レビューの始まり
オペラ座館は休館となっており、人気はありません。
そして何故か、オペラ座館の入り口には鍵が掛かっていません。特に何も判定もなく館内へ入ることができ、また特に誰とも会わず、客席側へ入ることができます(逆に、裏口等の関係者用の出入り口は封鎖されています)。
オペラ座の舞台に、フルートを手に一人佇む雪子がいます。もちろん、観客席にも舞台にも人は一人もいません。
雪子は血の気無い白い、何かに取り付かれているような必死さと、そして何処かへ到達した満足げな顔をしています。
「私の音楽では、人を幸せにする、ということは無理なようです。
先生もそうでした。何かに、取り憑かれたように・・・、この音に、楽の音に、取り憑かれているのでしょうね」
雪子はフルートを構えます。
「そう、これはそうなのです。
彼方の天球が奏でる音楽に対する応え。
大地の歌う声。
これが大地返歌なのです」
雪子は演奏を始めます。
ここで、探索者達は雪子に『大地返歌』を奏でさせるか、否かの選択を迫られます。
・雪子が大地返歌を奏でるに任せる。
・雪子が大地返歌を奏でるのを止める。
雪子が大地返歌を奏でるに任せた場合:
雪子は『大地返歌』を冒頭から、最後まで全て奏でます。
その時間はかなり長いものではありますが、雪子一人の演奏なのにも関わらず、それはまるでバックにフルオーケストラでも付いているように聞こえる、鬼気迫る演奏です。
演奏が終盤に達するまでに、《アイデア》ロールに成功すると、低い羽音が聞こえることに気付きます。
同様のロールに再度成功すると、それが耳に聞こえる音ではなく、直接頭に響く、羽音のようなノイズであることを認識します。
一端の静寂の後、第2場の終盤のフルートの独奏が始まります。
そのフルートの音色に合わせて、何かが口ずさむように、さえずるように、そして呻くように歌っています。
それは黒澄綾の『天球音楽』を思わせる音楽です。
真っ暗な深海の鯨の番の鳴き声、緋色の不協和音、ブンブンと唸るような重低音。
綾のそれには、なお昏い、苦悶、憤怒、何かがありました。
しかし、雪子の音楽には、そのフルートの旋律に合わせるかのようなその歌声、言葉にならないおぼろげな声には、狂乱、恍惚、畏怖、酩酊、歓喜といったものがあるのです。
どこか遠くから昆虫の羽音が、そして、ついに耳元で聞こえてきます。
再度、探索者達は悪夢に襲われます。
劇場は暗い闇に包まれます。夜の暗さではなく、突然発生した黒雲が太陽を隠したような、そんな暗さです。そして、稲妻が光りますが、雨は降っていません。
まるでフルートの演奏に合わせるように劇場が小刻みに揺れています。そして、どこかで「どーん」と、ドンとも異なるどこか鈍い、轟く様な音がすると、小刻みな揺れは突然大きくなり、立っていられないほどになります。
この揺れによってオペラ座館の屋根が割れるように崩落します。《回避》×2のロールに失敗した場合、2D6のダメージを蒙ります(これは夢の中でのダメージですが)。そして割れた屋根を見上げると、天井と同じように黒雲が割れ、途方もない大きさの天体が空に姿を現します。
これを目撃した者は1D10/1D100ポイントの正気度を(一時的に)失います(前の悪夢ですでにグロスを目撃している場合でも、同じ判定が必要です。前回の目撃が『夢』になってしまったことで、再度の夢の中での目撃を、現実として認識してしまうのです)。
そして前回の悪夢と同じ絶え間なく聞こえるぶんぶんという唸るような脈動と、そして大地からの鼓動が雪子のフルートと合わさり、さらに高まっていくように思えます。
雪子のフルートの演奏に合わせ、地震も壊滅的なまでに高まっていき、オペラ座館のすべてを崩壊させ、PC達はなすすべも無くその崩落に巻き込まれて暗闇に閉ざされたところで夢は終わります。
探索者達が見た白昼夢は一瞬のことで、目が醒めても雪子の演奏はまだ続いています。
夢の中で受けたダメージ(SAN、HPとも)は、1/10となります。もしも、夢の中で気絶してしまっていた場合は、そのまま気絶したままとなります。
はっきりと、羽音のノイズが聞こえてきます。
そして、雪子の頭の付近に、鳩ぐらいの大きさの昆虫が飛び回っていることに気付きます。
その奇怪な生物は、昆虫と同じ目蓋の無い目をしているがそこにあるの憎悪に似た何かであり、三つの口を持ち、5対の足を備え、半月方の羽が三角形の鱗に覆われたその姿は、地球上のどの昆虫にも当てはまりません。
そいつは何かに酔うように、混乱しているように、歓喜するように雪子の周りを飛び回っています。
シャンを見て失う正気度は0/1D6です。
ここからシャンとの戦闘(?)になります。
シャンは『大地返歌』に酔っている為、全ての行動に対して、最初のラウンドは-30、以降-20、-10のペナルティを受け、4ラウンド目からは通常になります。
シャンは基本的に手出しをしません。大地返歌を歌うことに夢中になっているからです。
4ラウンド目から神経ムチによる攻撃を繰り出すようになりますが、《回避》を選択した時点で攻撃ができません!
しかもシャンの耐久力を考えると、《回避》を行わないとすぐに死んでしまいます・・・。
◆音楽好きなシャン、シャッガイからの昆虫
STR1 CON1 SIZ1
INT20 POW20 DEX30
耐久力1 ダメージボーナス N/A
融合:今回はシャンは融合を行いません。
神経ムチ:50% 詳細はルールブック P.179のシャッガイからの昆虫の「神経ムチの攻撃」の欄を参照してください。
装甲:なし
呪文:シャンは9個の呪文を知っていますが、今回は呪文を使いません。
■6ラウンド以内にシャンを倒した場合
6ラウンド以内にシャンを倒した場合、雪子の演奏は止まり、悪夢から醒めます。
ぐらりと倒れそうになりながら、その場にしゃがみこんだ雪子は、
「ああ、長い夢を見ていました。
遠くから聞こえる音楽、大地の応える歌声・・・。
恐ろしい音楽でした。
でも、『あれ』は、ただ、音楽が好きなだけだったのかもしれません」
雪子はそこでがっくりと意識を失いますが、《医学》のロール等がなくとも、呼吸は規則正しく、安心して気を失ったことが分かります。
ただ、衰弱していることは確かなので、即座に入院等の処置が必要です。
■6ラウンド以内にシャンを倒せなかった場合
6ラウンド後、7ラウンド目に突入した時点でシャンを倒せていない場合は、『大地返歌』の演奏は終了し、その場にいる全員は『グロスとの接触』の効果を受けます。
グロスとの接触によって、探索者は1D8/1D50の正気度を失いますが、例に漏れず、接触をしてもグロスは何も答えてくれませんし、こちらが接触したことを認識もしていないでしょう。
この結果に満足したシャンは雪子へ戻らず、何処かへ飛び去ります。
雪子は完全な『大地返歌』を奏でることでグロスとの接触を果たしており、正気を完全に失います。
茫洋としており、その瞳は何も写していません。軽い鼻歌で、『大地返歌』を歌っている他、なんの反応も雪子は示さなくなります。
雪子が大地返歌を奏でるのを止めた場合:
止める方法は、《説得》でも《言いくるめ》でもなんでも構いません。探索者の手段を積極的にキーパーは受け入れてください。
もちろん、胴タックルを強行して止めるのも問題ありません。
仮に最初に説得して失敗しても、その後、終盤までは間があるので、強行手段に出ることは可能です。
(キーパーは、探索者が「止める」という選択肢を取っている為、説得に失敗した後、強硬手段に訴えることができる、としても構いませんが、
敢えて流してしてしまい、止めない方、演奏をした場合へ流すのも可能です)
演奏を止められた雪子は積極的な抵抗や、行動を見せません。探索者達にされるがままとなります。
「ああ、音楽が。
彼方からの音楽の応えがもうすぐ見つかるというのに。
貴方には大地の歌声が聞こえないのですか」
ひどく混乱した様子で、震えながら演奏を止め、その場にへたりこみ、意識を失ってしまいます。
意識を失っても、寝言で同じようなことを繰り返します。雪子は『悪夢』を見ています。
■雪子からシャンを追い出したが、倒せなかった場合
雪子はシャンによって『大地返歌』を完全に奏で、そのうえ『グロス』と接触をしてしまっています。
正気が完全に破壊されるだけではなく、同時にシャンの異質な考えや、あるいは黒澄綾のような音楽に対する洞察に目覚め、狂人の音楽家となってしまいます(正常なように振舞うことができるSAN0です)。
雪子は1週間ほど脳病院へ入院した後、病院を脱走し、何処へかと姿を消します。
■雪子の演奏を止めた場合
事件以後、雪子は脳病院へ入院していますが、外界へ全く反応を示さなくなります。
軽い鼻歌で『大地返歌』を歌う他、雪子は話すことも、見ることも、聞くこともしなくなっています。
雪子は回復する見込みもなく、しばらく東京の脳病院へ入院した後、岐阜の実家へ引き取られ、戻っていきます。
経験点の報酬と正気度の報酬
この探索における正気度の報酬は下記の通りです。
◆雪子に『大地返歌』を奏でさせ、シャンを倒した場合、正気度に+1D10。
◆雪子に『大地返歌』を奏でさせたが、シャンを倒せなかった場合、正気度に+1D3。
◆雪子の『大地返歌』を止めた場合、正気度に+1D6。
◆稲葉宅にある『ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ』を処分している場合はさらに正気度+1を獲得します。