1の正気度を喪失する可能性があります)。
日中、澪は基本的に森へ『月待ちの儀』の準備に出かけています。この為、十蔵をどうにか足止めして、他の探索者が彼女の部屋を家捜しすることも可能です。
この場合、彼女の部屋で《目星》に成功すると、『倉木文書』2冊を発見します。
(この『倉木文書』は、『グラーキの黙示録』と同じ内容で、グラーキについて記載がされています。
後述の『倉木文書』を参照してください)
■千里:
80歳を越える高齢で、グラーキの従者です。60年前に従者となっている為、緑の崩壊が始まる兆候がすでにあります。
高齢ではあるのですが、従者である為(もともと死んでいることもあり)、体自体は丈夫とも言える妙な健康状態とも言えます。
多少は正気度が残っていたのですが、崩壊する自身の一部を目撃したことにより完全な狂人となり、陽光を極端に恐れるとともに、『月待ちの儀』によりグラーキとともに『逆角度』の向こう側へ行き、生き残る妄執に囚われています。
(が、澪に上手く言いくるめられて離れに閉じこもっている状態です)
千里は完全に死人の従者である為、もしも探索者が離れに侵入してその姿を目撃した場合は、1/1D8の正気度を喪失する可能性があります。
■十蔵:
倉木家に仕える、唯一残った家僕です。
倉木家の祭祀も承知の上で主に仕えており、千里と澪が従者となっていることも知っています。
ただ、彼にとっては倉木の家のみが大事である為、決して主人の不利になるような行動は取りません。探索者がコミュニケーション系のロールで情報を引き出そうとした場合、彼は沈黙を持って応えます(彼は嘘を吐くようなことはしません。ただ、沈黙するのみです)。
その他の情報、村についての一般的な情報等は特にロール等の必要なく教えてくれます。
■土蔵:
この土蔵は、グラーキの従者達の昼間の隠れ家です。
前にグラーキが顕現した『月待ちの儀』から60年の間に、グラーキは『夢引き』によって犠牲者を増やし続けており、その中で倉木家に近しいものはこの土蔵で、昼間は安全に寝ています。
この土蔵を探索者が調べた場合、「内側から鍵が掛かっている」ことに気が付きます。
この為、《鍵開け》でこの土蔵の扉を開けることはできません。力押しをした場合、耐久力20、装甲3の扱いになりますが、この破壊行為はすぐに十蔵が気付いて止めに飛んできます。
■倉木のルーツ、その祭祀:
倉木の祭祀については、江戸中期から始まったとされていますが、詳細は不明です。それよりも昔から、山奥の湖に住む竜神の伝説はあり、それが倉木の水のルーツにもなっています。
原始的な竜神信仰と入り混じっており、村の老人も倉木の祭祀を適当に、都合よく覚えています。
この為、倉木の家は、湖の竜神を祭ることになっており、この竜神の加護で、倉木の家は竜の子孫とか、代々長生きであったり、水を司っていた、と言われています。
倉木の祭祀の本質は、グラーキを祭ることです。
『夢引き』によってグラーキに遭遇し、『徴』(=棘に刺されることで不死)を授かるだけでなく、その後に、『月待ちの儀』(=『タグ=クラトゥアの逆角度』)によって、神を直接顕現させ、『湖渡り』を行なう(その退去とともに『逆角度』の向こう側へ行く)祭祀です。
これが隠れキリシタンのような歪んだ不死の恵みと、楽園思想へと繋がっています(「ぱらいそさ行くだ!」みたいな)。
グラーキの従者としては、神とともに暮らす状態になり、陽光が無い、緑の崩壊を起こさない安全な世界へ渡ることになります。
■倉木文書:
澪の部屋で見付かる、『グラーキの黙示録』の日本語版で、和綴じの古文書の様相を呈しています。
内容的には1、2巻の内容であり、これは代々、『月待ちの儀度』を行なうことが出来る倉木の人間に受け継がれているものです。
これは『夢引き』で神から直接授かった知識であり、オリジナルであるのですが、英語の『グラーキの黙示録』と同一内容となります。
・倉木文書(上巻)
※古語で書かれている為、《日本語》か、《考古学》、あるいは芸術:《古典文学》等のロールが必要。
まるで夢の中の出来事をそのまま、熱に浮かされたように書き記した文章であり、難解で形容詞が多く、また意味不明の固有名詞も多い。
湖に潜む存在が、この星に訪れたことを語っている。
おそらく、その存在が棲む都市を載せた遊星が地表面へ衝突する寸前に、砕けた破片が飛び散ったことを論じている。
その存在がそれ以前にもこの星を訪れているとも主張しており、神として祭られると言及されている。
また、「逆角度」と呼ばれる、ある種の召喚儀式についても言及されている。
正気度ポイント喪失は1/1D2。
《クトゥルフ神話》に+2%。研究と理解に要する時間は平均7週間。
呪文――グラーキとの接触。
・倉木文書(下巻)
※古語で書かれている為、《日本語》か、《考古学》、あるいは芸術:《古典文学》等のロールが必要。
まるで夢の中の出来事をそのまま、熱に浮かされたように書き記した文章であり、難解で形容詞が多く、また意味不明の固有名詞も多い。
湖に潜む存在の従者について論じられている。
従者達は神から『徴』を与えられて以降は、基本的に不死であり、老いることもなくなる。
ただ、一定期間以上時間が経つと、陽光に極端に弱くなり、体が崩壊すると書かれている。
また、石造りの死せる都市、及び神を封じている水晶の落し戸についても言及されている。
正気度ポイント喪失は1/1D2。
《クトゥルフ神話》に+1%。研究と理解に要する時間は平均10週間。
呪文――グラーキの従者との接触(中央に差し込まれた一枚の紙に書かれている)、緑の崩壊、ナイハーゴの葬送歌、見返しの遊び紙に書かれた、吸魂。
→印刷用テキストファイル:『倉木文書』
湖周辺の地図は以下の通りです。
湖周辺を含めて、倉木の屋敷内であり、倉木の家の祭祀の中心地となります。
クレーターは完全に半球形で、湖自体は2Km程度、クレーターは周囲が約500m、中心部の深さは20mに達しますが、穴だらけの地面と、灰色の雑草の他、何も無いただの穴となっています。
よく観察し、《地質学》か、《天文学》、あるいは《ナビゲート》+《知識》に成功すれば、それが隕石の衝突によって出来たように思えます。
この干上がった湖は、『夢引き』の夢の中でだけ、満々と水を湛え、その水面に月を映し出します。
この湖には元々グラーキが潜んでいるわけではありません。『タグ=クラトゥアの逆角度』の儀式の条件を満たしていた為、その『夢引き』の対象となっています。
そして、倉木の家の先祖で、才能があるあったもの(INTが18以上あったもの)がグラーキからの知恵を理解し、祭祀の中心となり、『月待ちの儀』と呼ぶ『タグ=クラトゥア逆角度』の儀式を始めたのです。
■対岸の民家:
湖の倉木家のある方向とは逆の岸に、民家らしきものが6軒建っていますが、かなり前、少なくとも江戸期のものであり、ほぼ朽ち、屋根も潰れ、ほぼ民家らしきものがあった跡となっています。
この民家は倉木の家の持ち物で、土地が無い慈悲ヶ丘の村の小作人や、後から村に来た人間に貸していたものです。
ここの住人達はほぼ全員がグラーキの『夢引き』に遭い、家を出てから二度と帰ってきませんでした。このことは村に残る全員が知っていることですが、村人たちはむしろ事件にならないようにしてきました。
しかし、村では近年でも行方不明者が出ており、倉木の祭祀に従わない村人達によって通報された村の外部の人間によって、干上がった湖の調査が行なわれましたが、そこには人の死体はおろか、何らかの事件性のあるものも出ませんでした。
これらの民家はほぼ崩壊しており、中に入って調べるのも困難なほどです。
もしも探索者が警戒を怠って民家の中の調査を行なった場合、《幸運》に失敗すると民家が崩壊し、1D8のダメージを受けます。
この6軒の民家の調査を注意深く行い、《目星》に成功した場合は、おそらく土壁であった箇所から絵と文書を発見することができます(後述を参照してください)。
■対岸の民家で発見される文書と絵:
・文書
…永劫の太古より、無限の空間を越えて、物質を凌駕する実体を有し、精神の髄そのものの中を何ものにも囚われる事無く闊歩する。
彼のものが紡ぎ出す欲望の前に、何者もその召喚を拒む事はかなわず、彼のものの容赦無き探索の意志の前に、世界の果てといえども身を潜める事はかなわず。
彼のものの目的の前に、時間も空間もその境界そのものを曲げ歪める。波の下の黒き石の回廊において、彼のものは暗闇の中、永劫の時間を潜み待つ。
何故なら彼のものこそは湖に棲むもの、万物の支配者なれば。
彼のものへのあらゆる賛美は与えられるべくして与えられるもの。
おぉ、古ぶるしく恐ろしきもの、おぉ、氷のごとく冷たき星々の間より滴り落ちしものよ、我らを汝の意志に尽くさせ、ここに我らの生贄を受け入れよ。
・絵
何かある種の顔のように見える粗雑な絵が描かれていた。
それは不快に膨れ上がった果肉状の頭部と、そこから長く突き出した光沢のない小さな目、輪郭のほとんど占めている薄い切り傷のような口を持っている。
→印刷用テキストファイル:『対岸の民家で発見される文書と絵』
■湖畔の森:
鬱蒼と茂る、重く、暗い森です。
昼なお暗い、という表現よく似合うのですが、常に湖が見えることもあり、迷うような森ではありません。
この森で近隣での行方不明者や、昔死んだはずの人間に会った、という伝承が囁かれています。
《ナビゲート》に成功しなくとも、大体の方向が掴めるので、倉木の家、慈悲ヶ丘村へ行くのに森を通り抜けるのもあまり難しくありませんが、でこぼことしており、湖が少し高い場所になっていることあり、直線距離ではショートカットになりますが徒歩で行くには余分な時間が掛かります。
この森を通過する場合、20%の確率で、あるいはキーパーの判断でグラーキの従者と遭遇する可能性があります。
但し、いきなり近距離で遭遇するのではなく、のろのろと歩くその後姿をまず目撃することになります。
これを追いかけようとした場合、『墓に群れるもの』の攻撃を味わうことになります。
キーパーは探索者にPOW×1のロールを要求してください。
POWロールに失敗した場合、のろのろと歩いているはずの、その森の中を行く人物には何故か追いつくことが出来ません。
歩く疲労と、奇妙な酩酊と、不快を感じ、MPと正気度を1点失います。
追いかけ続ける場合、さらにPOWロールが必要になります。
追いついた場合は、『グラーキの従者』を目撃し、戦闘となります。ここで遭遇するグラーキの従者は探索者の顔見知りではないほうがよいでしょう(キーパーの判断、シナリオの進行によっては顔見知り(的場や長柄)とするのも問題ありません)。
グラーキの従者を目撃した場合、1/1D8の正気度を喪失する可能性があります。
グラーキの従者、下級の奉仕種族
STR 12 CON 20 SIZ 13 INT 13 POW 11 DEX 3
耐久力 17 DB +1D4
武器:
組み付き 20% ダメージ:特殊
小鎌 40% ダメージ:1D6+1+DB
装甲:
なし。
呪文:
なし。
技能:
忍び歩き 35%
■納骨堂:
この納骨堂に近づくには、『墓に群れるもの』の妨害を受ける為、POW×1のロールか、あるいは澪とともに行動する必要があります。
日本には珍しい、煉瓦造りの納骨堂です。《知識》に失敗すると、この建物が何だか分からず、漠然と恐ろしいものだ、と思うのみとなります。
建物自体は比較的新しく、明治に入ってから倉木の家が建てたもので、納骨堂の入り口は石造りの見るからに重そうな扉に閉ざされています。
(キーパーの判断で、探索者が納骨堂を目撃した場合、村の寺と、墓が荒れ果てているにも関わらず、納骨堂があることに違和感があるとして構いません)
この納骨堂には、『墓に群れるもの』が潜んでいます。この存在はグラーキに捕まっているか、あるいは澪に使役されている状態です。
納骨堂の扉には鍵は掛かっていません。その扉を開くと、黴臭いうえに生臭いなんとも言えない臭いが探索者を襲います。扉からすぐに下りの階段になっており、納骨堂部分は地下になっています。
この階段を下りるとちょっとした広間と、その左右にベッドのような棚が作られており、本来であればそこに骨を収めるはずなのですが、そこには死体が置かれています(昼間のグラーキの従者です。この納骨堂は安全である為、彼らは眠っているのです)。そして、広間の真ん中には半分人類、半分甲殻類に見える奇妙な像が置かれています。
この像を目撃した探索者は、0/1D3の正気度を喪失する可能性があります。そして、探索者がこの場を探索しようと居続けた場合、像には『墓に群れるもの』が像に1D6体転送され、この像がまるで白いゼリー状の影に覆われ、動き出すことに気がつきます。
『墓に群れるもの』が使用中の像を目撃した探索者は、1/1D6の正気度を喪失する可能性があります。『墓に群れるもの』は基本的に探索者に対してとりつき攻撃を行ないます。
探索者が逃げ出した場合、『墓に群れるもの』は特に追撃をしたり、空間を折り畳むなどの行為はしません。あくまでも納骨堂を守っているだけです。空間を折り畳むのを行なうのは、澪の指示があった場合のみです。
墓に群れるもの、下級の奉仕種族
※像(1D6体のうちの1体のみ)
STR 13 CON 11 SIZ 13 INT 11 POW 16 DEX 7
耐久力 12 DB +1D4
武器:
組み付き 20% ダメージ:特殊
体当たり 20% ダメージ:1D4
装甲:
3点
※生来の姿(1D6体の像に取り付いたもの以外の残り)
STR N/A CON 11 SIZ 4 INT 11 POW 16 DEX 11
耐久力 7 DB N/A
武器:
なし。とりつきを行なう。
装甲:
魔力が付与されていない武器以外は無効。魔術、火、酸は通常のダメージを与える。
※とりつき攻撃
『墓に群れるもの』とPOWの対抗ロールを行い、失敗すると対象は憑依されます。この後、D100でPOW以下を出せなければ、対象は意識不明となります。
ただ、対象の意識の有無に関係なく、『墓に群れるもの』は憑依した対象を使って食事を開始します。
この冒涜的な食事の際に、対象が意識を保っている場合は、1D3/2D4の正気度を喪失する可能性があります。
食事が終わると『墓に群れるもの』は、犠牲者を納骨堂から離れた場所の外に無傷で解放して去っていきます。
『墓に群れるもの』を撃退するか、納骨堂を破壊すれば、森の中でグラーキの従者に遭遇した場合、妨害を受けなくなります。
また、終幕部で逃走した場合のPOWロールは必要なくなります。
慈悲ヶ丘村を含む、その一帯と、湖は全て倉木家のものです。
この為、辺りの水利権一切を持っており、慈悲ヶ丘村は基本的に倉木の許しが無ければ水が使えないことになっています。
しかし、これが近年、ダムの建設の影響か、湖が干上がってしまいました。この為、村人は深い井戸から湧き出るわずかな水で生活をしている、という状態です。
倉木の祭祀を信じていない若い世代は、行方不明者が出たりする村を去っており、残った村人は倉木家がどうかにかしてくれる、次の『月待ちの儀』によって救われると信じています。
また、たとえ死んだとしても、『湖返り』によって、安楽な死後の世界に行けるものと信じています。
2日以上、村に滞在していた場合、《アイデア》に成功すると村全体として、人が少ないことに気が付きます(多くの村人が『徴』を得て、従者となり、森に潜んでいます)。
村にある唯一の寺が荒れ果てており、無人と化しています。そこにある墓を見に行った場合は、新しいものの数が極端に少ないことに気が付きます。
■的場の家:
PC@の恩人となる的場一郎ですが、彼はすでに『夢引き』によって行方不明となっています。
家には二人の子供の良二、三津子しか居らず、PC@が訪ねた場合、良二はぶっきらぼうに対応し、三津子は家の中に隠れています。
一郎について尋ねた場合、「父ちゃんは出て行った」ぐらいしか答えません(実際問題として、彼も父親がどこに行ったのかは分からないのです)。
もしも、探索者は子供達に対して柔らかく対応した場合、《説得》か《信用》に成功すれば、良二から情報を引き出すことは出来ますが、村で余所者扱いを受けていること以外に、特に有用な情報を得ることは出来ません。
ただ、父親が行方不明の前に大きな怪我をしていたようだ、と思い出します。
的場の一家は、倉木の祭祀を受け入れていない為、余所者扱いを受けています。確かに祖先は慈悲ヶ丘村の出身で、その土地もあるのですが村を出たのはかなり前であり、戻ってきた理由も都落ちのようなものなので、村では村八分とまでは行きませんが、良い扱いを受けていません。
『月待ちの儀』が近いことで村の空気が不穏になったことが、PC@への手紙の原因となっています。
長柄医師も同様に余所者であった為、ある程度の交流があったことにしても問題ありません。
最初の『夢引き』の後で、的場家を訪れると、妹の三津子も夢に引かれ、そしてグラーキの棘を受けています。
良二が必死になって、探索者に訴え、そして助けを求めてきます。三津子を診療した場合、以下の描写を行なってください。
その胸と、背中には青黒い大きな何かに貫かれた痕のような斑紋があり、そこから赤い網目のような模様が広がっている。
もしも、何かに貫かれたのだとしたら、死に至るほどもものであったが、傷からは血が流れているわけではなく、ゆっくりと彼女の胸は起伏を繰り返していた。
探索者が三津子に対して1日付きっ切りで治療を行ない、《医学》(《応急処置》は不可です)に成功した場合、三津子は一命を取り留めたように見えます。
しかし、彼女はグラーキに意識を支配されていないグラーキの従者となります(助かってから診察した場合、彼女の状態が死者のそれとほぼ同じであることに気が付きます。この場合、1/1D4の正気度を喪失する可能性があります)。
《医学》に失敗するか、治療を行なわなかった場合、三津子は死亡し、その次の日にはグラーキの意思に導かれて湖の周辺の森に潜むこととなります。この場合は、最後の『月待ちの儀』において、犠牲者の一人のグラーキの従者として再登場します。
■長柄の診療所:
古い農家ばかりの慈悲ヶ丘村の中で、かなり目立つ新しい建物で、しかも洋式のものす。
と言っても、土間を大きくしたような診察室兼待合室と、長柄医師のプライベートスペースの書斎と寝所があるだけの小さなものです。
長柄の祖先が暮らしていたこともありますが、医者が居ないこの村に引っ越してきました。
村人はあまり医者に掛かる必要も無く、余所者として信用していない節もあるのですが、無いよりはマシ、ぐらいのつもりでたまに診療を受けるパターンもあったようです(また、若い世代が居る時分には、そこそこ繁盛もしていました)。
現在、長柄は行方不明になっています。
村人に長柄について訪ねると、長柄の評判は悪くありませんが、ただ、倉木家の出入りの医者として話題になっています。
その行方不明について、村人は「特に気にしていない」うえに、「困っていない」と言います。
診療所は、鍵で閉じられたままになっており、普通に入ることは出来ません。
入るには、扉を《鍵開け》を行なうか、窓等を破る行為が必要となります。
診療所へ侵入した場合、中に人気が無いのは当然ですが、特に荒らされた様子も無く、きれいな状態であることが分かります。
寝所では特に手掛かりはないですが、整理整頓されている診療所の中で、唯一、彼が使っていたと思われる夜具が寝乱れた状態のままであることを発見します(『夢引き』により、起きた状態から行方不明になっているのです)。
書斎で《目星》に成功した場合、書斎の机の中から彼の日記を発見することが出来ます。日記の内容は以下を参照してください。
日記を調べた場合:
日記を読むには、半日を調査に費やす必要がある。
(日記は日本語で、丁寧な文字で書かれている為、《日本語》は必要ない)
日記の大半は、その日に行なった治療についてが書かれている。
長柄は診療所を構えているが、村唯一の医者として、あちこちに往診に出向いていることが伺える。
XX月XX日
倉木の主、千里を診察。
すでにかなりの老体であることは確かだが、3年前に初めて診察した以降、特に変わりは無い。
ただ、肌がかなり乾燥しており、まるで崩壊するように荒れている箇所もある。塗り薬を処方。
XX月XX日
倉木千里を診察。暴れる。
脚を悪くしているようだ。片足が壊死するように崩れている。
何故ここまでになるのに放って置いたのか?
XX月XX日
倉木の娘、澪が診療所を訪れる。
しばらく、往診の必要は無い、とのこと。理由は不明。
ただ、老人の方は体よりも精神の方に問題がある。
XX月XX日
村人が騒がしい。
『徴』とは何のことだ。
XX月XX日
同じ大怪我を負った患者を何度か診ている。
青黒い大きな斑紋と、そこから赤い網目状の紋様が広がる傷を持った患者。
傷の大きさや、体の前後、あるいは左右に存在することから何かが貫通したように思われるが、もしもそうなら、即死してもおかしくない。
XX月XX日
例の大怪我を負った患者は誇らしげに「これは『徴』なのだ」という。
XX月XX日
また行方不明だ。
XX月XX日
村人の言う、『月待ちの儀』が近いらしい。
倉木の家の秘祭らしいが。
XX月XX日
奇妙な夢を見る。
干上がったはずの湖に、水が満ちていた。過去の光景だろうか。
XX月XX日
倉木の娘、澪が訪れる。
診療を再開して欲しいとのこと。ただ、昨日から気分がすぐれない為、明日行くと伝える。
XX月XX日
また夢を見る。
湖の底に石造りの都市を見る。あれが、村人が言っていたXXXXXなのか?
馬鹿な、夢だ。
(XXXXXの箇所は震える手で書かれたように文字が乱れており、読めない)
XX月XX日
倉木家へ往診。
千里老は相変わらずだが、精神の状態がかなりよろしくない。
不死だとか、向う側とか、訳の分からないことを喚いている。
精神安定剤を打ち、澪と相談。『月待ちの儀』が終われば落ち着くと言う。謎。
XX月XX日
恐ろしい夢を見る。湖からXXXXXが現れ、私にXXXXXXX。
体がひどく痛む。『徴』がXXXXXXXXXいる。
馬鹿な、あれは夢の中の出来事ではないのか。
(XXXXXの箇所は文字が擦れて読めない)
XX月XX日
陽が眩しい。自分のXXXXXXXXXようだ。
湖にXXXXXXXXX。
早く行かなければ。
(XXXXXの箇所は文字が擦れて読めない)
→印刷用テキストファイル:『長柄の日記』
■坂下太助:
村の古老で、倉木千里と同年代です。
何度か『夢引き』を受けていますが、太助はまだ従者となっていません。
(この他の老人は、グラーキの従者として森に潜んでいるか、あるいは『逆角度』の向こう側へ導かれています)
農作業を出来るほど健康でもなく、養うべき家族も特に居ない為、村を徘徊する老人となっています(食事等は、村の知り合いの厚意でなんとかなっている状態です)。
村で農作業をせず、目立つ存在ではありますが、言動が支離滅裂であるうえに、たまに倉木の祭祀を誰彼構わず漏らすこともある為、村人からはよい目で見られていません。
村の最年長の存在で、湖の伝説や、倉木の祭祀にも通じているのですが、いかんせん、まともなコミュニケーションが取り辛い精神状態にあります。
探索者はこの老人から昔話を引き出すことができますが、コミュニケーション系の技能に加えて、《幸運》の組み合わせロールとなります。
しかも、成功したからといって探索者の望む情報が得られるとは限りません。あくまで、とりあえずコミュニケーションが取れた、という状態になるので、キーパーは適宜、探索者に情報を与えるようにしてください。
■滝川五郎:
村に残った若者達(と言っても、彼を入れて数人しかいませんが)のリーダー的な存在です。
倉木澪に心酔しており、彼女をまるで女神か何かのように慕っています(まあ、実際に倉木の祭祀、グラーキの巫女であることは確かなのですが)。
『月待ちの儀』が近いこともあり、この時期にやってきた余所者である探索者達に警戒を抱くとともに、倉木家に滞在していることで妙な嫉妬心も持っています。
また、『月待ちの儀』では、グラーキの『徴』を持った信者だけが『湖渡り』する為、自身にまだ『徴』が与えられないことに苛立ちを覚えています。
この為、彼は探索者が何をしに来たのかを探ろうとし、倉木の祭祀を探っていることを知れば、村から追い出そうともします。
五郎は探索者からのコミュニケーションによって情報を出すことはないですが、キーパーは分かりやすい排他的な村人として扱い、場合によって、『月待ちの儀』や、倉木の祭祀の情報の一端を彼から口を滑らせるようなことにしてもよいでしょう。
彼は、『月待ちの儀』において、積極的にグラーキにその身を捧げます。
■ダム:
ダムは、振治田からの方が近く、慈悲ヶ丘村からは徒歩では1週間以上掛かるさらに山奥になります。
このダムの建設と同時に、湖は枯れてしまいました。
ただ、今回のシナリオでは特に関連性はありません。湖が枯れるきっかけとなった、程度の情報となります。
また、村人の多くはダムと湖を関連付けて考えておらず、あまり興味も無い、という状態です。
この夢引きの回数が、探索のタイムリミットとなります。
キーパーは探索者の練度や動きに合わせて、夢引きの回数を検討してください。
探索の期間が冗長であるとキーパーが判断した場合、夢引きの回数を減らすことで期間を短く出来ます。
この場合、例えば2日目の夢引きの要素(三津子が『徴』を受ける)を1日目にしてみたり、3日目の要素(禊を行なう澪の、『徴』を目撃する)を現実世界に回したりするとよいでしょう(女性探索者が居る場合は、澪と一緒に風呂に入る、とか)。
何度かこの『夢引き』に遭うと、探索者は眠るのを拒否する可能性があります。その場合でも同様に判定を行い、失敗するといつの間にか寝てしまっています。
※ルールに従うと、グラーキの夢引きは、グラーキのMP−犠牲者のMPのパーセンテージしかありません!
今回のシナリオではグラーキは十分な犠牲者を得ている為、MPが相当高いことにしておいてください(100近く)。
■2日目の夜の『夢引き』:
夜、探索者達が寝入った後、湖に居ることに気が付きます。格好は寝入ったときに格好のままです。
そこは昼には何もなかったはずなのに、クレーター部分に満々と水を湛えています。このあるはずのない湖を見た場合、0/1の正気度を喪失する可能性があります。
その湖には蒼い月が映し出され、幻想的とも言える光景です。
そして、対岸を澪が歩いているのを目撃したところで、湖から何かが浮き上がります。
対岸に、澪以外の小さな影があることに気が付いたところで、探索者達は意識を失います。
(この日の澪は、下見と準備に湖畔を歩いています)
翌朝、脚にまるで水際から帰って来たような泥が脚に付いていることに気がつきます。
■3日目の夜の『夢引き』:
夜、探索者が寝入ると、また湖の夢を見ることになります。
水が寄せては返す波のような音を聞き、気が付くとまた、湖畔に立っています。
昨日はクレーター部分にだけ水があったのに対して、今日は元の湖であった部分全体に水が溢れています。探索者達が立っているのは、その湖の外延部であり、クレーター部分からはまた遠い箇所となります。
耳を澄ませば、どこからか滝の落ちるような音が聞こえてきます。
この音に近づいていけば、湖から水が流れ出す箇所であり、滝のようになっている部分を発見出来ます。
そして、月光に照らされる滝を上から見ると、その滝壺に近いところで、水浴びをする澪を目撃します。
《目星》に成功した場合、澪のその白い背中にグラーキの『徴』を見ることが出来ます。
澪を目撃したところで、また探索者は意識を失います。
(この日の澪は、禊をしています)
■4日目の夜の『夢引き』:
また、探索者が寝入ると前日とはまた違うところに立っています。
今度は、どうもクレーター部分に近いところであり、膝上辺りまで水に浸かっています。
クレーター部分に溜まった水の透明度は非常に高く、ただの暗黒に見えた水底を見通すことが出来ます。
この水底を探索者が探索した場合、下記の描写を行なってください。
水面からだいたい15mほど下にあるらしきものを、闇と水面に慣れるにつれて見分ける事ができるようになった。
それは巨大な漆黒の石のブロックが積み重ねられたかのように思われるものの輪郭で、あたかも玄武岩でできた塔の一群のようであり、硬い指先のように見えるその先端を水面近くまで延ばしているのだった。
その根元がどのくらいの深みにはまり込んでいるのか、想像もつかない。
この狂気の産物に近い、黒い石造りの死せる都市を目撃した探索者は1/1D4の正気度を喪失する可能性があります。
この石造りの都市を目撃した後、探索者はまた意識を失います。
探索者が寝入ると、また湖の夢を見ることになります。
下記の描写を行なってください。
朗々と、澪の声が湖上に響く。
その声は澪のものだと分かるのに、何が発声されているのか、聞いているものには分からなかった。
あるいは、それは人の領域に属する言語ではないのかもしれない。
やがて一際高まった声が、「いあ、ぐらーき!」と絶叫するように途切れると、辺りは水音もしないほど静まり返る。
そして、次の瞬間、湖に小波が走り、その中心から何かが浮き上がってくるのが見えた。
まず、浮き上がってきたものは、おそらく目だ。
三本の細い管が顔から伸びており、黄色の目がその先に付いている。顔はスポンジのようにふわふわとした塊で、その真ん中に、厚い唇の丸い口が付いている。
続いて浮かび上がるのは、その頭に繋がる首で、それは次第に太くなっていく。
その体は楕円形で、その片方に頭が付いており、背には無数の尖った棘が突き出していた。棘はいろいろな金属らしきもので出来ている。
体の下には白い三角形のものがたくさんついており、移動する脚のようなものに思われた。
そして、澪の声に応えるように、湖から現れたものが身をよじると、森からどこに潜んでいたのかと思われるほどの人間が現れる。
しかし、その大半は人ではなかった。干からびたようなものから、まだ生きているように見えるものの、白い、血の気の無いものまで。それは『月待ちの儀』を待ち望んだ死者の群れだった。
グラーキを目撃した場合、1D3/1D20の正気度を喪失する可能性があります。
同時に、現れたグラーキの従者を目撃した場合、1/1D8の正気度を喪失する可能性があります。また、この場合は、群れなので、さらに+1、親しい存在が居る場合は、さらに+1とします(つまり、最大で1D8+2)。
この群れの中には、的場一郎、長柄幹司、場合によって的場三津子も混じっています。
『月待ちの儀』では、グラーキとしては食い放題状態です。
村に残る人間と、そしてすでに従者と化した者達の群れを相手に、グラーキはとりあえず棘を刺します。
この為、探索者は毎ラウンド《幸運》に失敗すると、グラーキの棘の的になりますが、グラーキの棘が乱れ飛ぶ状態である為、本来100%命中するものが、50%となっています。
探索者が逃げようとした場合は、探索者がまだ従者と化していないことに気付いた従者1D6体に囲まれることになります。彼らは探索者を押さえつけて、グラーキの棘を誘導しようとします(組み付きを受けている状態の場合、グラーキの棘の命中率は100%となります。《回避》も出来ない状況なので、この点は探索者に予め注意しておいてください)。
また、滝川五郎と敵対していた場合、彼はこの場でも積極的に探索者の妨害に走ります。
グラーキ、湖の住人
STR 30 CON 60 SIZ 90 INT 30 POW 28 DEX 10
耐久力 75 DB N/A
武器:
棘 50(100)% ダメージ:7D3
※棘の効果については、ルールブックP.214か、マレウス・モンストロルムP.166を参照してください。
装甲:
40点の外皮。
それぞれの棘は、4点の外皮と、6点の耐久力を持っています。
呪文:
キーパーが適切と思うもの全て。
6ラウンド後か、キーパーの判断の時間の経過後、
「ああ、これで長年の夢が叶う」
自ら両手を広げ、棘を受け入れる澪を目撃します。そして、満足したグラーキは次第に湖へと沈みはじめ、同時に湖の水も中心部へと吸い込まれ始めます。
湖の水に触れている探索者は、クレーターの中心部からの距離に応じてSTRの対抗判定を行なってください(0距離で20、20m毎に1減少)。失敗した場合は、湖に吸い込まれ『逆角度』の向こう側へ行くことになります。
早い段階で湖を離れ、森へ逃げ込んだ探索者が居る場合は、『墓に群れるもの』の空間を折り畳む攻撃を受けることになります。
この場合は、POW以下を出さない限り森の中を彷徨い続け、毎ラウンド正気度、MPを1点吸収されます。
POWロールに成功した場合は、同時に意識を失い、夢からも脱出したことになります。
倉木の屋敷からは、澪は姿を消しており、十蔵も同じく見当たりません。
また、土蔵の扉が開いており、中から多数の足跡が湖の方向へと向かって続いていることに気が付きます。
屋敷を家捜ししていると、離れから誰かが暴れるような音がします。
探索者が向かうと、雨戸を押し倒して、死人のような老人が両手を使って体を引き摺って這い出てきます。彼には両足が無く、両手の爪は異様に長く、顔色は死人のように青白く、そして一部は乾燥し過ぎて崩壊しています。
これが倉木家の当主、千里の現在の姿です。彼は昨晩の『月待ちの儀』に参加はしたものの、脚が無くなっていたことで移動が困難である為、運悪くグラーキとともにあちら側へ行くことが出来なかったのです!
千里=グラーキの従者を目撃した場合、1/1D8の正気度を喪失する可能性があります(前に目撃した分と合わせて、8点までしか減りません)。
そして、探索者の目の前で、千里の体がまるで吸血鬼が日光に溶けるように、湯気を上げ、ぞぼぞぼと緑色の塵になりながら崩壊を始めます。
最後にはそこにあるのは、湯気を上げる緑色の堆積物だけであり、千里の体はどこにも残っていません。
この『緑の崩壊』を目撃した場合、1/1D10の正気度を喪失する可能性があります。
『月待ちの儀』が行なわれた慈悲が丘村は、一夜にして全ての住人が行方不明になります。
しかし、この事件を伝えるものも無く、ダムによって湖が枯れ、そして廃村になった村として慈悲ヶ丘はたまに振治田で語られる存在となります。
仮に探索者が訴え出たとしても、荒唐無稽な話として無視されることでしょう。
『月待ちの儀』を生き延びた探索者は、助けた(ただし、おそらくグラーキの従者と化している)村人を抱えて、それぞれの家に帰ることとなります。
キーパーは探索者のその後を、それぞれ演出してください。
正気度の報酬
この事件から生還した探索者は、1D10の正気度を獲得します。
助けた村人が居る場合、一人につき追加で1D3の正気度を獲得します。
グラーキの従者を倒した場合、1D8の正気度を追加で獲得します。
墓に群れるものを倒した場合、1D6の正気度を追加で獲得します。
シナリオ中で使用されるデータや、その他の項目をまとめたものです。
グラーキ、湖の住人
STR 30 CON 60 SIZ 90 INT 30 POW 28 DEX 10
耐久力 75 DB N/A
武器:
棘 50(100)% ダメージ:7D3
※棘の効果については、ルールブックP.214か、マレウス・モンストロルムP.166を参照してください。
装甲:
40点の外皮。
それぞれの棘は、4点の外皮と、6点の耐久力を持っています。
呪文:
キーパーが適切と思うもの全て。
グラーキの従者、崩壊する奴隷
STR 12 CON 20 SIZ 13 INT 13 POW 11 DEX 3
耐久力 17 DB +1D4
武器:
組み付き 20% ダメージ:特殊
小鎌 40% ダメージ:1D6+1+DB
装甲:
なし。
呪文:
なし。
技能:
忍び歩き 35%
墓に群れるもの、戸口に潜むもの
※像(1D6体のうちの1体のみ)
STR 13 CON 11 SIZ 13 INT 11 POW 16 DEX 7
耐久力 12 DB +1D4
武器:
組み付き 20% ダメージ:特殊
体当たり 20% ダメージ:1D4
装甲:
3点
※生来の姿(1D6体の像に取り付いたもの以外の残り)
STR N/A CON 11 SIZ 4 INT 11 POW 16 DEX 11
耐久力 7 DB N/A
武器:
なし。とりつきを行なう。
装甲:
魔力が付与されていない武器以外は無効。魔術、火、酸は通常のダメージを与える。
※とりつき攻撃
『墓に群れるもの』とPOWの対抗ロールを行い、失敗すると対象は憑依されます。この後、D100でPOW以下を出せなければ、対象は意識不明となります。
ただ、対象の意識の有無に関係なく、『墓に群れるもの』は憑依した対象を使って食事を開始します。
この冒涜的な食事の際に、対象が意識を保っている場合は、1D3/2D4の正気度を喪失する可能性があります。
食事が終わると『墓に群れるもの』は、犠牲者を納骨堂から離れた場所の外に無傷で解放して去っていきます。
毎度ですが、本シナリオのテストは大阪でお世話になっているサークル様で実施しています。関係の方々に感謝を。