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とある坂の途上での密室殺人事件 A Locked-Room Murder Case in the Way of the certain Slope

トップページ->帝都モノガタリ->とある坂の途上での密室殺人事件

A Locked-Room Murder Case in the Way of the certain Slope, Or Consideration about the Angles and Glasses

「とある坂の途上での密室殺人事件、あるいは角度とガラスに関する考察」


いや、クトゥルフ的には密室なんて別になんでもないから。
────────── とあるPCのプレイヤー発言(プレイ中)


注意、あるいはお約束:
プレイしてみたい人、プレイするかも知れない人は読まないでください。読んで良いのはキーパーか、またはプレイする予定のない人だけです。うっかり目次を見てしまった人は、「記憶を曇らせる」の呪文でも使って忘れてください。万が一そのままプレイに参加したりすると、貴方の悪徳に誘われて隣のプレイヤーにイゴーロナクが憑依するかも知れませんよ。

そして当然ですが、このシナリオはフィクションです。
現実のいかなる人物、団体、そのほかもろもろのものと一切の関係はありません。

 本シナリオは下記のような構造となっています。
 まずはすぐ下の目次に目を通し、それからはじめにシナリオの概要と読み進み、シナリオの本体へ進むのが良いでしょう(今回は一つのファイルに納めてみます)。


目次

■はじめに
 □シナリオのスペック
 □始める前に
  □シナリオの傾向
  □シナリオの舞台
  □PC作成時の注意、立場
  □PC同士の関連付け
■シナリオの概要、真相(キーパー向け)
■登場人物(NPC紹介)
シナリオ
 ■導入部
  □PC@の導入:曽我部の依頼
  □PCAの導入:平井の依頼
  □その他のPCの導入
  □白桜軒にて
  □事件の時系列
 ■探索部:「とある坂での密室殺人事件」
  □事件現場の地図、家屋内
  □事件の証言
 ■探索部:「レンズ倶楽部」
 ■探索部:「梶田邸にて」
  □梶田邸、レンズ狂の家
 ■リンケージ:「A君」
  □A君に会う
  □探索者の推理が間違っているか、あるいは曽我部がA君が犯人である指摘をした場合:
  □探索者の推理が正解である場合:
  □推理の後:
 ■終幕部:「時の猟犬」
  □早い段階で蕎麦屋が犯人だと気付いた場合:
  □A君と会った後の場合:
  □『ティンダロスの猟犬』との戦闘
 ■事件の後
■データセクション
 『過去を覗く水晶(モートランのガラス)』
 『円を描く水晶球(モートランのガラス)』
 『魔力の付与された火鉢』
 『ザンツー石版に関する部分的な翻訳』
 『梶田の日記』
 当時の電灯
 『D坂の殺人事件』
 『ティンダロスの猟犬』
謝辞、あるいは参考資料:
 最後にちょっとだけ:


■はじめに

□シナリオのスペック

 本シナリオは、『クトゥルフ神話TRPG』向けであり、大正時代を取り扱った『クトゥルフと帝国』あるいは、本『帝都モノガタリ』を対象としたシナリオです。
 プレイヤーの人数は2〜4人を想定しており、作りたてから、1〜3度程度の探索を経験した探索者向けにデザインされています。  プレイ時間はキャラクターの作成を含まず、2〜3時間程度を想定しています。
 また、シナリオ自体はプレイヤーには初心者、慣れていない方、あるいは神話の知識が少ない方を想定して作れていますが、キーパーとしては初心者には取り回しが不親切な部分がありますので、その点はご了承ください。

□始める前に

 実際のセッションを始める前に、これらのことに注意するか、プレイヤー達に直接告げてください。

□シナリオの傾向

 本シナリオは、探索が中心となるシナリオとなります。また、参考作品にも上げている通り、初期の江戸川乱歩の作品「D坂の殺人事件」が元ネタともなっている、探偵ものシナリオです。
 最後に戦闘はありますが、ひどく恐ろしい状況も無い、かなり地味で地道なシナリオです。
 「謎は解かれなければならない」必要はありませんが、「手がかりは提示する」必要はあります。
 情報は全て出し尽くす、というのが理想的ですが、探索者の選択、行動によって得られない情報も発生することでしょう。ある程度、キーパーの方から誘導、あるいは具体的にこうすれば?と提示することも必要になってきます。
 キーパーは適宜(特に探索者の行動が止まってしまった場合等)、探索者を誘導するようにしてください。
 また、探索者の行動によっては後半部分がごっそりと切り上げられる可能性があります。その場合でもキーパーは文句を言わないで下さい(笑)。

□シナリオの舞台

 シナリオは帝都での探索のみとなり、時期は大正末期、9月初旬となります。

□PC作成時の注意、立場

 探索者の作成時には、下記のように作成するようにしてください(FEAR的なあれですが、クトゥルフの弱点である導入部の弱さを補うには非常に有効な手段だと思われます)。

PC@ 推奨職業:雑誌編集者、記者等:
 いわゆるシナリオの主人公(?)的な位置づけとなります。
 『怪想社』という出版会社の社員であり、導入で同僚の曽我部信夫から、『とある坂での密室殺人事件』について聞かされ、それを調査する頼み後事を受けます。
 ちなみに『怪想社』はその名前の通り、ミステリ(当時は探偵小説)や怪談、奇談を扱った雑誌を出版している会社で、マイナー指向の一部のマニアに大うけ的なところを狙っている出版社です。

PCA 推奨職業:私立探偵、退役軍人、大陸浪人等肉体派:
 探偵の場合は単純に依頼人、それ以外は平井太郎と個人的な知り合いで、彼の書く探偵小説のモデルだったり、体験談を話すような位置づけになります。
 導入で、平井からこれも『とある坂での密室殺人事件』の調査の依頼を受けます。同時に、同じような密室での事件が梶田邸でも起こったことを伝えられます。

PCB以降:
 いわゆるその他のPCとなります。
 PC@、Aとの絡みや、職業的なこと、私的な理由から、とある坂にある『白桜軒』へ行く理由を作る必要があります。
 単純に、『白桜軒』のコーヒーが良いとか、女給が良いとかでもよいですし、実はとある坂の近くに住んでいることにしても構いません。
 また、PC@、Aと友人と言うことで、『怪想社』の近くにある『白桜軒』へよく来ることでもよいでしょう。

□PC同士の関連付け

 基本的に自由です。シナリオに参加する理由付けを作るようにしてください。
 プレイヤーから提案を積極的に受け入れて、シナリオに参加する理由付けを作成するようにしてください。


■シナリオの概要、真相(キーパー向け)

『怪想社』の同僚、曽我部信夫の頼みを受けて、PC@はとある坂にある『白桜軒』へやってきます。
 作家の平井から依頼を受けたPCA、その他のPC達も同じくして、『白桜軒』の集います。
 この『白桜軒』から見える、ちょうど向かいにある古本屋が曽我部や、平井の言う密室殺人の舞台となった古本屋です。被害者はその主人の細君です。
 当時、曽我部は友人のA君と一緒にこの『白桜軒』でコーヒーを飲みながらいつもどおりの探偵談義をしていたのですが、向かいの古本屋の様子がおかしいことに気が付き、 そして、A君とともに古本屋の細君の死体を発見しました。
 その探偵趣味から、曽我部は自分自身でこの事件を探索、推理、結果としてA君が怪しいのではないか、という結論に行き着きます。これが、他の人間からもA君が怪しいのかどうかを確かめさせる為、同僚であるPC@への探索の依頼となります。
 同じく、この事件を知った平井太郎は、1月前に起こった、梶田邸での密室事件との関連、あるいは類似性に気が付き、また、同時に二人死んでいる事実によって、PCAへの依頼となります。
 探索の結果、この事件は密室殺人であることが分かりますが、梶田が過去を覗くという水晶を手に入れていたこと、そしてこの水晶が行方不明になったことも同時に分かります。
 密室殺人の犯人、そして、過去を覗くガラスの行方を追い、古本屋のならびにある蕎麦屋の主人が怪しいことに気が付いた探索者達は、前の二人の被害者と同じく、『モートランのガラス』を覗いた蕎麦屋の主人を、『猟犬』が襲っている場面に探索者達は出くわすことになります。

 この二つの密室殺人は、『ティンダロスの猟犬』によるものです。
 梶田、古本屋の細君、蕎麦屋の主人、そして平井は『レンズ倶楽部』というレンズやガラスといったものの愛好家の同好会のようなものに入っており、そういったものへの嗜好を強く持っています。
 そして、梶田は珍しいガラス製品として、『モートランのガラス』の製造方法を知り、製造に成功します。結果、過去を覗く行為によって、『猟犬』の標的となり、自宅の密室で殺されてしまいます。
 その後、『モートランのガラス』は、古本屋の細君の手に渡り、同じく過去を覗き、『猟犬』に殺されてしまいました。猟犬はその場にいた蕎麦屋の主人には目もくれずに消えていきますが、 蕎麦屋の主人の方は、珍しいと言われた『モートランのガラス』や、一緒にあった道具の一切を持って逃げていきます(恐怖よりも、その『モートランのガラス』の不可思議な能力の魅力、レンズの収集への意思が勝るのです)。

 シナリオ中、密室が出てきて、これの探索を探索者が放棄する可能性も皆無ではありません(ある意味、プレイヤーとしては正しい姿勢かもしれませんが)。
 その場合、前半の探索部分がごっそり切り上げられる可能性がありますので、キーパーは留意してください(あるいは、積極的に「密室なんじゃ!」と主張して、探索させるのも良いですが)。


■登場人物(NPC紹介)

□曽我部信夫(そがべ・しのぶ)、怪想社の編集部員

 怪想社の編集部員で、インテリ風の、人の良い、ややお坊ちゃんのような印象を与えます。
 今回に事件をPC@の探索者に依頼しています。
 A君とは友達で、件の白桜軒(コーヒー屋)でよく一緒になっています。事件当時に、A君を見かけ、同時にその探偵趣味から興味本位で事件を探偵し、 その素人らしい中途半端な推理からA君が犯人であるという誤認に至り、その確認の為、探索者達にも事件を探って欲しいと来ているのです。

□土谷君江(つちや・きみえ)、古本屋の細君

 古本屋の細君で、なかなかの美人で、男を引きつけるような官能的なところがあります。
 大方、夜は主人は露店を出しに外出している為、店番をしていることが多く見られます。
 レンズ倶楽部の会員ですが、あまり裕福でもない為、珍しいものは多くはありませんが、万華鏡の類を多く所持しています。

□三輪次郎(みわ・じろう)、蕎麦屋の主人

 古本屋の細君とは、そのレンズマニアとしての同好の士であり、またそれがきっかけで不倫の相手でもあります。
 古本屋の細君と同じく、レンズ倶楽部の会員であり、同じく裕福でもない為、珍しいものはあまり多く持っていませんが、古物の類で良いものを持っています。
 事件当時、一緒に『モートランのガラス』を覗くことになっていたのですが、『ティンダロスの猟犬』が現れ、古本屋の細君を殺してしまうにあたって、『モートランのガラス』や、 関連したものを持って帰ってしまっています。

□梶田景一(かじた・けいいち)、レンズ狂

 レンズ倶楽部の会員、『モートランのガラス』の作成者です。
 華族であり、祖先からの莫大な財産を引き継いでいる、いわゆる高等遊民です。
 病的なレンズマニアであり、暇と金に飽かして様々なレンズ、ガラス細工、鏡等を収集するとともに、自宅に工房まで作っており、特殊なガラスを作る技術まで身に付けてしまっています。
 最初の『ティンダロスの猟犬』の被害者です。2ヶ月前に死んでいますが、死因は心臓麻痺とされています(古本屋の細君と同じ理由から)。

□世良珠子(せら・たまこ)、梶田の内縁の妻

 正式な婚姻はなく、梶田邸に住まわせて、半ば姐や的な扱いでもありました。
 非常に肉感的な色気の漂う、どことなくだらしない雰囲気を持った女性で、梶田の趣味で普段から洋装をしていますが、まるで和装を着崩したような印象を受けます。
 常にやる気がないような印象を受けますが、それは梶田が死んだからであり、家事全般は得意です。
 ただ、梶田の趣味であるレンズについては理解しておらず、一応付き合いはしている程度、ほとんど知らない状態です。
 また、梶田は『モートランのガラス』は彼女には隠していた為、「何か妙なことを考えている」という程度で理解しています。

□A君、明智小五郎(えーくん、あけち・こごろう)、探偵趣味の書生崩れ

 今回のゲスト有名(!)NPCです。
 曽我部からは頭がよく、探偵小説好きの変わり者と聞くことになります。また、古本屋の細君の幼馴染ということになっています(実は幼馴染とは言っても、現在は全く関係が無い状態です)。
 講釈師の神田伯竜に似ている、とも言われ、その顔つき、声音までそっくりとも言われています(『D坂の殺人事件』より。
 この時期の明智君は書生くずれのようなもので、まだ探偵をしていません。人間を見るのが趣味、犯罪学を研究しているとか言っています。

□平井太郎(ひらい・たろう)、怪奇作家、あるいは推理作家

 今回の二人目のゲスト有名NPCです。むしろ、江戸川乱歩といった方が有名でしょう(そして、平井太郎という昭和期の政治家も居ますので)。
 三重県に生まれ、早稲田大学を卒業後、様々な職業を転々としたことは有名です(貿易会社社員から夜鳴き蕎麦、古本屋とか)。
 大正12年に『二銭銅貨』で作家デビューを果たし、初期の頃は海外の探偵小説の影響を大きく受けた本格的な推理小説を発表しますが、それよりも怪奇趣味、昭和初期のエログロ路線といった作品の方が大衆に受け入れられ、 また、少年雑誌に有名な『少年探偵団』ものを発表したりと、推理小説に限らず、様々な分野で活躍しています。
 また、戦後になると執筆活動よりも出版や、評論といった活動が中心となり、推理小説に限らず、日本の初期のSF小説関係者にも多大な影響、援助を与えています。

 今回シナリオで『レンズ倶楽部』なる架空の同好会(?)に所属している怪しげな人物として登場しますが、実際、江戸川乱歩はその作品群の中でも、鏡やレンズと言ったものを写すものへ強い嗜好が窺がえ(『鏡地獄』や、『湖畔亭事件』)、 レンズ狂とでも言った面を持っていたようです。


シナリオ

■導入部

 シナリオの導入部に当たる、『白桜軒』に探索者が集まる場面です。
 事件の発端として、古本屋の密室殺人について、探索者に印象付けるとともに、探索者同士の関係や、事件に対する興味を持たせる場面でもあります。

□PC@の導入:曽我部の依頼

 怪想社の編集部で、曽我部が深刻そうな顔をしています。
 普段は能天気、とまでは行きませんが、あまり考え込まないようなタイプですが、重い溜息を吐いています。
 目が合うと、「少し、頼みたいことがあるんだ」と言い、そして席を立って、「『白桜軒』へ行こう」と誘われます。

□PCAの導入:平井の依頼

「密室なんだ」
 開口一番、平井はそう告げます。
 とある坂で殺人事件が起こったのですが、それについて、平井はそれが密室であることを告げます。ただ、それは密室とは言ってもゆるやかな密室、つまり状況としての密室である、と言います。
 本来ならば自分が探偵したいところだが、なにぶん今は忙しい、ということで、変わりにPCAのそれを調べて欲しい、という依頼です。
 また、1ヵ月ほど前に同じく、梶田が、あるいは事故かもしれないが、密室で殺されていたことも告げます。
 二人は同じレンズ倶楽部の会員という繋がりがあるが、それ以外は特に無いので、関係は無いかもしれないが、ついでに梶田の方も調べてみてくれ、とも言います。
 報酬については、10円、という微妙な値段を提示してきますが、こういった密室の謎を解いてこそ「探偵だろ!」と力説します。
 まずは、その現場の古本屋の前に『白桜軒』という喫茶店があるから、情報収集がてら、行ってみてはどうか、と勧められます。
 なお、PCAはPC@とも知り合いであるので、この『白桜軒』についても知っていることになります。

□その他のPCの導入

 その他のPCについては、何らかの理由をつけて、あるいはPC@、PCAの知り合い、友人、怪想社の関係者として、『白桜軒』へ居る、行くことになります。
 その他、理由付け、探索の動機付けとなる導入をPCが提案できる場合は、キーパーは自由に採用してください。
『白桜軒』の時点で、探索者が集合していない、あるいは探索の動機が無い(弱いのは仕方ないとして・・・)状態にならないように気をつけて下さい。

□白桜軒にて

『白桜軒』に「たまたま」探索者が集います。
 そして、改めて、事件が曽我部から語られます。

□事件の時系列

 事件当日の時系列を、曽我部が語ってくれます。
 とくにすることもなく、『白桜軒』で冷コーヒーを啜っていただけでしたが、A君との探偵談義もあり、また自身の探偵趣味からも、 時間は大体正確です。

 午後7時頃、曽我部が古本屋の向かいにある白楼軒(喫茶店)に入る。
 午後8時頃、古本屋の奥の障子が閉まる、すぐに電灯が消える?(電灯が消えた時間は曖昧だが、8時〜8時半の間には違いない)
 午後8時半頃、A君が白楼軒(喫茶店)に来る。
 午後9時頃、曽我部、A君が古本屋に異変を感じ、古本屋の座敷へ入り、細君の殺人を発見、電灯をつける。即座に警察へ通報。

 また、ここで曽我部は当日、A君は荒い棒縞の浴衣を着ていたことを教えてくれます。
(この点は、敢えて強調しておいてください。また、後で学生の証言を出した後に、再度、示唆することを忘れないようにしてください)

 語り終えると曽我部は、「僕は僕で一つの結論を持っているんだ。でも、それを確認する為にも、君達にもこの事件を探偵して欲しい」と言います。
 また、何か知りたいことがある時は、別に知らせて欲しい、とも言います(曽我部の意見以外で、調べても分からないこと、などに限り)

■探索部:「とある坂での密室殺人事件」

 シナリオの前半のメインとなる探索部です。
 導入で曽我部から依頼を受けた探索者達が、「とある坂」、の途上で起こった密室殺人事件を探偵(!)するパートとなります。
 プレイヤーによって、密室に何の興味も示さなかったり、梶田の情報が出た時点で即座に梶田邸へ行くなども考えられ、最悪、何も手がかりのないまま『猟犬』との戦闘に突入する可能性もありますが、それはそれでアリとしましょう。ただ、その場合はプレイ時間が大幅に短縮されますので、その点にも注意をしてください。

 『とある坂』の殺人事件は、その呼称の通り、『とある坂』の途上にある古本屋で起こった殺人事件です。
 密室というと締め切った部屋で起こった殺人をイメージしますが、この場合は緩やかな密室、あるいは状況としての密室となります。
 この謎は非常に単純で、裏長屋で繋がっている二件隣の蕎麦屋が犯人で、裏から出で店に戻っただけ、というのが真相となります。ただ、蕎麦屋は古本屋の細君を殺したのではなく、 不倫相手であり、その情事の後、古本屋の細君が梶田邸で手に入れた『モートランのガラス』を蕎麦屋の主人に見せていた時に、『ティンダロスの猟犬』に殺害されてしまった、というのが実際であり、 その後、その『モートランのガラス』を持って、蕎麦屋に戻っています。

□事件現場の地図、家屋内

・現場の家屋の並び
坂周辺図

 古本屋周辺の地図はこのようになっています。アイスクリーム屋については、移動屋台のようなものですが、大体毎日、同じ時間に同じ位置に出ています。

・古本屋の間取り
古本屋間取り

基本的にこの並びの店はほぼ同じ間取りになります。
なお、奥の間は大体6畳程度で、奥の庭は2坪程度、流し場は2乗程度です。

□事件の証言

 周辺での聞き込みを行った場合、下記のような情報を得ることができます。
 探索者の手段に合わせて各種のコミュニケーション系の技能を持って判定をさせてください。ただ、特に難しいことでもないし、すでに警察に話している内容でもある為、+20〜30%程度の上方修正しても問題ないでしょう。

・隣の足袋屋、時計屋の証言:
 現場の隣家である足袋屋、時計屋の主人からはそれぞれ、下記のような証言を得られます。

 1.古本屋の旦那はその日も古本の露天を出しに言っていた。
  これは毎日のことで、特に珍しいことではない。
  主に上野の方だが、詳しいことは知らない。
 2.午後8時頃には何も物音は聞かなかった。
 3.細君の夫は、毎晩上野の辺りに露店を出しに行っている。

・さらに隣の蕎麦屋の証言:
 蕎麦屋は殺害当時の現場に居合わせたのですが、もちろん、そのことは警察には黙っています。
 《心理学》のロールを行えば、蕎麦屋が動揺していることは分かりますが、非常に協力的に、警察に話したように、特に気付いたことは無い、というようなことを話すだけです。
 ただ、A君に「事件の起こった時間帯に、裏の手洗いを借りに来た男はいなかったか」という質問を受けている為、曽我部や、それ以降の同じ質問には対して、 「借りに来た客が居たような気がしたが、詳しくは覚えていない」というようなことを言います。

・裏の小道の足跡について:
 裏口のあたりは日当たりが悪く、ひどくぬかるんでいます。
 そのため、普段から通行に使っている下駄の痕などがめったやたらについており、手がかりにはなりません。
 《追跡》のロールをするまでもなく、この状況からは、探索者には足跡から犯人の判別、犯行当時の様子などは判別できない、と告げてください。

・アイスクリーム屋の証言:
 事件の当時、アイスクリーム屋は、裏路地から出たところの通りの真正面に店を出していました。
 その時の様子を下記のように証言します。

 1.(事件の発生時間と思われる)午後8時前後に路地に出入りした者は無く、猫の一匹通っていない。
 2.あの路地はここのおかみさんたちですら、夜分は通らない。
  あのひどいぬかるみの上に、よるになると真っ暗になるので。
 3.アイスクリームのお客で路地に入った者も居ない。
  目の前でアイスクリームを食べ、すぐに元の方へ帰っていく。

・長屋の2階について:
 探索者達は、家屋の2階があるので、そこから犯人が脱出した可能性も考えるはずです。
(家屋の構造を先に伝えておきましょう)

 1.長屋の2階は、夏の暑い時期だけに開け放しになっている。
  そのため、もし2階から逃亡しようとすれば、目に付かないはずはない。
 2.2階の物干しで菓子屋の主人が夕暮れから9時頃まで尺八を吹いており、これが古本屋の2階の様子を見逃すはずがない位置に座っていた。
 3.通りに面している方には格子がかけられており、これが動かされた跡はない。

・二人の学生の証言:
 事件発生の時刻、古本屋には二人の学生が店内に居ました。
 二人は顔見知りですが、古本屋の関係者とは特に何も関係はありません(この点は警察にも確認されています)。
 彼らは事件当時のことを下記のように証言します。

 学生A:
「8時頃に古本屋で雑誌を開いていたのですが、奥での障子の閉まる物音がしたので目を上げると、格子が開いていたので、その隙間から中に一人の男が立っているのが見えました。
 しかし、そのときに目を上げるのと格子が閉まるのがほぼ同時だったので詳しいことは分かりませんが、帯の具合から言って男であったことは確かです。
 見えたのは腰から下だったので背格好などはちょっと分かりませんが、着物は黒でした。
 細かい縞か絣だったかもしれませんが、私の目には黒に見えました」

 学生B:
「僕もこの友達のAくんと一緒に本を見ていたのです。
 そして同じように音に気づいて格子が閉まるのを見ましたが、その男は確かに白い着物を着ていました。縞も模様もない白です」

 キーパーはこの証言を強調するようにし、同時に、当時のA君の服装も示唆するようにしてください。
 曽我部はこの格子から見えた白と黒の着物、というのは格子に沿ってA君の着ていた棒縞の着物が白と黒に見えたと錯覚させた、と思っているのです。


・古本屋の夫:
 古本屋の夫は、帰ってきて彼が調べた結果、物取りではない、と証言しています。
(実際は細君が持っていた『モートランのガラス』と、それに関連する物品が消えているのですが、これらは細君もまた盗んできたものである為、夫には隠していたので、彼も気付いていません)
 主人に犯人の心当たりはなく、ただ「これに限って人様の恨みを受けるようなことはございません」と泣くばかりです。

 細君については、特に変わったことと言えば、『レンズ倶楽部』というレンズやガラスといったものの収集家の集まりに入っていたことを告げます。
 ただ、細君については貧乏なこともあり、あまり収集物は無いが特に万華鏡等、覗き込むタイプのものに固執していたとも言います。

・電灯について:
 電灯については、曽我部に聞き込めば、下記のような話を聞く事ができます。
 あるいは、警察関係者の伝手から聞き出す必要があります。

 犯行当時に消灯した電灯は、犯人が消したと思われるため、つまり犯人の指紋が付いている可能性がある、というため警察が回収していきました。
 また、A君が電灯付けたことも確認されているため、彼の指紋も採られています。
 指紋検査の結果、A君の指紋しか検出されなかったが、警察は彼の指紋が犯人の指紋を消してしまったのであろう、としています。
(このことも、曽我部がA君を疑う理由となっています。つまり、電灯を消したのはA君である以上、他の指紋は検出されないのだ、と)

 しかし、実際は電球の線が切れているのでした。つまり、誰も消さなかったというのが正解です。
 事件の時にA君が強く電灯を揺すったために、一度切れたタングステンがもう一度繋がり、再点灯したのでした(当時の電灯)。


・古本屋の細君の死因:
 古本屋の細君の死因については、警察の伝手を頼りに聞き出すか、あるいは、すでに曽我部が知っていますので、曽我部に聞くことによって知ることができます。
 その直接の死因は心臓麻痺ということになっています(まあ、心臓が止まれば誰でも死ぬし、原因不明の場合はすべてこれになります)。
 ただ、部屋が荒れているようなことと、体に何か薬品を掛けられたかして、ひどい火傷がある為、自殺ではない可能性が高いと思われています。
(密室状況である為、自殺ではない、と思われる、という慎重な表現になっています)

 また、それに加えて、曽我部が以下のようなことを発見しています。
 それは死体には、小さな穴が開いており、よく見ると、おかしなぐらいに深い穴で、通常ならば内蔵に傷を付けるようなものはずなのに、出血等は無い奇妙な傷跡でした。
 検死に当たった医者は見逃したか、あるいはあまりの不可解に無視したと考えられ、検死報告には書かれていないようです。
 また、もちろんですが、こんな傷が元々あったということもなく、古本屋の主人もそんなことは初めて聞いたと言っていたと言います。

■探索部:「レンズ倶楽部」

 レンズ倶楽部については、PCAが平井から話だけは聞いています。
 平井に会いに行けば、レンズ倶楽部について、下記のような情報を得る事が出来ます(ちなみに、ここでPC@は「江戸川先生!」と驚くようにしてください(笑))。

 1.倶楽部は月に1回程度の割合で、会員同士の会合があり、最近手に入れたレンズやガラスと言ったものについて、見せ合う(自慢しあう)といったようなもの。
 2.それ以外での活動は特に無く、会員同士が親しくしている場合は、その自宅等に尋ねていく場合もあるが、それらは倶楽部は感知しない。
 3.立て続けに会員が死んでいることもあり、最近の会合は実は開いていない。だから、この件に関して、PCAに依頼をした。
 4.ちなみに会員には、梶田、土谷(古本屋の細君)の他、三輪(蕎麦屋の主人)が含まれている。

■探索部:「梶田邸にて」

 PCAの関連か、あるいは「レンズ倶楽部」の情報から、梶田邸を探索者が尋ねた場合の場面となります。

□梶田邸、レンズ狂の家

 梶田は天涯孤独の身であった為、梶田邸には生前からの姐やであり、愛人のような関係であった世良珠子が住んでいます。
 梶田が死んでから1ヶ月以上経ってはいますが、その死に様が異様であったことや、また珠子自身も行く当てがないので未だにここに留まっているのです。
 平井の紹介であること、古本屋の細君が死んだこと等を伝えれば、中を見せてもらえます。
 家のあちらこちらにレンズや、ガラスを使った工芸品が並んでおり、裏庭には小さいながらも本格的なレンズやガラスを作る工房が存在しています。

□世良珠子:
 珠子はすでに30代ですが、色気たっぷりの、世の中を倦んだような非常に退廃的な雰囲気を漂わせています(江戸川乱歩的な何かを(笑))。
 色白でほっそりしているわけではなく、むしろ非常に肉感的な色気を持っており、普段着から珍しい洋装で、そして髪を切ったり縛ったりしていない、非常にだらしない状態にしていますが、これがまた珠子の色気を際立たせています。
 珠子自身は別にレンズマニアではありません。この為、どれが貴重だとか、珍しいとか、いつ頃に手に入れたとか、一切興味がなく、梶田の持ち物についてとくに分かりません。
 珠子からは以下のような情報を得られます。

 1.梶田の死の直前、ひどく怯えていた。それは『角』に対してであり、常に部屋の『角』へ目を配っていた。
 2.死の1ヶ月前(今から2ヶ月前)ぐらいにひどく浮かれており、誰も持っていない、特別なものを作り出す技術を得たようなことを珠子に対して仄めかした。
 3.死の直前まで、工房で何かを作っていた。
 4.梶田は自室で死んでいた。それは内から鍵のかかる部屋であり、窓やその他にも鍵が掛かっていた、いわゆる『密室』だった。
  梶田の死因は心臓麻痺で、少し火傷をしていた。ただ、火傷に関しては、工房で作業をしているときによくするので、あまり気にしていない。
 5.自室に関しては、割れたものなどの片付けはしたが、今もそのままにしている。
 6.死んだ後は、確か『レンズ倶楽部』の会員の人が何人か尋ねてきた。その中には平井さんも居た。

□梶田の部屋:
 梶田の部屋はそこかしこに鏡、レンズ、ガラスといった製品が並べられ、配置されています。
 まず部屋に入った探索者は、この異様かつ、偏執的な光景に0/1D2の正気度を失う可能性があります。この正気度ロールに失敗した場合は、この部屋の異様な光景に恐れをなし、部屋の外で待機する必要があります(必要に駆られて部屋に踏み込んだ場合、自動的に正気度を1点失いますが、(狂気に陥らなければ)通常通りに行動が可能です)。
 《目星》のロールを行うか、特に机を探した場合は、鍵の掛かった机の引き出しが怪しいことになります。《鍵開け》をするか、破壊を行って開いた場合、そこに『梶田の日記』と、『ザンツー石版に関する部分的な翻訳』(手書き)を発見できます。
 もしも、破壊を行った場合は、その音を聞きつけて珠子がやってきます。そして、「さすがに壊すのは感心しないねえ」とだけ言って、日記に興味を示しますが、ぱらぱらとめくった後、すぐに「ふーん」と去っていきます。
(珠子は何か面白いことは無いか、ぐらいで探索者の動向に気を配っているだけです。よほどひどい行動を取らない限り、梶田邸から追い出されることはありません)

□梶田の日記:

 手書きの梶田の日記です。
 乱雑ですが、特徴的な直線を組み合わせたような神経質な文字である為、読むのにはさほど苦労しません。
 1時間もあれば、内容の抜粋を知ることができます。
 また、日記の内容には度を越したレンズマニアらしい記述があふれており、正気度を1/1D2失う可能性があります(あまりにも卑近な内容である為、理解しやすく、正気度を失いやすいのです)。

   →ハンドアウト:梶田の日記

□『ザンツー石版に関する部分的な翻訳』:
 手書きのメモです。
 乱雑な日本語で書かれている為、日本語のロールが必要となります。
 内容は1916年に出版された書物の翻訳ではなく、『ザンツー石板』自体を誰かが翻訳したものであると思われる内容です。
 その為、内容はルールブックとは全く異なります。
(まあ、言うなれば、本シナリオ用の魔道書で、『モートランのガラスの製造方法』、『火鉢に魔力を付与する』と言った呪文が収録されています)

 読むには斜め読みで2時間、通常で5日かかります。
『モートランのガラス』や、それを示唆するようなキーワードを持って読んだ場合、抜粋的な内容として、『モートランのガラス』についてと、『円を描く水晶』、そして『猟犬』についての情報が得られます。
 正気度の喪失は1D3/1D6、《クトゥルフ神話》の+3%。呪文は、モートランのガラスの製造、火鉢に魔力を付与する、他。

 →ハンドアウト:『ザンツー石板に関する部分的な翻訳』

□ガラス工房:
 本格的な設備を持ったガラスの工房です。《知識》ロールに成功すれば、素人が手を出すには難しい高温になる炉など、専門的な設備が充実していることに気が付きます。
 工房内の探索を行えば、2ヶ月前、梶田の死の直前までこの工房が稼動していたことに気が付きます。その後、特に使われていた炉を調べるか、《目星》のロールに成功すると、炉内で型にはまったままの『円を描く水晶球』を発見できます(梶田はその製造には成功していたのですが、間に合わなかったのです)。
 この遺品を持ち出すことについて、珠子は異議はありません(なにしろ、元々正当な相続者でもないので)。ただ、貴重なものでないか、一応見せてくれ、とは言います。
 特に無理強いはせず、嫌だと言えば、「あ、そ」とすぐに引き下がります。見せた場合、「ふーん、これが『円を描く』って奴かね」と呟きます。

■リンケージ:「A君」

 とある坂での探索が終わった時点で、A君が怪しい、犯人でないまでも、何かある、という結論に達した場合、曽我部を連れてA君に会いに行くことになります。
 曽我部もA君が犯人である可能性が濃厚である、と踏んでいる為、深刻そうな顔をして、自首を勧める為に、A君に会いに行くつもりです。

□A君に会う

 A君は『とある坂』から程近い、煙草屋の2階に間借りして暮らしています。
 曽我部が煙草屋のおかみに来意を告げると、上がり口から大声でA君を呼びます。
 A君は「オォー」と変な声で答えると階段を降りてきて、曽我部と探索者を見るとちょっと驚いた様子を見せますが、「やあ、おあがりなさい」と部屋に通します。
 A君の部屋は四畳半ですが、その部屋は書物で埋まっており、真ん中の辺りに少し畳が見える他は、全て天井まで届くような本の土手となっているのです。生活用品の類は見当たらず、どうやって生活をしているのか、不思議な部屋です。
 A君は、座布団もないので、そこらへんのやわらかい書物の上にでも座ってくれ、と言います。

 A君は曽我部よりも早く、しかも非常に効率よくこの事件の探偵を済ませており、犯人が蕎麦屋であることを見当付けています。
 同時に、曽我部の様子から、推理の過程で自分が犯人と目されている、ということも十分に承知しています(特に、古本屋の細君と幼馴染である、ということを知っているのは、曽我部だけなので)。

 ここでは、探索者に自由に推理を展開させてください。
 探索者が行わない場合は、曽我部が以下の点から、A君が犯人である、という指摘をします。
 ・学生の証言の食い違いは、犯人が白と黒の段だら模様の着物で、それを格子の隙間から見たので、たまたま白と黒に見えた。
  →事件当時のA君の服装は、白黒の荒い棒縞であった。
 ・電灯の指紋にはA君のものしか付いていなかった。古本屋の人達は、おそらく点けっぱなしにしていたのだろう。
  →つまり、電灯にはA君しか触れていない。必然的に消したのもA君になる。
 ・A君と、古本屋の細君は幼馴染で、詳細は知らないが何か因果があるのではないか。
  →自分でそう言った。
 ・犯人が出た痕跡は無いが、それは単に裏から出て、蕎麦屋から戻っていっただけであり、当日、蕎麦屋の裏の手洗いを借りに来た男がいた。
  →蕎麦屋は土間で裏まで繋がっており、裏の木戸近くにある手洗いを借りに行くことは自然である。犯人は裏木戸を行き来して犯行を行った。

□探索者の推理が間違っているか、あるいは曽我部がA君が犯人である指摘をした場合:

 探索者の推理が間違っているか、曽我部に指摘させた場合は、まず、A君はきょとんとしてから、大声で笑い出します。
 そして、以下のように、曽我部の推理を反証します。
 ・古本屋の細君との幼馴染という関係について、小学生以来、一切の関わりが無い。
 ・電灯の指紋については、あれは誰も触れなかった。タングステンが切れ、電灯が消えた後、揺らされることでまた繋がったので点いた。
 ・犯人の着物の色については、こちらの書物を参照。
  →ミュンスターバーグ『心理学と犯罪「錯覚」の章
 ・蕎麦屋に手洗いを借りに来た男など居なかった。

 では、誰が犯人なのか、という問いに対して、A君は「心理学」と犯罪について、一席ぶった後、 「蕎麦屋の主人が犯人なのです」と事も無げに言います。
 曽我部が聞き込んだ事件の当夜に手洗いを借りに来た男、というのは、A君や、曽我部がそう聞いたことで、自らの罪跡をくらませる為に、 わざわざそういう事を言うようになったのだ、と指摘します。
 そして、蕎麦屋と古本屋の細君は不倫関係にあり、おそらく『レンズ倶楽部』とかいうところで知り合い、また同じ趣味で家が近い、ということで深い関係になったのであろうと言います。
 詳細は分からないが、おそらくそういったことで何か問題が起こったのではないかと推測しています。

□探索者の推理が正解である場合:

 興味深そうにA君は探索者の推理に聞き入ります。対して、曽我部は驚愕の表情を浮かべます(自分の推理と異なるので)。
 もしも、細部に間違いあった場合は、A君にそれを指摘させてください(特に、電灯の件については探索者が気付かない可能性が高いので)。
 そして、「素晴らしい。君達のような人と知り合いになれて嬉しく思いますよ」と言います。
 曽我部は何か言おうとしますが、A君は「そう、蕎麦屋の主人が犯人なのですよ」と断言します。

□推理の後:

 蕎麦屋の主人が犯人であるという指摘の後、A君はそちらの処理はお任せする、と言います。
 A君は起こった事件の謎を解くことだけに興味があり、それ以外については特に関心がありません。
 黙っておくのもよし、おそらく心理的に追い詰められていると思われるので、そのうちに自首をするかもしれない、とも言います。
 この後は、探索者の判断に任されます。

■終幕部:「時の猟犬」

 A君に会って蕎麦屋が犯人である指摘を受けるか、あるいは探索者達の独自の推理によって蕎麦屋が犯人であることに気が付き、蕎麦屋に言った場合、 この終幕部へ突入します。

『猟犬』と蕎麦屋の主人は、ほぼ時間差0で出会っている為、古本屋の細君が襲われた直後から追跡を開始され、 即座に発見、襲われるという状態となっています(物理的な距離も無視する存在ですが、そちらも0に近いので)。

□早い段階で蕎麦屋が犯人だと気付いた場合:

 早い段階で蕎麦屋の主人が犯人だと見当を付けた場合か、あるいはキーパーの判断でA君と会っていても正解の推理をした場合は、 こちらの早い段階へ進んでください。
 多少なりとも余裕があり、蕎麦屋の主人と話す間があってから『猟犬』との戦闘が開始されることになります。

 蕎麦屋を訪ねようとすると、丁度、『本日休業』の紙を貼り付けている三輪を発見します。
 蕎麦屋はひどく怯えており(もちろん、『ティンダロスの猟犬』に狙われているからです!)、探索者達の追及には素直に応えます。
 ただ、土谷君江を殺したのは自分ではなく、部屋の隅の黒い雲から現れた怪物だと言います。そして、そいつは今、自分を狙っているのだ、と取り乱します。
《精神分析》に成功して三輪を落ち着かせた場合は、「梶田が『奴』に対抗する為のものを作ったが、使い方が分からない」と言い、2階の住居部分へ探索者を案内し、梶田、土谷と渡ってきた『モートランのガラス』と、『円を描く水晶』、『魔力を付与した火鉢』、ハシバミの枝を探索者に渡します。
 ロールに失敗するか、しなかった場合、蕎麦屋の主人は取り乱したままとなります。この場合は、2階の住居部分を家捜しする必要がありますが、家捜しの最中に、『猟犬』が出現することになります。
 そうこうしていると、部屋の隅から黒い雲のような溢れ出し、そこに不気味に光る飢えた目が浮かび、ついで、『猟犬』がその姿を現します。

 悪臭を放つ腐汁に覆われた体、ぎらぎらとした緑色の目、別の生きもののように蠢く赤い舌。
 人のようにも見えなくは無いが、やせ衰えた体に集約された飢えそのものような印象は、そいつが確かに『猟犬』であることを示していた。
 そいつは、ゆっくりと三輪を見据えたまま、黒い雲から音も無く滑り出てくる・・・。

□A君と会った後の場合:

 A君に会った後の場合はこちらです。

 探索者達が蕎麦屋に着くと、蕎麦屋は閉まっており、『本日休業』との張り紙がしてあります。
 ここで《聞き耳》の判定に成功した場合(蕎麦屋の様子を窺がっていた場合は、+20%程度の上方修正をしてください)、その2階の住居部分から男の悲鳴がしたことに気が付きます。
 2階へ駆けつけた場合、『ティンダロスの猟犬』に襲われる蕎麦屋を目撃することになります。

 悪臭を放つ腐汁に覆われた体に、ぎらぎらとした緑色の目。
 そいつの口から伸びた舌と思われる細いゴム質のものが、蕎麦屋の首に突き刺さり、そこから何かを、『人間の純潔』とも呼べる何か吸い取っていた。
 蕎麦屋はすでに絶命寸前であり、その絶望的な表情は、あの『猟犬』に襲われることがただ生命の恐怖だけではないことを感じさせた。
 そいつは、十分に三輪の『何か』を吸収し、味わうと、ゆっくりと頭を探索者達へ向け、おそらく、笑った。

□『ティンダロスの猟犬』との戦闘

 ここで、『ティンダロスの猟犬』との戦闘が開始されますが・・・、まともにやりあって勝てる相手ではないことは確かです。
『猟犬』を撃退する為には、梶田が作成した『円を描く水晶』を使う必要があります。『円を描く水晶』は『猟犬』を撃退する為の水晶なのです。
(探索者がまだ手に入れていない場合は、2階の住居部分を家捜しする必要があります。・・・『猟犬』との戦闘中になりますが)。
『円を描く水晶』は『モートランのガラス』と同じ特性も持つ為、『魔力を付与した火鉢』からハシバミを燃やして立ち上る煙が必要となります。
 この条件を整えて、『円を描く水晶』を『猟犬』に覗かせることで、『猟犬』は水晶の中の映像に引き込まれ、水晶の中の合わせ鏡のような無限に広がる光景を延々と追いかけていくようになります(水晶に閉じ込められた状態となります)。
 梶田の日記や、三輪から情報を得ている場合で、探索者がまだ気が付いていない場合は、《アイデア》ロールに成功すると、この事に気が付くことが出来ます。
 まず、『魔力を付与した火鉢』にハシバミの枝を燃やし、その煙を上がらせ、その上で、『円を描く水晶』を持った探索者が『猟犬』からの攻撃を《こぶし》による受けを成功させ、覗き込ませたことにするか(キーパーの判断によって、《こぶし》の後に何らかのロールを行わせてください)、 あるいは《組み付き》を持って『猟犬』の動きを止め、『円を描く水晶』を無理矢理覗き込ませるかの2択となります。
 『猟犬』に『円を描く水晶』を覗かせた探索者は、一緒にその光景を覗くこととなる為、1D6の正気度、6点のMPを喪失します(『モートランのガラス』の使用分のみ)。
 これらの行動に成功した場合、前述の通り、『猟犬』は『円を描く水晶』に吸い込まれるように消えていきます。

『ティンダロスの猟犬』
STR:16
CON:30
SIZ:16
INT:17
POW:24
DEX:10
ダメージボーナス:+1D4
移動:6/飛行 40
耐久力:23
武器:
 前足 90% 1D6+db+腐汁(POT 2D6)
 舌  90% 1D3のPOWを吸収
※1D6で攻撃方法を決定 1〜2で前足、3〜6で舌とします。
 この猟犬は、人間から『何か』を吸い取るのが好みです。
装甲:
 2ポイントの皮膚
 1ラウンドに4点の耐久力を回復
 通常の武器無効(魔法の武器のみ有効)
呪文:
 キーパーによる。
正気度喪失:1D3/1D20

■事件の後<

 『ティンダロスの猟犬』との戦闘結果、あるいはその前の行動によって事件のその後は変化します。
 シナリオ終了時の正気度報酬と合わせて、変化後を行ってください。

□『ティンダロスの猟犬』を『円を描く水晶』に封じ込めた場合:
 猟犬を封じ込めた水晶をどうするかは探索者次第ですが、割れればもちろん、『猟犬』は解放されます。
 探索者達は相談してこの『水晶』をどう封印するか考えてください。
 三輪が生きている場合は、探索者達に感謝するとともに、土谷を殺したのはあの『猟犬』で、自分はその場に居合わせただけだと言います(もちろん、何故居合わせたかは、問い詰めた場合にしか答えません)。
 この真相について、もちろん警察は信用しません。三輪の容疑が濃いことも確かですが、確たる証拠も出ない為、『とある坂での密室殺人事件』は不可解な事故、あるいは自殺として処理され、迷宮入りとなります。
 この後、平井は江戸川乱歩として、『D坂の殺人事件』を執筆、発表することになります。
 探索者は1D10点と、蕎麦屋が無事な場合はさらに1D4点、『モートランのガラス』を始末した場合はさらに+1点の正気度を得ます。

□『ティンダロスの猟犬』を撃退した場合(『猟犬』の耐久度を0にした場合):
 探索者は信じられないことに、この異界の『猟犬』を撃退しました。
 時間を越え、執拗に襲い来る時の猟犬をも撃退した探索者は、非常な自信を付けます。
 探索者は1D8点と、『猟犬』を撃退したことによる20点(!)の正気度を得ることができます。
 なお、蕎麦屋が殺害されていた場合は、警察の厄介になる可能性がありますが、これ以降は詳しく語られません。

□『ティンダロスの猟犬』から逃げ出した場合:
『猟犬』は蕎麦屋から「人間的な、人間が持つ純潔の何か」を吸い尽くし、梶田、古本屋の細君と同じく、蕎麦屋を殺害します。
 蕎麦屋の殺害は、二軒隣の古本屋の細君の殺人事件との関連により新聞の紙面を賑わせ、様々な憶測が飛び交います。
 探索者達は事件の現場に居合わせた重要参考人、あるいは容疑者となりますが、そんなことよりも重大な事態が待っています。
 そう、『猟犬』はその場に居合わせた探索者達を無作為に、そしてルールに従い、次の日から襲い始めます(なにしろ、ほぼ現在時間で『猟犬』に遭遇しているので)。
 以降は詳しく語られず、それぞれの探索者は『角度』に対して恐怖の目を向けながら、『猟犬』の襲撃に怯えることになります。
 探索者は1D4点の正気度を獲得しますが、無事では済まないでしょう・・・。


■データセクション

 シナリオ中で使用されるデータや、その他の項目をまとめたものです。

『過去を覗く水晶(モートランのガラス)』

 梶田が製造したモートランのガラスで、製造方法については、オリジナルの魔道書『ザンツー石板に関する部分的な翻訳』から得ています。
 性能的には全く変わりは無いので、ルールブックP.289を参照してください。
 この水晶は、一辺が5Cm程度の水晶で正八角形をしていています。
 この水晶を、『魔力が付与された火鉢』で炊いたハシバミの枝の煙にかざし、1D6の正気度、6点のMPを費やすことで、過去を覗くことができます。
 覗くことができる光景は使用者の望みの光景となりますが、場合によってはグレート・オールド・ワンズによって送られてくる映像であったり、 意図しない映像が映し出されることがあります。
 そして、もちろん、覗く光景によっては、さらなる正気度の喪失を招く場合があります。

『円を描く水晶球(モートランのガラス)』

 こちらも梶田が製造したモートランのガラスですが、特殊な細工が施されています。
 直径5Cm程度の水晶球で、外周は通常の水晶球のように透明ですが、その中心部は暗黒になっています(全く混じりけのない黒と言え、認識上の黒です)。
 《物理学》、《地質学》、《芸術(彫刻)》のいずれかのロールに成功した場合、これは光が外に出て行かない為の暗黒であり、ある角度以上でこの水晶内に光が侵入すると、外に出て行かないことに気が付きます。
 もし、この水晶を覗き込んだ場合は、次元と時間を無視して過去への合わせ鏡が無限に続く光景を覗くことになる為、非常な酩酊感とともに、1/1D4の正気度を失う可能性があります。
 この水晶は梶田が製造した、『猟犬』を絡め取る罠であり、内部ではモートランのガラスがモートランのガラスを写す、無限ループするようになっています。
 時を越える力を持つ『猟犬』がこの水晶に絡め取られた場合、脱出不可能になります。
 この水晶を『猟犬』に覗き込ませ、『魔力が付与された火鉢』で炊いたハシバミの枝の煙にかざし、1D6の正気度、6点のMPを費やすことで、『猟犬』を封じ込めることができます。

『魔力の付与された火鉢』

 梶田が貰いうけた『魔力が付与された火鉢』です。
 シナリオの時期の関係上(9月の初旬)、付与する呪文の時期がシナリオと合わない為、貰い受けたことになっています。
 このことはあまり大きな意味が無いので、探索者達にはあまり気にするな、ということを告げるか、あるいはその方向では完全に探索の糸が切れていることを認識させてください。

『ザンツー石版に関する部分的な翻訳』

 製本されたものではなく、手書きのメモです。乱雑な日本語で書かれている為、日本語のロールが必要となります。
 内容は1916年に出版された書物の翻訳ではなく、誰かが個人的に翻訳したものです。その為、内容はルールブックとは全く異なります。
 読むには斜め読みで2時間、通常で5日かかります。 『モートランのガラス』や、それを示唆するようなキーワードを持って読んだ場合、抜粋的な内容として、『モートランのガラス』についてと、『円を描く水晶』、そして『猟犬』についての情報が得られます。
 正気度の喪失は1D3/1D6、《クトゥルフ神話》の+3%。呪文は、モートランのガラスの製造、火鉢に魔力を付与する、他。

 →ハンドアウト:『ザンツー石板に関する部分的な翻訳』

『梶田の日記』

 最初の被害者の梶田の日記です。
 手書きで乱雑ですが、特徴的な直線を組み合わせたような神経質な文字である為、読むのにはさほど苦労しません。
 1時間もあれば、内容の抜粋を知ることができます。
 また、日記の内容には度を越したレンズマニアらしい記述があふれており、正気度を1/1D2失う可能性があります(あまりにも卑近な内容である為、理解しやすく、正気度を失いやすいのです)。

 →ハンドアウト:『梶田の日記』

当時の電灯

 大正時代では、メーターを取り付けない小さな家の電灯は、電灯会社の方で変電所のスイッチを切って消灯していました。
 この為、点けっぱなしにしておいて、勝手に点いたり消えたりに任せた家庭もあったようです。
 また、電灯の、一度切れたタングステンがもう一度繋がってもう一度つくことが少なくなかった為、電灯が切れてもゆすったりしてみるともう一度点く、 ということも珍しくなかったようです。

『D坂の殺人事件』

 大正13年に『新青年』に発表された江戸川乱歩の探偵小説です。
 キーパーは一読することをお勧めします。

『ティンダロスの猟犬』

 人から『何か』を吸い取るのが好みの『猟犬』です。
 それ以外は通常の猟犬と特に変わりはありません。

STR:16
CON:30
SIZ:16
INT:17
POW:24
DEX:10
ダメージボーナス:+1D4
移動:6/飛行 40
耐久力:23
武器:
 前足 90% 1D6+db+腐汁(POT 2D6)
 舌  90% 1D3のPOWを吸収
※1D6で攻撃方法を決定 1〜2で前足、3〜6で舌とします。
 この猟犬は、人間から『何か』を吸い取るのが好みです。
装甲:
 2ポイントの皮膚
 1ラウンドに4点の耐久力を回復
 通常の武器無効(魔法の武器のみ有効)
呪文:
 キーパーによる。
正気度喪失:1D3/1D20


謝辞、あるいは参考資料:

 本シナリオは、まあ、元ネタそのまま、江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』を取り入れて、猟犬を入れたシナリオとなっています。
 元々何年も前からネタ自体はあって、何故か最近になって、嶋田Q作の『D坂の殺人事件』をもう一度見る機会に恵まれ、今のうちにやらないと埋もれる、という思いと、キーパーとしてやはり猟犬ネタは一度ぐらいはやっておこう、という思いから作成されました。
 本シナリオのテストは、初回はF.G.のメンバーで、改版後の2回目は大阪でお世話になっているサークルにて実施しました。関係者にはお礼申し上げます。

最後にちょっとだけ:

 作者の趣味として、A君は二枚目のダンディ、というよりもやはり、嶋田Q作が良いと思います。
 嶋田Q作がダンディでない、とは言いませんが、あの独特な雰囲気が、やはり良いなあ、とか思うわけで。