浅草探索


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浅草探索

南北に貫く大通り

 探索者が浅草に来た場合に、まずこの情報を伝えてください。
 興行街である浅草六区の中心を貫く大通りです。通りの左右には様々な劇場、飲食店が立ち並んでおり、平日休日、時間によらず人が多い通りです。
 これが『月光事件』の発生場所として噂になっている通りです。事件の発生個所自体は通りのどこかで、一定ではありません。
※キーパーは、浅草の地図を提示して、「ここだよ」、という解説を行うとよいでしょう。
 浅草についてはこちらを参照してください。
 様々なヴィジュアル資料から、写真のコピーなどを提示して、こんな人が多い、十二階が見える、など伝えてください。

 通りから北を向くと十二階が見えます。
 このシナリオの時期には、十二階は実は正式名称もすでに十二階となっています(建築当時は「凌雲閣」でしたが、明治末期に売りに出されて「十二階」に改称、1階に十二階劇場も付設されました)。
 探索者達には、「十二階が見える」ということを強調してください。

浅草の噂

 これらの情報は、浅草で入手可能は一般的な情報です。
 浅草の関係者が使っている、西側の裏の方にある小さなカフェ、アントライオンでの情報収集を想定していますが、キーパーの判断や、探索者の動きによって様々な場所で断片的に手に入るようにしてもよいでしょう。
 また、一度に情報を多く出し過ぎないように気を付けてください。シナリオのタイムスケジュールや、探索者自身の質問などによって与える情報を加減するようにしてください。

 カフェ、アントライオンは報道、出版関係者も見かけることがあり、ちょっとした情報交換の場所になっています。
 探索者が浅草に馴染みがある、芸能、報道関係者である場合は、このカフェに出入りがあったり、親しい仲の者がよく出入りしているなどとしてもよいでしょう。
 アントライオンは、いわゆる喫茶店、現代的なカフェではなく、当世的なカフェなので軽食から酒まで出ます。女給も奇麗どころが多いですが、役者の卵か、役者崩れの女性が大半で、兼業であり、そして劇団関係者とすでに良い仲だったり、援助を受けていたりします。

 十二階下とは微妙に異なる地域で、怪しげな雰囲気は少ないカフェです。
 主に演劇、オペラの関係者が使う場所で、活動写真の方の関係者はあまり見えません。

 浅草における噂、一般的な情報はここで手に入ります。
 チップをはずめば女給から、関係者からは響生の名刺か、探索者自身が浅草に詳しいかったり、関係者だったりする場合、適当に世間話をするのでもよいでしょう。
 ロール不要の世間話の範囲では、最近、『月光事件』と名付けられた行方不明事件が浅草で発生していること(概要はすでに探索者が聞いた通りです)、被害者は特に共通点はなく、アントライオンの常連客の中にも目撃者が居て、呆けたように『月が奇麗だった』と言っていることを聞けます。
 この他に、『月光事件』は十二階が見える大通りで発生しており、その他の場所で起こったということは聞かないとも教えられます。
 これ以上の情報を聞く場合は、コミュニケーション系のロールが要求されます(探索者の話のもって行き方次第です)。

 ロールに成功した場合に得られる情報は以下の通りです。
・被害者に共通点はないが、皆、浅草の大通りで消えている。ただ、それ以外のところで消えているのに気が付いていないだけかもしれない。
・『月が奇麗だった』と言っていたが、消えたときは曇っていて月がよく見えない日もあった。
・事件が起こり始めたのはここ1か月ぐらいから。

 そのほか、ロールに成功しなくとも世間話として浅草の近況の情報が得られます(シナリオには全く関係がありません)。
・活動写真が流行ってきている。オペラ、オペレッタや芝居は下降気味。
・とは言え、人気のある俳優、女優が出てきているので、まだ大丈夫。
・ペラゴロとか呼ばれる質の悪い連中も増えている。人気のある女優やらが出てきたせいもある。

 探索者が十二階を話題に出した場合、以下の情報を得ることが出来ます。
・今はもう人気はない。お上りさんたちもそっちよりも十二階下に興味があって、それの為の目印みたくなっている。
・凌雲閣から十二階に名前が変わったついでに、1階に劇場が開設された。どこにでもあるような劇場だが、少しは十二階の経営の役に立っているのではないか。
・今、劇場では『月光劇団』とか名乗る宗教がかった劇団が芝居をかけているらしい。

 探索者が『月光教団』の話題を出した場合、以下の情報を得ることができます。
・光月町にある寂れた神社を半ば占拠している新興宗教である。
・正式名称は「大鏡教」らしい。大鏡という名前も実際は正式名称かどうかは不明だが、正式名称は恐れ多いのでそう呼ぶらしい。
・いわゆる生まれ変わりとかを説いていて、現世で母なる神から再び生まれ変わる、みたいなことを言っている。
・岡山の山奥から来たらしい、土着の宗教で十二階下に浸透しつつある。
・十二階の劇場で今芝居を掛けている『月光劇団』は月光教の出先機関らしい。
・奇妙な姿をした奴らがうろついているが、それは劇団の仮装らしい。宣伝も兼ねているとか。

 探索者によっては具体的に事件に遭遇した人間や、消えた人間の知り合いを探す場合もあります。この場合は、探索者の人脈や、アントライオンでそういった人間を紹介してもらえることにすればよいでしょう。
 彼らから聞ける内容はあまり前述の内容と変わりはありません。『月光事件』に遭遇してはいるものの、実際にその光景を見たわけではなく、ただ人が消えたことに気が付いただけなのです。
 キーパーの判断によって、消えた人間の知り合いから、被害者の多くが『月光教』と接触を持っていたか、何故か十二階劇場に出入りしたなどと伝え、被害者と『月光教』との繋がりを示唆してもよいでしょう。

十二階劇場、『月光劇団』

 十二階の1階にある劇場では、『月光劇団』と名乗る劇団による演劇が公演されています。
 夕方から夜に掛けての公演のみで、昼間は閉じられ、暇そうにしている警備係を見るだけです。
 昼間に劇場の様子を窺っても、まったく練習などをしている様子は見られません。

 十二階の管理関係者に話を聞いた場合、『月光劇団』について詳細は彼らも知りません。ただ、金払いは良いこと(前金で払っている)、犯罪的な内容でなければ特に関知しないと聞けます。
 劇場に常駐している管理関係者も雇われで、噂に聞いたところによるとずいぶん大金を積まれたらしいことが分かります。

『月光劇団』について調査した場合、掛けている演劇の評判は芳しくありませんが、鬼の姿が本物らしいとか妙な噂にはなっています。
 また、劇団員については、光月町に住んでいるらしいと言われます。

 探索者が昼間の劇場に忍び込むことを考えるかもしれませんが、リスクが大きいことは伝えてください(十二階、劇場には警備係が常駐しています)。
 ちなみに忍び込んでも基本的に空です。彼らの特殊メイクらしきものは自前で、『大鏡』は安全の為に毎度持ち運んでいます。

 夕方以降、劇団の演劇を観に来た場合、木戸銭は5銭と通常の安い劇場の半分程です(オペラの金龍館が2階20銭、1階10銭)。
 安い値段に釣られてか、目当ての興行までの時間つぶしか、あるいは鬼の噂のせいか、まばらに人が入り込む様子が見えます(実はこの演劇を観に来ている人々の多くは、『月光教』の関係者です)。

 演劇は前衛的とも、ごく安っぽく、社会を風刺したり、宗教臭い演劇です。
 最初は醜い姿のヒロインが現実を模した地獄をめぐり、最期は母親の姿をした神に助けられて美しい姿に生まれ変わる、という内容です
。  演劇の内容は前述の通りですが、そこに出てくる地獄の鬼の姿が妙に生々しく、2体として同じ姿のものはありません。
 探索者が演劇を観た場合、以下の描写を行ってください。

 そいつらの姿は鬼というよりは、ギリシア神話に登場するサテュロスに似ていると言ってよかった。
 一人として同じ姿のものは居なかったが、野生の山羊を思わせる剛毛に覆われたものや、蹄のある脚、小さな角などを持つものが居る。
 驚くべきことにそいつらの姿は、まるで別の生き物の部位が部分毎に作り替えられて組み合わさっているように見えた。

 この演劇に出演しているのは、『月光教団』のシュブ=ニグラスに祝福されしもの(ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス)です。彼らの姿を見た場合、0/1D4の正気度を失います。
≪変装≫か、≪目星≫に成功した場合、それらが強調されるように扮装が施されていますが、元となるものは本物ではないかと気が付きます。
≪生物学≫か、≪医学≫に成功した場合、彼らの尋常でない姿はいわゆる奇形の類ではないかと推察できます(時代背景的に、奇形の類が見世物に出ることが多かった時代です)。
 PCBはこれが前に見た患者(野呂猛)と似たような症状を示していることに、自動的に気が付きます(診察を拒否している場合は気づきませんが…)。
 PC@は、この演劇のヒロインが美紗崎美由であることに自動的に気が付きます。彼女の扮装は完全に普通の扮装であり、周囲の鬼達とは異なり、明らかに作り物であり、あまりリアルではありません。

 公演後に、楽屋裏とか入り込もうとした場合、警備係に止められます。探索者がごねた場合は、『月光劇団』団員がいつの間にか取り囲んでいる状態になります。
 探索者が単純にファンだ、とか美由の知り合いである等と劇団関係者と接触をしようとした場合は、劇団側の人間として、雨宮が出てきて話を聞きます。雨宮は劇団の支配人だと名乗ります。
 雨宮は周りの『月光劇団』のメンバーとは全く異なり、スタイルがよく、洒落た白の三つ揃えを小慣れた様子で着こなし、物腰も柔らかい男です。
 雨宮は知らぬ存ぜぬ、関係ないでこの場は通します。あまりにしつこい場合は、劇団員の囲みが徐々に狭まっていると探索者に伝えてください(この場合、彼らからひどい獣臭がすることも教えてください)。

 探索者達は公演が終わり、通りに出たところで浅草の大通りに出たところで『月光事件』に遭遇します。

十二階

 建設当初は人気だった十二階も、この時期には人もまばらです。1階に併設された劇場(演芸場)も、今借り受けている『月光劇団』が夕方からの公演しか行わないこともあり、閑散としています。
 探索者が十二階に上った場合、十二階の展望台に上ると微かに獣臭がすることに気が付きます(特にロールは不要です)。
≪聞き耳≫か、INT×5のロールに成功すると、この匂いが『月光劇団』の団員達や、野呂猛から嗅いだものと同じ可能性が高いことに気が付きます。
 展望台の特に床を調べた場合か、≪目星≫で、そこにはわずかに残された血の様な赤い跡を発見することが出来ます。痕跡があまりにもわずかである為、血なのか、そうだとしてもこれが何の血なのか、何のために流されたのかは分かりません。
 これらの痕跡は風化したものではなく、明らかにそれを消す為に掃除が行われています。
≪医学≫では、この赤い痕跡を採取して持って帰って、詳細に調べる必要があります。
 その場合は、≪医学≫×2でこの赤い痕跡は血液ではありますが、人間以外のものであることが分かります。≪医学≫、≪生物学≫をさらに成功した場合、おそらく何らかの家畜の類ではないだろうかと分かります。

 シナリオ内の時間が進み、さらに別の『月光事件』の被害者が出た場合は、痕跡が新しくなったり、匂いが強く残っている、あるいは十二階周辺を『月光劇団』『月光教団』のメンバーがうろついていたのを目撃される等としてください。

キーパーへ:
 この十二階の展望階(十二階)の痕跡は、『月光教団』がムーンレンズの番人を呼び出す為の儀式を行っていたものです。
 早い段階で探索者が気付き、ここに張り込むなどをした場合は、シナリオ中に他の人間を『月光事件』に巻き込むことを避けるか、何らかのトラブル(十二階の警備員に追い出される、『月光劇場』など他のところで事件が起こる等)で持って探索者を一時的に展望階から遠ざけて『月光事件』を起こすようにしてください。

十二階下

『月光教団』に興味を抱いた探索者達が、十二階下での探索を行った場合、これらの情報を得ることが出来ます。
『月光劇団』の人間がよく十二階下へ出入りしている、あるいは彼らが『月下百鬼夜行』にあるように十二階下を通って光月町へと帰っていく等の情報を与えて、探索者をこちらに誘導してください。
 また、探索者が十二階下で活動している時、そこに潜伏している野呂猛の調査でこちらの情報を集めるのもよいでしょう。

 50銭銀貨で事足りる、とも言われるような安価で手続きの簡単な私娼窟の中でも、最も安価な地域で彼らは活動をしています。
 十二階下の十二階に近い方では、特に情報を得ることは出来ません。外見からして不気味な彼らは避けられているのです。より怪しい方へ行かないと駄目よ、言われます。

 十二階下でも特に怪しげな地域に踏み込むと、ここが一種の異界、他界であることが分かります。
 ここでは彼らも普通の客であり、金離れが良い上客です。相手の方も奇形や、病気もちであることが事前にわかるレベルであったり、あるいは何らかの凶状持ちが普通である為に、一種異様な雰囲気の漂う地域です。
 探索者は≪信用≫、≪説得≫以外の手段を持ってこの地域の人間から情報を得ることができます(探索者次第ではありますが、場合によってはそれらの技能が有効であるとしてもよいでしょう)。
 十二階下で得られる情報は以下の通りです。

・獣のような外見はしているし、匂いもきついが、素朴な人間が多い(田舎者)。
・見た目に反して金を持っている。出所は不明だが、金払いは至極よい。こういう場でよくある金銭のトラブルは皆無である。
・彼らは見た目からしてあれだが、脱ぐともっとすごい奴も居る。人間離れしていると言ってもよい。
・『月光劇団』とか言っているが、無教養の素人集団で『月光教』というのを信仰している者の集まりである。
・たまにこの辺りが似合わない、白い三つ揃えの男前が彼らと共に歩いている。『月光教』の関係者らしい。
・夜、『月光劇場』が跳ねた後、彼らがお祭りのように高揚した様子でこの辺りを通り過ぎていくことがある。

 彼らは岡山の山奥で全く他の娯楽が無い地域で暮らしていたことと、その変わり果てた外見の為に、十二階下での気晴らしぐらいしかありません。また、シュブ=ニグラスに祝福されしものとして繁殖の儀式に興味が向いていることもあります。
 天宮の指示のもと、問題を起こさないように比較的変容がひどくないか、ゴルゴロスのボディワープを使用している者を使って、ここら辺の人間を手懐け、『月光教団』へ勧誘などをしたりしています。

 十二階下で彼らが活動している為に、一部の人間は『月光教』に帰依していることもあり、朝な夕なに般若心経が聞こえてくることがあります(『月光教団』は一応仏教系の体裁の為)。
 月光教に帰依している人間からは、「生まれ変わりについて説かれている」「生まれ変わった喜び」といった『月光教』の教義を教えられますが、あやふやな内容で、とにかく「生まれ変わると幸せになれる」と言ったことしかわかりません。
 一部の娼婦の中には恐ろしく変形し過ぎた彼らを見て、正気度を減らしている者も居ますが、これらの口封じをされるか、あるいは狂気によって妙な霊感を得て『月光教』に帰依しています。
 彼らは単純な「奇形の類」「因果な病気もち」的なものとして十二階下の住人には捉えられています。その為に、『月光教』のような新興宗教にはまるのだ、とも言えます。

公園彷徨者達

 浅草公園内には世の不景気に合わせて、いわゆる公園彷徨者(乞食)が増えています。
 昼間は浅草の中でも目立たないところに隠れており、積極的に探さない限りはあまり目にすることはありませんが、夕方以降になるとその日の寝場所を求めて浅草公園内を彷徨している姿をよく目撃します。
 彼らは時間を問わずに浅草界隈を徘徊している為、浅草で起こる何かを目撃している可能性があると探索者に伝えてください。

 浅草界隈の公園彷徨者に声を掛けた場合、通常のコミュニケーション系の技能のロールは-20〜40%の下方修正に加え、そもそもコミュニケーションをしてもらえるか≪幸運≫などを要求してください。
 彼らにはいくらか握らせるとか、酒でも奢るのが有効で、その場合は特にロールの必要なく情報を得ることができます。

 公園彷徨者達から得られる情報は以下の通りです。
・人が消えるのを目撃した奴がいる。ただ、酔ってたり、夜だったりしたから見間違いかもしれない。ただ皆、「月が奇麗だった」と言う。
・人が消える場所は六区の大通り付近だという。
・『月光教』という妙な宗教が仲間の間でも流行っている。何人かがそれに帰依して、光月町にある神社に行ったらしい。そいつらとは連絡が取れなくなっている。
・十二階下の辺りで『月光劇団』の奴らがたまに夜にお祭り騒ぎかと思うような行進をしている。劇団の宣伝かもしれないが迷惑な話だ。

 特に彼らに野呂の特徴(シュブ=ニグラスに祝福されしものへと変異している)を伝えて聞いた場合、彼らは口ごもります。
≪信用≫、≪説得≫か、≪値切≫+賄賂によって、彼ら公園彷徨者がある程度組織化されて、分け前の分配や配置場所等が決められていることを教えられます。そして、現在、それらの差配を行っている公園彷徨者達の元締め的な存在が、たぶん野呂であると教えられます。
 野呂について聞いた場合、彼はあの病気(公園彷徨者達はあの変異の様を病気だと説明されています)によってあまり人前に出ることを好まず、様々な手下を使って指示を出していると言います。
 そして、おそらく、十二階下の辺りに潜んでいるのではないだろうかと語りますが、下っ端である為に具体的なことは分からないと答えます(指示も一方的に伝わってくる為)。
 探索者が公園彷徨者と会話をしていると、別の公園彷徨者が近寄ってきます。そして、探索者に胡散臭げな視線を向けると、話している者に来るように指示をします。
 言われた方はおとなしく従い、探索者には別れを告げて去っていきます。
 このおそらく上位の公園彷徨者を尾行しようとした場合、≪隠れる≫が必要になります。浅草六区は人ごみが多いのですが、公園内ではそれほどでもない場所もある為です。
 尾行に成功した場合、彼は十二階下へと進んでいき、その中でも最奥部の怪しげな地域で姿を見失うことになります。
 見失った辺りで、≪尾行≫、≪目星≫に成功した場合、おそらく周辺の銘酒屋に入ったであろうことが分かります。
 この他、指示を受けた方にもう一度話を聞いた場合は、特に秘密の事項ではない為、『月光教団』を見張るように指示を受けたこと、近寄り過ぎないように気を付けることなどを指示されたことを教えられます。