天地交響曲 スレッドL 陰に潜むもの、隆子


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スレッドL 陰に潜むもの、隆子

 このスレッドの起動部は存在しません。「綾の影」スレッドと同じように探索者の行動に合わせて、各場面を行なってください。
 このスレッドで隆子の考えを探索者は知ると同時に、彼女に利用されるか、あるいは相乗りするようにして元子に対応し、そして黒澄綾の音楽に協力する彼女を見ることになります。

キーパーへ:
 小早川隆子に憑くシャンは神官としての地位はありますが、シャンの一族自体があまり神官を重く見ていません(その上、地球に来て以降、彼らの神殿、宇宙船が正常に動作しないのは神官のせいだという論調もります)。
 さらには、小早川隆子はまだ未成年扱いで、毛利家の人間ではあるものの、まともな扱いを受けていません。彼女は、嫁ぎ先の小早川家から援助を引き出すことで、自身の活動を行なっているのです。
 この為、隆子は経済力、社会的な影響力などでは圧倒的に元子に劣る為、直接的な対決を避け、陰謀によって元子を失脚、粛清、あるいは暗殺する方向で動いています。
  1. 隆子を調査する
  2. 隆子、綾を探す
  3. 神田明神、鏡聴をする
  4. 隆子が『天球音楽』を語る
  5. 『夢見草の会』、ソルレソル
  6. 隆子と綾
  7. 隆子の反乱
  8. スレッドの終了後

隆子を調査する

 姉共々、怪しい隆子の調査を行なう場合、下記の情報を得られます。
 姉の元子は毛利家の代表でもあり、公人とも言える存在である為、様々な手段で情報を得ることができましたが、隆子はまだ未成年です。この為、あまり情報を得る手段がありません。主に桜嶺女学院での評判か、社交界での評判となります。

桜嶺女学院での調査:
 基本的には女学生探索者が学内で隆子のことを調査することとなります(もちろん、その他の探索者が桜嶺女学院の女生徒に何らかの手段で聞き込みをするのもよいでしょう)。
 女学生探索者は基本情報として、隆子は黒澄綾と同じく上級生であること、あの毛利三姉妹の末妹で、すでに小早川家へ嫁いでいる為に小早川姓であること、嫁いでいるにも関わらず、桜嶺女学院を中退せずに現役の女学生のままであること、そして音楽同好会『夢見草の会』を組織していることは知っています(もちろん、小幡とらとの関係が微妙なことも)。

 桜嶺女学院内で雪子や、同級生、あるいは何らかの関係のある女生徒に聞き込みを行なう場合等、特にこれと言ったロールを要求する必要はありませんが、キーパーの判断か、あるいはプレイ時間短縮の為にコミュニケーション系の技能のロールをさせてもよいでしょう。
 桜嶺女学院内で得られる隆子の情報は以下の通りです。

・最近、ひどく忙しいそうにしている。学院と実家、小早川家へ代わる代わる移動しているようで、そろそろ本格的な輿入れじゃないか、という噂になっている。
・知っての通り、かなり音楽にうるさく、自身で『夢見草の会』を組織しているが、そちらにもあまり顔を出せていないようだ。
・噂では、浅草の辺りで行方不明になったはずの黒澄綾と一緒に歩いているところを目撃されている。
・その他にも、帝都のあちこちで姿を見かける。たまに姉の元子と一緒に居ることもある。やはり、本格的に輿入れではないか。

社交界などでの調査:
 社交界などの華族としての隆子を調査した場合、隆子自身があまり社交界には興味を示していないことや、小早川家の人間が隆子には遠慮があるのと同時に過保護であることが分かり、そういった場にあまり出ていないことが分かります。
 また、隆子はまだ学生の身分であり、社交界に本格的なデビューをする前である為、元子の妹、毛利家の人間であることぐらいでしか認識されていません。

隆子、綾を探す

 元子から、綾を探す依頼の話をした後にこの場面は行なってください(あるいは、前でも連続するように行なうのがよいでしょう)。
 この場面は、毛利姉妹が連携していない、元子が綾を利用しているだけなのに対して、隆子は彼女を崇拝しているということを示す為に行なわれます。
 女学生探索者が桜嶺女学院に行くか、あるいはどこか女学生が居そうなシチュエーションでたまたま出くわす、と言った場面となります。

 夏休みとは言え、隆子は女学院に用事があることも少なくなく、また『夢見草の会』のメンバーと会うこともあり、忙しくしているにも関わらず、頻繁に桜嶺女学院にやってきます。
 女学生探索者に出くわした隆子は、「あら、お暇なら、少しお話しませんか?」と適当にどこかへ誘ってきます(女学院内でも、女学院外でも。隆子も女学生時代の元子と同じように問題ある女学生の為、あちこちの甘味や、カフェ、あるいはフルーツパーラーのような場所へ一人で出かけて行っており、美味しい店を知っています)。

 隆子はまずは女学生探索者の近況辺りから探りを入れてきます。
 彼女は全く表には出しませんが、探索者を警戒しています。大体において、念入りな計画が無に帰すイレギュラーは探索者のような人種が引き起こすものであると彼女は認識しており、下手に藪を突いて蛇を出すようなことを避けてはいますが、同時に探索者の動向が気になって仕方ない、という二律背反に苛まれています。
 探索者が《心理学》に成功した場合、この隆子の複雑な気持ちを「探索者に興味があるようだが、同時に遠ざけておきたい」と思っているようだと伝えてください。

 隆子はある程度は自身の持っている情報を探索者にも開示しますが、姉の元子が怪しいなどの示唆に対しては、「何も知らない、言いなりになっている妹」であることをアピールします。
 彼女は基本的に嘘はつきませんが、わざと前提の条件や情報、主語を省いて相手が誤認するような言い方をします。
 また、《心理学》によって得た彼女の心情を突いた場合は、それを逆用して「私にはあまり信用出来る人が少ないの。姉もあの状態なので…、出来れば、貴方に力になって欲しいと思っていますわ」と探索者を取り込もうとするとともに、姉は怪しいが自分はそうではない、と強調してきます。

 隆子は探索者から黒澄綾のことを聞かれた場合か、ある程度の情報交換の後、「綾さんの行方を知りませんか」と聞きいてきます。
 綾の方から用事がある場合に、彼女に接触してくるだけで現在の居場所は掴んでいないのです。
 探索者にはこの「用事がある場合」ということを省いて、「たまに何故かしら姿を見て話すことはあるのだけれど、こちらからは決して探すことが出来ない、まるで気まぐれな野良猫のような人だ」と言います。
 早い段階では探索者も綾の行方を掴んでいない可能性が高い為、ここでは情報交換に留まる可能性が高いですが、隆子も元子と同じように「何か掴んだら教えて欲しい」ということを伝えてきます。
 彼女は常と異なり、この時だけは少し寂しそうに、そして本当に心配していることが窺えます。《心理学》の必要もなく、この反応は黒澄綾が在学中には、下級生達によく見られた彼女を崇拝する態度にそっくりだということが分かります。

神田明神、鏡聴をする

 桜嶺女学院から女学生探索者が出ようとすると、丁度同じように出ようとする隆子に出くわします。
 彼女はいつものように軽く笑んだまま会釈をすると、「少し、歩きませんか?」と女学生探索者を散歩に誘います。

 隆子は前と同じように綾の行方や、彼女について、あるいは雪子についてを女学生探索者に探りを入れてきます。
 隆子は話をしながら、神田川に掛かる昌平橋を渡って、神田明神の方へと歩いていきます(現在ある聖橋は当時はまだありませんでした)。
(現在でも、ニコライ堂から昌平橋を経由して神田明神までは徒歩で15分程で(by GoogleMap)、ニコライ堂に程近い桜嶺女学院から神田明神までもそれほど歩く距離ではありません。
 キーパーの趣味で、湯島天神でもよいでしょう。二倍程度の距離になりますが、それでも30分も歩く距離ではありません)

 神田明神は江戸の鬼門の守り、江戸総鎮守として江戸の住民達から篤い信仰を集めています。
 江戸っ子には神田明神の名で親しまれていますが、明治初期、廃仏毀釈や、神道の厳密化の影響か、神田神社が正式名称になっています。当時の社殿は木造建築で、関東大震災によって倒壊、焼失、約10年後の昭和9(1934)年に近代的な鉄筋コンクリートの社殿が再建されました。
 ちなみに祭神の一柱であった平将門は明治7(1874)年に朝敵として別殿に移され、昭和59(1984)年まで本殿に戻ることはありませんでした。

 神田明神に何気なく先に立って入っていくと、隆子は作法通りに手水場で手を洗い、口をすすぎます。彼女の行なうそれは教科書どおりに間違いなく、おかしなところがある訳でもないのですが、どことなく違和感があります。
 女学生探索者が同じようにそれを行なっていると、隆子はふと思い出したかのように女学生探索者に語り掛けます。
「(女学生探索者)様、ひとつ、戯れ事をしてみませんか?」
 女学生探索者が乗ってきた場合、彼女は語り始めます。
「手鏡はお持ちでしょう?今から行なうのは、鏡聴という遊びです。
 その柄杓で水をかき回し、何度かくるくるとした後で手をお放しください。
 そして、その柄杓の柄の指した方向へ、鏡を胸に抱いて歩いていき、そこで話される言葉を密かに聞くのです。最初に話される言葉が、貴方の将来の吉凶を占います」
「言霊の八十の衢に夕占問う占正にのる妹はあひよらむ(ことだまの やそのちまたに ゆうけとう うらまさにのる いもはあいよらん)。
 万葉集、だったかな。八十の衢、人がたくさん集まる場所には、様々な精霊も集まる。それらが人の言葉に乗せて、あるいは神に憑かれた人も現われて神意を口走るから、夕に占いを立てよう、と言う意味です。
 いわゆる、辻占、橋占の類のものですよ。お遊びです、どうぞ、やってみてくださいな」
 女学生探索者が隆子に言われるまま行なった場合、MPを1点消費させ、以下の描写を行なってください。

 柄杓の柄の指示した方向へ歩いて行くと、夕闇の迫る境内に子供達が手をつないで輪を作り、ぐるぐると回っている。
 子供達は丁度夕陽を背負っており、黒い影の一部のようになってその表情はよく見えないが、その影が地面に伸びた影が伸び縮みしながら蠢いていた。
 何かの遊びらしい。近寄って耳をそばだてると、聴きなれた童謡が聞こえてきた。

 かごめかごめ
 かごのなかのとりは
 いついつでやる
 よあけのばんに
 つるとかめがすべった
 うしろのしょうめんだあれ

 女学生探索者が聞いた内容を隆子に話すと、彼女は相変わらず無表情に笑みながら、語ります。
「意味の無い童謡をよく聞いたり、あるいは自身で歌ったこともあるでしょう。こういった占いは童謡がよく当たると言われています。
「さて、占いの意味ですが、残念ながら私は占い師ではないので、これという解釈はできません。
 ここでいかにも占い師らしく、それらしい曖昧な解釈をして差し上げてもよろしいのだけれど、それは貴方にとっても面白くないでしょう。
「…何か、思い当たることでも?
 いずれ、貴方に予言の意味が分かるかもしれませんね」
 意味が分かっているのか、分かっていないのか隆子は珍しくくすくすと笑いながら、本殿ではなく摂社の方へ歩いていき、やはり作法に適った二礼二拍一礼で丁寧に拝みます。
 隆子が拝んだ摂社はもちろん、平将門公を祀る摂社です。参拝を終えると彼女はそろそろ帰りましょうか、と女学生探索者を促します。

キーパーへ:
 ここで行なわれる予言(?)はキーパーの趣味を反映すると面白いでしょう。
 隆子はあくまで遊びとしてこれを行なっています。女学生探索者の反応を探ること、意外に間が持たない会話を持たせる為の方便のようなものなのです。

隆子が『天球音楽』を語る

 この場面は桜嶺女学院を訪れた場合に行なってください。「鏡聴をする」の前に行なうのも良いかもしれません。

 礼拝堂の方からオルガンの音が聞こえてきます。
 これは音楽ではなく、ただ音を鳴らしているだけだ、ということはしばらく聞いていれば分かります。
 礼拝堂の方へ行くと、隆子がオルガンを前にしており、何か考えに耽るかのように、ただオルガンの鍵盤を押さえて和音を発しているだけです。
 それは協和音であったり、不協和音であったり、まるで実験するかのように様々な組合せを彼女は確かめているようです。
 隆子が探索者に気が付くと、そのまま実験を続けながら、まず「私にはまともにオルガンの演奏はできませんよ」と前置きしてから、語り始めます。
「『天球音楽』、惑星の天球が回転に合わせて和音、ハルモニアを奏でているとピタゴラスは言いました。
 惑星の相性によって、協和音、不協和音が決まるとも。少々、オカルト的ですがね。ヘルメス学においては『音楽とは全ての事物の序列を知ることに他ならない』とも言われています。
「その考えを受け継いだプラトンの考えに従えば、世界は一つのハルモニアであって、全てその中に把握されると言います。
 彼は、自然は神の御業、あらゆる事物をハルモニア的に一致させる力なのだと考えました。さらには、世界は神の完全なる似姿であるから、必然的に、原型と永遠のハルモニアの類推からすると、世界と、世界のハルモニアは神によって作られた、ということになります」
「『神はオルガンの奏者であるから、世界はオルガンと比較される』」
「黒澄さんが引用したこともあるでしょう、『普遍音楽』の中の一節です」
(隆子はハーモニーをこの場ではわざわざハルモニア、ギリシャ語で言います)
 語り終えると彼女は和音を奏でる実験に満足したのか、一人頷いた後に、「さて、帰りましょうか?」と探索者を促します。

『夢見草の会』、ソルレソル

 女学生探索者が雪子を訪ねた場合等、何らかの理由で桜嶺女学院を訪れた際に、この場面を行なってください。

 珍しく音楽室の方から雪子のフルートの音色と、その他『夢見草の会』の面々の楽器の合奏が聞こえてきます。
 合奏は明らかに『夢見草の会』の全員が揃っていることが分かり、賑やかな演奏となっています。
 女学生探索者が音楽室に赴いた場合、そこに近付くとそれは音楽の演奏ではなくなり、奇妙な音の高低を組み合わせた会話のようなものが会員達の間で交されていることに気が付きます。《アイデア》に成功した場合、この音のやり取りが会話のように思えます。
 音楽室に到着すると、彼女らはくすくすと笑いを堪えながら、自身の持つ楽器を使ってこれまで聞こえてきたような音のやりとりをしています。
 女学生探索者に隆子は気が付くと、「あら、遊んでいる訳ではないのですよ」と彼女には珍しく、笑います。
 隆子は手にしたバイオリンで先ほどのように音の組み合わせを演奏します。これに対して、『夢見草の会』の面々が、「『今日は何?』、かしら?」と言います。
《芸術:(音楽に関するもの)》+《知識》に成功した場合、これがソルレソルと呼ばれる、音の組み合わせで言語表現を行なうものが実践されているのだと気が付きます。
 女学生探索者がソルレソルであると指摘した場合、隆子は「さすがですね、そんなことまで知っているなんて」と驚きます。
 隆子はソルレソルを以下のように語ります。
「これは、ソルレソルというものです。
 先ほどお聞かせしたように、7音階を組み合わせて単語や文章を作ります。音楽語、などとも呼ばれていますね。
 フランスのジャン・フランソワ・シュドルが19世紀に提唱し、以後、様々な分野の人間の興味を引きました。
 ところがその後、人工言語であるエスペラントが注目、流行を見たために、こちらのソルレソルは廃れてしまいました。エスペラントは確か、日本でも二葉亭四迷が指南書を出していたかと思います」
 そして、隆子は楽器を弄びながら続けます。
「音楽で会話をする、非常に優雅で詩的だと思いませんか。
 もちろん、それだけではなく、民族や文化に依拠する言語ではなく、特定の言語を使用することでその優劣が言語の習熟によって決まることを無視できます。まあ、人工言語を一定の習熟をする必要がありますが。
 人造の、統一された言語、あるいはバベル以前の全ての人々が同じ言語、神の言語を話していた頃の再現になるかもしれない。
 …楽園に居た頃の人々は、音楽を話していたのかもしれない、そう思えば…」
 さらに続けようとする隆子ですが、『夢見草の会』の面々に遮られます。
「あら、隆子様がまた難しい話をしていらっしゃるわ」
「ああ、ごめんなさいね。最近、考えることが多くて。
 さ、演奏に戻りましょうか」
 隆子は促すと、ソルレソルはここまでとして、普通の演奏が行なわれます。

隆子と綾

 この場面は、何らかの理由で探索者が銀座を訪れた場合に行なってください。
 あるいは単純に何か用事か、気晴らしの為に探索者が銀座へ赴くようにするのも良いでしょう。

 銀座の名店、資生堂のソーダファウンテン(資生堂パーラーとなるのは震災後です)へと連れ立って入っていく綾と隆子を目撃します。
 隆子は遠めに見てもいつも通りでなく緊張した面持ちであり、綾は普段どおり、そしていつもの黒い洋装の男装ではなく、女学生然とした袴姿で、二人で連れ立っている姿はまるっきり普通の女学生の連れ合いに見えます。
 いかにも女学生の姉妹のように見える二人は、ソーダとアイスクリームを楽しみながら、『天球音楽』についての意見を交換しています。
 探索者達が同じく資生堂ソーダファウンテンに入って来たことに気が付いても綾は敢えて語ることを止めません。
「ある天体、光を発しない暗黒の天体なのですが、その天体は、我々の耳に感じられる音よりもはるかに低い音を、古より発し続けているそうです。
 その天体の音楽は誰の耳にも届かないかもしれませんが、それは確実に発せられ、宇宙を揺らし続けているのです」
 ペルセウス座銀河団のブラックホールから発せられる音波は、ピアノの鍵盤から57オクターブ下のBフラット(シ)の音階です。
 人間の可聴領域の100万×10億倍も低い音ですが、この音調は、25億年の間響き続けています。
 綾の天体の音楽を聞くその感覚と、これらの理論の知識が彼女に真理を語らせるのです。

 探索者が《天文学》か《物理学》に成功した場合、綾のこの話が天文学か物理学の分野で理論上にのみ在りうるとされるブラックホールの話であることに気が付きます。
 ブラックホールという命名は1967年に行なわれたもので、それ以前、ニュートンの万有引力の提言の時代から着想はあり、アインシュタインの特殊相対理論を受けて「理論上存在しうるが、実在はしない」、 思考実験上のものとされていました。

「あの時に奏でられた音楽、あれは先触れのものに合わせたに過ぎません。
 天球音楽、この世界を満たす音。
 彼方の天球が転がる際に奏でられる音、天球が動く際に発せられる音楽。
 私も勘違いをしていましたが、あの音楽は天球の外側、天上にあるものではないのです。
 では、先触れの後に来るものは何か?
 天球を回す存在が奏でる音楽とは?
 天球が奏でる音楽を含んだ、天蓋の音楽、天上から奏でられる調べ。
 今、私が追い求めている音楽はそういうものなのですよ」
 一気にまくし立てた綾が、一息ついてソーダを飲み、ちょっとだけ炭酸にむせた後、落ち着いた様子で、彼女はさらに続けます。
「完成された音楽はただそれだけで完全でありますが、それを奏でたとき、それは神の声の響きにも似て、完全であり全能である、至上の美、福音なのです」
 探索者に対して視線を投げかけた後、綾は「さて、行きましょうか」と隆子を促して資生堂を出て行きます。

 ここでは、綾の追跡を行なうことはできません。資生堂から少し歩いたところに隆子が桜嶺女学院の通学に使う車が待っており、二人してそれに乗り込みます。
 探索者が追跡を開始すると、綾はすぐに降りて路面電車に乗り換えて姿を消します。

隆子の反乱

 この場面はリンケージ「仮面舞踏会」の直前に行なってください。
 黒澄綾を元子に売っている場合、この反乱は事前に知れることとなり、隆子も同じく捕らえられて処分されている為、この場面は発生しません。

 北多摩の屋敷で、シャンが抜けて茫洋としている元子を探索者が目撃している場合、隆子が探索者に近づいてきます(あるいは、キーパーの判断で、単に隆子と敵対的でない場合でも問題ないでしょう)。
 彼女は、「姉は、何かに取り憑かれているのです」と彼女には珍しく直接的に告げます。そして、姉からそれを追い払うことを手伝って欲しいと探索者に協力を仰ぎます。
「北多摩の別邸でまるで魂が抜けたようになった姉を見て、私は間違いなく姉には何かが取り憑いているのだと思いました。
 それを追い払い、元の姉に戻ってもらうために、貴方がたにも手伝ってほしいのです」

 あるいは隆子にもシャンが憑いていると感付いており、それを指摘した場合は、彼女は少しだけ驚いた表情をした後、探索者に語ります。
「そこまで掴んでいるのですか。やはり、貴方がたは油断なりませんね。
 確かに私には姉と同じ存在が憑いています。しかし、姉の憑いたものとは異なるようなのです。
 これまでの二人の姉の行状を見れば分かるかと思いますが、彼女らに憑いた者達があのような行為を行なわせています。
 しかし、私に憑いたものは、それらを止めようとしているのです。
 根拠の無い話だと思われるかもしれませんが、どうか、ご協力をお願いします」
 そう言った隆子は深々と頭を下げます。
 女学生探索者はこれまでの隆子や、毛利家の人間である彼女がこのように頭を下げることは基本的に在り得ないことを知っています。それほど、彼女は切羽詰っているのだ、と分かります。
 もちろん、これは隆子が姉を放逐する為の方便に過ぎません。彼女は必要とあらば何でもします。
 キーパーの判断か、あるいは探索者から隆子に対して《心理学》を行なった場合、元子から憑き物を追い払いたいのは本当で、嘘が無いことが分かりますが、彼女が何か別のことを考えていることも分かってもよいでしょう(具体的に何、とは分かりませんが、腹に一物あることが分かる程度で)。
 彼女の本当の目的、元子を放逐して神殿を手に入れることは秘されています。ここでも隆子は巧みに探索者を誤認するように誘導しているのです。

 探索者が協力する旨を回答した場合、彼女は礼を口にした後に探索者に白地に凝った模様で装飾された封筒を渡してきます。
「これは、浅草にあるオペラ座館において開催される仮面舞踏会の招待状で、劇場の関係者、関係者に近しい方、あるいはその関係者から招待したい方へと送られるものです。
 これに、貴方がたも出席してください。この仮面舞踏会に姉も出席する予定になっています。
 舞踏会の最中に、私が姉をオペラ座館の最上階、大リハーサル室へと誘い出します。そこで姉から憑いているものを追い出すようにします。
 貴方がたは姉の行動を監視しつつ、大リハーサル室で私が合図をしたら姉を取り押さえてください。しばらく、その場に釘付けにする必要があるのです」
「しかし、気をつけてください。姉はあれで危険には敏感です。
 私が注意を逸らすようにはしますが、無抵抗というわけにはいかないでしょう」

 探索者が拒否した場合、隆子はあっさりと引き下がります。
「そう、ですか。
 では、致し方ありません。私は姉と異なり、貴方がたを敵とは思っていません。
 しかし、私と黒澄さんの邪魔はしないでください」
 そう告げると去っていきます。

スレッドの終了後

 このスレッド自体には終了後は存在しません。
 隆子との決着はシナリオの流れにもよりますが、終幕部か、リンケージ「仮面舞踏会」に於いて行なわれるか、あるいは元子によって粛清されるかのどれかになります。