異説天球賛歌事件 桜嶺女学院スレッド

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『異説天球賛歌事件』目次:
■はじめに
■概要と真相
■登場人物(NPC)
■シナリオのチャート
■導入部

>桜嶺女学院スレッド
 □桜嶺女学院、女学生PCのクラス
 □桜嶺女学院の探索
 □黒澄綾、『天球音楽』
 □綱子とお兄様
 □お豊、綾を見る
 □山県雅子を訪ねる
 □綱子と綾
 □お豊と一緒
 □『もろびとこぞりて』
 □綱子、綾を真似る
 □綱子と豊の行方不明
 □再び黒澄綾、白昼夢
 □黒澄綾の行方不明

■天文台スレッド
■星の再臨会スレッド
■真田幸スレッド
■リンケージ:晴香と天球音楽
■リンケージ:雅子の誘拐
■終幕部
■データセクション

桜嶺女学院スレッド

 女学生PCは、『忙しさ』が5ある為、基本的には朝、昼の時間帯は桜嶺女学院へ通うことになります。
 これを利用して、本来は学業に身を入れる時間であるところを、女学院内での探索に当て、下校以降時間で情報共有を行っていく、という流れを意識してください。
 このスレッド内の出来事は女学生PCの動きに合わせるのが理想的ですが、スケジュールの問題等が出てきた場合、NPC等を使ってばんばん押す方向を検討してください。

桜嶺女学院、女学生PCのクラス

 桜嶺女学院に登校した女学生PCが、女生徒たちの噂を聞く場面です。
 女学院に登校した女学生PCは、件の山県雅子、そして馬場晴香が登校してきていないことに気が付きます。
 山県雅子、馬場晴香は、女学生PCと近しい女生徒です(女学生PC同じ学年です。桜嶺女学院は、3年、4年は1クラスしか存在していない為、上級生になると自動的に同じクラスなのです!)。

 山県雅子はしばらく学校を休んでおり、姿を見せていません。彼女はノイローゼの末、衝動的な自殺を図りましたが家人に止められて未遂に終わり、以降、自宅に軟禁されています。
 学校側の公式発表では、病気療養のための休学、ということになっていますが、それ以前の山県雅子の様子は全校生徒の知るところとなっており、 育ちの良いお嬢様の多い桜嶺女学院では表立って話題にされることはありませんが、噂好きの女学生達、あるいは何か勘違いしている女学生達の間ではかなり有名な話となっています。
(いつの時代でもあることですが、大正期ではノイローゼ等の精神病や、結核などの病気が何か浪漫ちっくなものであると考えていた人間がありました)

 馬場晴香はまだ行方不明ではなく、病気で休むと女学院側へ連絡されています。この為、姿が見えなくとも特に噂等にはなっていません。

桜嶺女学院の探索

 女学生PCが桜嶺女学院内で、あるいは女学院外で他のPCが関係者(主に女生徒)を捕まえて情報を集める場面等になります。
 情報はシナリオの進行速度によるものである為、GMの判断で小出しにするか、さっさと与えてしまうか決めてください。
 話を聞く場合はPCの手段に応じてGMの判断で社交系の技能で判定を行うか、単純に《信用》を消費させてください(噂レベルの情報である為、≪信用≫消費による情報収集が可能です)。

・雅子について
「自殺を図る直前は、突然、歌い出したり、笑い出したりすることが多かった」
「彼女がノイローゼになったのは、黒澄先輩が声楽部に来てから」
「あまり学校に来なくなった時期でも、黒澄先輩にだけはよく会っていた。それも音楽を聴く為みたい」

・黒澄綾について
「最近、学校へ転入してきた人。背が高くて、すらっとしてて、髪が長くて黒く、しかも美人で・・・・・・、近寄りがたい雰囲気がするけど、本当はそうでもない」
「普通にピアノを弾いたり、歌ったりも抜群に上手なのに、何故か奇妙な音楽を弾いたり、歌ったりしている」

・馬場晴香について
「最近、学校を休んでいらっしゃいました」
「何故か声楽部に入っておられましたわ。あの人も黒澄先輩目当てなのかしら?」
「たしか、真田先生と仲が良かったわ。よく授業後もお話しをなさっていましたわ」

・宗教について
「よく分かりませんわ」
「再臨?確か、10年ほど前にアメリカでもそういうことがありましたね」
「4、5年前に内村鑑三氏によって日本でも取り沙汰されていましたが、それもやはり再臨は無く、下火になっています」
「…確か、その真田先生が『星の再臨会』でしたかしら?そんな感じの名前の再臨系の教会の方とお知り合いでしたわ」

・真田について
「とても熱心な先生ですわ(いろいろな意味で)」
「いろいろな話を知っていらっしゃるのだけど、中でも天文学についてはとても造詣が深いですわ」
「確か、若い頃はイギリスに留学なさってらしたとか」

 以下は特に声楽部に所属している生徒や、クラスが同じ生徒などに彼女について話を聞いた場合に得られる情報です。

・雅子について
「黒澄先輩の歌が殊の外気に入っていた。他の人はあまり良くないと言っていたが、山県さんはまるで憑かれたかの様に、黒澄先輩の下に通っていた」
「よく、黒澄先輩の歌に似た歌を歌っていた。何かが違っていたけど、似ている、としか言いようが無い」

・黒澄綾について
「歌についてだけは全く人が違っている。まるっきり、音楽に、歌に全てをかけているような…。その時だけは別世界の人の様な印象を受ける」

・奇妙な歌について
「黒澄先輩が歌う、…なんとも言えない歌。歌とは呼べないかもしれない」
「低く唸るような、何かが聞こえる様な、まるで深海を泳ぐ番の鯨の声の様な…、名状し難い歌」
「私は好きじゃないけど、中毒みたいになる娘も居る。何度も聞きに行ったり、同じ様な歌を歌ったり…」

黒澄綾、『天球音楽』

 黒澄綾と桜嶺女学院内でファーストコンタクトを取る場面となります。
 噂話や、あるいは導入部の情報によって黒澄綾に興味を抱いた女学生PCが会いに行こうとした場合、音楽室に出向くことになります。
 基本的に黒澄綾とはPC自身が直接コンタクトを取らない限り、連絡が付きません。
 彼女は放課後は必ずと言って良いほど音楽室に居ます(実は彼女の家はそれほど裕福では無い為、ピアノと言う高価なものが家には無いのです。また親戚の家に厄介になっている、という事情もあります)。
 音楽室に行くと、そこで綾はピアノを爪弾きながら楽譜を弄っています。
 ピアノに向かっていても分かりますが、綾は平均的な女子学生よりも背の高い、病的な白い肌と漆黒の長い髪を持つ、美少女です。
 PCが音楽室に入っても気付いた様子もなく、そのままピアノを弾いたり、時折、何かを歌いかけては止めたりを繰り返します。
(ここで【浪漫】か、【音楽】の難易度15に成功すれば、綾が見た目は平静ですが、苛立っていることが分かります)
 そのまま、綾に話しかけたり、あるいは止めるようなことをしない場合、綾の声とピアノは次第にある程度の音楽となり、奇妙な歌になり始めます。この歌(『禍歌』)を初めて聞いた場合、ショックレベル2の恐怖判定を行います。
 なお、質問等をしても一応綾は答えてはくれますが、全く相手にしません。
 山県雅子について尋ねても、「確かに私は声楽部でピアノを担当しています。だから部員が私の音楽を聞きに来てもおかしくは無いと思います」と答えます。
 また、山県雅子との関係も、「同じ声楽部員である他は、それこそ、年下の子達が言うような関係ではありません」と一蹴されます。
 その他、何を聞かれても、「私にはよく分かりません」か、あるいは、「私と何か関係がありますか」とやんわり返されます。
(彼女が綾が嘘をついているように思えません。実際問題として、綾は全く山県雅子については興味がなく、今は例の『天球音楽』を完成させることだけに興味があります)。
 もしも、その楽譜を見た場合、そこには『the Music of the Spheres』(天球音楽)という題名が付けられており、「深海の番のクジラ」「緋色の不協和音」と言った理解しがたい文句がいくつか並んでいます。
 この楽譜について尋ねても、「霊感、というのですか。そんな気がする言葉を書き込んでいるだけです」と言った答えが返ってきます。
 PCがあまりにもしつこい場合は、綾は「申し訳ないのだけど、私はピアノの練習がしたいのです。下校時間一杯まで。もうそんなに時間がありません」というニュアンスの言葉を伝えてきます。
 PCの相手が終わると、綾は再びピアノに向かいます。もしも、そのままその場に残る場合は、もう一度ショックレベル1(初めての場合はレベル2)の恐怖判定を行います。
 再度のショックに対して、【音楽】の難易度15の判定に成功した場合、綾の音楽が少しずつ異なることに気が付きます。そして、それはただ慣れていたが為にショックの度合いが下がっているだけで、その音楽は完成に向かっていると認識できます。

 この後、PCたちが何度か黒澄綾の元を訪れることがあるかもしれません。
 事態が進展していない場合は、特に情報を出す必要はありませんが、遠慮なく『禍歌』を聞かせて気力を削ってあげてください。

綱子とお兄様

 馬場晴香の情報を得る為に藁にも縋る思いで高坂正信が、妹の春日綱子から情報を聞き出そうとする場面です。
 女学生PCが女学院の校門の方を見ると、不審な人物(?)がうろうろしているのを見つけます(特に隠れている様子も無いので、判定等は不要です)。
 正信が何も考えずに校門から出てくるはずの妹を捕まえようと、待ち構えているのです。
(女学生PCが正信と知り合いである場合は、即座に正信であると気が付きます)
 彼への対処を女学生PCが行った場合、高坂と話している最中に内藤豊を引きずるように綱子が現れて、不審人物ではなく兄であると釈明します。
 対処しなかった場合、疾風のように駆けていく綱子とそれを止めようとするお豊を見ることになります。

 正信が綱子から情報を聞き出すように同席する等した場合、以下の情報を得ることができます(お豊は高坂が兄であると聞くと、じゃあ問題ないかと様子で話を聞きます)。

・馬場晴香について
(まず、この質問に綱子(とお豊)は、驚きます。学校側の公式発表では行方不明ではなく、病気療養なのです)
「行方不明だなんて…。お兄様、それは本当ですか」
「馬場先輩ですが、学院でも目立つ人で、そう、山県さんと同じぐらい。
 二人とも黒澄さんにずいぶんご執心だったと思います。3か月ぐらい前に転校してきて、前の発表会でとても目立っていた人。
 おかしなお噂はあったけれど、山県さんはあの通り他人を気にしない性格ですし、馬場さんは誰とでも、それこそ山県さんとも仲が良かったのです」

・黒澄綾について
「あの美貌と才能、人を惹きつけずにはおられないのでしょうね。
 ただ、本人はあまりそういったことに気にかけておられないようですが」
「音楽室に入り浸って、何か音楽を作ってらっしゃいます。
 そのなんというか、とても斬新な。評価が難しいです」

・その他、変わったこと
「黒澄さんのせい、という訳ではないですが、やはり何か学院の中の雰囲気が変わったような気がします」

お豊、綾を見る

 女学生PCが学園内で黒澄綾を観察していると、同じく綾を見ている内藤豊に気が付く場面です。
 女学生PCが女学院の授業中等に黒澄綾を観察していると、【知覚】か【浪漫】の難易度12の判定に成功によって、同じように綾を見詰めているお豊に気が付きます。
 そして、お互い目があってなんとなく変な笑いを漏らすことになります(二人とも、いわゆるS的な奴で綾を観察しているのではない、と直感的に分かってしまうのです)。
 女学生PC側から動きが無い場合は、内藤豊の方から動いてきます(彼女にしては珍しいことですが、お豊にとって綾は例外なのです)。
 お豊からはまず、彼女についてどう思うか、ということを聞かれます。
 彼女に聞き返した場合、以下の様に答えます。
「あの人は、同じ人間とは思えません。
 外見だけでも浮世離れ、言うなれば天使のようなと言ってもよいでしょう。それだけでなく、異世界のと形容してもよい知性を持っています。
 一度、真田女史と話しているところを見ましたが、あの真田女史が追い詰められているようにも見えました。
 今は音楽のことだけを考えているようですが、あの才能がどこへ向くのか、興味があります」
「綱子は、音楽の才能があります。あの人には遠く及びませんけど。
 あまり深みに行って欲しくはないと思っていますが、綱子の才能を生かして欲しいとも思っています」
 お豊は、黒澄綾に近づく綱子を止めるべきか迷っていると告白します。

山県雅子を訪ねる

 山県雅子が病気療養中の情報を得た女学生PCが彼女の様子を見に行くか、そうでない場合(あるいは忘れているか)は真田幸から「山県さんのお見舞いがてら、様子を見てきて欲しい」と頼まれます。
 山県雅子の自宅は四谷区、お寺さんの多い郊外で、近くには陸軍練兵所もあります。現在の新宿区四谷の辺りです。
 ちょっと東京市内、帝都の中にあるのが信じられないような大邸宅です。しかもわざわざ郊外に建てているので、一体どこからどこまでがその庭、邸宅の土地なのか分からないような感じです。
 山県雅子の見舞い、あるいは何らかの理由を付けて訪問した場合でも、全く取り合ってもらえません。応対には家人ではなく、使用人の女中が出てきます。
 この女中は雅子の身の回りのお世話をさせてもらっている蘆田蕃と名乗りますが、女学生PCが見舞いに来たと言っても、「お加減が悪く、人前に出られる状態ではありません」と拒絶されます。
 基本的に全く相手にされませんが、この訪問の最中、奥の方から奇妙な歌声が聞こえてきます。
 果たしてそれを歌声と呼んで良いのかは分かりませんが、そうとしか形容できない、人の声とは思えない低音と高音、ひどく不快な声です。
 それがひとしきり続くと(この間、女中の蘆田は呆然としながら青い顔を奥へと向けています)、続いてけたたましい笑い声が響き、これは明らかに雅子のものです。
 この異様な狂人の声を聞いた場合、ショックレベル1の恐怖判定を行います。
 この雅子の歌声を聞いた場合、【音楽】か、【才知】、【霊感】の難易度15の判定に成功した場合、この歌が黒澄綾の奏でる音楽と似ても似つかないものの、ひどく近しい印象を受けることに愕然とします。
 続いて、雅子の声が聞こえてきます。
「神が歌いかけている。
 歌が、天球からの音楽が、私には聞こえる。ああ、神が来訪する日は近いのだ…」
 この後、青ざめた顔の蘆田は必死になってPC達を帰そうとするとともに、見聞きしたことは他言無用と念押ししてきます。
 この弱みを突いて、改めて蘆田をPC達が待ち伏せするなり、呼び出すなりして彼女から情報を聞き出そうとする可能性がありますが、蘆田は家の体面を大事にしている為、奥歯にものが挟まったような言い方で「雅子様の具合はよろしくない」ということを繰り返すだけです(雅子はいわゆる『お脳の病』だと思われている為、あまり大っぴらに出来ないのです)。ただ、彼女個人の思いとしてはやはり、前の様なお嬢様に戻って欲しいとも願っています。

綱子と綾

 女学生PCが黒澄綾か、春日綱子を観察しているか、音楽室を見ている場合に発生する場面です。
 いつも通りに黒澄綾は放課後に音楽室に入っていった後、その後に綱子が入っていくのを見ることになります。
 音楽室からは普通の(とは言っても、とても学生レベルの演奏とは思えない音楽が聞こえてきますが)演奏が聞こえてきます。その中を覗くと、綾の隣に綱子が座っており、楽し気に二人で連弾をしているのが目に入ります。
 女学生PCが邪魔をしない限り、普通の演奏がしばらく続いた後、今度は二人のアドリブによる演奏が始まったことに気が付きます。
 その演奏は次第に熱を帯びてきて、いつもの黒澄綾の『天球音楽』に近いものへと発展していきます。
 この演奏を聞いていつものショックレベル1の恐怖判定を行います。
 このショックによって二人の演奏が乱れ、綱子が音楽室を出て行くのが分かります。
 しばらくすると、綾の寂しげな演奏が始まって、これが終わると彼女はいつものように一人で帰っていきます。

お豊と一緒

 綾との連弾の後、しばらく綱子は呆然とした表情を見せることになります。
 この様子を、お豊は「深淵を覗いたかな」と評します。
 女学生PCがお豊と仲良くなっている場合、気晴らしに付き合ってくれと放課後に綱子を連れて会いに来ます。
 女学生PCが承諾した場合、華やかな銀座や、にぎやかな浅草ではなく、神田の辺りをうろつこうとお豊は提案してきます。
 基本的には女学生PCの行きたいところに行くことになりますが、お豊の提案に乗った場合、神田の古本屋街をうろうろすることになります。
(神田には明治初期から様々な学校(当時は専門学校で、後に大学になったもの)が多く設立され、それを当て込んでの古本屋(特に専門のジャンルを持つもの)が多くできました)
 綱子も最初は興味が無さげだったのですが、様々な古本屋(だけでなく、学生街でもあるのでいろいろな店があります)を見ているうちにがぜん興味を覚えてきて、自分からこういった本は無いか、と聞くようになります。
 綱子が元気になってくると、お豊は女学生PCに「綱子は、どうやら黒澄さんの深淵を覗いたようなのです」と語ります。

 落ち着いてくると、綱子の方から語ります。
「黒澄さんと、この間、連弾というのでしょうか。一緒に演奏を行ったのです。
 最初はすごく楽しかった。あの人の演奏は信じられないぐらいお上手なもので、一流の演奏者ですら及ばないのではないかと思えるぐらいでした。
 私はそれになんとかついていこうとしたのです。あの人に導かれるように、私の演奏もなんとかついていけていました。
 でも、それは普通の音楽ではなかったのです。
 今、考えても恐ろしいものです。お豊が『深淵を覗いた』と言いましたけれど、まさにそうでした。
 それがあの人の深淵なのか、それとも音楽というものの深淵なのか分かりませんけれど…」
 恐ろしい綱子は語るものの、その目をどこか熱を帯びており、遥かな憧憬が見て取れます。
 綱子は音楽にはそれほど本気ではなかったのですが、綾の圧倒的な演奏に導かれることでそれに惹かれつつあります。

謳う黒澄綾、『もろびとこぞりて』

 この場面はある程度シナリオが進んでから、PC達が綾の『天球音楽』について疑問を持ち始めたことろで行ってください。
 この場面は日常と、そして『諸人こぞりて』という意味深な歌を歌わせるだけなので、GMが不要と判断した場合は、特に行う必要はありませんが、 黒澄綾に対する思い入れはより深くなると思われます。

 ここでは特に情報を得ることが出来ません。さすがに綾本人の前でその話をしたり、あるいは声楽部において山県雅子の話をすることも憚られるためです。
 他愛の無い雑談や、声楽部の話、あるいは小幡とらのどうでもよい話が聞けるだけです(ちなみに小幡とらの機嫌を損ねると追い出されます)。
 再度、綾に会いに行くと珍しく綾以外の女生徒たちが音楽室にたむろしており、その中には部長である小幡とらも混じっています。
 どうやら真面目に(?)声楽部の活動が行われているようです。
 また、声楽部を見学に春日綱子が来ており、その付き添いとして内藤豊の姿も見えます。
 しばらく他愛の無いお喋りが続いていますが、小幡とらが手を叩いて促すと、皆が素直にそれに従います。
 綾の伴奏による賛美歌の練習が始まります。綾はピアノを弾いていはいますが、歌ってはいません。
 小一時間ほど練習は続き、一旦休憩という事になります。
 休憩が終わりごろ、一人の女生徒が綾に「何か歌って欲しい」というお願いをしているのが聞こえてきます。
 綾はちょっと面食らったような顔をしていますが、その言葉に声楽部全員の期待のこもった眼差しが集中します。
 しばらく悩んだ様子を見せる綾でしたが、やれやれと首を振った後におもむろに演奏を始めます。
 それは『諸人こぞりて』です。

 諸人こぞりて むかえまつれ
 久しく待ちにし 主は来ませり
 主はきませり 主は 主は きませり

『天球音楽』からは想像もつかない、天使の歌声と言う言葉を思わせる、よく響く高音で、澄んだ、それでいてボリュームのある歌声です。
 伴奏もいつもの鬼気迫るものは無く、純粋に音楽を楽しんでいる感じがします。この日、見学に来ていた春日綱子や、付き添いの内藤豊も驚いた様子で彼女を見詰めています。
 歌の途中で、照れた様子で綾が「一緒に歌ってください」と促します。
 最初は彼女の歌声にひるむ様子もあったのですが、声楽部の全員とゲストの綱子、豊を巻きこんだ合唱となり、歌は最後まで続きます。
 終われば誰とも無く拍手が始まります。歌い終えた綾はしばらくこの賞賛に驚いていますが、面映ゆい様子で「練習を続けましょう」と言います。
 この日の練習は滞りなく夕方に小幡とらの合図で解散するまで続き、終わった後部員は綾を含めて全員が帰っていきます(小幡とらが音楽室の戸締りを行う為、半ば強制的に追い出されてしまいます)。

綱子、綾を真似る

 また別の日、綱子がこっそりとお豊に隠れて音楽室へ入る姿を女学生PCが目撃します。
 その日は珍しく黒澄綾の姿も音楽室には見えません(用事で先に帰る姿を目撃してもよいでしょう)。

 音楽室の中に綾の姿が無いことを確認すると、綱子は少しだけほっとした様子を見せます。そして、ゆっくりと何かを思い出すように綱子が鍵盤をなぞり、ピアノの演奏を始めます。
 それは最初は普通の音楽であり、女学生PCも聞いたことがある曲です。ここで【才知】か【音楽】の難易度15に成功すると、彼女がなぞっているのは前に黒澄綾と連弾をした曲だと分かります。
 彼女の演奏は次第に熱を帯びてきて、この前の連弾と同じような経過を辿っているように思えます。
 女学生PCが止めるなりの行動を取ろうとすると、背後に内藤豊が立っており難しい顔をしたまま声を掛けてきます。
「これは…、あまりよろしくないかもしれないですね。いや、これが」
 と何かを言いかけたところで、綱子の音楽は綾に似たそれに変化し始めます。
 愕然とした表情で豊は女学生PCを見て、「信じられない。まるで、これでは黒澄さんのようだ」と呟きます。
 この綱子の音楽を聞いた場合、ショックレベル2の恐怖判定を行ってください。
 豊は恐慌状態になるのを抑えながら、音楽室に踏み込み「綱子、全て聞かせてもらったわ。さあ、帰りましょう」と、鍵盤から強引に綱子を引きはがすと、そのまま引きずるようにして去っていきます。
 豊は去り際に女学生PCに向かって「申し訳ありません。今日は、これで」と、あまり申し訳なくなさそうな様子で言います。

綱子と豊の行方不明

 この場面は、春日綱子と内藤豊が行方不明になったことを知る場面となります。女学校の場面を想定していますが、正信と親しい書生PCが居る場合は、そちらに相談を持ち掛けた、としてもよいでしょう。

 豊が綱子を拉致するように去った後日、二人が学校を休んでいることが分かります(綱子とお豊と仲良くなっている場合は、彼女らの姿が学校に無い、そうでない場合でも、二人揃って学校を休んでいることは小さな噂になっていることにするとよいでしょう)。
 学校側には二人の両親から病欠であると伝えられており、公式発表からは特に問題が無いように思えます。
 彼女ら二人は、度々学校を揃って休むことがある為、今回もまたそれではないかと近しい下級生たちから聞くことが出来ます。
 そろそろ授業も終わりという時間帯になって女学生PCが女学院の校門の方を見ると、またも高坂正信がうろうろしているのを見つけます(特に隠れている様子も無いので、判定等は不要です)。
 今回も正信は何も考えずに校門から出てくるはずの女学生PCを捕まえようと、待ち構えているのです。

 高坂正信に話を聞きに外へ出た場合(特に何も考えずに出た場合は、学校をさぼったのと同じように1D6の【信用】を失います)、彼は綱子とお豊が昨日から行方が分からなくなっていると告げます。
「御前のお嬢さんもまだ見つかっていません。
 こんな事件がきっかけになったのですが、妹の綱子とも最近よく会うようになって…」
 昨日も情報交換を兼ねて綱子(とお豊)と会ったのですが、その場で別れて見送っていたところ、まるで影のようなものに飲み込まれて消えたのを目撃しました。
 この超常現象に彼は驚たのですが、冷静に建物の影に入って道を曲がっていったのだろうと判断してその場は帰りました。
 しかし、翌日、妙に胸騒ぎがすることと、若い女性の行方不明が相次いでいることもあり、春日家の様子を探ってみたところ、上を下に大騒ぎで綱子が行方不明になっており、同じく内藤家も豊の行方が分からなくなっているようだと言います。
「まるで、晴香お嬢さんの行方が分からなくなった時のようです」
 と、呻くようにつぶやいた後、学校で何か変わった様子は無かったか聞かれます。
 正信は新たな情報は特に得ていません。ただ、そろそろ御前様の方も行方不明の期間が長くなってきており、諦めかけていると語ります。

再び黒澄綾、白昼夢

 綱子とお豊の行方不明の後、再び音楽室に赴くと、黒澄綾は相変わらずピアノを前にしています。
 いつも無表情ですが、今日は明らかに難しい顔をしており、女学生PCが音楽室に入っていっても気が付く様子はありません。
 そしてまたしても、例の歌を歌い始めますが、今回はさらに変った調子です。
 この歌を聞いてしまった場合は、ショックレベル3の恐怖判定を行うとともに、【神縁】が3D6減少します。
(ある程度理解しているので、黒澄綾の『禍歌』が始まった時点ですごい勢いで逃げていく、ということも可能ですが、なるべくそういうことは認めないようにしてください(笑))。
 そして、恐怖判定の成否に関わらず、下記の白昼夢の様な幻覚を見ることになります。

 貴方は宇宙の彼方にいて、目の前には白と青の美しい惑星が見えています。
【浪漫】か、【自然科学】の難易度20か、【秘神家伝承】の難易度15に成功すれば、それが地球であることがわかります(この時代、地球を外側から眺めたことがある人類は居ないのです!)。
 見ているうちに、その青い惑星に向かって別の惑星が宇宙から転がるようにして近づいていきます。
 この惑星は地球より小さくて、恐ろしい赤い色をし、表面には髪の毛のように細くて黒いスジがヒビ割れのようにたくさんついています。
 そいつが近づいてくると、まるで口笛のような、深海の番のクジラが鳴き交わすような轟くような音楽が、貴方の身体を震わせます。
 惑星がさらに地球に近づいて行くのを見ていた君は、大きなショックを受けます。惑星の海が突然四方の陸地におおわれて閉じてしまったからです。
 貴方は真実を理解します。そいつは、地球があまりに目の前に近づいたので、思わず目をつぶったのです!まさに悪夢の怪物です。
 悪夢がさらにさらに地球に近づいていき、貴方は気を失います。

 白昼夢を見た場合、【秘神家伝承】の難易度15に成功した場合、それが『魔月』だということがわ分かります。
 白昼夢が終わると、綾は相変わらず難しい顔をしていますが、しかしどこか満足げな顔をしています。
「まだ…、もう少し、何かが足りない。私の求める音楽には、まだ、何かが…」
 鍵盤から身体を離すと、彼女は幽鬼の様にふらふらと音楽室を出て行こうとします。
 ここで彼女から話を聞こうとした場合、虚ろな目を向けて女学生PCを確認すると「ああ、ごめんなさい。とても、疲れているのです」と応えてくれません。
【医学】か【霊感】に成功した場合、彼女が生贄になった犠牲者と同じように【気力】【神縁】と言った霊的なものが大幅に減少していることに気が付きます。

黒澄綾の行方不明

 綾の『禍歌』によって白昼夢を見た後日、いつものように音楽室を訪ねると、そこは無人であることに気が付きます。
 声楽部の部長の小幡とらか、顧問の真田幸に綾のことを尋ねると、音楽室に姿を見せていないどころか、学校にも来ていないことが分かります。
 行方不明かどうかは分かりませんが(例によって、家族側は行方不明ではなく病欠としています)、特に綾が体調が悪そうだとか、そういうことは無い為、部長も真田も怪しげな気配を察して心配しています。

 桜嶺女学院内で、【信用】を2D6使うか、【うわさ】の難易度15に成功した場合、いつものとおりの無責任な風評で、「綾の周りに黒い洋服を来た怪しげな人を見た」「黒い洋服を来た怪しげ人が綾について聞き込みに来た」「フォードに乗り込む綾を見た」等、奇妙な情報も流れています。
 綾の家については真田等から教えてもらえます(あるいは、【信用】を使って一般情報として手に入れる手もあります)。
 綾の家は神田区、下町では無いものの、川向こうにある家です(現在の千代田区外神田の辺りになります)。これは実家ではなく、彼女は帝都にいる親戚の家に厄介になっているのです。
 この親戚の家を訪ねた場合、【説得】か【礼儀作法】の難易度15によって家人を説き伏せることができれば、綾が行方不明になっていることを告げられます。
 ここでは、その他の情報は手に入りません。一応、警察に届けてはいる、といった情報がもらえるだけで、親戚はあまり綾の捜索に熱心ではありません。
 その他には、「黒い洋服を来た不審な男が綾を尋ねてきた。珍しく自動車(フォード)に乗っていた」、ということが聞けるだけです。