a Thing left behind of Hikuma
「曳間の忘れ物」
もう二度と地上に戻ってくる意思のない食屍鬼がここに一匹いるという知識を得るからです。
────────── BOX版クトゥルフの呼び声 ジョン・サリバン『ペーパーチェイス』より
注意、あるいはお約束:
プレイしてみたい人、プレイするかも知れない人は読まないでください。読んで良いのはキーパーか、またはプレイする予定のない人だけです。うっかり目次を見てしまった人は、「記憶を曇らせる」の呪文でも使って忘れてください。万が一そのままプレイに参加したりすると、貴方の悪徳に誘われて隣のプレイヤーにイゴーロナクが憑依するかも知れませんよ。
そして当然ですが、このシナリオはフィクションです。
現実のいかなる人物、団体、そのほかもろもろのものと一切の関係はありません。
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本シナリオは下記の目次のような構造となっています。
まずははじめに、シナリオの概要と読み進み、シナリオの本体へ進むのが良いでしょう。
シナリオの目次:
はじめに
シナリオのスペック
本シナリオは『クトゥルフ神話TRPG』向けであり、大正時代を取り扱った『クトゥルフと帝国』あるいは、本『帝都モノガタリ』を対象としたシナリオです。
プレイヤー人数は基本的に一人(!)、作りたてから、1〜3回程度の探索を経験した探索者向けにデザインされています。
プレイ時間はキャラクター作成を含まず、1時間程度を想定しています。
シナリオ自体の難度も低く、探索の場所も限定されている為、慣れていないキーパーでも比較的簡単にプレイ可能なシナリオとなっています。
始める前に
実際のセッションを始める前に、これらのことに注意するか、プレイヤー達に直接告げてください。
シナリオの傾向
本シナリオは、キーパーと探索者が1対1を想定したシナリオです。
この為、探索者から積極的に戦闘を仕掛けない限り戦闘は発生せず、探索が中心となる地味なシナリオとなります。
ロールの失敗によって、探索が簡単に行き詰ったように見えるとともに、探索者が一人である故に考えが偏る可能性が高くなります。キーパーは多少あからさまでも探索者を誘導したり、現状をどう把握しているのかを確認したり、整理したりして、探索者の次の行動の提案するのを怠らないようにしてください。
キーパーへの注意
探索者が一人である為、ロールに失敗することでいきなり行き詰る、ということも在り得ます。
この為、キーパーはロールの成功/失敗のみを確認するのではなく、「何倍までなら成功する?」という確認の仕方をするのも良いでしょう。情報の出し方を加減して、まったく手掛かりが得られない、と言う状況を避けることができます。
また、ロールに失敗した場合でも、「時間を掛けることで再ロールが出来る」と告げたり、探索者の行動に具体性を持たせてロールにボーナスを与える等の措置を取るのもよいでしょう。
探索者が一人である為、あまりプレイ時間を引き延ばさないことを前提に、シナリオ内の時間は3日程度にするように気をつけましょう。
PC作成時の注意、立場
探索者は一人です。シナリオの必須技能として、《経理》を取るようにしてください。
これは職業技能でも、個人的な趣味の技能でも構いません。
探索者は、この《経理》を使用する会計事務所の職員か、あるいは雇われ人として曳間の部屋に赴くこととになります。
シナリオの概要、真相(キーパー向け)
このシナリオは、行方不明になった曳間の部屋の管理の為に、そこを訪れた探索者が異変に気が付くことから始まります。
周辺を探索することで、裏手に墓地があることに気が付いた探索者は、そこで元は曳間であった食屍鬼と遭遇します。
探索者に対して曳間は、『画帳』を取り戻して欲しいことを伝えます。彼の目的はそれだけであり、特に大それた目的を持っている訳でもなく、人間世界の最後の未練であったそれを取り戻しに来ただけでした。
探索者はそれを銀座で開かれている個展に置かれていることを突き止め、『画帳』を取り戻し、曳間に渡します。
最後に、地下へと帰っていく曳間と探索者は語り合うのでした。
シナリオ開始より前の時系列は以下の通りです。意外と探索者が考え込み過ぎることがある為、キーパーはさりげなくヒントを出すようにしてください。
数ヶ月前、曳間が失踪する。
1ヶ月ほど前、探索者の事務所に整理に依頼。部屋が綺麗になる。
2週間程度前、探索者の事務所に怪想社から、画帳の貸し出しの依頼。探索者は預かり知らない。
2,3日前、曳間が自分の部屋に侵入し、画帳を探すが見付からない。画材だけ持っていく。
シナリオ開始。
登場人物(NPC紹介)
登場人物はかなり少ないシナリオとなります。
キーパーの好みでNPCを追加設定するのもよいでしょう。
澤田正輔(さわだ・しょうすけ)、探索者の上司
怪想社に勤める澤田大輔の兄で、会計事務所の上司となります。
有能ですが非常に堅い性格で、《言いくるめ》等のコミュニケーション系は一切通じず、説得するためには《経理》が必要になります。
(探索者がコミュニケーション系のロールを使う場合は、1/2以上のペナルティか、《経理》、口頭でのしっかりとした説明が求められます)
経理の鬼のような人物ですが、依頼人の意思は可能な限り尊重します。
STR 7 CON 16 SIZ 10
INT 17 POW 11 DEX 16
APP 9 EDU 20 SAN 55
耐久力 13 DB ±0
技能:
経理 80%、信用 80%、説得 80%、図書館 80%、値切り 80%、法律 70%、歴史 60%
曳間・“リチャード”・篤人(ひくま・−・あつと)、怪奇画家
若いころに(今でも若いのですが)、イギリスに絵画の勉強に留学し、仲間内では「リチャード・曳間」と呼ばれていました。
このシナリオの前日譚となる
『曳間の追跡』で岡山の餓鬼穴、食屍鬼のコロニーに逃避しています。
今回は、忘れ物を取りに一時的に帰ってきているだけです。
まだ正気度を残していることもあり、探索者に対しては好意的、理性的で、事件を大きくしないことや、忘れ物を取り返してくれることを依頼します。
STR 16 CON 14 SIZ 15
INT 15 POW 15 DEX 16
APP 0 EDU 16 SAN 16
耐久力 15 ダメージボーナス +1D4
武器:
※曳間は探索者には襲いかかりませんが、念のため。
かぎ爪 30% 1D6+db
噛みつき 30% 1D6+db+牙でいたぶる(1D4)
装甲:
火器と飛び道具はダメージが半減する。
技能:
穴掘り 40%、登攀 50%、隠れる 60%、跳躍 40%、聞き耳 60%、腐敗を嗅ぎ取る 60%、忍び歩き 70%、目星 80%、オカルト 80%、芸術(絵画) 90%、クトゥルフ神話 12%
呪文:
モルディギアンの招来/退散、食屍鬼との接触、他キーパーが適切と思える呪文。
正気度喪失:
食屍鬼となった曳間を目撃した場合、親しい立場にある人間は、1/1D8の正気度を失う可能性がある。そうでない場合は、通常の食屍鬼と同じ0/1D6となる。
導入部
このシナリオで探索者は《経理》を使う系の仕事か、その助手、雇われ等になります。
その日は、上司である澤田の命令で、曳間の部屋の確認の為に訪れます。
曳間の部屋を確認する
行方不明になっているものの、即座に部屋を片付けるわけにも行かない為、一応、部屋は綺麗に掃除され、持ち物の目録も作成されています。
その日は、その目録どおりにものがあるかを確認する為に、探索者は曳間の部屋を訪れています。
今まで、一度も曳間の絵を見ていない場合、この作業で曳間の奇怪な絵画を目撃したことにより1/1D4の正気度を喪失する可能性があります。
また、探索者は曳間とは失踪前に顔を合わせたことがあり、顔見知りでもあります(曳間の顔を見れば、それと気付くレベルで知り合いです)。
目録の確認作業が終わったところから、探索が開始されます。
曳間の部屋は深川区にあり、震災によって立て替えられたモダンな雰囲気のするアパートの一室で、住居兼用のアトリエとなっています。
今で言えば小ぶりな1LDKの部屋なのですが、当時としてはモダンであり、お洒落な部屋です。
ここで《経理》+《目星》のロールを行なわせてください。
《経理》に成功:
作成された目録通りにほとんどのものはあるが、曳間の持ち物である一冊の画帳と、画材がなくなっている。
《目星》に成功:
部屋の中には誰かが立ち入った形跡がある。
窓から侵入したようだ。
《目星》と《経理》の両方に成功している:
上記に加え、おそらく侵入したものが、無くなっている持ち物を持ち去った可能性が高いということに気が付く。
(可能性が高いのみで、実際にはもっと調査が必要、ということは強調しておくこと)
探索部:
シナリオのメインとなる探索部です。
キーパーへ:
探索者の行動によっては、曳間と遭遇することが難しい場合があります。キーパーは、どのタイミングで探索者が曳間と遭遇するかに注意してください。
部屋の中の探索に時間をかけたり、夕方以降の時間帯で曳間の部屋を訪れた場合、部屋を見に来た曳間と遭遇するのもよいでしょう。
また、曳間と遭遇した場合、彼は去るときに必ず「追って来るなよ」と探索者に念押しますが、あまりやりすぎるとダチョウ倶楽部の「押すなよ?押すなよ?」という状態になるので注意してください。
シナリオのゼネラルMAP(キーパー向け)
地理的な意味での地図であるともに、シナリオ上で行動可能な範囲、という意味でのMAPでもあります。
キーパーはこの範囲を意識してシナリオを進めるようにしてください。もちろん、探索者の行動によってはこのMAPから外れることも十分にありえます。柔軟に対応してください。
探索の結果、判明する箇所も記載されていますので、キーパー向けの地図となります。ご注意ください。
曳間の部屋
曳間の部屋は綺麗に掃除され、散らかっていたものも整理されており、さっぱりと片付いています。
しかし、この部屋の主が失踪してからすでに数ヶ月が経過しており、生活の臭いは全くしません。
部屋は、4畳のリビングと4畳の寝室、2畳の台所の構成で、リビングはアトリエと兼用ですが、作品はほとんど運び出されています。
リビングには、整理された荷物の他、絵描きの道具や、スケッチ、本棚には絵の資料、画集、趣味の本が収まっています。
リビングには裏手に面する窓があり、閉められていたはずのカーテンが開いていることは見ただけで気が付きます。
探索者がこの部屋に来た目的である目録の確認作業自体には、あまり時間を取られません(キーパーが早い段階で曳間に遭遇させたい場合等は、時間が掛かることにしてもよいかもしれません)。
窓を調べる:
特にロールの必要はなく、窓の鍵は閉まっていますが、開け閉めした形跡が見られます。
《機械修理》×2に成功するか、実際に窓を開け閉めし、時間を掛けて調べると、鍵が緩く、窓をがたがたやっていると鍵が外れたり、はまったりすることに気が付きます。
それと知っていれば、特に《鍵開け》や、《機械修理》をする必要がなく、窓をがたがたやることで簡単に鍵の開け閉めができることが分かります。
部屋の中を改めて調べる:
《アイデア》に成功すると、獣臭がすることに気が付きます。
充分に時間をかける場合は、《経理》の再ロールが可能です。
ここでも失敗した場合は、探索者に「何が無くなっているかは分からないが、目録と合わない」と伝えてください。
窓の外を調べる:
特にロールの必要なく、窓の下に獣と人間を足したような、大きな足跡が残っていることを発見します。
窓から離れるとすでに足跡は時間の経過により消えており、《追跡》が必要になります。
《追跡》に成功すると、その足跡を辿って、アパートの裏手にあるちょっとした森のような空き地を抜けて、寺が見える位置まで来ます。この寺は、『施餓鬼寺』です。
寺の裏手まで追跡した場合、足跡が薄れており、寺の土地に入ることで足跡の具合が変わっていることから再度の《追跡》を要求してください。
成功した場合、そのまま足跡を辿って、ある墓石の前まで来ます。
失敗した場合でも、寺に近づけば、墓地の方面へ出ることになります。
アパート近隣の管理人、近隣の住民
この近代的なアパートは、日本の昔ながら近所付き合いをしなくともよい、というのは一つの売りでもあります。
一応、自治会組織は存在しますが、もちろん曳間は熱心ではなかった為、近隣住民からはあまり情報は得られません。
隣の住人から話を聞く:
《幸運》に成功すると、住人は在宅していることになります。
探索者の手段に合わせて、コミュニケーション系のロールを行なわせてください。
成功した場合は、下記の情報を得ることが出来ます。
このアパート全体に言えることだが、住民同士の交流はほとんど無い。その中でも曳間は特に付き合いが悪かった。
しばらく前から姿を見ていない。外出するところも見ていない。
複数の人間が出たり入ったりしていた時期があったが、ここのところは静かになっている。
最近、夜中に音がした覚えがある。
管理人から話を聞く:
管理人は基本的に常駐しています(探索者は、曳間の部屋を管理する仕事の関係上、管理人とは顔見知りで、曳間の部屋に出入りしていることも知っています)。
管理人に対しては、特にロールは必要なく、下記の情報を得ることが出来ますが、基本的に暇なので話が長くなります。
曳間は行方不明のままだが、空き部屋というわけではなく、しばらくは借りっぱなしにすると管財人から聞いている。
近所付き合いはほとんどない。
部屋の鍵は管財人と、私だけが持っている。現在は、管財人ぐらいしか出入りが無い。
失踪前、たまに、アパートの裏手を歩いている曳間を目撃しているが、散歩ぐらいに思っている。
アパートの裏手はちょっとした森になっており、通り抜けると『施餓鬼寺』に出る。
施餓鬼寺
曳間のアパートの裏手から、ちょっとした雑木林になっている空き地を抜けると、施餓鬼寺の裏手にある墓地に出ます。
昔ながらの土葬の墓地であり、江戸期からあるそこそこ古い寺です。
本来は『重岳寺』という立派な名前が付いていますが、近隣住民は『施餓鬼寺』と呼びます。
和尚から話を聞く:
墓地をうろついている曳間を見た覚えはある。誰かの墓参りかもしれないので、別段、止めたりはしない。
同様に、墓地へ自由に出入りできるので、人影があっても、特に気にしない。
数十年前に、墓地で怪しげな集団を見た、という噂はあった。ただ、こういう噂も定期的に繰り返されており、実はかなり前、江戸時代にも似たようなことがあった、というのが寺には伝わっている。
墓地を調べる:
再度、《追跡》が可能になります。
成功した場合、ある墓石の周辺に、窓の下に見つけた足跡を発見します。
曳間の部屋の窓からの《追跡》に二度成功している:
ある墓石の前まで来ることが出来ます。
この墓石を調べた場合、《目星》か、《アイデア》で動かした形跡があることに気が付きます。
また、辺りに微妙な獣臭がしており、これは曳間の部屋で嗅いだ臭いと同じです。
墓石を動かすには、STR10の対抗ロールが必要になります。成功すれば、そこに恐ろしく深く、暗い、そして獣臭い穴が現われることになります。
何の準備もなしに、この穴に潜ろうとした場合、まずCON20の対抗ロールを要求してください。
失敗すると、あまりの悪臭に気絶してしまいます。気絶した場合、日が暮れた後に目を覚ましますが、誰かが探索者を覗き込んでいることに気が付きます。
下記の描写を行なってください。
日はすでに落ち、辺りは闇に包まれていた。墓地はまばらな森に囲まれており闇が蠢いている。
幸い、月明かりで視界は確保されているが、君を覗き込んでいる影がある。
そいつはまるで犬のように突き出た口と、牙を持ち、上向きの開いた鼻を持っていた。闇の中でそいつの目は獣のように輝き、前かがみではあるが二足歩行しているが、犬を人間に模した戯画のように思えた。
君は、そいつの顔に見覚えがあった。この変わり果てた存在は、間違いなく曳間だった。
そいつは食屍鬼と化した曳間です。食屍鬼と化した曳間を目撃した場合、1/1D6+1の正気度を喪失します。
ここで、狂気に陥ってしまった場合は、また気絶してしまいます。目を覚ますと、相変わらず曳間が探索者を覗き込んでおり、探索者が逃亡したり、襲いかかったりしなければ、曳間との会話となります。
曳間と遭遇する
曳間と遭遇するタイミング、そのさせ方はキーパー次第ですが、主に下記のようになります。
・ある墓石の前や、部屋で待ち伏せをする。
・日が暮れた後も曳間の部屋に居る(窓から曳間が覗く)。
・穴を見つけて気絶した。
キーパーは曳間との遭遇タイミングを探索者の行動に合わせて行なってください。
曳間と遭遇した場合、以下の描写を行なってください。
そいつは四足で歩くわけではないが、それに近いような姿勢で歩き、しかし人間と同じように手を使うことも普通に出来る。
その顔はまるで犬のようなに見えるにも関わらず、はっきりと人間としての特徴を備えていた。
そして、そいつの顔は、間違えようもなく曳間に見えた。
食屍鬼と化した曳間を目撃した場合、1/1D6+1の正気度を喪失します。
彼は探索者の姿を認めると、「まあ、待て。話をしよう」と言い、人間のような仕草で害意はないと伝えてきます。
もしも、ここで狂気に陥ってしまった場合は、自動的に気絶をします。目を覚ますと、曳間が探索者の顔を覗き込んでいることに気が付きます。
探索者が警戒しながらでも、曳間の話を聞く気になった場合、彼は、忘れ物を取りに来た旨を伝えます。
それは、下絵やスケッチを行なった画帳と、お気に入りの画材です。
画材の方は部屋で発見して回収したが、画帳が見付からなかったので、探して欲しいと彼は言います。
曳間の頼みを聞き入れた場合、画帳を探すことになります。
断った場合、「見られてしまった以上、もうどうにもならない。この出入り口は近々塞ぐ予定なんだ。だから、これが俺にとっても最後の機会だったんだが」と言い、「追ってくるなよ」と言い置いて、墓の下に去っていきます。
曳間に遭遇した時点で有無を言わさず曳間に襲い掛かった場合、彼は逃げ出し、施餓鬼寺の裏にある墓地の穴へ逃げ込みます。
探索者がこれを追った場合、「それ以来、探索者の姿を見たものはない」という終幕を迎えます。
不意を打って曳間を撃ち殺すなりしてしまった場合、以下の描写を行い、シナリオは終了します。
そこには四足で歩き回るような、大きな獣の死体が転がっているように思えた。
そいつは間違えようも無く人間に近い存在であり、犬を人間に模したような不気味な存在だった。
もう動かなくなっているそいつの顔は、驚くほど曳間にそっくりだった。
曳間である食屍鬼を撃ち殺した探索者は、1/1D8+1の正気度を喪失します。
この後、曳間の部屋への侵入者はなく、画帳も個展が終わると帰ってきます。
墓の下、穴の中
探索者が曳間の後を追おうとしたり、発見した穴に入った場合、あまりの臭いにCON20との対抗ロールを行い、失敗すると気絶してしまいます。
気絶する直前に、「追って来るなと言ったのに」と曳間が呟くのを聞きます。
目を覚ました時には、ある墓石の近くに倒れており、ひどく頭が痛みますが、怪我はない状態で放置されています。再度、墓石を動かそうとした場合、墓は確かに動きますが、その下に穴を発見することは出来ません。
気絶しなかった場合、穴の中へ曳間を追うことになりますが、その後、その探索者を見たものは居ない、という幕切れになります(探索者は果たして、食屍鬼の餌食となったのか、曳間と同じ存在になったのか?)。
後を追わなかった場合、それからしばらくしてから墓石を動かしても地面が見えるばかりになります。
事務所に報告する
曳間の部屋から無くなったものがある、と上手く説明する為には、《経理》が必要ですが、曳間の部屋で《経理》に成功している場合、このロールは不要で、口頭で説明のみでも問題ありません。
(逆に、探索者が口頭で上手く説明できない場合は、《経理》が必要になります…)
《言いくるめ》等、コミュニケーション系の技能は、お堅い上司である澤田には通りません。
《経理》に成功:
澤田に無くなっている画帳を調査してもらえます。
半日程度待てば、上司から『曳間の個展』で展示されている旨を伝えられ、話は付けてあるので取りに行けば渡してもらえると言われます。
澤田はあからさまに不機嫌な様子なので、《心理学》の必要もなく、澤田の上司(=所長)が勝手にそういった取引を行なっていたということが分かります。
《経理》に失敗:
何が、どう、という詳細を確認されます。
これまでの探索から、「曳間の画帳が失われている」と言うことをはっきりと伝えられた場合は問題ありませんが、そうでない場合は、コミュニケーション系のロールが必要になります。
情報を伝えられるか、コミュニケーション系のロールに成功した場合は翌日、そうでない場合は1週間後、曳間の画帳は『曳間の個展』に展示されていることを伝えられます。
翌日の場合は、まだ個展は開かれており、画帳を取り戻すことが出来ます。
そうでない場合、食屍鬼の出入り口は塞がれており、曳間と会うことはできず、事件は終わります。
※画帳を取り戻した後、画帳を部屋に戻すのではなく、曳間に渡す場合、どう言い訳するかは探索者次第になります。
曳間自身に受領証を書いてもらったり、あるいは探索者自身がなくしてしまったとか、書類を書き換える等、探索者のアイデアに任せるか、キーパーから示唆を与えてください。
曳間の周辺情報を調べる
探索者が調査を行なう場合、探索者の各手段に合わせて、銀座で『曳間の個展』が開かれていることを伝えてください。
大きく宣伝している訳ではありませんが、怪想社刊行の雑誌等にも出ているものなので、簡単に分かります。
事務所を通していない場合、画帳を取り戻す為には非合法な手段に頼ることになる為、キーパーは気をつけてください(単純に盗み出すだけでなく、《言いくるめ》るなどして入手した場合も事務所を通してない為、詐欺に近い行為になります)。
曳間の個展
曳間の画帳を取り戻す為には、『曳間の個展』が開かれている銀座の小さな画廊へ向かうことになります。
画廊は、銀座は銀座でも裏通りにあるような小さなものですが、まばらに、しかしひっきりなしに人が訪れています。
満員になることは無いが、常に人は居る、そんな不思議な画廊に、探索者が見て周った場合、有名な「食事をする食屍鬼」の他、様々な食屍鬼をテーマにした絵画を見ることになります。
展示されている絵画については、シナリオ
『曳間の肖像』の『曳間の個展』の項目を参照してください。もちろん、正気度ロールを要求してください。
展示されている曳間の画帳は、当然ですがガラスのケースに収められており、触ることは出来ません。
一通り見た後、画廊を開いている雇われ人に話を付ける為、《経理》に成功するか、ちゃんと会社のことや、曳間の財産の扱いについて説明した場合、曳間の画帳を取り戻すことができます。
もし、探索者が取り返した画帳に興味を持った場合、曳間に返すまでの間に中を調べることができます。
魔道書?:曳間の画帳
曳間による下絵、習作、スケッチが描かれた画帳です。
大半は画廊に展示されていた絵や、雑誌等に掲載された作品の下絵、習作ですが、中にはまったく見たことが無いものも混じっています。
特に『食事をする食屍鬼』の習作、『宴』のスケッチは鬼気迫るものがあり、最後期に描かれたものだと分かります。
曳間の作品で失う正気度、最大4点とは別に、この画帳を読んだ為の正気度喪失は別に起こります。
《アイデア》か、《知識》に成功した場合、簡易ながらこれらの背景に描かれているのが、青山墓地と、施餓鬼寺の墓地が多いことに気が付きます。
《経理》、《値切り》、《芸術:絵画に関連するもの》に成功すると、この画帳は好事家にはかなり価値があることが分かります。
研究には4時間、斜め読みで1時間。クトゥルフ神話+1%、オカルト+3%、正気度喪失は0/1D3。
※一応、曳間に渡さない、という選択肢もありえます。
この場合、画帳は現存する曳間の作品の中で最も高価なもの(おそらく、『食事をする食屍鬼』)の倍の値段が付きます。
終幕部
曳間と最後の会話を行なう場面となります。
探索者の行動によりますが、曳間の部屋や、施餓鬼寺の裏の墓地での会話となるでしょう。
あるいは、探索の時間が長すぎたか、曳間の頼みを断った場合、曳間は探索者に会う事も無く去っていきます。
曳間との会話、去っていく曳間
曳間と最後の会話をします。
画帳を手に入れていない場合、曳間は少しだけ残念そうな顔をした後、「仕方ないな。諦めよう」とあっさり諦めます。
この場では、曳間は全て包み隠さず、自身の事情を話します。
探索者が、曳間に受領証みたいなものを書いてくれ、と言えば、変形した手で書き難そうに探索者が指定したものを書いてくれます。
「いろいろと骨を折らせて悪かったな」と曳間は去っていきます。ここでも、「追って来るなよ」と念押しします。
去り際に、「ああ、報酬代わりに、これをやるよ。変わり者に売れば、今回の骨折りの埋め合わせにぐらいなるだろう」と、画帳の一枚に署名を入れて渡してきます。
これはほとんど完成している食屍鬼の素描で、すでに中身を見ている場合は影響はありませんが、見ていない場合、0/1の正気度を喪失する可能性があります。
(この素描に対して、《値切り》に成功した場合、画商に売れば十円になるかどうかぐらいですが、好事家や、曳間のファンに売ればその倍から十倍は堅いと分かります)
終幕部で曳間と語り合った場合、《クトゥルフ神話》に+3%を得ることができます。
正気度の報酬
探索者が曳間の依頼を解決したかで、キーパーは正気度の報酬を判断してください。
曳間の依頼、画帳を取り戻し、曳間に渡すことを完遂した場合、1D8点の正気度を得ます。
曳間の依頼を失敗した場合、1D4点の正気度を得ます。
曳間の依頼を断るか、遭遇しなかった場合、1D3点の正気度を得ます。
曳間を殺した場合、少なくともこの世から食屍鬼1体を駆逐したことにより、1D3の正気度を得ます。
※追加の正気度報酬はありません。
データセクション
シナリオ中で使用されるデータや、その他の項目をまとめたものです。
商法
商法、会社法等は、明治中期の辺りから存在しています(明治政府成立後、基本的なものは即座に作られた?)。
現在のように整えられていた訳でありませんが、税収面等からもこの手の法律は労働関連の法律よりも早い段階で登場していました。
大正期には、腰弁と呼ばれるサラリーマンや、事務作業の為の職業婦人なども多数出ており、現在のような会計事務所とはまた異なりますが、それに近いようなものが存在するようになっていました。
謝辞、あるいは参考資料
本シナリオは、BOX版のシナリオ『ペーパーチェイス』が参考となっています。
曳間シリーズと同じく、食屍鬼が登場する小説、シナリオも参考になりますので、そちらもお好みで参照してください。
もはや恒例になりつつありますが、本シナリオのテストは大阪でお世話になっているサークル様で実施しています。関係の方々に感謝を。
最後にちょっとだけ
オフラインの環境では1時間という短いシナリオです。
事件を切り詰め、「来た、見た、狂った」形式の簡単なものにするように努めましたが、探索の自由度をある程度保証する為に、選択肢を多くするように努めています。
もしも、このシリーズに次があれば夢の国で「曳間の愉快な仲間達」的な、冒険もののシナリオを検討しています。