導入(女学生PC):雪子からの手紙
朝、いつものように桜嶺女学院に登校すると、下駄箱の中に薄い紫色の便箋が入っています。
(いわゆるSメールという奴で、当時、女学生はなんでも手紙で渡す、といった文化が存在しました)
→ハンドアウト:雪子からの手紙1
(手紙には浅草のオペラ座館のオペラのチケットが同封されています。開演時間は今日、授業が終わってからの時間のものです)
安藤雪子については、声楽部に所属する、あまり女学院内では目立ちはしないが、フルート奏者として有名らしい、
といった一般的な情報を女学生PCは知っています。
この他、女学院内で雪子について聞いて回れば、下記の様な情報を手に入れられる可能性があります(《信用》、《言いくるめ》他、適切なロールを行わせてください)。
・「オペラが好きとか。浅草にも何度も行っていて、先生方に注意を受けていましたわ」
・「小柄でなかなか可愛い方ですわ」
・「声楽部ではありますが、フルートの演奏を得意とか。最近は黒澄さんの(はっとして口をつぐむ)、とにかく、今は一番声楽部では目立つ方ですわ」
・「実家は岐阜の方で、寮に入っています」
・「学校外でフルートのレッスンを受けておられるとか。かなりお上手ですとか」
導入(特高PC):上司からの命令
いつものように突然上司に呼び出されます。
上司は無言のまま、オペラのチケットを机の上に放り出します。チケットは今日の日付で、開演時間は夕方からになっています。
上司は、浅草における社会主義者、あるいは騒乱の元の調査を命令します。
「またしても前回のようなことが起こっては我々の面目が立たん。
なんとしても奴らを監獄・・・、いや去年からは刑務所か、に入れてやらねばならん」
「そのオペラ座館とやらで、新作オペラが発表されるらしい。それの調査、背後にある社会主義者、無政府主義者を探ってくれ」
前回、ということを尋ねた場合、下記のような回答が得られます。
「1月ほど前に、あそこのオペラ座館というところ暴動に近いものが起こったのだ。
死者も出たほどだ。
何人か逮捕者が出たが、その中に近衛、という名前があってな。
即座に中止、釈放ということになったよ。
それどころか、こういうことを防ぐのが君らの仕事ではないかと叱責をもらったのだ」
最後に、上司は探偵PCの名刺を渡します。
「何かの役に立つだろう。土地柄、手帳を振り回すとより厄介になるだろからな」
導入(探偵PC):氏家家からの依頼
世間の探偵小説の隆盛にも関わらず、やはり探偵は地味で地道な作業が基本となっています。
今日も今日とて、暇を持て余しているか、地道な作業をしている探偵PCの元へいかにも華族の使用人、と言った感じの初老の男が入ってきます。
男はまず、氏家家の家令をしている不破と名乗り、馬場子爵からの紹介で探偵PCを訪れたことを告げます。
依頼の内容は、氏家の家の善司が、狂気に陥った理由の究明であり、それと同時に善司をそういう道に誘った人間を見つけてほしい、というものです。
「坊ちゃまはあまり大きな声では言えませんが、大杉栄ですとか、辻潤ですとか、そういった、その、いわゆる社会主義に傾倒しておりまして・・・。
浅草のオペラに夢中でもありましたが、特に稲葉とか言う作曲家と最近は仲がよろしゅうございました。
この間、なんとかいうオペラを合作で発表したのですが、その前後から、坊ちゃまは頭痛やら何か幻聴を訴えておりまして・・・。
今現在は、その、お脳の病院へ入っております」
氏家善司は被害者で、その犯人を見つけて欲しい、といったスタンスです。
不破は上で告げたこと以外の情報をほとんど持っていません。
《信用》ロールに成功した場合、氏家が根岸病院に入院していることを教えます。
(もしも、ここで失敗しても脳病院(精神病院)を調査すれば、氏家の居場所はすぐに分かります)
導入(その他のPC):
浅草に行く用事を作る、あるいはオペラ、活動写真を見に行く、その関係者と知り合いということで、オペラ座館に赴く、と言った導入にしてください。
女学生PCの関連、探偵PCの関連で一緒に、あるいは影ながら同行する、というのもありです。
根岸病院にて
探偵PCか、特高PC、あるいはその両方が最初に尋ねることになる病院で、件の氏家善司が入院しています。
窓口や、あるいは付近に居る看護人に氏家のことを聞けば、面会謝絶であることが分かります。
病院関係者に氏家の家の名前を出しせば、簡単に通してもらえますが、出さない場合は《信用》のロールが必要になります。
氏家の病室へ行こうとすると、その手前で看護婦、医者らがばたばたと走り回っています。そして、その奥、氏家の病室と思われる部屋から、明らかな狂人の声が聞こえてきます。
「虚空の彼方から音楽が、笑い声が聞こえる・・・。
俺の耳の傍に羽音がする。これはなんだ!」
そして意味不明の叫び声の後、医者達の怒号、看護婦の悲鳴が続きます。
「先生!患者が暴れています!」
「羽音が聞こえる。
ああ、そうだ、この音楽のせいだ!あれが、あれが喜んでいるのだ!狂喜して俺の頭の中で踊っているのだ!」
そして一際大きな悲鳴と、狂人の叫び声。
「患者が!患者が耳を!」
この後は、病室へ入ることは出来ませんが、騒ぎの最中に入り口から中を覗くことは出来ます。
中を覗くと、氏家と思しき男が自ら耳を引き千切ったらしく、顔面の片側が血塗れになり、意味不明の言葉を発しながら暴れており、医者や看護婦達にベッドに押さえつけられているのを見ることができます。
ここで氏家を見た場合は、0/1D4のSANを失います。
当然、氏家からは話を聞くことはできません。
騒ぎが落ち着くか、あるいは他の医者や看護婦を当たって、氏家について話を聞いた場合は、下記の情報を手に入れることができます。
・氏家、浅草でそこそこ有名な芸術家(ダダイストらしい)。辻潤や、大杉栄と親交があったらしい。
・氏家の家の者を除いて、稲葉という音楽の先生らしい男と、名前は分からないが黒い男、という印象を受ける男が面会に来た。
・日に日に症状はひどくなっている。何故か、音楽を奏でようとする。
・本人いわく、虚空から音楽聞こえてる。同時に何かの笑い声。そして、羽音が聞こえ、ひどい頭痛がする。
オペラ座館前、黄昏時
一昔は前は浅草と言えば男の町、と言ったようなものでしたが、オペラブームに乗って田谷力三やらなにやら、男優人気で女子の出入りもそこそこあるようになっています(とは言え、この頃となるオペラも下火となり、ほとんどが活動写真の上映ばかりになっていました)。
平日だと言うのに、浅草は相変わらずすごい人ごみです。しかし、ふとした拍子に人が途切れることもあります。
黄昏時、すぐ近くの人すらその色に染まって誰だか分からない、そんな時、女学生PCは黒澄綾を発見します。
追いかけようとすると、雪子が現れ、綾は再び来る人ごみの中に見失ってしまいます。
雪子は、矢絣の着物に海老茶色の袴、そしてハーフブーツのハイカラさんそのままです!(ついでにリボンまでしています)
「お姉様!
来ていただけたのですね!」
飛びつかんばかりの勢いで、雪子は女学生PCへ殺到します。
オペラ座館の中に入ると、劇団の偉い人風の人、支配人風の人が雪子へ話しかけてきます。
雪子は女学生PCに断りを入れてから、その二人と少し離れた場所で話を始めます。
特に離れているわけでも、声を潜めているわけでもないので会話の内容は次のようなものだと分かります。
・雪子をフルート奏者として、オペラ座のオーケストラに誘っている。
・土曜日に形だけでもテストをしようと思っている。オーナーの近衛さんも含めて、偉い人が来る予定になっているが、君なら大丈夫だ。
・最近、稲葉先生を見ないが、どうしているか(この問いには雪子も答えることができません)。
上演時間の前に、「では、今日はお楽しみください」と偉い人たちは去っていきます。
今日の上演演目は「ボッカチオ」です。
オペラ座館、オペラ終了後
オペラ終了後、午後6時頃ですが、当時にしてみれば、なかなか良い時間です。特に女学生の二人連れともなればまったく不良少女!ということになります。
表に出ると雪子は、申し訳なさそうに、女学生PCに告げます。
「すぐ近くに、私のフルートの先生が住んでおられるのです。
ついこないだまではよくレッスンを受けに行ったのですが、ここのところ先生は忙しいのか、会って頂けなくって・・・。
お姉様、申し訳ありませんが、これから先生の所に一緒に行って貰えませんか?」
もちろん、少しでも一緒に女学生PCと一緒に居たい、という気持ちもあると同時に、フルートをしている、ということをアピールしたいようです。
ここまでで、なんとかPC達を一まとめにして、稲葉宅へ向かわせてください。
全員が一緒に稲葉宅へ入る必要はないですが、稲葉の死体を見つけた段階で全員が揃っている、というのが理想です。
稲葉宅、稲葉の怪死
浅草七区に程近い所にある、オペラ座館から30分程度歩いた場所で、いかにも下町、というところの一軒家があります。
あたりはひっそりと静まり返っており、ここまで来ると浅草の喧騒もなく、近所住民以外の姿をまばらに見るだけになります。
雪子が玄関口から呼びかけても反応はありません。
なお、雪子の話では、通いの姐や(ねえや、下女のこと。家事全般を行う)以外は、家人はいない、とのことです。
入り口の戸には鍵は掛かっておらず(当時、鍵を掛ける習慣はあまりありませんでしたが・・・)、簡単に入ることができますので、
反応が無いというよりも、あまりにも静かな為に、雪子の方が積極的に中へ入ろうとします。
家の中に明かりは無く、またそこそこに荒れています。しばらく片付けなどをした様子はありません(雪子によると、片付けなども姐やに任せており、
先生は家事全般、一切出来ない人です、とのこと)。
中へ入れば、雪子は自然とピアノのある部屋(家で最も大きな部屋、雪子がレッスンを受けている部屋)に向かいます。
そこへ入ると、ピアノの前で稲葉は火箸を耳に突っ込んで死んでいます。まだ死んで間もないようで、血が流れています。
あたりには楽譜らしき紙が散らばっています(→ハンドアウト:稲葉の楽譜)。
この光景を見た雪子は悲鳴も上げられない状態で、ぺたんとその場に座り込みます。
この後、死体を調べる、警察を呼ぶ等の騒ぎの中で、雪子は稲葉へ近寄ります。
「何故・・・」
独り言をつぶやきながら、稲葉の顔を覗き込んだその時、稲葉の頭から「シャッガイからの昆虫」(以降、「シャン」と表記します)が這い出します。
雪子は、シャンを目撃して悲鳴を上げます。その瞬間、シャンは雪子へ飛び移り、その頭へ寄生します。
PC達は悲鳴によって雪子に注意を戻される為、はっきりと目撃はできませんが、安藤の頭から何かが這い出したように見えて、それが雪子に向かって飛んだ、程度の認識しかできません。
もしも目撃した場合は、0/1のSANを失います。
シャンに取り憑かれた雪子は、悲鳴の後に気絶してしまいます。
警察が来た後、簡単な事情聴取を受けて、その日は解放されます。
なお、雪子は岐阜から一人で桜嶺女学院へ来ている寮暮らしで、親類等が引き受けに来ず、
現在、舎監の任に当たっている真田幸が引き取りに来ます。
女学生PCを見ても「貴女もこの場は早く帰るべきです。また、明日、寮へおいでなさい」と言います(つまり、この場は見逃すよ、と暗に言っています)。